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社会の動向と対策

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」の成立で、
今後、何がどう変わる?

2018年7月9日

2018年6月、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法案)」が成立しました。国を挙げて「働き方改革」に乗りだし、労働基準法をはじめとする労働8法が改正される見込みが立って以降、マスコミでも連日この問題に関する報道がなされ、多くの人々の注目を集めていました。現場で働き方改革にたずさわるみなさんも、最大の関心を持って動向を見守っておられたことでしょう。弊社代表・小室淑恵も2016年5月に安倍晋三内閣総理大臣から官邸に招かれて、時間外労働時間の上限設定の必要性を提言したり、6月12日に国会の法案審議にて参考人として答弁するなど、さまざまな形で関わってきました。

さてこの法律では、働き方改革を総合的にかつ効果的に推進するため、労働に関する諸法律が多岐にわたって改正されています。中でも特に注目すべき点は、「日本の労働基準法70年の歴史において初めて”罰則付き”で時間外労働時間の上限設定がなされたこと」です。

ここでは、時間外労働時間の上限設定を中心に、労働時間に関する制度の見直しについて解説します。

【法案を理解する主なポイントとは?】
時間外労働時間の上限が「厚生労働大臣告示」から”罰則付き”の「法律」に

この法律が成立した大きな意義のひとつは、時間外労働時間の上限が「厚生労働大臣告示」から「法律」に格上げされたことです。つまり、守らなければ違法となり、罰則が科されます。

時間外労働時間の上限は単月100時間、2〜6か月平均でも80時間

労働時間の上限については以下のように規定されました。

1)2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均で、いずれにおいても、休日労働を含んで、80時間以内を満たさなければならないとする。

2)単月では、休日労働を含んで100時間未満を満たさなければならないとする。

3)上記に加えて、時間外労働の限度の原則は、月45時間、かつ、年360時間であることに鑑み、これを上回る特例の適用は、年半分を上回らないよう、年6回を上限とする。

労働時間をマネジメントする必要性がさらに高まる

また、法律の実行性を確保するために、雇用する側である企業や団体が労働時間の状況を客観的に把握しなければならない、とされた点も非常に意義が大きく、注目すべき内容です。

つまり今後、管理職のみなさんにとって、部下の労働時間をきちんと把握しマネジメントしていくことはますます重大な職務となっていきます。今回の法案成立をきっかけに、管理職のマネジメント能力を高めることは、コンプライアンスの観点だけでなく、企業の生産性・持続可能性を高める意味でも不可欠な要素といえるでしょう。


【労働時間法制改正の具体的な内容】
長時間労働の是正
  • 時間外労働の上限形成の導入について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定。
    (※)自動車運転業務、建設事業、医師等について、猶予期間を設けた上で規制を適用等の例外あり。研究開発業務について、医師の面接指導を設けた上で、適用除外。

    自動車運転の業務 改正法施行5年後に、時間外労働の上限規制を適用。上限時間は、年960時間とし、将来的な一般則の適用について引き続き検討する旨を附則に規定。
    建設事業 改正法施行5年後に、一般則を適用。(ただし、災害時における復旧・復興の事業については、1か月100時間未満・複数月平均80時間以内の要件は適用しない。この点についても、将来的な一般則の適用について引き続き検討する旨を附則に規定。)。
    医師 改正法施行5年後に、時間外労働の上限規制を適用。具体的な上限時間等は省令で定めることとし、医療界の参加による検討の場において、規制の具体的あり方、労働時間の短縮策等について検討し、結論を得る。
    鹿児島県及ひ沖縄県における砂糖製造業 改正法施行5年間は、1か月100時間未満・複数月80時間以内の要件は適用しない。(改正法施行5年後に、一般則を適用)
    新技術・新商品等の研 究開発業務 医師の面接指導(※)、代替休暇の付与等の健康確保措置を設けた上で、時間外労働の上限規制は適用しない。※時間外労働が一定時間を超える場合には、事業主は、その者に必ず医師による面接指導を受けさせなければならないこととする。(労働安全衛生法の改正)

    ※行政官庁は、当分の間、中小事業主に対し新労基法第36条第9項の助言及び指導を行うに当たっては、中小企業における労働時間の動向、人材の確保の状況、取引の実態等を踏まえて行うよう配慮するものとする。(経過措置)

  • 月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置を廃止する。
  • 使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないこととする。
  • 労働者の健康確保措置の実効性を確保する観点から、労働時間の状況を省令で定める方法により把握しなければならないこととする。(※労働安全衛生法の改正)
フレックスタイム制の見直し
  • フレックスタイム制の「清算期間」の上限を1か月から3か月に延長する。
高度プロフェッショナル制度の創設
  • 勤務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者が、高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、年間104日の休日を確実に取得させること等の健康確保措置を講じること、本人の同意や委員会の決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする。
  • 〈2015年法案からの修正点〉
    ・健康確保措置として、年間104日の休日確保措置を義務化。加えて、1)インターバル措置、2)1月または3月の在社時間等の上限措置、3)2週間連続の休日確保措置、4)臨時の健康診断のいずれかの措置の実施を義務化(選択的措置)。
  • また、制度の対象者について、在社時間等が一定時間を超える場合には、事業主は、その者に必ず医師による面接指導を受けさせなければならないこととする。(※労働安全衛生法の改正)
勤務間インターバル制度の普及促進等(労働時間等設定改善法)
  • 事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならないこととする。

※厚生労働省による「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の概要」はこちら