社会の動向と対策
塩崎厚生労働大臣の依頼で作成した「財源を使わずに社会問題を解決する方法のご提案」
(概要)
2015年4月
財源を使わずに社会問題を解決する方法のご提案(概要)
1.今、日本には課題が山積している
人口ボーナス期からオーナス期[1]への急速な移行で労働力人口が減少、経済が発展するルールも大きく変化していく必要がある中、長時間労働の恒常化で様々な問題が発生している。
1. 介護:政府としては居宅介護型を推進することで施設費の削減をはかりたい。
現実は、介護する家族の長時間労働が原因で要介護度の低いうちから施設に入れたい要求増
2. 保育:政府としては待機児童解消のために保育施設を至急増やしたい。
現実は、保育士不足により目標達成困難。潜在保育士は多いが、長時間労働が原因で離職率が高い
保育士の長時間労働の原因は、保護者の長時間労働により、延長保育への要求増加→自治体の赤字へ
3. 年金:政府としては財源不足を補うため、女性の社会進出・高齢者の定年延長を進めたい。
現実は、育児との両立困難で女性は働けず、高齢者は体力にあった仕事がない。年金払い手減少。
4. 地域:政府は地域のつながり強化・地方創生・防災・コンパクトシティ等による自助・共助社会を作りたい。
現実は、一番頼りにしたい働く男性は企業にだけコミットしている。地域には女性と高齢者だけ。
5. 少子:政府としては出生率2.1以上にすることで、未来の労働力・年金の払い手を増やしたい。
現実は、一人目の孤独な育児(夫の帰宅時間の遅さ)に懲りるので、未来の年金の払い手は増えない
6. 医療:政府としては予防に力を入れ、増加する医療費をおさえたい。安定した医療を提供したい。
現実は、多忙により検診を受けず。EUの医師は週平均50時間労働・日本は100時間で現場崩壊
7. 男性:政府としては男性の育児休業取得率を上げ家庭参画を促したい。うつ病・過労死・自殺の対策は急務。
現実は、慢性的な長時間労働の職場ほど周囲に迷惑をかけると考え取得率不可能。さらに近年の労働力人口減少による人手不足により悪化の見込み。過労死問題を国連から勧告を受けている
→1~6に個別に対策を打ってきたことにより、コストは膨らみ、財政健全化は遠のく。1~6の現状の根本的原因である「長時間労働」を解決せずに増税で賄おうとしても、今後さらに行政に対して福祉の充実への要求がエスカレート、財政のさらなる逼迫が予想される。それぞれの課題への個別対応ではなく、すべてのコストを抑える構造変革(長時間労働を改善すること)を促すことが肝要である。
[1]ハーバード大学の人口学者デービッド・ブルームらが10年ほど前に提唱。
人口ボーナス期:ある社会が「多産多死」の社会から「少産少子」の社会に切り替わる際に人口構成比の子供が減り、生産年齢の人口が多くなった状態。労働力が豊富なため、経済発展をしやすいとされる。現在の中国・韓国・シンガポールやタイがそれにあたる。高齢者が少なく社会保障費がかからずに済むため、経済が発展して当然といわれる。日本は1960年ごろから90年ごろまで。人口ボーナス期を経て高度成長期が訪れると医療や年金制度が充実、高齢化社会となるため、一度人口ボーナス期が終点を迎えると二度と到来しない。さらに、人口ボーナスが終わると、国民一人あたりのGDPはほぼ横ばいとなる(分子(GDP) も分母(人口)も同様に減少するため)。
人口オーナス期:人口構成の変化が経済にとってマイナスに作用する状態。オーナス(onus)とは、「重荷、負担」という意味。働く人よりも支えられる人が多くなる状況。日本では、少子高齢化が顕著になってきた90年頃から人口オーナス期に入ったとされる。人口オーナスによって生じる問題としては、労働力人口の減少・働く世代が引退世代を支える社会保障制度の維持が困難になったりすることなどが指摘されている。
2.財源を使わずに解決するために
1~6の問題の根底にある長時間労働の是正を短期集中的に実行できた場合、財源は全く使わずに1~6の問題解決につなげることが出来、長い将来にわたってコストを削減し、財政健全化を実現することが出来る。
1. 介護:家族が18時に帰宅できるため、デイサービスと訪問介護の併用で居宅介護が可能な期間が延びる
24時間型施設建設・運営コストが最小限に抑えられる。居宅介護で介護度の進行が抑えられる。
2. 保育:通常の保育時間内でお迎えにいけるため延長保育が減少。地方自治体の運営赤字も減少。
保育士の勤務環境改善により保育士の離職率低下、潜在保育士の再就職が進み保育士不足解消(金銭的処遇改善以上に、働く環境改善が保育士には求められています!)
3. 年金:8時間以内で成果を出す職場では結婚・育児・介護と両立できるため離職しない。
年金払い手である労働力人口が維持できる。
4. 地域:働く男性が平日の定時後や、有給を使って地域のお祭り準備に参加するなどで、地方創生・防災・減災・コンパクトシティ化等に貢献。若者が介護や環境ボランティアに参加できるようになる。
貯めた地域通貨等で自分の親や自分の将来の介護を自助努力して回っていく社会ができる。
5. 少子:妻が出産で仕事を辞めてパートで復帰した場合の生涯賃金と、育児休業を取って復帰して定年まで働いた場合の生涯賃金の差額は2億違う!子育て・教育費への不安解消し、手当に頼らなくなる。
女性が働き続けた場合、年金額も増えるので、将来の生活保護対象者を減らす構造となる。
6. 医療:医師の数を4割増やし、労働時間を平常化させた大阪厚生病院は利益を3倍の8億にした。
労働環境さえ整えば、育児でリタイアした潜在看護師、潜在女医が復帰できる。
7. 男性:仕事以外の時間をインプット(情報や人脈、経験等)の時間に使う人が増え、新たなビジネスアイデアが湧き出る社員が増加、残業に伴う人件費や光熱費も削減されるため利益率が好転する。
(実際にパシフィックコンサルタンツでは6億だった利益が40億へ。リクルートスタッフィングでは残業が削減されて、かつ労働生産性が17%上がって、生まれる子どもの数は1.8倍となった)
夕食時に子どもの話に耳を傾けられる父親ができ、しつけやいじめ対策も早期に関わることができる
→定時後の時間を個人と家庭に返すことで、個人が育児、介護、健康維持、地域活性化などに主体的に動くことができる自助社会の実現へ
3.財源を使わず、今すぐできる対策とは
<長時間労働を改善し、生産性を高めた企業が得をする仕組みを作る>
・例:法人税減税の際に、減税率を一人当たり平均労働時間によって差をつける。
(36協定の上限を設定することや、時間外割増賃金率UPが一番効果的だが、労政審に絡むと時間と労力がかかりすぎるので)
・例:国際会計基準(従業員が有給を積み残したら全額負債に)を一部取り入れる。
・例:現在の「長時間労働削減推進本部」に、削減した時間による学びの増加効果・女性のモチベーションアップ効果といったワーク・ライフシナジーの視点を追加した新たな枠組みにすることが重要。
(女性の話、と労働規制、のようにバラバラとした体制ではなくワーク・ライフバランス本部へ)
・例:女性活躍推進法案や次世代育成法の行動計画に労働時間の改善策と実績記載を義務化
・例:「労働時間を減少させ、インプットを増やすと業績が上がる」の概念・事例を総理と各大臣が広報
(人の集中力は朝起きて13時間。その後は酒酔い運転レベルなので生産性は低くコストばかりかかる)
出産適齢期の女性が「この国は変わった!」「産んで働ける国になった!」と感じることが制度より重要
・例:スタートアップ時やベンチャー企業がブラック化しやすいので、スタートアップ時に労働時間と休暇に配慮する場合は徹底した優遇制度を。守らない企業は起業できない仕組みを。
・例:まちひとしごと創生総合戦略の1施策として位置づけ(まちひとしごとの交付金を活用する)