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社会の動向と対策

産業競争力会議 民間議員として、
小室淑恵が「実験実現点検会合における新規論点」について文書を提言

2015年2月

実験実現点検会合(テーマ:女性の活躍推進)における新規論点について
問題意識

90年代半ばに、日本は人口ボーナス期が終わり、人口オーナス期に入った。人口オーナス期に入った社会では「労働力人口の不足」「働く世代が引退世代を支える社会保障制度の維持が困難」という社会問題が発生する。この解決策として「女性が労働力となって責任ある仕事を担えること」と同時に「将来の労働力となる子どもを産み育てられること」が、短期と長期の労働力を回復し、社会保障制度の破たんを防ぎ、日本経済の国際競争力を取り戻す上で非常に重要である。

これに対しこれまでは「女性への支援策」を充実させていく方向性が議論され、育児休業期間の給付金の拡充等をはじめとした制度改正が行われてきた。また、待機児童対策が進み、働く女性が出産後に復帰できる環境整備が以前よりも整いつつあることは大きな前進である。

しかしながら、女性の就業率はいまだ62%であり、合計特殊出生率は1.39人のままである。女性管理職比率(常用雇用者10人以上の企業)は6.6%であり、ジェンダー・エンパワーメント指数(GEM)(※)は世界57位(2009年)と、女性が責任ある仕事を担えている社会にはほど遠い。このままの推移では、2060年には、労働力人口は4400万人になると推計されている。一方、合計特殊出生率が2030年までに2.07人まで回復し、女性の労働力率が90%(スウェーデン並)まで上昇した場合は5500万人となり、潜在労働力である日本の女性が、男性並みに労働力として活躍することで日本のGDP が16%上がると言われている。日本の世界における競争力はそのどちらのシナリオになるのかによって大きく異なる。
(出典):「未来への選択」(平成26年5月「選択する未来」委員会)及び「成長戦略としての女性活躍の推進」(平成26年4月経済産業省経済産業政策局経済社会政策室)

(※)ジェンダー・エンパワーメント指数(GEM):国連開発計画(UNDP)が導入した女性の政治・経済活動、意思決定への参画度合いを図る指数

一方、育児・介護休業法の改正により、2010年以降短時間勤務制度を導入することが企業に義務付けられ、導入済みの企業(62%)の約6割が法定以上の制度を整備しているが、制度を利用する女性がフルタイム復帰を先延ばしにすることでキャリア形成が難しくなるといった問題も生じている。女性がフルタイム復帰を先延ばしにする背景には、残業を前提とした職場で短時間勤務を止めた途端に長時間勤務をせざるを得なくなることへの懸念や、配偶者である男性の長時間労働がある。厚生労働省「両立支援にかかる諸問題に関する総合的調査研究」(2008年)によれば、配偶者男性の労働時間が長いほど、有業の妻のうち短時 間勤務を希望する人の割合が高まる傾向にある。
(出典:みずほ総研「女性活躍推進の真の課題」からの抜粋)

現在夫婦が持ちたい「理想の子ども数」は2.4人(出産動向基本調査(2010))であり、一人目を持った夫婦がその後二人目を持つか否かについては、一人目の出産時の夫の労働時間が関係しているということを踏まえると、「女性への支援策」だけでなく「職場全体の労働時間の改善」にも着手しなくては真の少子化対策にはならないことが分かる。
(出典:内閣府「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)レポート2013」http://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/report-13/h_pdf/s3-4.pdf

この取組は、女性の働く権利向上や環境整備の必要性といった視点だけではなく、ここから50年の日本社会の産業競争力のカギを握る、労働構造改革と位置づけられるべきであり、サステナブルな日本社会のために、企業・政府一丸となって取り組まなくてはならない。

取組の方向性

以下の二つの方向から取り組んでいくことが重要である。

○徹底的な情報開示により、企業の長時間労働是正への取組を後押しする。
・「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(案)
・次世代育成支援対策推進法
・女性の活躍見える化サイト
・ダイバーシティ100選
・なでしこ銘柄 等

例えば上記のような制度・枠組の中で、「女性役員数」「女性管理職比率」「男女勤続年数差」「育児支援制度の有無」とともに、「長時間労働の是正に向けた取組(特に「時間当たり生産性を勘案した評価制度の導入(残業をプラス評価としないこと)」や「管理職の人事評価の要素にワーク・ライフバランス推進を設定」などを含む)」にかかる情報公開の仕組みを導入することにより「働く人が職場を選ぶ基準」を新しく提示し、また比較可能な状況を作ることによって、人材奪い合い時代の労働市場において対応しない企業が次第に淘汰されていく環境を作ることが考えられる。

しかしながら、これだけでは長期視点でのインセンティブにはなり得るものの、短期的な視点の経営者には全く響かない。団塊ジュニア世代の女性の出産適齢期はもうあと数年で終わってしまうことを考えると、解決のスピードが重要であり、また企業ごとで競わせているだけでは、その間にも日本社会全体の貴重な人材資源が長時間労働によって疲弊し、出産を希望する人が希望を適えられない状況が増幅されていくことは防げない。

○そこで二つ目の労働時間に関する直接的な制限が議論されることが重要である。
アメリカでは、時間外割増率の高さによって長時間労働を抑制する仕組み、ヨーロッパでは直接的に週35時間労働などの上限規制がなされている。一方で日本は時間外労働に対する割増賃金の規定は法定されているが、長時間労働の是正に対する効果は十分でないと考えられる。また、労働時間規制については、週40時間という基準はあるものの36協定によって規制がないも同然の状況があり、このような状況は先進国で日本だけである。貴重な人材資源をうつ・過労死から守り、夫婦で働いて夫婦で育児家事を協力し、希望する夫婦が二人以上の子どもを持てる社会を作るもっとも基本的な環境整備として、36協定の見直しに着手 すべきであり、それなくして真の女性が輝く日本社会は実現しないと考えられる。

ただし、上記の議論には慎重な検討及び時間を要することから、比較的スピーディーに着手できる方向として、一つ目にあげた制度・枠組の中で、「長時間労働の是正に向けた取組(特に「時間当たり生産性を勘案した評価制度の導入(残業をプラス評価としないこと)」や「管理職の人事評価の要素にワーク・ライフバ ランス推進を設定」などを含む)」を選択制で任意の情報公開項目ではなく、必須公開項目とすることなどが制度・枠組の中で重要である。

具体的取組

それぞれの制度・枠組に応じて、以下の取組が考えられる。

●「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(案)の一般事業主行動計画に具体的な取組方針を明記

標記法律案は未だ国会に提出されていないが、仮に先の臨時国会で提出された法案と同様の内容が盛り込まれるのであれば、先の法案中に当初規定されていた「基本方針」及び「行動計画策定指針」の中に、「女性役員数」「女性管理職比率」「男女勤続年数差」「育児支援制度の有無」「長時間労働の是正に向けた取組(特に「時間当たり生産性を勘案した評価制度の導入(残業をプラス評価としないこと)」や「管理職の人事評価の要素にワーク・ライフバランス推進を設 定」などを含む)」といった項目の情報開示を明記する。特に、人事評価の際に労働時間が短いことで不利な扱いを受けない、定時で仕事が成り立つだけの十分 な人員配置などの措置を奨励するといった長時間労働是正への取組、人事評価の趣旨を明記する。また、「企業認定制度」において、上記の要素を認定要件としつつ、情報開示をさせる。

●次世代育成支援対策推進法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H15/H15HO120.html

この法律第12条の一般事業主行動計画の中で、「女性役員数」「女性管理職比率」「男女勤続年数差」「育児支援制度の有無」「長時間労働の是正に向けた取組(特に「時間当たり生産性を勘案した評価制度の導入(残業をプラス評価としないこと)」や「管理職の人事評価の要素にワーク・ライフバランス推進を設定」などを含む)」といった項目の情報開示を促すとともに、認定要件にも入れる。

●女性の活躍見える化サイト
http://www.gender.go.jp/policy/mieruka/company/mierukasite.html

上記サイトについては、来年度から「ポジティブ・アクションポータルサイト」と一元化される予定とのことだが、「女性役員数」「女性管理職比率」「男女勤続年数差」「育児支援制度の有無」「長時間労働の是正に向けた取組(特に「時間当たり生産性を勘案した評価制度の導入(残業をプラス評価としないこと)」や「管理職の人事評価の要素にワーク・ライフバランス推進を設定」といった項目の情報開示を促す。

●ダイバーシティ100選、なでしこ銘柄
http://www.diversity100sen.go.jp/
http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/nadeshiko.html

上記選定基準の中に、「女性役員数」「女性管理職比率」「男女勤続年数差」「育児支援制度の有無」「長時間労働の是正に向けた取組(特に「時間当たり生産性を勘案した評価制度の導入(残業をプラス評価としないこと)」や「管理職の人事評価の要素にワーク・ライフバランス推進を設定」などを含む)」といった項目の情報開示を盛り込む。特に、人事評価の際に労働時間が短いことで不利な扱いを受けない、定時で仕事が成り立つだけの十分な人員配置などの措置を奨励するといった長時間労働是正への取組、人事評価の要素を盛り込む。

●女性活躍推進のための長時間労働の是正への取組を税制や助成金の要件などに反映する。

●次回の日本再興戦略改訂時に、上記の制度・枠組での検討結果を含め、女性活躍推進のための定時の時間内での成果を評価する企業を促進する仕組みについて言及する。
(別添参考資料:女性の活躍推進と長時間労働との関係について