Case Study

社会を変えるイベントレポート

採用応募数5倍!週休3日!勤務間インターバル導入!
自治体の働き方改革最新事例を学ぶオンラインセミナー

2024年8月6日、弊社では、各自治体により効果的な働き方改革の取り組みを進めていただくことを目的に「自治体の働き方改革最新事例を学ぶオンラインセミナー」を開催しました。3つの自治体から首長にご参加を得て、「勤務間インターバル」「フレックス導入による選択的週休3日制」「女性の再就職応援宣言」といったさまざまな切り口から成果を語っていただきました。本記事では、その内容をお届けします。

■開会の挨拶

株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役 小室淑恵

◎働き方を変えていくことの効果

今日は全国からご参加いただき、本当にありがとうございます。私からは「働き方を変え、活気ある仕事の質の高い自治体へ」というテーマでお話をしたいと思います。

私たちは、自治体の皆さまからのコンサルティングのご依頼も多く、例えばさいたま市の職員の働き方改革や、富山県下の企業の働き方改革などにご一緒してきました。また、250の学校向けにもコンサルティングをするなど、自治体が変えたいと思う対象にもアプローチしてきたところです。

また、国交省や環境省・内閣府といった省庁でも、国会に絡む業務の見直しを行ってきました。自治体の皆さまは議会対応に難しさがあると思いますが、そういったところも一緒に見直しています。国交省の道路局では、取り組み前に若手のエンゲージメントが最下位でしたが、取り組み後には首位に躍り出ました。働き方を変えていくことは、若手の意欲向上にも効果的です。いきいきとした自治体になるために、一緒にお取り組みできるのではないかと思っています。

◎なぜ働き方改革が必要なのか

先日、国会で京都大学の柴田悠教授が用いたスライドでは、男性の長時間労働の割合が高い国ほど出生率が低いことが明らかにされています。都道府県別でも、男性の長時間労働者の比率が高い県ほど出生率が低くなっており、長時間労働の見直しは、自治体が重視する出生率向上と深く関係しています。

私たちが厚生労働省と共同で行った調査(18〜25歳の男女学生を対象)では、男子学生の約3割が「育休の取得期間の希望は半年以上」と答えています。現状では数週間の“取るだけ育休”が多い中で、彼らの9割が育休を取りたいと回答していて、そのうちの3割は半年以上の“共育て育休”を希望しているわけです。

こうしたことを考えると、働き盛りの男性が数カ月単位でいつ休んでも仕事が回る職場を常日頃からつくっておかなければなりません。育児だけではなく、介護を抱える人も増えていますし、お子さんの不登校を抱えているケースもあります。あるいは不妊治療で毎月病院に通わないといけない人もいます。さまざまな休みをとっても、回していける職場をつくることが不可欠です。

◎睡眠の重要性

先日の日経新聞に記載された厚生労働省のガイドラインによると、睡眠が不足するにしたがって、重度のうつの方が非常に増えているのが分かります。その一方で睡眠が増えるにしたがって減少しており、うつの発症と幸福度には、睡眠が大きく関わっていることが分かります。

また、人間の集中力に関するデータを見ると、人間の脳は、朝起きてたった13時間しか集中力がもたず、しっかり睡眠を取ることでメンタルタフネスを復活させることが分かっています。睡眠は、寝始めてから6時間目までの前半は体の疲れを取り、6時間目以降の後半からストレスを解消する効果をもたらすため、後半の睡眠をしっかり取ることで、メンタルタフネスを回復させることができ、周りからストレスフルな言葉があっても、「それは冗談ですよね」と受け止められるのです。

さらに、脳の偏桃体と呼ばれる部分は、睡眠不足になると肥大化していきます。扁桃体は怒りの発生源であり、睡眠不足の上司ほど部下に侮辱的な言葉を使うというデータも出ています。残業時間・残業代を減らすという意味では、部下だけ早く帰らせて、上司に残業をまきとらせる、見せかけの働き方改革をやりがちですが、そうなると上司は睡眠不足によって自己コントロールができなくなり、イライラして部下を怒鳴りつけるようになります。結果として、部下が離職するので、また自分の業務が増えるという悪循環に陥ってしまうのです。

◎勤務間インターバルの重要性

そこで重要なのが、勤務間インターバルです。勤務と勤務の間を11時間あけ、7時間の睡眠を守る。EUでは、こうした仕組みがすでに義務化されていますが、日本ではまだ努力義務となっています。昨今の厚労省のデータでは、事実上運用できている組織が、ほぼ半数近くなってきており、今後義務化の動きが進むと思います。

勤務間インターバルを導入している組織では、従業員満足度が高く、離職率低下の効果も非常に高いことが分かっていますので、本日ご登壇される、岡山県の伊原木知事からのお話も是非参考にされてください
ぜひ皆さんの自治体で、表面的に終わらない本気の働き方改革を実践し、優秀な人材の獲得・定着に成功し、活気のある質の高い自治体を実現していただければと思います。ありがとうございました。

■岡山県勤務間インターバル宣言と働き方改革について

岡山県知事 伊原木 隆太様 

◎岡山県における時間外勤務等の現状

今日は働き方改革の実例、特に勤務間インターバル確保の取り組み、その後についてお話ししたいと思います。

多くの自治体と同様、本県においても行政課題が複雑化し、業務量が増大しており、限られた人員でいかに効率的に業務を回すかが課題になっています。職員1人当たりの時間外勤務時間の推移を見ると、鳥インフルエンザのあった2022年度を除いて大体横ばいです。私自身、年130時間程度の残業時間は、特に問題だと認識をしていなかったというのが、正直なところです。

次に、1日単位で休息時間が確保できているかという問題ですが、2023年1月の時間外勤務の件数のうち、翌日の勤務開始までに11時間確保できていない割合が13.3%であり、一定数の職員は十分な休息時間を確保できていませんでした。月間・年間で残業時間がオーバーしているかどうかには注意を払っていましたが、小室さんに指摘されるまで、1日ごとに休息時間が確保できているかを気にしたことがありませんでした。

◎休息時間確保に向けたこれまでの取り組み

岡山県でも、休息時間の確保に向けて、これまでも時間外勤務縮減を積極的に進めてきました。定期的な現認や所属長に向けた研修、PC記録・時間外勤務申請の乖離チェックなどをしてきたつもりですが、その中で取り組みをさらに前に進める出来事がありました。

それが、令和5年4月に開催されたG7倉敷労働雇用大臣会合です。せっかく大臣会合が岡山県で開かれるので、記念フォーラムを開催することになり、そのフォーラムで講演をされた小室社長から、勤務間インターバル確保の重要性を教えていただいたという経緯です。当初は、できていないのにインターバル宣言をすることに違和感があったのですが、「宣言をしてから改善をすればいい」ということで、宣言をすることになりました。

◎勤務間インターバル宣言の実施と周知

宣言式にはたくさんのメディアの方にお越しいただき、想像していた以上の反響をいただきました。当然ですが、宣言を行うことがゴールではありません。宣言の趣旨を周知するための取り組みも実施してきました。例えば、もともと休息時間を確保するための遅出勤制度という制度があったのですが、知らない職員も意外と多かったため、制度の存在を再周知したところです。

宣言後、大々的な周知を経ての結果、11時間確保できていない割合は13.3%(令和5年1月)から、令和6年5月には8.6%まで減少しています。以前と比べると明らかに改善できていますが、ゼロにはなっていません。例えば防災対応、児童相談所の業務など、県民の命や暮らしの安全を守るために緊急に対応しなければいけない業務があること、予算関係の作業が時期的に集中することもあり、なかなか11時間取れなかったというのが現実です。

デミング賞で有名なデミングの言葉に、「何を問題視して、何を測るかを決めておかないと、測定もできなければ改善もできない」というものがあります。私は、月単位・年単位の残業は問題だと認識して、報告を求めてきていましたが、1日単位については課題だと認識していませんでした。認識していないわけですから、当然私への報告もなければ、改善もなかったということです。

ただ、考えてみれば、月の残業が40時間だとしても、その40時間が特定の1週間になっていたら、とんでもないことになるわけです。食事でいうと、月で考えたときのカロリーが十分あっても、その全てが月の前半に集中していて、後半に断食をしたら死んでしまうわけです。健康管理の単位は月単位でも週単位でもなく、1日単位だという当たり前のことを小室さんに教えていただき、感謝しています。

せっかくの気付きを、岡山県庁だけにしておくのはもったいないと考え、今、県内のいろいろな団体に要請をして回っています。また、啓発チラシも配布しながら企業にお伝えしています。ありがたいことに、27ある市町村にも少しずつ周知が広がっています。特に政令市であり、県民の3分の1が集中している岡山市が賛同してくださり、取り組みが広がったのは非常に大きいことだと思います。

◎働き方改革の取り組み

働き方改革についても、在宅勤務、早出・遅出勤務も含めて取り組んでいるところです。また、「ひとり1改善運動」にも取り組んでおり、職員が「なんでこんなことになってるんだろう。こうするとミスや勤務時間減るのにな」と思ったことを提案できるようにしています。それにより、みんなの負担が減ることも起きており、大変いいことだと思っています。

男性育休取得についても、しっかり取り組んでいるつもりです。私自身も2015年にイクボス宣言を行い、いろいろな工夫をしています。実際に、出産予定の男性職員に直接応援メールを送り、発破をかけています。また、育休を実際に取得した職員に県庁イク☆ダン応援団を結成していただき、今、53人の応援団員が後輩たちに育休を取ってもらうために頑張ってくれています。育休取得率は今62.2%です。もっと高くできると思っていますし、県庁だけでなく、岡山県内の全ての事業所に広がっていけばと思っています。

私自身、他の役所並みの取り組みしかできていなかったわけですが、セミナーで小室さんに来ていただき、インターバル宣言をしたことで随分意識が変わりました。「宣言をしたからには、ちゃんと成果を出さないといけない。睡眠時間は本当に大事なんだな」ということを痛感しました。これからも岡山県庁は、しっかり頑張ってまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

(質疑応答)
ワーク・ライフバランス永田瑠奈(以下、永田):「8.6%という数字には1日でも11時間確保できない場合も含まれていますか」というご質問をいただきました。

伊原木様(以下、伊原木):全部入れて8.6%です。改めてご説明しますと、時間外勤務の件数のうち、翌日の勤務開始までに11時間を確保できていない割合が8.6%です。もともとの母数が、時間外勤務が発生したときを見ています。

永田:「インターバル確保は、原則として全ての職員が対象となりますか。あるいは、特定の職場は除かれているということがありますか」というご質問については、いかがでしょうか。

伊原木:知事部局の職員は全員入っています。危機管理や予算担当、財政を除いているという姑息なズルはしていませんが、今回宣言の中に入れられなかったのが教職員です。ここはぜひ入れたかったのですが、もうちょっと待ってほしいという教育委員会のお話がありました。県警のほうは宣言をしてくれています。

永田:埼玉県草加市の山川市長から「生産性が向上して、具体的にどんな成果があったか、お伺いしたいです」というご質問をいただいております。

伊原木:私自身、正直なところまだ「生産性が上がったな!」と体感しているわけではありません。ただ、県庁がこういう宣言をして、県内の役所、企業、いろんな団体に「率先してやりましょう。睡眠時間の確保が大事ですよ」と言って回っているわけです。自分たちが率先してやらなければいけないということで、私自身も睡眠時間を確保しようという意識は確実に上がったと思っています。どんなことでも、黙ってやるのではなく、みんなに宣言してしまうことが大事だと痛感しています。

永田:「男性育休取得率62.2%に関して短期、長期別の内訳を教えていただきたい」「インターバルは制度化を予定しているのか」「育休中の職員がいる職場の人員配置はどのように対応しているのか」といったご質問も届いております。

岡山県庁ご担当者様男性育休62.2%は、1日以上取得した職員の割合です。細かい期間別で統計を取っていませんが、2週間以上取った職員の割合についても、そこまで乖離はない状況です。

勤務間インターバルについては、今は通知や要綱での運用になっていますが、条例や規則での制度化については、今のところ検討しておりません。

育休中の職場の人員については、県庁の場合、一定程度長い期間の育休を取った場合は、基本的には代替職員の配置ということで、ほぼ対応できている状況です。

■フレックス導入による選択的週休3日制を始めとした千葉県の働き方改革

千葉県知事 熊谷俊人様

◎フレックスタイム制の導入

熊谷:千葉県はこれまでもワークライフバランス推進の取り組みに力を入れてきました。県庁の働き方改革を進めるためには、私や幹部職員がワークライフバランスを自分たちの背中で示していかなければならないと、幹部会議等でよくお話ししています。今回は、今年度あらたに導入したフレックスタイム制などについて紹介いたします。

フレックスタイム制の導入にあたり、週休3日の選択も可能になるということで、マスメディア等でもたくさん取り上げていただきました。ライフスタイルや仕事に対する価値観も多様化していきますので、それぞれのライフステージに応じた働き方を選べるようにしたいと思っています。6月から導入し、2カ月が経過しました。知事部局では、これまで302名の職員がフレックスタイム制の利用申請をしており、このうち週休3日を選択した職員は120名となっています。多くの職員が自分たちのライフスタイルに合わせて、うまく活用していると感じます。

フレックスタイム制を導入している他の自治体の中には、育児や介護など、事情がある職員に対象を限定しているケースもありますが、千葉県は対象を限定せず、交替制勤務の職員等を除けば、原則全ての職員を利用対象にしています。社会活動や学び直しにも、時間を有効に活用できます。地域活動やリスキリングなど、公務以外の活動を充実させることで、職員の知識、能力、モチベーションが向上していき、最終的には質の高い県民サービスという形で還元できると思っています。また、人材の確保・定着にもつなげていきたいと考えています。

◎テレワークの推進とオフィス環境の改善

多様で柔軟な働き方の1つとして、テレワークも有効活用してもらいたいと思っています。自宅や介護場所のほかに、出張先の会議室やカフェでもテレワーク可能にしており、場所にとらわれない働き方を通じて子育てや介護、さまざまな事情にも対応できるようにしています。また、千葉県では観光振興施策としてワーケーション促進も図っており、職員にとっても仕事と休暇を組み合わせた新たな働き方の1つとなります。モチベーションの向上や、アイデア創出にもつながるなど、多くのメリットがあるため、希望者がワーケーションを実施しやすい環境づくりに努めています。

そして現在、テレワークを前提とした座席の配置、フリーアドレス導入など、職員の働きやすさや効率的な業務運営の実現に向けて、オフィス環境の改善を進めています。導入にあたっては、業務のペーパーレス化にも取り組んでいます。今、県庁舎の一部が非常に老朽化しており、今後建て替えも含めた議論をしていきますが、そこに向けて、先駆的なオフィス空間のあり方について実証実験的に取り組んでいます。例えば、新たに生まれたスペースを有効活用してオンライン会議に対応できる集中スペースや、立って打ち合わせするスペースなど、いろいろなコミュニケーションスペースを用意しています。

◎副業人材の活用

また、千葉県では副業人材の活用を進めています。東京などで活躍されている方も、オンラインでも直接来ても副業ができるということで、令和4年度に開始し、現在12名の方にDX推進やブランディング、県立博物館や美術館のアドバイザーなど、多種多様な業務で活躍いただいています。民間ならではの発想や手法によって、さまざまな行政課題の対応も図っており、一緒に働く職員の意識の改革にもつながっていると感じています。

◎男性職員の育児休業取得推進

私は千葉市長時代から男性職員の育児休業の取得促進に取り組んできており、令和2年度27.6%から、令和5年度80.9%に上昇しています。この背景には、育児休業を取得する理由を申請するのではなくて、育児休業を取得しない場合、どうして取得しないのかという理由を申請しなければいけない、つまり取得をするのが当然だという運用の仕方に変えたことが挙げられます。また、取得者セミナーの開催や男性職員向けのリーフレット作成などでも雰囲気をつくっています。

育児や介護などのライフイベントがあるから休暇を取得したりフレックスタイム制を活用したりすることが大事なのではなく、それぞれの人たちがチームの中で休暇や働き方を工夫していき、みんなでその負担を軽減したりコントロールしたりしていくことが組織文化として重要です。それを私からも申し上げ、チームとしてやっていこうねと言っています。

◎より良い職場環境づくりにチャレンジ

千葉県としても、ワーク・ライフバランス社さんと一緒になって、3つの所属をモデルとして業務の可視化や業務改善に取り組んできました。働き方改革を進めるには、チーム全体で仕事を意識し合い、マネジメントすることが重要だと考えています。そういう意味で、ワーク・ライフバランス社さんと一緒になって行ったことも、意識改革として大変重要だったと思います。

われわれは職員1人ひとりが安心して能力が発揮できる職場環境の改善を組織的に進めていくために、2024年4月にウェルビーイング推進室を新設しました。県庁における人材の確保、定着、行政サービスの維持向上のためにも、1人ひとりの職員がライフステージの変化などに応じた働き方で、生き生きと活躍できる県庁であり続けたいと思っています。

(質疑応答)
永田:北海道から「道内の庁でもフレックスを導入しておりますが、なかなか進みません。進んだ理由や、推進内容について教えていただけたらうれしいです」というご質問です。こちら、いかがでしょうか。

熊谷様(以下、熊谷):もちろん担当部署が普及に努めましたが、もともと庁議や部課長会議も含めて、私や幹部職員から、働き方改革やチームとして仕事を意識していくということについて、何度も繰り返し申し上げています。フレックスタイム制や週休3日に関しては、庁内的にも注目されましたし、マスメディアでも報道されましたので、十分取りやすい雰囲気をつくることができたのではないかと思います。担当部署が、かなり柔軟で運用しやすいルールをつくってくれたと思います。

永田:幹部の皆さんから周知を徹底していただいたというお話もありましたが、知事のお話の中で「チームで働く」というワードがたくさん出てきました。恐らく、制度を周知していくというよりは、「制度を使うためにはみんなで働くことが大事だよね」という、未来についても周知されていったのがポイントだったのではないかと感じています。

熊谷:私は研修に関しても「職員全員が1年に必ず一度は研修を受けるように」と強く申し上げています。忙しいという理由で研修を受けない職員も多いですが、「そういうことでは駄目なんだ。いくら忙しくても、数カ月先にしっかりと研修を受けるということを設定して、マネージャーを中心に、みんなで職務をコントロールして、全員が研修に行けるようにすることが、組織の文化として大事なんだ」と繰り返しお伝えしています。ですので、そういう雰囲気はあるのかなと思います。

永田:素晴らしいですね。私も、様々な自治体で「忙しいから研修に出られない」というケースを非常によく聞きます。けれども、研修に出た人と出ていない人での知識の差、情報の差が、組織にとって後々大きなデメリットになることも同時によくお見掛けしているんです。トップから周知をしていくことで、職員の皆さんが研修参加の優先度を上げていくことが非常に重要なポイントですね。

「ワーケーションの取得職員数はいかがですか」というご質問については、いかがでしょうか。

熊谷:現時点では、職員に対して「ワーケーション」としての実施報告を求めておらず、実施した職員の人数は把握していません。

永田:わが社の社員も、ワーケーションをしているメンバーが非常に多く「館山市でワーケーションプログラムに参加しました」という声がありました。県民をたくさん巻き込み、県外の方にも千葉県の魅力を感じられるようなプログラムを立てられているところは、PRがお上手だなと思います。
それから「人数が少ない部署での、育休取得推進の工夫があれば教えていただきたいです」というご質問をいただいています。

熊谷:代替職員をしっかり配置するということと、やはり基本的に全員が育休をするということです。「取得をしようね」ではなくて、取得をするのが前提で「できない人はできない理由をしっかり言ってください」と、完全に仕組みを変えています。この制度に変えてから、申請率は一気に上がっているので、まず根本的な育休取得に対する考え方を変えていくことが大事だと思います。

私が千葉市長時代、消防局の消防職員の育休取得率は非常に低かったんです。男社会の中で「育休を取得しても妻が望んでいない」とか「いてもやることがない」とか、そんな話をするわけです。「そうじゃない。望まれていないことも問題だし、そもそも数カ月先の仕事をあらかじめ予測して調整するという行為そのものが大事であり、あなたの家庭だけの話じゃないんですよ」ということも、繰り返し申し上げてきました。

また、「保育所は送るだけで満足しないで、お迎えに男性が行きなさい」とお伝えしています。実際に男女でフルタイムで働いているケースでは、女性もフルタイムなのに、女性だけが保育所に迎えに行くケースがほとんどです。こういうことでは駄目であり、男性が1時間、2時間早く仕事を切り上げて、保育所に迎えに行くところまでいかないと、働き方改革や育児の共同参画は実現できないよね、と私からも部課長会議で申し上げています。私自身も実践してきましたし、そういうことをずっと伝えています。

「子育てをしている職員を、みんなで負担し合って助けている」みたいに思われると、組織全体として非常にまずいので、「子どもがいない人でも、自分のリスキリングやライフワークのために、みんなで仕事を分担し合うんですよ」と常に話しています。

永田:大変勉強になりました。フレックスタイム制のところで「地域活動をしていく時間が通常業務に返ってくるから、そこも大事にしている」というお話がありましたが、本当にその通りですね。ただ育児をしている人の負荷を減らすとなると、優遇された側も肩身が狭くなりますし、負担する側はずっと負担を背負うだけになってしまいます。そうではない、という発信をしていくことも非常に大事だと思いました。

最後にもう1つ、ご質問にお答えいただけたらと思います。「導入のための実務の整備は、どのように進めましたか。ハードの対策も大変ですが、ソフトの対策、実務の改良は膨大な事務が発生すると思います。知事の立場からどんな指示をしましたか」という質問です。

熊谷:オフィス改革に関しては、将来的に庁舎全体のあり方を議論することを見据え、新たなオフィス環境・フリーアドレス制も含めて、対応できる部署・できない部署や、「こういうハードウエア・什器を整備しないとできない」というところを早めに検証する目的で、それなりの予算を計上して進めているところです。

永田:トップの方々には、予算をしっかり確保していくという覚悟も必要でしょうし、それを実務に落としていくために担当課が動いていったというところも、トップの連携がしっかりされている千葉県さんだからこそだと思いました。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。

■働き方改革は職員の人生改革!

東大和市長 和地仁美様

◎東大和市について

このたびは当市の働き方改革の取組について、ご紹介する機会をいただき、ありがとうございます。私からは、なぜ当市が働き方改革に着手したのかということを中心に、お話しいたします。

私は市長就任から2年目になります。民間企業では、主に人事やマネジメントに関する業務に携わってきたこともあり、市議会議員のときから市の職員や人に関することに高い関心を持っていました。

ところで、皆さんは当市をご存じでしょうか。残念ながら、知名度が低いことが当市の課題の1つになっていますので、少しだけご紹介いたします。当市は東京都の多摩地域にあり、北側は埼玉県の所沢市に接しています。東京都の新宿からは約30kmの場所に位置しているベッドタウンでもあります。当市の東側に隣接しているのが東村山市で、志村けんさんの地元としてもとても有名ですが、『東村山音頭』で歌われている多摩湖は、実は当市にある人工の湖です。東西約5km、南北4kmという面積のとても小さな市ですが、その4分の1を多摩湖が占めており、当市を語る上では欠かせないシンボル的な名所となっています。

その他、多摩湖の周辺、市の北側一帯はアニメ映画の舞台ともいわれているトトロの森、狭山丘陵が広がるなど、緑豊かなエリアが多くあり、都市農業も盛んで、市民アンケートなどでは、とても住みやすい町という声を多くいただいております。

◎重要なのは人を活かすマネジメント

そんな東大和市ですが、多くの自治体と同様、さまざまな課題を抱えているばかりではなく、先進的な取組を行っている自治体と比較して、遅れを取っている部分もあると思います。私が市長に就任する前から、東大和市で取り組まなければならない課題は本当にたくさんありました。行政でも民間企業でもトップに就かれている皆さんはさまざまな課題を抱えており、解決のイメージやビジョンなどを頭の中で一定程度描かれていると思いますが、実際には、トップ1人だけで解決することは現実的には難しいというのが実情だと思います。

私も市長に就任した際、課題をどうしたら解決できるか、未来につながる市政を実現するにはどうしたら良いかと考えました。近年、自治体間競争という言葉が当たり前になっているように、行政においても運営ではなく経営が必要だといわれている中、私も市長として経営の4大資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」について考えてみました。その結果、行政において自らコントロールできる最大の経営資源は“ヒト”しかないと考え、未来につながる市政の実現には人を活かすマネジメントに着手することが必要だと結論付けました。

◎全職員との面談で分かったこと

そこで最初に取り組んだのが、全正職員との1対1の面談です。当初はグループ面談を行うことも考えましたが、結局本音が聞けないのではないか、特に組織に対する不満などは話しづらいのではないかと思い、新卒で入庁されたばかりの職員も含め、1対1での個人面談という形を取りました。組織や人の課題については、私自身が見えていることや感じていることが全てとは限らないので、「急がば回れ」で実際に職員の声を聞くことを進めました。

面談をしてみると、さまざまなことが分かり、本当に勉強になりました。まずは良い点として、大部分の職員が当市について前向きに考えていることが分かりました。一方で、マネジメントについて不満を感じている職員が多いことも、残念ながら判明しました。自分は認められていないのではないか、必要とされていないのではないかという無力感や劣等感を抱え、自己肯定感が下がっている職員もいました。

また「どうせ」という枕詞が頭に付く感覚を持っていることも分かりました。昨今、行政に求められることが複雑化・多様化していることにより、定型業務以外のことも、さまざま取り組まなければならなくなっていますが、新しい業務を担う人には偏りが出ていました。また、公務員の評価制度や待遇の面から、「プライベートを犠牲にしてまで仕事はやらないほうが得だ」という考えを持っている職員、もしくは「工夫をしても評価されない、なかなかそれが通らない」と思っている職員が一定程度いることも判明しました。その他、一生懸命頑張って、前向きに、プライベートを犠牲にしてまで取り組んでいる職員が、やりがいを感じながらも不公平感を持っていることも分かりました。

◎“もったいない”がいっぱいあった

面談から私が得た感想は、一言でいえば「もったいない組織だな」ということです。公務員になることを選んだ職員ですから、市のため、市民のために役に立ちたいという初心はあり、その火はまだまだ消えていないのに、マネジメントがうまくいっていないことにより、1人ひとりのポテンシャルを最大限に引き出せていないというのが現状でした。

毎年、ワークライフバランスやマネジメントの研修を講演形式で行っていることを、担当職員からも聞きましたし、ポジションごとの研修も実施していましたが、内容は精神的・理論的なことだけで、実践的な取組に落とし込めていないことも判明しました。

◎必要なのは「働き方改革」

そこで、職員が変化を実感できるような実践的な研修や取組はないかと考えていたところ、ワーク・ライフバランス社さんからセミナーのご案内をいただき、そこで先進自治体の取組を知り、“じぶんごと”として仕事を捉え、意識改革をするには働き方改革が必要だと思ったのが、ちょうど1年前の夏のことでした。

でも、取組を上からの押し付けという形で捉えられてしまうとうまくいかず、効果も半減してしまいます。そこでまずは組織のトップレイヤーで構成されている庁議のメンバーに、ワーク・ライフバランス社さんのセミナーの動画を見てもらい、感想を述べ合う機会をつくりました。結果、全員から「この取組を当市でも行うべきだ」という意見が出る結果となりました。仮に庁議メンバーが前向きでなかったならば、いくら私自身が良いと思っても、すぐにワーク・ライフバランス社さんにお願いすることはなかったと思います。私の心の中では、まずはマネジメント層が前向きになることが取組の前提条件であると考えていました。

◎働き方改革懇談会を実施

私の考えをワーク・ライフバランス社さんにご理解いただけたこともあり、まずは本格的な取組の前に、トップレイヤーの意識をそろえ、共感を強めるための取組を行うべきだとご提案をいただけたことも、とても良かったと思います。令和6年度から本格的に働き方改革を実施していますが、令和5年度の後半に「働き方改革懇談会」という形で、マネジメント層の理解をさらに深め、自分たちの課題を出し合い、時間軸を意識しながら行うワークを実施し、タイムマネジメントや集中して仕事を行うことの効果を実感していただく機会を作ることができました。

また、「どうせ行政だから」といった思いを払拭する、先進自治体である四條畷市の東市長や、掛川市の石川副市長から実体験をお聞きする機会もいただき、大きな後押しや励みになり、本当にありがたく思います。また、当市の組織が変わったということを全職員で共有する取組として、令和5年11月に「勤務間インターバル宣言」と「女性の再就職応援宣言」を行いました。この宣言は、民間企業や先進自治体でも行われているものですが、東京都内の自治体では初の宣言となり、職員も自信や誇りを感じてくれたようです。

実は、ワーク・ライフバランス社さんからは、男性育休100%宣言も勧めていただきましたが、体制が整っていない状況の中、宣言が「絵に描いた餅」になってしまったら組織のモチベーションにも関わると考え、まずは2つの宣言を行い、今後、男性育休100%宣言も行うことを目指しています。現在、当市の男性の育休取得率は約80%ですが、100%取得を実現できる体制が整ってから宣言を行いたいと考えています。

◎「勤務間インターバル宣言」の効果

宣言について、もう少し詳しく説明いたします。まず、勤務間インターバル宣言については、現在は試行状況です。当市の出退勤の管理が、まだデジタル化していないというのが大きな要因です。しかし、宣言を行った試行初日に、私自身が庁内放送で「今日から勤務間インターバルを始めますよ」と全職員に呼び掛けたところ、一部の職場では手を上げて「おー!頑張るぞ」と盛り上がってくれたと聞いており、職員の意識が高まっているのではないかと思います。

宣言前は、毎週水曜日を「NO残業デー」にしており、定時に庁内放送が流れていましたが、実際には形骸化していて、「放送が流れているけど、残業するよ」と冷めた目で見られていました。しかし、宣言後は、次の勤務まで11時間あけることを各自がコントロールすることになります。翌日に定時で出勤するとなると、その11時間前の9時半には退庁しなければいけないということが、一つの目安に変わりましたので、現在は毎日9時20分に『蛍の光』を流し、時間をお知らせする形に変えました。その結果、職員が自身の仕事や時間を自分自身でマネジメントすることを意識できるようになり、職場の雰囲気も良くなり、新たなチャレンジや提案をする職員も増えてきています。

◎「女性の再就職応援宣言」で採用応募が激増

女性の再就職応援宣言については、主に採用試験を見直すこととしました。具体的には、人物重視の試験とし、応募資格年齢を一気に45歳まで引き上げました。私個人としては、ここで男性女性の区別はしたくなかったのですが、日本の現状からすると、やはり家庭の事情でキャリアからいったん下りてしまう人の多くが女性であることは否めません。そこで「女性の」と銘打ちましたが、実際の採用は男女の区別なく行いました。

採用を所管する職員課のメンバーが素敵なポスターを作ってくれて、宣言を行ったことで、マスコミなどでも話題になり、おかげさまで15名の募集に対して320名ほどの応募がありました。そして、「こんなキャリアの方が応募してくれれば」と期待していた方がたくさん応募してくださいました。ここで採用したメンバーは7月1日に入庁しております。さまざまなキャリアを持った人材が仲間入りしてくれたことで、現場では予想以上の良い化学反応が起こっていると聞いています。マネジメント層も組織自体の活性化を実感しており、モチベーションも一気に上がっている状況です。

◎その他の人材育成の取組

ワーク・ライフバランス社さんのアドバイスや研修から始まった働き方改革の取組のほかにも、当市ではモチベーションやエンゲージメントを高めるために、さまざまな取組を行っています。まずはトップである私が、日常の中で感じたことや、職員と共有したいと思った情報などをエッセイのような文章にまとめ、令和5年8月から庁内のイントラネットで発信しており、週に1回継続中です。私の呼び掛けに、職員から感想や意見などがメールで送られるようにもなっています。

また、今まで紙1枚で知らされていた異動の辞令についても、面談方式に変えました。これは私との1対1の面談の中で、異動についての不満や疑問が多く寄せられたことがきっかけです。異動の対象となっている職員と直属の部長が面談を行い、なぜ異動になったのか、どうしてその部署になったのか、何を期待しているのかということを話してもらうことにより、お互いの理解も深まり、異動に対する苦情が、今年度最初の異動の多い時期には1件も入っていないと報告されています。

また、当市の職員は、あまりにも外の世界を知らないと感じており、民間企業や先進自治体を知ってもらう機会を意識的につくっています。ワーク・ライフバランス社さんとの取組もそうですが、最先端を知る、一流を知ることも非常に重要だと思っており、先進的な民間企業等とも付き合える取り組みを意識しています。

◎働き方改革は人生改革!!

このようなことを積み重ね、市民の皆さまもさまざまな変化を感じてくださっているようで、「市が変わってきているね」というコメントをいただけるようになりました。シビックプライドとスタッフプライドを好循環に高め合えるような良いスパイラルが起きていると思っています。メディアの露出でいうと、昨今問題となっているカスタマーハラスメント防止を意識して、職員の名札の内容とデザインを変えたことが、フジテレビさんや日本テレビさんの番組で取り上げていただきました。

さらには、企業版ふるさと納税で、ワーク・ライフバランス社さんとの取組について応援してもらうことを、職員のアイデアで今年度から始めました。企業版ふるさと納税で当市の働き方改革を応援してもらう、そして当市の取組がウェルビーイング経営や働き方改革に関心を持つ民間企業の皆さまの良いきっかけになればと思います。また、民間の企業の方とも取組についての情報を交換し合い、共に発展させるところまで広がればと期待しています。

以上が、私たち東大和市の取組の概要となります。最後に、私が市長に就任した際や、働き方改革に取り組む際に職員に話していることをご紹介したいと思います。それは、自分の人生のオーナーは自分だということです。周りや組織、他人のせいにして愚痴を言っていても何も変わりません。働き方改革は人生改革で、自分が成長すれば市も成長し、ひいては、市民のためになると考えることは、公僕とされている公務員が持つべき意識・感覚で、自分の人生を自分でより良いものにするということが大前提だと、日々さまざまな場面で職員に伝えています。今後も「人を大切にし、効果を上げる東大和市」の実現を目指して、さまざまな取組を進めてまいりたいと思います。ありがとうございました。

(質疑応答)
永田:和地市長、ありがとうございます。400人以上の職員の方に1on1をされたというのは、民間のトップでも聞いたことがないお話だと思い、大変感動しました。和地さんが本当に素晴らしいのは、何かを言うと、「それいいね、やってみようか。なるほどね、共感するよ」などと必ずリアクションしてくださるところです。こういったところもポイントとなり、職員が一枚岩になって取組を加速していると思います。

それではご質問への回答をお願いします。「人材=人財と考えています。職員446人の個別面談を通して、多くの財産をどのように生かしていこうと感じましたか」というご質問です。

和地様(以下、和地):1人ひとりと話すと、入庁する前の学生時代にやっていたことや、プライベートでの趣味、今勉強していることなどがよく分かり、それが実際の配置に少し役立っていると思います。1人ひとりの価値を実感し、もっと力を発揮してもらえるはずだと分かったことが、今後の市の発展に向けての明るい材料ではないかと思います。庁内の仕事だけで評価するのではなく、その人が持っているさまざまなポテンシャルを把握することが、組織力を上げていく上では非常に重要です。面談は、費やす時間以上の効果があるので、可能であれば無理してでもやったほうがいいと思います。これからも、一定以上の層とは、1対1で話をする機会を毎年設けていく予定です。

永田:他の自治体の方々も、トップに「1on1面談してください」と言いづらいかもしれませんが、そういったスキームを生かしていただけたらと思います。そのほか、「インターバルの実施率はどうですか」というご質問もいただいています。

和地:現在、アナログで管理しているので、大まかなところですが、2、3割程度の職員はきちんとインターバルを取得しているようです。少し残業が延びてしまい、『蛍の光』が流れる時間を超えてしまった職員も、翌日は少し遅く出勤をすることができているとの報告も受けています。今は試行状態ですが、もう少し全体的な体制が整えば、きちんと全員がインターバルを取ってくれると考えています。

永田:本日は貴重なお時間をありがとうございました。