Case Study

社会を変えるイベントレポート

第3回 病院の働き方改革シンポジウム
−長崎大学病院の先進的な取り組み事例より−

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株式会社ワーク・ライフバランス・長崎県・長崎市共催で、3年目となる「病院の働き方改革シンポジウム」を開催しました!
今年度は、長崎大学病院における働き方改革の取組チームによる成果の報告に加え、糸魚川総合病院の取組チームからのご発表、岡山大学病院 片岡仁美氏にもご講演いただき、ますます業界を広く巻き込んだシンポジウムとなりました。
本レポートでは、各チームの取り組みのダイジェストをお届けします。

長崎大学 河野茂学長あいさつ

河野:令和元年にダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(先端型)に採択され、3年目を終えようとしています。この先端型では特に女性研究者のキャリアアップ支援をしやすい環境をバックアップし 全職員が男女共同参画への理解を深めていくために取り組みを推進しています。

また、本学では特に医療分野での働き方改革を推進しており先端型に採用されたことにより医師の働き方の見直し強化への取り組みは加速しました。

医師の過酷な働き方が全国的に問題となっている中今回のシンポジウムを通して、「働き方改革が難しい」と言われている医療分野についてみなさんと共に考えていきたいと思います。

 

長崎大学副学長/ダイバーシティ推進センター長 吉田ゆり様 ー長崎大学全体の取組と成果-

長崎大学副学長

吉田:ダイバーシティ推進センターでは、「多様性のある長崎大学の実現」をミッションに掲げています。女性活躍推進、それを支えるためにも教職員すべてのワークライフバランスの実現、働き方改革が必要で、どれかが欠けてもうまくいかないと思っています。

大学病院の働き方改革は、トップダウン型とボトムアップ型両方から取り組んでいます。トップダウンとしては、大学病院としての制度整備や構造改革を、ボトムアップとしては、各自の働き方の見直しや意識変容の促進を進めてきました。

私たちの取り組みでは「働くとは何か」「働き方改革とは」といった、そもそも論からは入ることは狙っていません。こういった議論のために会議を増やすのは本意ではないからです。目指しているのは、「今自分たちは何をしているのか」「今できることは何か」「私たちはどうありたいのか」をきちんと議論すること。こうしてメンバー同士で目指すゴールの共通認識を持つことが、未来のありたい姿につながるからです。

今回のシンポジウムでは、派手さはないけれど、ボトムアップの小さなチャレンジの積み重ねからの着実な成果、変容をご報告させていただきます。

 

【基調講演】 岡山大学病院ダイバーシティ推進センター 片岡仁美教授

片岡教授は、厚生労働省の医師の働き方改革に関する検討会の委員を務め、ご自身も医師として働く傍ら、医師の働き方をよりよくしていくために日々試行錯誤されています。 今回の発表では、片岡教授から、岡山大学病院での働き方改革のお取組についてご紹介いただきました。

片岡:アプリを使っての医師の労働時間の客観的な把握や、自己研鑽と労働時間整理などを進めているほか、平成19年から女性医師のキャリア支援も取り組んできました。

岡山医療圏内での女性医師離職率の調査から始め、出産・育児を理由に離職した方が、復帰にあたってどんな支援が必要なのか調査・検討を進めてきました。当時の実態からみえた「復帰しやすい職場」とは「5人のチームの5人目ではなく6人目として復帰できるポジションがあること」です。現場がぎりぎりの人数で回っている中、フルタイム・当直といった働き方が難しいメンバーが入ることで、他のメンバーにも本人にも負担が増えてしまうからです。

そこで、働く時間を柔軟に決められる「女性支援枠」の創設を当時の病院長に求め、実現したのが、現在のキャリア支援枠」のプロトタイプになっています。今ではこの制度は男性でも、介護等の理由でも利用可能となり、利用者も年々増え、その結果としてチーム医療の推進、育休取得者の増加=離職者の減少、学位・専門医取得者の増加、無給医の減少という成果へつながりました。

もともとは女性医療人のキャリア支援を目的に始まった取り組みですが、振り返ってみると、これは働き方改革に直結するものであったと考えています。

2岡山大学病院ダイバーシティ推進センター片岡仁美教授

WLB風間:専門誌にて「医師の働き方改革」という特集を企画されていました。そのときの想いを聞かせてください。

片岡: 働き方改革は単に時間を制限しようとするとうまくいかなくて、私たち医療人のマインドセット、価値観が大きいと思っています。自分自身研修医として働いていた時に、先輩の医師から「プライベートをどれくらい捧げられるかでいい医者か決まる」と言われました。

当時の自分は確かにそうだなと思っていたし、ずっとそういう土壌で長時間労働をしていました。けれど様々なきっかけがあって「プライベートを捧げて自分がいつも寝不足の状態で働くことが、本当に安全な医療につながるのか?」と考えることがあって。自分たちがどう働くかを考えることが大事なのではないかと思って、特集を組みました。

WLB風間:ご発表の中には、女性医師の復職に必要なものとして「上司や同僚の理解」というお話もありましたが、医師だけでなく私たち患者側も、よりよい医療を考えていかないといけないですね。

 

長崎大学病院 産科婦人科 野口将司様・三浦清徳教授

野口:働き方改革の取り組みは、2年目になります。1年目は時間外労働の削減と環境整備をメインにすすめてきました。

2年目の今回は、診療業務負担のさらなる軽減以外にも、やりがいや仕事の質の向上に取り組みました。 いくら労働時間が短くなっても、仕事そのものに魅力がなければ、持続性がないと思うからです。

そこでメンバー全員で「チームのありたい姿」を話し合い ・協力し合える婦人科になること
・適正な時間の使い方ができること
・やりがい・満足度を高めること
という目標を定めました。

長崎大学病院 産科婦人科 3

具体的な取り組みとしては、 医師の配置体制の変更、メッセージアプリの導入、外部医師を招いての新術式の指導といったことを実施。 若手とベテランでは施策への評価が違うなど、やってみたからこそわかったメリットデメリットもありました。 学生にも、働き方改革の取り組みについて直接的には難しいけれど、少しずつ変わっている様子を伝えていこうとしています。

 

糸魚川総合病院 内視鏡チーム 草間一美様

草間:2021年から働き方改革に取り組み始め、初めは何をしたらいいかわからない状態でした。チームメンバーとの話し合う中で少しずつ課題が見えてきて、「チームコミュニケーションを円滑にする」「検査待機時間を減らす」「検査、診療中の電話対応を減らす」という課題解決を目指してきました。

コミュニケーションを円滑にする、という課題に対しては「名前で呼び合い明るい声と笑顔であいさつをしよう」とスローガンを決めて、ポスター掲示。メンバー間のあいさつが明るくなり、相談しやすい雰囲気になったと思います。

検査待機時間を減らすためには、事前に検査開始予定時刻を明示することで、業務の段取りを事前に立てることができるようになりました。 電話対応については、午前中は緊急以外の連絡を医師のPHSにしないルールに。医師以外のスタッフが電話対応をすることにより、検査を中断することなく施行することができました。

今後は、書類の運用方法の改善や、重複業務の改善提案をしていきます。

▼(ご参考)
【プレスリリース】糸魚川総合病院が「北陸一働きやすい病院」を目指し「働き方改革コンサルティング」を導入 長時間労働の是正や労働環境を見直し、医師・看護師が定着する病院への改革を目指す ~業務内容の効率化や人材の確保で、高品質な医療の継続提供のための環境を整備、 サステナブルな医療体制を確立し、地域の中核医療に貢献~

糸魚川総合病院 内視鏡チーム4

 

 

長崎大学病院 小児科

佐々木:私たちが最初に向き合った問いは「働き方改革はなぜ必要なのか」でした。メンバーたちとディスカッションする中で出てきた声は「自分たちの心と身体に余裕がないと子供たちも救えない」ということ。つまり、子どもたちを守るために自分たちの働き方改革が必要なのです。

そこでチームのありたい姿を「相談しやすく、仕事以外の話もできる雰囲気の良さを持ちお互いを信頼して仕事を任せあえるチーム」と言語化し、働き方の課題へ向き合うことにしました。

長崎大学病院 小児科5

そのなかの一つが、当直医の負担軽減です。救急対応や他院・他科からの紹介対応について、午前11時から翌朝まで対応していますが、日によっては日中から複数の案件が重なり、当直開始前に、既に疲弊してしまうという問題がありました。

その対応策として、当直後の午後はフリータイムを確保するということを決めて1か月運用してみました。しかし各専門班の業務等があり抜けられず全くうまくいかなかった、というのが実情です。そこで「当直前の負担を減らす」という方向に方向転換し、「午後急患当番」を新設。これにより、当直当日も日中は自分の業務に集中でき、緊張も緩和されるという効果がありました。

今回、プログラムに参加してみて大胆なことにチャレンジできる貴重なチャンスだったと感じています。なにかを変えていくことには大変大きなエネルギーが必要になりますがこれから働き方改革を進めようとしている方には、思いきった事にも積極的に取り組んでいってほしいと思います。

小児科 森内:小児科の難しいところは幅が広いところ、それぞれの専門領域でやっているので代わりが居ないということだと思います。また、仕事を減らすことができても、それによって収入が減るという点も課題の一つとして挙がってきました。そういった自分たちだけではどうにもできない点についても、行政や様々な関係機関への働きかけを行っています。

ある実験では、寝不足の人の判断力と、お酒を飲んだ人の判断力は同じくらいだったそうです。そんな人に自分を診てもらいたいでしょうか?私たちの働き方改革は、私たちが楽になるためではなく子供たちを救っていきたいからです。 これからも方法を見定めながら、この道を進んでいきたいと思います。

 

長崎大学病院 麻酔科 辻史子様

今回の取り組み以前から、各個人の時間外勤務の把握の取り組みを始めていました。医局員全員が、超過時間の多い人を把握できるような仕組みになっており、その情報をもとに、それ以降の麻酔担当者を決めたり業務が偏らないよう配慮するようにしています。

しかしながら、麻酔科の特性として、手術の状況によって予定が変わるため、麻酔科の裁量で動かせる時間が少ないという課題があります。このような事情がある中で自分たちでできることは何か?を考え、取り組んだ施策の一つがタスクシフトでした。

これまで、例えば8:30から手術があるとすると、その麻酔準備のために6時台に出勤し、準備に1時間以上かかることもありました。このような負担を減らすための施策として、麻酔準備のヘルプの有無をwebで可視化。その手術担当でなくても、その日手が空いている人が作業を手伝う仕組みにしました。その結果、準備時間は30分ほどに短縮できて無駄に早く出社することがなくなり、朝の勉強会やカンファレンスにも落ち着いて参加できるようになりました。

以前からタスクシフトの取り組みは始めていましたが、今回の働き方改革の取り組みに参加することで、改めてタスクシフトの目的や意義について再確認することができたと思います。

長崎大学病院 麻酔科6

他科の先生方へは、正確な手術時間の申し込みや手術前後の予定の共有などをお願いしていきたいですし、麻酔科としても、麻酔導入の時間をできるだけ短縮して術者を待たせないこと、麻酔管理をしっかり行って速やかな覚醒を目指すことなどを通して、手術室の効率的な運用を目指していきたいと思います。

 

総括 長崎大学病院 中尾一彦病院長

中尾:本日はご参加いただきありがとうございました。

岡山大学病院、糸魚川総合病院の先進的なご発表を聴いて、長崎大学病院としても参考にさせていただきたいと思いました。

長崎大学病院の産科婦人科、小児科、麻酔科の3診療科においても取り組みチームメンバーはもちろんのこと、診療科トップも働き方改革の取り組みに積極的で 実際に成果を上げているところが素晴らしかったです。ボトムアップというかたちで、本当に現場に必要な改革をあげていただいて来年度もうまくいくのではと期待しています。

逆に、診療科だけで問題を解決することには限界があるということを教えていただいたので 病院全体でよい働き方を目指すために調整していかなければならないとも感じています。

今回で3回目ですが、回を追うごとに濃密な内容になってきています。 今後どんどん参加する診療科の幅を広げて、長崎大学病院全体で働き方改革が進むことを楽しみにしています。


いかがだったでしょうか。 さらに詳しい内容はぜひ、シンポジウムの動画をご視聴ください!
今後とも、病院の働き方改革にぜひご注目くださいませ!