Case Study

社会を変えるイベントレポート

経営者限定セミナーレポート[1]
小泉進次郎氏が考える「働き方改革」。国会と霞ヶ関、企業経営者、そして一人ひとりにできること

2019年4月、残業時間の上限や罰則等を明確に規定する「働き方改革関連法」がついに施行されました。各企業の経営トップは、「経営戦略としての働き方改革」を視野に入れた本質的かつ早急な対策を迫られることになります。

弊社では「働き方改革関連法」の施行直前に、『働き方改革と人生100年時代の企業経営』と題したトップセミナーを開催し、各業界からお集まりいただいた経営陣と、今後の展望をシェアしました。

本記事では、まず、同セミナーの基調講演となった小泉進次郎 衆議院議員(自由民主党、厚生労働部会長)による『人生100年時代の生き方改革』の内容をご紹介します。セミナーにご参加いただけなかった方もぜひご一読ください。

小泉氏が「働き方の本質を見事に喝破した人」と評する小林一三氏の言葉

小泉進次郎氏:
「働き方改革」に対する認識は、浸透してきたと思います。われわれ国会議員の事務所でも一歩一歩、改革が進んできました。

しかし「なんで働き方改革をやるんだろうか」という、そもそものところを語り続けていかなければ、本当の意味で社会は変わらないと私は思っています。

小林一三さんについては、経営者の方ならご存知だと思います。阪急電鉄、宝塚歌劇団、東宝などの創業者として有名ですが、意外なところでは住宅ローンを開発したのもこの方です。私自身、小林一三さんについて、ドラマを見たり本を読んだりして感銘を受け、日本で再評価されるべき歴史的な経営者であると思っています。

今日は皆さんに、働き方改革の本質を見事に喝破したのが小林一三さんであることをお伝えしたいと思います。

今からご紹介するのは、小林一三さんが亡くなる前、東宝の社員の皆さんに向けて行った人生最後のスピーチの一部です。このスピーチを通じて、「働くということは何なんだろう」と共に考えたいと思います。

『久しぶりに諸君に会うことができて、誠に喜ばしい限りです。私はね、これからの日本というものを、いろいろ考えておるわけです。専門家の話も聞き、研究もし、この国は素晴らしい国になるという結論を持っています。

ただ、そうなるには一つ条件があるのです。それはね、皆さんが全員働くことです。働くというのはね、働くというのは本来、とても楽しいことなのです。夢を描いてね、知恵を絞る、努力をする、その果てに笑ってくれる人がいる。そしてその対価として報酬がついてくる。これがね、楽しい。いやあ、もう実に楽しいことなんですよ。自分の人生がここにあると感じることができる。

努力はね、絶対に報われなきゃなりません。報われるとうれしいでしょ。立場が変わったら、今度は報いようとするでしょ。そういう循環を持つ社会は、頼もしいことになると思うんです。皆さんは知らないでしょうね。働いても働いても報われない、そんな時代が長く続いてしまいましたからね。

ですが、皆さんはとにもかくにも生き抜いてここにいる。生き抜いて今、ここにいることができる。ここまで、今日まで来られたのだから、きっと遠くない未来、この国は頼りがいのある国になります。この国で働くことが誇りであり、徳であり、物心両面に報われることが最も多い国になると思います。

皆さんなら必ずできる、そう期待しています。どうもありがとう。これからもしっかりやってください』

これが、小林一三さんが亡くなる前の83歳、忘年会で語ったスピーチです。本来働くことは楽しいことなんです。働き方改革の本質は、これではないでしょうか。

「働くことは楽しい」と誰もが実感できるために大切なこと

私は今、働き方改革も所管している厚労省と向き合いながら、自民党の厚労部会長として仕事をしています。そして、来月(2019年4月)から世の中は動き出しますが、法律や制度を変えるだけでは社会は変わりません。国民の意識が変わり、景色が変わること。世の中が本当の意味で変わるためには、これが必要です。

ですので、今日は皆さんと共に、「本来、働くことって楽しいことなんだよな」と再確認したいと思います。そして、楽しさの中身は実は一人ひとり違っていて、一人ひとりにとって働くことが楽しいと思える環境を築くことが、これからあらためて大事になると思っています。

そう考えたときに、私の中で大切だと思っているのが「可処分所得」と「可処分時間」です。可処分所得が大切なことは言うまでもありません。買いたいものを買い、得たいものを得る力を増していくために、可処分所得は大切です。

それと当時に、可処分時間というものも、もう一度見直されるべきではないでしょうか。一人ひとりが自由に使える時間を増やすことによって、どういう価値を生み出すかということも非常に重要です。

働き方改革、最大の壁は「国会」と「霞ヶ関」

ただ、これから動き出していく中で、働き方改革の最大の壁があると思っています。それは国会と霞が関です。経営者の皆さんは、国が決めた働き方改革によって4月から義務を負うわけです。それならば、国会と霞が関も、それに伴ってやらなければいけないことがあるはずです。

私はこれを「まず隗より始めよ」ではなく「まず官より始めよ」と言っています。ぜひ経営者の皆さんからも、そういった声を大にして、ぶつけていただきたいと思います。

ここで、世界主要国の首相の国会出席日数を比較したものをご紹介します。日本の113日に対して、同じ議院内閣制のイギリスは38日。フランス91日、ドイツ6日。ちなみにアメリカのトランプ大統領は1日です。

確かに、国会で国民に説明責任を果たし、行政の監視を機能させる必要があるのは、間違いありません。ただしそれは、ここまで国内にいなければ、国会にいなければできないことでしょうか。

外務大臣の国会出席日数で比較すると、日本は170日に対してイギリス7日、フランス46日、ドイツ8日。今の国会の働き方はこういう働き方です。私が国会改革を訴えているのは、そういうところを変えなければいけないと思っているからでもあります。

一人ひとりが「どんな働き方・生き方をしたいか」の答えを見つけよう

最後になりますが、今日ご紹介した小林一三さんは、『私の行き方』という本を残しています。

なぜ「生き方」ではなく「行き方」なのか。「未来に向かって行くんだ、未来に向かって進むんだ」という思いで小林一三さんがたむこの言葉を使ったと聞き、素敵な考え方だな、日本にこういう経営者がいたんだな、と感じました。

もう一度われわれが思い返したいことは、働くことは本来楽しいことだということです。そういった思いを世の中に浸透させていき、一人ひとりがどんな働き方、どんな生き方をしたいのかということの答えを持つ。そんな時代が来れば、働き方改革が社会に完全に浸透したことになると思います。

そして、そんな時代が来たとき、きっと小室さん(弊社代表・小室淑恵)は、「ずっとワーク・ライフバランス、働き方改革に闘志を燃やしていた女性がいた」と、歴史から振り返られる方になると思います。

今日は最後まで「働き方改革が何なのか」を共有できる時間になれば幸いです。ありがとうございました。

※小泉進次郎氏は、本セミナーのパネルディスカッションでもご発言いただいています。後日ご紹介しますので、そちらも合わせてご覧ください。