Case Study

社会を変えるイベントレポート

弊社主催「第2回 経営者限定 ワーク・ライフバランス勉強会」
〜ダイバーシティ/女性活躍を推進し続けるカルビー株式会社〜

【2014年11月開催】

講師:カルビー株式会社
 代表取締役会長兼CEO 松本晃様
 執行役員 中日本事業本部本部長 福山知子様
 執行役員 コーポレートコミュニケーション本部本部長 後藤綾子様

コーディネーター:株式会社ワーク・ライフバランス 大塚万紀子

大企業の経営に携わる方々をお招きし、ワーク・ライフバランスの推進について語っていただく弊社主催の勉強会。第2回目は「女性活躍推進」をメインテーマとして、カルビー株式会社・代表取締役会長兼CEO 松本晃氏に講師を務めていただきました。ダイバーシティや女性管理職の輩出を積極的に推進している企業だけあって、非常に実践的でためになるお話をうかがうことができました。

カルビーのダイバーシティは「Just Do It! やるしかない!」

大塚:本日のテーマである「女性活躍」ですが、講師を務めていただくカルビー様は大変進んでいらっしゃいますので、推進された際のコツや思い、今後の展望・戦略などをお伺いできればと思います。何か1つでも2つでも、ヒントやきっかけお持ち帰りいただけたら幸いです。それでは早速、カルビー株式会社の松本会長よりお話をいただきます。

松本様(カルビー代表取締役会長兼CEO):現在、カルビーのダイバーシティ、特に女性活用の目標は※2030(にぃまるさんまる)一番乗りです。なんとか2020年までに主要なポジションの3割が女性になることを考えています。とにかく「Just Do It! やるっきゃない!」と思ってやっています。
※2030(にぃまるさんまる)とは・・・「2020年までに女性管理職の割合を30%以上にする」という政府目標。

カルビーのグループビジョンは「顧客・取引先から、次に従業員とその家族から、そしてコミュニティから、最後に株主から尊敬され、賞賛され、そして愛される会社になる」です。1番は顧客と取引先。2番目は従業員と従業員の家族。3番目は地域社会、国、世界、地球、資源、環境を総称したコミュニティ。株主さんは残念ながら4番目でして、この順番で責任を果たさないと良くならないという意味です。

次にご紹介するのは、弊社の後藤が作成したカルビーのダイバーシティ宣言です。
「掘りだそう、多様性。育てよう、私とCalbee。互いの価値観を認めあい、最大限に活かしあう。多様性こそCalbee成長のチカラ。『ライフ』も『ワーク』もやめられない、とまらない。」
このように、かっぱえびせんのフレーズ通りやっております。

2020年までには女性管理職を30%に・・・!

松本様:現在、取締役は7人おり、社外が5人、社内は2人です。社外5人のうち2人は外国人で、1人はトルコ人女性、もう1人は中国人男性です。執行役員は16人のうち、女性が4人です。

女性の管理職数を増やしていくときに、どうしてもスタッフ部門で数字を合わせてしまいがちですが、それではダメです。スタッフ部門とライン部門のバランスを取ることが大切です。カルビーの工場はいくらか遅れていますが、昨年、工場長の1人を女性にしました。工場長を女性にしても何の問題も起きていません。

女性管理職の割合はまだまだです。昨年の4月1日でようやく14.3%。このペースでは2020年に30%に届きません。しかし、毎年3%ずつ上げますと2020年には届きます。したがいまして、来年の4月は少なくとも17%、その次は20%・・・と進めていくことになります。

カルビーは「※なでしこ銘柄2014」に選定されました。今度どうなるかはわかりませんが、食品業界では断トツのなでしこ銘柄になっていきたいと思います。
※なでしこ銘柄とは・・・経済産業省が東京証券取引所と共同で女性活躍推進に優れた上場企業を選定・発表しているもの。「なでしこ銘柄」に選定されるということは、長中期の企業価値向上を重視する投資家にとって魅力ある企業といえるため、その企業への投資を促進し、各社の取り組みを加速化させることを狙いとしている。

ダイバーシティに伴う犠牲は、“コスト”ではなく“投資”

松本様:ダイバーシティというエンジンなしには車は動かないし、飛行機も飛ばないのですが、ダイバーシティを実践するには時間がかかります。Long Term Journey(ロングタームジャーニー/長い旅)だと覚悟してやっています。

また、ダイバーシティを始めると、いくらかの犠牲が伴いますが、この犠牲はコストではなくinvestment(投資)です。ただし、今日やったから明日返ってくるという投資ではないので、必ず返ってくると信じてやるしか手がありません。

「理解→納得→行動」というプロセスのうち、理解→納得は辛抱の時期

松本様:次にご紹介するのはダイバーシティのプロセスです。Understanding(理解)、Agreement(納得)、Implementation(行動)。私がカルビーでダイバーシティと言い出したときには、「ダイバーシティの意味がわからない、そんな言葉は聞いたことがない」というところから始まりました。

意味を理解するのには相当時間がかかりますし、理解したからといって賛同する人はほとんどいません。理解から納得までは本当に辛抱の時期です。「なるほど、その通りだ。松本さんの言っている通りだ」と納得してもらえたらしめたものです。ここまで来れば行動は意外と早くできます。カルビーは正直なところ、まだUとAの間くらいです。

そこでKey Success Factor(目標達成のために決定的に重要となる要因)の一番目となるのは、トップマネジメントのコミット、そしてゴールセッティングです。

私は2001年、ジョンソン・エンド・ジョンソンにいたときに「35・25・25」と宣言しました。社員の35%は女性、管理職の25%は女性、執行役員の25%は女性ということです。これを2008年の3月までに実行すると宣言して、実際はもっと高い数字を達成しました。

したがって、カルビーも来年の4月1日には少なくとも17%にしようとやっています。究極的には、男と女というのは半分ずつしかいませんから目標は50%です。

ダイバーシティを推進するには業績を良好に保つことが必須

松本様:ダイバーシティには、必ずリスクがあります。業績が悪くなるとダイバーシティがやり玉にあげられます。したがって、業績が悪くなるとダイバーシティは後退してしまうのです。ですから、業績には大変こだわります。

お菓子の市場を見てみますと、過去15年間くらい日本の需要は全くフラットです。あと3〜4年しますと少子化がさらに進みますから国内では下がってきます。その中でもカルビーは右肩上がりを達成し、株価は上場時から8倍弱となっています。

ダイバーシティと業績の関連性は正直言ってわかりません。しかし私は「これは必ず関連している。これがないと絶対に会社というのは成長しない、良くならない」と思ってやっています。繰り返しますが、「Just Do It!」です。

この後は福山が説明します。

カルビーひと筋の女性本部長が日々果たしている役割

福山様(カルビー執行役員 中日本事業本部本部長):私は90年にカルビーに入社しまして、以来ひと筋で過ごしています。家族は夫と小学校2年生、5年生の娘がいます。

カルビーは国内を4つの地域事業本部に分けておりまして、各事業本部がそれぞれ売上・利益の責任を持っています。私が担当しているのは静岡から兵庫までの2府11県。この地域の売上利益、約400億円は私の責任になります。岐阜と滋賀と京都に3つの工場を持っており、主に製造しているのはポテトチップス、じゃがりこ、Jagabee(ジャガビー)など、馬鈴薯をメインとした商品です。

この2府11県の中で私たちのメンバーは890人前後。9人の部長と31人の課長がいますが、残念ながら9部長は全員男性、31課長のうち女性課長は今のところまだ2名しかおりません。

さて、私の日常ですが、基本的に毎日同じことはしていません。経営については権限委譲されており、毎月の営業報告会議もありません。その分、部長さんたちの会議に入ったり工場に入ったりして、現場の声を聞いて問題をスピーディに解決したいと考えています。

「とにかく4時に帰る」という約束を守りながら、結果を出す

福山様:私は松本と「とにかく4時に帰る」という約束をしています。カルビーは「コミットメント&アカウンタビリティ(約束と結果責任)」の文化です。1年に1回、売上利益をコミットし、その結果を出すことが全てですので、長時間職場にいる必要はありません。むしろ、上司がいない方がメンバーは育ちます。私は部長さんに権限委譲しているので、うまくいっているときは口出ししません。

女性の場合、よく「マネジメントと家庭は両立しない」と言われがちですが、十分に両立すると私は思っています。どうやって短い時間で成果を出すかというところに尽きますので、私は男性も早く帰ればいいと思っていますし、余計な会議はしなくていいと思います。私は飲みにケーションや土日のゴルフ接待も一切しません。できないものはできないので、できないなりにどうするかを考えればいいのかなと思っています。

執行役員2年目ですが、1年目にしっかりコミットメントを達成しております。今期も上期はなんとか進めていますし、下期もしっかり着地するつもりです。私からは以上です。どうもありがとうございました。

「ダイバーシティ委員会」を立ち上げて委員長として活動

後藤様(執行役員 コーポレートコミュニケーション本部本部長):私自身、初めのうちは「ダイバーシティ」と言われても「一体なんの話だろう?」というところからのスタートでした。

当時、松本から女性の管理職比率を問われまして、「5.9%です」と報告したところ、「この会社は1世紀遅れているね」と。せいぜい10年くらいの遅れかなと思っていたのですが、「1世紀」と言われて、「ああ、そういうものなのかな」と気づきました。

これは早急に何かやらなければいけないと、2010年からダイバーシティ委員会を立ち上げて2年間委員長を務めました。

「ダイバーシティって何?」というところから地道な説明を進め、宣言やロゴマークを作り、グッズを配るなど、草の根運動とトップの動きで上から下から挟み込んでいったような感じです。

ダイバーシティ委員会の後は広報を担当し、取材にも対応

後藤様:「私はこのままずっとダイバーシティ担当かな」と思っていたところ、今度は広報の部長をやるようにという話が来ました。ダイバーシティのほうにまだやり残したことがあると思いながらも、広報部長という立場も大切だと思って引き受けました。

広報部になってからは、ダイバーシティの取材が入ったら「全部受けます!」という感じで対応しながら、自分が蒔いた種を今刈り取っているような状況にあります。

今年、私も執行役員になったのですが、前年に福山を含めて女性3名が執行役員になっていたので、「お姉さんたちが3人いるから飛び込んでいけばいいや」という安心感がありました。おそらく部長、課長のレベルでも、「上がったときにはあの人に相談すればいい」という環境ができつつあるのかなと思っております。

業績とダイバーシティの関連性を分析しなくとも、結果はついてくる

大塚:みなさまありがとうございました。では、松本会長が最初にカルビーさんにいらしたときに、どこが一番衝撃的だったかをお聞かせいただけますか?

松本様:とにかく「ダイバーシティ」の意味が通じないことに驚きました。とはいえ、実は私自身もそうだったのです。

2001年にジョンソン・エンド・ジョンソンにいた際、当時の上司から突然「女性の登用を全くしないのは日本とパキスタンくらいだ。パキスタンは宗教上の理由があると聞いているが、日本には何の理由もない」と言われました。

言われてみればそうだと思い、「わかりました、じゃあやります」と。それで、先ほど申し上げた「35・25・25」を達成したわけです。やってみるとやはり結果は良くなります。僕は業績とダイバーシティの関連性なんて分析したことはありませんが、その代わり、言ったからには結果にはこだわっています。女性は男性より優秀ということもない。男性が女性より優秀ということもない。能力は一緒だと思います。

女性の目からものを見る。その視点が企業を育てる

大塚:女性を登用していったときに、どのような良い変化があったのでしょうか?

松本様:女性の目からものを見るというのは非常に大事です。現に、カルビーの商品の購入を決めているのはほとんど女性です。お客さんの立場に立てない人間がお客さんのためにと思ってやってもうまくいきません。

セブンーイレブンの鈴木さんが「“顧客のために”という時代はとっくの昔に終わった、顧客の立場に立たないとダメだ」とおっしゃるのは、まさにその通りだと思います。「ために」というのは、まだ生産者視点です。顧客の立場に立って、お客さんが何をしてほしいのかを考えなければやっぱりうまくいかないんです。

大塚:後藤様はいかがですか?

後藤様:弊社は年に2回、未来を考えた成長戦略のワークショップを行っています。50人くらいの幹部が集まるのですが、幹部だけではどうしても男性中心になってしまうんですね。なので、そこにダイバーシティ枠を設けまして、若手、組合、女性などから10名程度混ぜるようにしています。

そうすると、若い女性から「そもそもこれは何のために話し合っているんですか?」などと、結構ドキッとする質問がでてきます。それによって参加者全員が「あれ?確かに・・・」と思わず考える良いきっかけになっています。

一人だけ参加してもらっても本人がつらいので、一定の人数が参加することで空気が変わると感じます。

「育児しながらできる執行役員の形」を追求して4時に帰宅!

大塚:お話をうかがっていて、福山様が4時に帰るというのは相当すごいことなのではないかと思いました。以前からそうやって働いていらしたんですか?

福山様:もともと育児勤務で復帰していますので、部長時代から遅くとも5時には帰っていました。本部長のオファーがあったときにも、トップの期待として「育児勤務でもできる執行役員の形を作れ」という意味もあるのだろうと理解していましたので、同じやり方を続けています。

4時に帰らなければいけないとなれば、すごく仕事を前倒しするわけですが、やり方によってできるかなと思います。

大塚:ありがとうございます。ご参加のみなさまからもご質問をいただければと思います。

人材を発掘し育成していくためのメカニズムとは?

八木様(株式会社LIXILグループ執行役員副社長):女性を発掘し、育成するメカニズムをお持ちになっていらっしゃるのでしょうか? そのあたりを詳しく教えていただけますか?

松本様:育成のメカニズムはあまり持っていません。育つのは自分で育て、ということです。会社は学んできたことを活かして貢献する場であって、貢献に対して会社が報いる仕組みになっています。

発掘については、急に「ダイバーシティ」と言ってもどの会社もプールがありません。プールがないときのやり方は、①無理やり上げる、②外から取ってくる、の2つしかありません。

カルビーにも文化があるので、どうしても必要なとき以外は外から取ってくることはしていません。つまり、ある程度行けそうだったら上げてしまうしか仕方がない。その代わり、上げてダメだったら落とします。

日本古来の大相撲でも、負け越せば番付は落ちますし、勝ち越せば上がります。「落ちても、腐らないでまた上がって来い」と言えば上がってきます。そういう基本的なやさしいメカニズムを作っておけばいいと思います。

八木様:弊社でも「勝手に育つ」ということがわかっていない人がたくさんいるので、「会社で育成なんかいくらやっても、リーダーにはならないよ」と教えているんです。

松本様:要するに、「長時間働いたら偉い」とうことは決してありません。朝早く起きて、仕事して、3時、4時になったら帰れ、と。帰ったら週に2日間くらいは学び、週に2日間くらいは自分の趣味をやって、家庭もちゃんと大事にする。そうしないと会社なんて良くならないんだと力説しています。

毎日嫌がられても、言い続けているとだんだん変わってきますよ。

成功のカギである「権限委譲」をいかにして実行するか

村上様(江崎グリコ株式会社常務執行役員):ダイバーシティや女性登用の前に、権限委譲が明確に行われていると感じました。権限委譲のツボを教えてください。

松本様:実に簡単です。まず、私は2009年6月26日に会長に就任しました。翌日、私の権限は社長に全部渡しました。そして「私が渡した権限を含めてあなたもできるだけ下に渡せ」と言いました。

もう1つは、「誰かが起案したら、1つ上の人間が承認しておしまい」という仕組みをつくりました。細かい案件はいちいち多くの関係者に承認を得る稟議などするな、ということです。

人間というのは権限を持ったら元気になって、成長します。もちろん失敗もあるでしょうが、失敗から学べばいいだけです。私はよく「経営者で一番優秀な人は、大相撲にたとえると11勝4敗だ」と話しています。15勝する経営者は絶対いません。誰でも4敗くらいはします。大事なのはそれを会社のアセットにすることです。会社としてそういうアセットを蓄積していかないと強くならないと思っています。

4時に帰ることができるキーワードは「権限委譲」

丸橋様(パナソニックヘルスケア株式会社取締役執行役員):福山さんにお聞きします。基本的には4時、あるいは5時前には帰るということですが、周りの方々はそれをどうアクセプトしているのでしょうか。我々が将来、福山さんのような立場の方を登用するとして、やっぱり周りの理解が必要だと考えています。極端に言うと、「女性だから、やっぱり」「そんな早く帰ってしまうのか」という風土もあると思います。

福山様:やはりキーワードは「権限委譲」だと思います。権限を渡していますから、私がいなくても判断すればいいと思っています約束を達成してもらうためなら、どんな手段を使っても、どんなお金の使い方をしてもいいです。ただし、放任主義にならないようにきちんと対話をしながら、私がやりたい方向性とすり合わせていくことが肝かなと思います。

4時に帰ることについては、基本的にオフィスにずっといるわけではありませんから、あまり関係ないと思います。

丸橋様:基本的には任せて、結果を確認するようなマネジメントをされているのでしょうか?

福山様:途中段階での細かい確認もしません。それよりも現場に行ったときに問題があれば聞くようにしています。課長さんや部長さんの報告する内容は、実は現場の人たちに聞くとずれているときもあります。やはり現場に行って、その人たちのために全ての時間を使うことが大切ではないかなと思っています。

製造ライン部門の女性登用はどうあるべきか?

森田様(敷島製パン株式会社代表取締役社長):例えばスタッフ部門や研究開発、マーケティング部門なら比較的女性を引き上げやすいと思いますが、いわゆる製造ラインの女性の現状についてはいかがでしょうか。

後藤様:今の女性工場長(鹿児島)は入社20数年のベテランでして、ずっと広島の工場で働いていました。本当に叩き上げという感じですので、たとえ違う工場でも周りの納得感もあります。

工場長というと「ごちゃごちゃ言わずに俺について来い」といったタイプが多いかもしれませんが、彼女の場合は現場に入って皆の意見を聞きながら一緒にやっていこうというスタンスです。

ダイバーシティ活動をスタートした1年目は、どうしても事務系のダイバーシティになってしまって、会社の半分がついて来ていないという感じがしたので、2年目から工場にも入っていくようにしました。

かつての工場の会議は、なぜか男性ばかりでやっていて、女性は発言する権限も勇気もないという状況でした。自分たちも意見を言ってもいいという空気を作るようにしたら、どんどん手を挙げて意見を言うようになっています。現在は、そういう風土を下から作り上げている段階です。

女性管理職を効果的に登用するために必要なこととは?

豊政様(アヲハタ株式会社常務取締役経営本部長):まずは女性の意識を変えることが重要ではないかと思いました。女性はとにかく職位に就かせてやらせてみる、というのが肝になるのでしょうか? そしてもう1つ、男性にはどういう意識の変化が出てきていますか?

松本様:男性については、まだ理解と納得の中間より下くらいじゃないでしょうか。人間の意識というのはそう簡単に変わるものではありません。一番のポイントは「既得権益を取られること」です。特に年配の男性社員が自分の既得権益を守りたいと思うのは当然ですが、やはり組織の方が大事だと思いますので諦めてもらうしか仕方がないですね。

意識改革というのは男性も女性も同じです。ただ、男性と女性には歴史的な違いがあります。男は地位が好きで、女性はお金が好きです。だから「課長さんにしてあげます。課長手当はこんな程度です」といったら、女性はやるわけがないんです。

女性が課長になりたがらないというのは全くの嘘です。要するに、仕事と家庭のバランスが悪いから女性は敬遠するわけです。家庭が犠牲になる、月給はこれしか上がらない。それでは女性は首をタテに振りません。役職者には、やっぱりたくさん払わないとダメですよ。

大塚:私のお客さまも「管理職というのは貧乏くじなんだ」とおっしゃるんですね。責任は上がるけど残業代はつかなくなる、そして上からも下からもいろんなことを言われ、長時間労働で家庭は崩壊するし、何も良いことはないじゃないか、と。

松本様:だから結果として会社がダメになるんです。管理職手当、役職手当は何のために払っているかをもう一度定義すべきです。

役職手当の意味は2つしかないんですよ。1つは与えられた目標を達成すること、もう1つは部下を育てること。こんな大事なことに1万5000円しか払わなかったら、やらないに決まっているじゃないですか。

多様な人材を活用して、ダイバーシティ経験者を増やしていく

大塚:意識を変えるということについて、福山様、後藤様にもお伺いできればと思います。

後藤様:ダイバーシティ委員会は、毎年人を少しずつ入れ替えています。一度入った人は意識が高くなって、昇進のオファーが来たときに「待ってはいけないな」と思えるようです。

おそらくみなさまの会社にもダイバーシティ推進担当みたいな方がいらっしゃると思うんですが、一人でずっと同じ方がやると行き詰まりが出てきます。委員長を含めて経験者が増えていくと、「あの人も受けたし、私も受けてみようかな」という人たちがジワジワ増えていくはずです。そうやって、OB、OGが助けてあげる仕組みを取ることも大切かなと思います。

福山様:私の場合は、私自身が結果を残すことで、後ろについて来る人たちも変わってくれると思います。そうでないと認めてもらえませんから。やっぱり私が成功するしかないと思います。

たとえ途中経過でもメディアの取材を受けて広報していくことが重要

上田様(株式会社JTBモチベーションズ代表取締役):女性の当事者であるお二人が、松本会長が将来的にいらっしゃらなくなることに恐怖を感じていらっしゃるのかどうか、率直にお聞きしたいのですが。

後藤様:たしかに、私が委員長になったときから、「今は適当に話を合わせておけばいい」という空気を感じることはありました。そのため、せめて松本がいるうちに既成事実をたくさん作ってしまおうと考え、いろんなことをスピーディにやってきました。

広報としては、すでに世の中にどんどん発信しています。松本がいなくなったら急に落ちたとか言われるのも格好の悪い話ですから、後戻りができないように取り組んでいます。

大塚:お話を伺っていると、広報していくというのが社内外にいい影響があるのかなと思いました。その辺りはいかがですか?

後藤様:弊社ではダイバーシティを始めて1年後くらいから、取材の依頼があったら全部受けるようにしていました。たとえば、男性社員が奥さんに「テレビで見たよ」と言われると、「ダイバーシティなんて知らない」と言っていられない状況が作られます。たとえ途中経過であっても、「こんなことに取り組んでいます」というメッセージを出せばいいのですから、決して遠慮する必要はないと思います。

業績評価・成果主義の仕組みとダイバーシティの関係

青山様(コカ・コーライーストジャパン株式会社常務執行役員:会社の中で、たとえば3人候補者がいて誰を引き上げるかというときに、「あいつはいつも頑張っているから」という一言がポイントになってしまうことがあります。御社の場合は、ダイバーシティに取り組むにあたって、業績評価の仕組みや成果主義の仕組みを大幅に見直されたのでしょうか?

松本様:順序をいえば、ダイバーシティが先ではなく、成果主義が先です。最初は、コミットメントして、結果責任を負うというビジネスの基本を明確にすることから始めました。

私が最初に、取締役会で株主との契約書を書面にしました。①今期はいくら稼ぎます、②いくら売り上げます、と。それ以外に2つ3つ簡単な契約をして、取締役会で承認を得てから、私と社長との間でもシンプルな契約を結びました。

その後、社長と社長直属の部下が契約し、直属の部下がその下と契約する・・・という具合に、カルビーには社員の数だけ契約書が存在しています。その契約に基づいて評価します。

ただ、長く働いたら偉い、というのは意味がない。約束を果たすために大切なのは、いかに効率よくやるか、です。効率よくやるためには、人間が成長しないといけない。成長しようと思うと人間は学ばなければいけないし、考えなくてはいけない。そのためには時間が必要だから早く帰れと言うわけです。

青山様:スタッフ部門の人たちについては、どのような契約をしているのでしょうか?

松本様:それも、できる限り数字にしなさい、と言っています。たとえば、今度の新商品をいつ発売します、というのも1つです。

横尾様(イオン株式会社取締役兼取締役会議長):コミットメントという話がありましたが、この数字の妥当性はどのように担保されるのでしょうか?

松本様:私の仕事の中で一番目か二番目かに大事なことは、リーズナブル、アチーバブルな目標を立てるということです。それが立てられないとしたら、CEOは失格です。今年1年だけでなく、ずっと連続してできないと意味がない。そうすると、最初に目標を立てるのは、そんなにやさしくありません。私が立てた数字と社長の数字は同じです。そうやって上から下におろしていけば、一番下の人の数字を全部足したら100になる計算が成り立ちます。もちろん、こういうのは訓練ですから最初は下手ですが、段々上手になってきます。

大事なことは、CEOは株主さんと契約をしているということです。株主さんは経営者に対してちゃんと通知簿をつけてくれるわけです。それが株価だと思っています。だから株価というのは、すごく正直だと思ってやっています。

“全員野球”で組織全体が強くなり、勝利を目指すしかない

村田様(大成建設株式会社取締役常務執行役員):弊社は、今日お集まりのみなさまの中で一番男臭い建設業ですが、だんだん女性が増えてきているところです。今日お話を伺いまして、女性本部長や女性役員が誕生することで、人がいきいき明るくなる、やる気になるという効果があると思いました。何か目に見えた意識の変化などがあればお聞かせください。

後藤様:たとえば、工場の中で時短勤務の人たちはすごく肩身の狭い思いをしているんですね。何か会社に貢献したい、と話し合った結果、とある工場で「手作りチーム」というのを作りました。大型の大量生産ではなく、ちょっと脇で出てきた商品を詰め合わせた商品(アソート)を企画し、営業まで女性主体で取り組んでいるケースがあります。

各地でレベル感は違えども、いろんなことがちょっとずつ生まれてきていると感じています。

福山様:今まで、女性は課長になりたくない、オファーしてもやりたくないと言っていた人がけっこう多かったのですが、最近、ある研修に「課長候補ですよ」「主任候補になるんですが、行きますか?」とオファーしたら、うちの事業本部で候補に挙げた人たちがほぼ全員「行ってきます」と言ってくれたんですね。「多分これならできるかも」と思ってくれている女性が増えたのかなとは思っています。

松本様:私がよくたとえるのが、正力松太郎という読売ジャイアンツのオーナーの話です。彼はその昔「読売ジャイアンツは純血だ。日本人しか使わない」と言いました。今はどうですか? 日本人しか使わなかったら、ジャイアンツは優勝争いには加われません。

チームであれ会社であれ、組織というものは勝たないといけない。勝つためには、全員野球でやるしか手がない。ますますそんな時代だと思いますね。

日本の市場はもう、これからだんだん縮小していく。そうすると、海外で戦うしかない。偏った戦力では海外で戦いようがないです。そうすると強い人を集めるか、その人たちを強くしていくしかないんです。

「マネジメントポイント・5つのコツ」をご紹介!

大塚:弊社でも今日のテーマである「女性活躍推進」に関するお問い合わせやご相談が非常に増えてきています。研修をご提供し、みなさまのような方々と面談させていただく中で、いくつか傾向と対策が見えてきたと思っております。それが、この後ご紹介する「マネジメントポイント・5つのコツ」です。

まず、女性登用の際の課題は次の5つにまとめられます。

① 何が評価され、どこが課題かわからないので成長の方向性が見えない
② 結婚、出産というキャリアへのマイナス要素に目が向いている
③ 職場内で発言・提案する場数や成功体験が足りないので、成長できていない
④ 時間制約を持っている自分は評価されない、と仕事を割り切る
⑤管理職になりたくない

「では一体どうすればいいの」?ということでそれぞれを解決するための「マネジメントポイント・5つのコツ」をご紹介させていただきます。

①何が評価され、どこが課題かわからないので成長の方向性が見えない
 ↓マネジメントのコツ①
強みを把握するヒアリング・弱みを伝えるコミュニケーションで成長を促す!

最近は「パーソナルカルテ」というものの活用が増えています。その方がどんな方なのか、どこに強みがあり、どんな弱みがあり、どんな経験でここまで来ているのか、何に今悩んでいるのか、どんなふうに働きたいのか、といった情報を一人ずつヒアリングしてまとめていくものです。上司とご自身が同じものを見て、状況を確認して改善策を探るという、お医者様がつけるカルテのようなものをお勧めしています。そうすると、「この組織にいることで自分は成長できる」という実感が持てます。

②結婚、出産というキャリアへのマイナス要素に目が向いている
 ↓マネジメントのコツ②
少しキャリアを長く見て、長期的な視点で「お互いに育てていこう」と促す!

ここでは特に「スキルマップ」というものを活用しています。たとえば、「今どんなスキルが必要で、現状は○なのか×なのか△なのか」を確認していただき、いつまでにどう引き上げていくかを共有していきます。スキルアップのためには余暇の時間にどう投資するかも大切ですから、ライフの時間も含めた長期的なプランニングをしていくことが効果的です。

③職場内で発言・提案する場数や成功体験が足りないので、成長できていない
 ↓マネジメントのコツ③
職場内で提案する機会を作っていくことが大事!

ここでみなさまにぜひご協力いだたきたいのが、「否定しないで、まず聞く」ということです。そしてできれば承認することをお願いしたいと思います。言われたものだけをするというのではなくて、下から上がってきた提案を承認し、やらせてみて、振り返っていくことがとても重要だと考えています。

特に女性の特質として「詐欺師症候群」というものをご紹介できればと思います。これはFacebookのCEOであるシェリル・サンドバーグさんが『LEAN IN』という本でお書きになっていたものです。男女を比較すると、女性のほうが自分は評価に値する人間だとは思わずに、たいした能力もないのに誉められてしまったと罪悪感を覚え、まるで誉められたことが何かの間違いのように感じる傾向があるそうです。こういった男女の考え方の違いを男性も女性もお互いに知っておくことによって対処が生み出せるものと思います。

④ 時間制約を持っている自分は評価されない、と仕事を割り切る
↓マネジメントのコツ④
「時間当たり生産性」の評価を組み込んでいく!

日本の企業にはいまだに、長くやった人に評価がつきやすい文化・風土があるのは否めません。この文化や風土はみなさまからの発信で随分と変わっていくのではないかと思います。ぜひみなさんからも正しい成果主義をお願いしたいと思います。

⑤管理職になりたくない
↓マネジメントのコツ⑤
「新しい管理職像」をつくり、育てていく!

これから先は、「俺が引っ張っていくぞ」というスーパーマン的な管理職スタイルではなく、チーム力の向上を支える新しい管理職スタイルに注目が集まると思います。ダイバーシティという観点からいっても、いろいろなマネジメントスタイルがあっていいはずです。新しい管理者を育てていくためにどんな仕組みが必要なのか、どんなメッセージの発信が必要なのかを考えていただければと思っております。

大塚:本日はお忙しい中、御足労いただきましてありがとうございました。また第3回もお待ちいたしておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

※役職等は勉強会開催当時のものです 。