Case Study

社会を変えるイベントレポート

平成は女性活躍、令和は男性の家庭活躍時代へ!
人事労務の新ミッション、「男性育休100%」勉強会

女性が存分に活躍できる環境を整え、同時に少子化問題も解決していくには、男性の育児参加は必須です。働き方改革関連法が改正された今年、企業が取り組むべきことは多々ありますが、「男性社員の育休取得率を高める」ことも大きな課題のひとつ。早々に着手しなければ、今後、優秀な人材の確保はできなくなります。必要なのは、育休を取る本人の意識改革だけでなく、上司や同僚がその必要性や会社としての方針を正しく認識し、「育休は男性も女性も取るのが当たり前」という状況に持っていくこと。そのために、企業が早急になすべきことは何なのか──男性の育休取得率を100%にする具体的なヒントを掴んでいただくため、勉強会を開催しました。

男性社員の育休取得に向けた対策、進んでいますか?

20019年8月26日、男性育休取得率100%に向けた勉強会を行いました。弊社の働き方改革コンサルティングを受けておられるクライアント企業だけでなく、弊社からのお知らせや各媒体のニュースなどで当勉強会のことを知ったさまざまな規模・業種の企業、メディアのみなさまにお集まりいただき、男性育休取得への阻害要因や具体的な解決策をディスカッションしました。

男性の育休取得は「大企業だけが早急に取り組むべき課題」「中小企業には難しい問題」と捉えがちですが、事業規模や業種・職種に関係なく、すべての企業の急務といえます。そして、正しい知識と方法を知っていれば必ず成果を出せる問題でもあります。

今回の勉強会を開催したのは、そうした「待ったなし」の状況下で早急に対策を講じる必要性・課題感を持っているみなさまに、第一歩を踏み出すための、あるいはさらに先へと進むためのきっかけを提供したいという思いからです。

働き方改革関連法が改正された今だからこそ

勉強会の冒頭では、弊社代表・小室淑恵よりご挨拶を申し上げました。

『平成は女性活躍が進んだ時代とよくいわれますが、それは女性が家庭サイドから仕事の領域もがんばるという、スーパーウーマン化することで支えてきたにすぎません。一方で、男性は職場の風土に阻害されて、子育てや家事労働などの家庭領域にほとんど入ってこられませんでした。さすがのスーパーウーマンも、もう疲弊してきています。

それを見て育った次世代には「働くのは大変そうだから、私は主婦になる」という女子学生と、「父親は家族を全然幸せにしていなかった」と考えて、結婚や子どもを持つこと、仕事をすることにも後ろ向きな男子学生が増えています。そのような次世代をつくり続けている、女性だけが獅子奮迅する社会はサステナブルではありません。ですから、「令和は男性の家庭活躍の時代」にしなくてはいけません。

今年、法改正されて男性が早く帰ることを求められるようになるからこそ、ずっと日本に必要だったこと、家族が望んでいたことができるんです。なぜ今なのか、なぜ急務なのかを明確に説明できる知識をみなさんに持っていただき、しっかり伝えていただければ、会社の中で話が進みますから、今日はそのデータ的裏付けを存分に提供させていただきます。

政府の中心には、まだまだ性別役割分担意識が強い議員も多く、「なんで男性に育休が必要なんだ?」とネガティブに捉えがちです。しかし、このまま男性が育児に参加しなければ少子化は止めようもなく、国が滅びます。国を少子化による財政破綻から救うために男性育休が必要ということがやっと浸透してきて、その推進に賛成しよう、という風がようやく吹き始めています。今まで吹いていなかった風が吹いています! このタイミングだからこそ、本日の勉強会で理解を深めていただきたいと思います』

付箋を使って「育休取得を阻害する要因」をディスカッション

集まってくださった企業は、育休取得に対する取り組みの進度が異なります。こうした場でつながりを持てれば、互いの課題や解決法を共有でき、非常に有意義な時間を生み出すことができます。そんな中、今回は「男性の育休取得を阻害するものは何だと思うか?」というテーマで、付箋を使ったディスカッションを実施しました。

各テーブルにはそれぞれ違う企業の方同志で座っていただき、意見を交換し合って、互いの“気づき”につなげます。取り組みに着手したばかりの企業にとっては「まだ自社には起きていないが、今後起こりそうな課題」を発見するきっかけにもなるのです。

育休取得を阻む原因としてみなさんが挙げてくださったのは、職場の風土や意識、上司の意識、家庭内での意識・理解度、男性のマインド、収入減少への不安、復帰後の不安などに大別できます。これらは、弊社で分類しているいくつかのパターンにすべて当てはまるものなので、勉強会の最後にはその分類に基づく詳細な説明と対策を小室から解説し、「非常に参考になった!」との声を多数いただきました。

住友生命保険相互会社が進める「男性育休取得」への細やかな手法

今回の勉強会では、男性育休取得における先進的な2社の取り組みもご紹介。現場でどんな課題があり、どういった解決策を講じているかを具体的に発表していただき、その後の質疑応答でも積極的なやり取りがかわされました。

弊社でコンサルティングに入らせていただいて2年目となる住友生命保険相互会社様では、それ以前から積極的に男性育休の取得に向けて試行錯誤を重ねてきました。社員の9割近くが女性という同社では、女性活躍を積極的に推進する中で「男性の理解と育休推進が不可欠」と判断し、社を挙げてコツコツと取り組んでいます。


住友生命保険相互会社 勤労部次長兼勤労室長・川村基寿さんと、人事部人事室副長・有田麻美さん。

同社では法定を上まわる手厚い制度を整える一方、ハンドブックの作成やイントラネットの活用、復職への不安を払拭するためのランチ交流会、復職者向けのセミナーなど、社員がその都度必要とする具体的な対応を積み重ねることで、制度の定着や風土の醸成をはかってきました。

男性育休を推進するポイントのひとつとして、人事部から所属長宛に「育児休暇取得を勧奨してください」という依頼メールや電話をしているそうです。「自分から育休を申し出るのはハードルが高いと感じる人もいるはずなので、所属長から伝えてもらうことで取りやすくすること、そして“会社が決めた重要な方針なんだ”と所属長本人に理解してもらうことを意図しています。最初は半ば強制的にでも進めていき、“実際にこれだけの人が取得しているんです”と言うと“あ、そうなんだ、じゃぁやらなきゃいけないんだな”という意識になります。また、上司を通じて正式に話してもらえれば他メンバーへの周知にもつながります」

また、「ひとつひとつ、できることを地道に積み重ねていくだけです」との言葉通り、実際に育休を取得したさまざまな職種・条件の社員たちの声を集めた「好事例集」を手作りし、後に続く人たちから好評を得ているといいます。

昨年の男性育休取得率は88%だった同社。今後は100%を目指すとともに、取得日数の増加も引きつづき目指していくそうです。

「地方の中小企業でも男性育休100%!」サカタ製作所の好事例

続いては、「魅力的で健康的なイクメン企業になろう」「男性育休100%を経営戦略に!」という方針のもと、さまざまな働き方改革に取り組んでおられる新潟県の株式会社サカタ製作所様。約2ヵ月前まで総務部長として採用や人事を担当しておられた小林さんにお話をいただきました。


株式会社サカタ製作所 取締役 技術開発部長・小林準一さん。

サカタ製作所にて、弊社・小室が全社講演を実施したのは2014年のこと。小林さんいわく「社員に激震が走り、早急に着手しなければ!というスイッチがすぐに入りました」。

講演直後に坂田社長が「残業ゼロ」を宣言して全社的に動き始め、それ以降も、副業OK、時差出勤、健康経営、テレワーク、子連れ出勤など、社員が心身共に健康で、育児・介護と仕事の両立も無理なくはかれるサカタ独自のしくみを多方面で実践してきました。結果、残業は大幅に削減、その分の費用は全額賞与として社員に還元してやる気向上、男性育休取得率100%維持、有給取得率の向上、出産ラッシュなど多くの成果をあげています。

男性の育休取得において重要なのは「本音では休みたいけど、休めない。その理由は・・・」という個々の本音を面談で聞き出し、悩みや不安を消していくこと。たとえば「休んだら経済的に困る」という不安に対しては実際に休んだ場合の給与明細シミュレーションを何パターンも提示し、「休んでも大丈夫なんだ!」と心から納得して休む気になれるよう上司と担当部署とで丁寧にサポートするのだといいます。

また、育休取得中の人員補填はしていないそう。「たとえば1ヵ月誰かがいなくても、減った人数でまわすことを前提に工夫すれば対応できます。もちろんその場合も残業は常にゼロです。なぜ人員を補填しないかというと、育休明けに戻ってきたとき“待ってたよ〜!”とあたたかく迎えたいから。その分、復帰後の社員は“こんなに休ませてもらった。よくしてもらった”という思いが強まり、モチベーションが非常にあがります。休み中も会社の状況がわかるように携帯やノートパソコンを貸与して、復帰しやすい状況を作る工夫もしています」

「男性の育休取得は強い組織への第一歩」と語ってくださった小林さん。今後も魅力的で健康的な企業として、社員のための改革を続けていかれることでしょう。


多くの学びを共有できた今回の勉強会。今後も定期的にこの勉強会を開催していきますので、弊社からのお知らせにご注目いただけたら幸いです。

また、弊社でご参加を呼びかけている「男性育休100%宣言」に、各業界から続々と名乗りを上げていただいています。「今後、100%を目指して対策していく!」という思いがあれば、企業の規模や業種、現在までにどこまで取り組みが進んでいるかなどは問いません。社員の満足度を向上させ、優秀な人材を確保するために、まずは取り組みを「宣言」し、第一歩を踏み出してみましょう。


撮影/SHIge KIDOUE
文/山根かおり