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社会の動向と対策

産業競争力会議実行実現点検会合(第22回)における提言「女性活躍推進に向けて」

2015年5月

女性活躍推進に向けて
問題意識

日本の労働生産性はOECD加盟34か国中21位。GDPは稼いだ総量での勝負であるため、人口の多さでこれまでカバーできたが、90年代半ばに、日本は人口ボーナス期が終わり、人口オーナス期に入ったことから、人口の多さで総量を稼ぐことも出来なくなった。一人当たりの労働生産性を上げていくしかない。

一人当たりの労働生産性を向上させるには、既にホワイトカラーや知的労働の占める割合が高いことからは、大胆なイノベーション、クリエイティビティやブランディングにより付加価値の向上を図るよりほかない(ブルーカラーの労働生産性は世界でもトップレベルだが、どんな新製品を製造するのかを決めるホワイトカラーが斬新な価値を生み出せなければブルーカラーの高い生産性も活かされない)。

では、それができる職場環境・教育環境になっているのだろうか。

現状の労働のルールと教育の方針は、大量生産型の働き方に最適化された人口ボーナス期のシステムを堅持。上司の指示を順守することで評価を受けるために頑張る労働者ほど、実はクリエイティビティを発揮できず、イノベーションも起こせない。

クリエイティビティを高めるのに効果的な方法も様々な研究から明らかになってきている。例えば、仕事時間外に社会貢献(ボランティア活動等)を行う時間を持っている社員ほど、意欲高く仕事に取り組んでいることを示した論文もある。

225の学術研究のメタ分析を行ったSonja Lyubomirsky、Laura KingとEd Dienerは、社会的貢献を高いレベルで行っている労働者は、そのレベルが低い労働者と比べて、40%多く昇進し、非常に高い仕事の満足度を示し、10倍以上の貢献意欲を持って自分の仕事に従事していることを示している。(https://hbr.org/2012/01/positive-intelligence ハーバードビジネスレビュー20121-2月号)

また、現在の日本企業での有給休暇取得実績は48.8%であるが(平成26年度就労条件総合調査)、有給休暇100%取得の経済的効果も非常に大きいと言われる。

アメリカでは、タイムオフプロジェクトとよばれる有給休暇の消化促進が個人、ビジネス、社会に経済的利益をもたらすことを示す研究もある。それによれば、アメリカの労働者が利用可能な有給休暇の全てを消化した場合、米国経済では120万の雇用の創出、毎年全ビジネスセクターで1600億ドル(日本円で約 20兆円)の売上高増加、さらに210億ドル(日本円で約2兆5000万円)以上の税収増を生み出すとされる
(「米国の有給休暇のアセスメント」、2013年9月17日から10月5日まで971人の労働者を対象にオンライン調査を実施 http://www.projecttimeoff.com/research/assessment-paid-time-us)。

我が国の経済成長のためにも、有給休暇100%取得を強く推進すべきである。

さらに、2014年秋にドイツのアンドレア・ナーレス労働大臣が「2016年までに18時以降のビジネスメールを禁止する方向で法改正を進める」意向を示したと報じられた。同大臣は、「目標はストレスから守る通達を出すこと」、「社員が会社と連絡が取れる状態にずっと置かれていることと、精神的な疾患の間には関連性があることは明らか」とした。ドイツでは働き手のストレスマネジメントに国として積極的に取り組み始めている。

東京大学医学部島津明人准教授は、「人間の脳が集中力を発揮できるのは朝目覚めてから13時間以内で、集中力の切れた脳は酒気帯びと同程度の、さらに起床後15時間を過ぎた脳は、酒酔い運転と同じくらいの集中力しか保てない」と述べている。脳の集中力が成果に直結するホワイトカラーは残業中の労働生産性が最も低い。もっとも集中力の高い日中の時間帯を効果的に使うことで生産性を高める取組が必要である。

労働科学研究所の佐々木司・慢性疲労研究センター長は、「1日の心身の疲労は、その日のうちに回復させることが大切。労働時間への規制をなくせば、長時間労働が助長され、労働者を容易に過労に追い込んでしまう。会社が過剰な仕事を命じる場合はもちろん、働く側が仕事に生きがいを感じる場合も同じだ。仕事の緊張や面白さによって、疲労は容易に隠されてしまう。(中略)人間は一晩眠ったとして、肉体の疲労は眠りの前半に回復し、ストレスは後半に解消する。神経をすり減らしている人ほど長時間眠らないと疲労は回復しない。欧州諸国のように、残業も含む1週間の労働時間に上限を設けることが必要だ」と述べている。(http://www.asahi.com/articles/ASH3J6298H3JULFA02D.htmlより)

こうした材料から、人口オーナス期である日本において「少ない人口」「多様な労働者」という、一見「制約条件」に見えるものを、むしろ強みとし、「革新・高付加価値」「高労働生産性」で「稼ぐ力」にできる雇用構造改革や教育改革が必要である。

前回点検会合では、リクルートスタッフィング長嶋社長から、「企業ぐるみで評価制度を変更し、労働時間の上限を定めて表彰制度をつくったところ、17%の生産性向上を達成し、女性従業員が生んだ子どもの数が過去の年平均の1.8倍となった。決められた時間内での勝負というルールが明確になることで、自らのスキルを磨き、生産性を上げるための創意工夫を競い合うようになることや、育児や介護といったなんらかの事情により時間外労働が出来ない社員のモチベーションダウンがなくなり、総力戦で戦う組織へと変貌した。つまり一人当たり生産性も向上した上に、組織内での軋轢の減少によりチーム内でのシナジー効果が大きくなり、組織全体で見た生産性が大きく向上したという結果となった。」という報告がなされたところだが、こうした変革を国単位で起こしていくことが重要である。

取組の方向性

以上を踏まえ、まずは長時間労働是正に向けた取組を国全体として促進していくことが重要である。そのため、以下の取組が必要である。

1:国民運動、ムーブメントを作ること。今回の「ゆう活」を大々的に総理・各大臣も徹底してやりきること。その際、各省庁担当のメディア関係者にも、必ず帰っていただき「ゆう活」に参加していただくことが重要。

2:ドイツが検討している、「夜間のメールサーバーを止め、24時間のストレスにさらされている従業員を救う」というトライアルを参考に、日本でも大企業に同様の取組を促すこと。短時間勤務の女性達が帰宅後、タダ働きしている現状がある。

3:男性の育児休業の取得促進策を強化すること。夫婦の最大の困りごとは待機児童問題であり、例えば、男性が育児休業を取った場合は保育園入園のポイント加算をつけることにすれば、取得が進むのではないか。また、男性が職場で育休取得の理由を説明しやすくなるのではないか。
また、育児休業については、共働き夫婦でも養子縁組を結びやすくするよう、試験養育期間であっても育児休業が取れるようにすること(赤ちゃん縁組が増えてきており、望まない妊娠から中絶に至るところを救えるケースが出てきている)。里親でも取れるようにすること。

【参考】里親や養親は育休が取れない件について
・虐待や親の精神疾患、死亡、行方不明といった理由で、親元などで暮らせない子どもは全国に約4万6千人(2014年3月末)。国がまとめた里親などへの委託率は15・6%で諸外国に比べて圧倒的に少ない状況。
・国はこの社会的養護に占める家庭養護の割合を3割にまで引き上げようとしているが、目処はついていない。
・里親を始めとした家庭養護を阻む壁の一つが、「育休の壁」。現行法では、「法律上の親子」の場合にしか育休取得が認められておらず、共働き世帯が半数を超える現状と乖離。
・育休の壁があるがゆえに、里親や特別養子縁組の親になるためには、どちらかの親が仕事を辞めなくてはならず、それが共働き夫婦が里親や養親になるための大きなハードルとなっている
・翻って、育児介護休業法は5年ごとに見直しがされ、本年がその見直し時期。この見直しのタイミングにおいて、里親および特別養子縁組の試験養育期間のケースにおいても、育休を認めるよう改正するべき。

4:スタートアップ時にブラック化しやすいので、スタートアップ時に労働時間と休暇に配慮する企業に何らかの優遇制度を創設すること。

5: 女性活躍推進に関する企業の取組がより広く社会に知られるようにするため、政府の「女性の活躍見える化サイト」のデータを民間が容易に引用できるようにすること。政府のサイトよりもよく見られている民間サイトでデータが見られることが重要。データベースをクラウドにおいて政府と民間で同じデータを使えるようにするとよいのではないか。また、pdfデータではなく、検索・比較可能なサイトとすることも重要。
また、長時間労働の是正とは直接関係がないが、これから出産期に入る女性が安心して出産を検討することができるよう、待機児童解消に向けたこれまでの取組に加え、以下の取組についても検討すべきである。

6:20万人分の保育の受け皿が整備されたことを強く印象付けるように繰返し周知すること。待機児童がゼロでなくても10人以内になった地域の一覧の積極的な公表を行うこと。

労働時間に関する直接的な制限については、今年の通常国会に労働基準法等の一部改正法案が提出され、中小企業にも60時間以上の時間外労働に対して50%の割増賃金が適用されるようになることなどは大きな前進であり、本法案の早期成立が何よりも望まれる。他方、その次を見据えた議論を行っていくことも重要であると考える。

貴重な人材資源をうつ・過労死から守り、夫婦で働いて夫婦で育児家事を協力し、希望する夫婦が二人以上の子どもを持てる社会を作るもっとも基本的な環境整備として、36協定の見直しを含め、労働時間規制の在り方についての議論に着手すべきである。それなくして真の女性が輝く日本社会は実現しないと考えられる。

具体的にはこの国の存亡にかかわる最優先課題として、政府が主導して労働時間規制について議論する場を作ることを提言したい。労働時間こそが、少子化、介護、年金、地域創生などの諸問題を解決する鍵である(別添資料参照)。この国の膨大する社会保障費を抑制し、急激な人口減を回避して経済成長を維持し財政を健全化することは、国家の課題であり、労使間の問題に矮小化して議論されるべきではない。
(別添資料:財源を使わず社会問題を解決する方法)