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社会の動向と対策

産業競争力会議実行実現点検会合(第26回)における提言「女性活躍推進に向けて」

2015年12月

女性活躍推進に向けて

2015年8月に国会を通過した女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)により、多くの企業で取組に向けた動きが加速している中、政府からの取組が急がれるポイントが大きく二つある。

第一に、女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画の肝ともなっている長時間労働是正の仕組みづくりである。
各企業が個別に計画を策定することを一つのきっかけとして、社会全体の長時間労働を是正しなければ、女性ばかりに家事育児の負担が集中し、時間に制約のある女性が労働市場からはじき出される構造は変わらない。最も重要な点は、団塊ジュニア世代の女性が出産適齢期を終えるあと3~4年のうちに、育児と仕事の両立がしやすい社会をつくらなければ、もう今後100年の中で人口を増やすことは極めて難しい。個別企業が一斉に努力を始めた現段階で政策により後押しする事が急がれる。

第二に、待機児童解消に向けての取組はスピードが勝負である。その際、保育所の整備をさらに加速するとともに、保育士確保対策にも踏み込んだ措置が不可欠である。

I .長時間労働是正を後押しする仕組みづくり

長時間労働是正に向けた機運を社会全体で盛り上げることにより、例えば、1)若い人はボランティアや語学の勉強に取り組め、2)子育て世代の夫婦は、ともに子どもに向き合う時間を持つことが出来、その他、3)国民全体としてもスポーツをする時間を増やして健康増進や介護予防に役立てることができる。また、同時に、介護世代は親の介護と仕事を両立できる状態を作ることで、例えば、2020年(の東京オリンピック・パラリンピックの際)に日本の対応を見せて、おもてなしすることも可能となる。長時間労働の是正は一億総活躍の理念を実現する上での基礎となるものである。

また、企業の長時間労働を改めなければ、保育士の疲弊を避けることもできない。長時間労働は、当該企業で働く人を疲弊させるだけでなく、保育時間が長引くことにより公費が投入されている保育サービス・介護サービス・学童保育などの長時間化を招き、社会全体へのしわ寄せを生じさせていることをも認識すべきである。長時間労働是正を通じて働き方改革を加速させていくことが最も重要である。

女性活躍推進法では、女性活躍の状況について把握すべき事項として、労働時間が掲げられているが、それを踏まえて策定される行動計画では労働時間対策を講じることは必ずしも義務付けられておらず、また、義務付けられる情報公開の項目にも残業の実態等の労働時間は選択項目には掲げられているものの、必須公開の項目とはされていない。

女性活躍推進法の制定は、女性の活躍に向けての大きな前進であることは間違いがないが、法律では義務付けられない各企業の労働時間の実態に係る情報が積極的に公開されるような仕組みを別途検討することが必要である。政府の女性活躍に係る情報公開のウェブサイト上での公開はもとより、検索されやすく、かつ、企業間比較が容易なサイトとする等、サイトの設計にも十分工夫がなされることが不可欠である。また、各種企業認定制度や助成制度においても、労働時間の基準を設けることや、労働時間に係る情報公開の有無を要件と課すことも検討すべきである。

II .待機児童の解消に向けて

2017年度末に待機児童解消を実現するため、以下の提言について、厚生労働省、国土交通省等の関係府省庁には、検討をお願いしたい。

1.小規模保育、事業所内保育等の整備の促進

(1)支援の拡充
都市部の待機児童解消に効果があると考えられる小規模保育や事業所内保育の整備・運営に向けた支援を拡充すること(例:施設整備費の補助拡充等)。
その際、特に、事業所内保育所については以下について検討すること。
-保育の受皿を整備加速に向け、大規模な事業所内保育所の設置に対して支援を上積みすること。
複数の中小企業等が共同で事業所内保育所を設置する場合の支援の充実(例:連携先、設置場所の発掘等にかかる費用などを含む)

※フランスにおいては、事業所内保育所の設置が積極的に推奨されており、事業所内保育の設置に対して「全国家族手当金庫」(CNAF)から支援がなされている。その特色は、国・事業主・個人といった各主体の拠出により社会全体で費用を支えている点にある。
※なお、ドイツでは、企業内保育助成プログラムに基づき、企業の保育支援を推進しており、企業内保育の運営費の50%を欧州社会基金から助成している(上限6,000ユーロ)。また、事業所内保育所への支援という形ではないが、企業が従業員に対して保育所に通う費用の補助を手当てする場合に、当該費用の非課税措置に加え、当該従業員に係る社会保険料の負担義務が免除される制度がある。

(2)事業所内保育所の設置のルール化
事業所内保育所については、設置自治体の待機児童解消への効果が限定的、待機児童問題が深刻でない自治体にとっては設置の必要性が乏しい等の理由により、整備が進まないとの声もあり。現状の試算において地域の保育量が足りている場合であっても、事業所内保育所の認可申請があった場合には、設置地域の自治体が認可するようルール化すること、或いは、事業所内保育所の設置認可を国が行うこと。
あわせて、事業所内保育所の設置を促進する観点から、自治体ごとの事業所内保育所の設置状況を「見える化」すること。

(3)事業所内保育所等にかかる情報開示
自治体ごとの事業所内保育所の設置状況の「見える化」にとどまらず、事業所内保育所を設置した企業が求職者に選ばれるようにするため、ハローワークや政府の女性活躍見える化サイト等において、事業所内保育所の設置の有無やベビーシッター費用補助の有無にかかる情報を開示すること。
また、子育てをする従業員に対して、朝晩の通勤ラッシュを避けられるようフレックスタイム制等の柔軟な働き方を認めるなど、働き方に関する取組にかかる情報についてもあわせて開示すること。

(4)大規模マンション建設の際の保育所併設の促進
都市部では、大規模マンションが新築される際に、子育て世代が流入し、待機児童が増加する一因となっている。建築基準法上の総合設計制度、都市計画法上の都市再生特別地区等の制度において、大規模マンションに保育所併設する場合については容積率緩和等の優遇措置が既に講じられているが、さらなるインセンティブ措置が考えられないか検討すること。また、ディベロッパー・自治体・保育事業者等の関係者の連携を促進し、こうした制度を活用した保育所併設が一層促進されるための仕組みや方法を検討すること。(ディベロッパーが場所を提供し、自治体が保育所を建設するような枠組みがアクセスと費用の面で最も求められており、そういった形態を支援することが重要)

なお、本年3月19日、厚労省から都道府県、指定都市、中核市あてに短時間勤務の保育士の活用を奨励する文書が発出されているが、未だ一部の市町村ではその趣旨が徹底されていない例も見受けられるところ、保育士確保を進める観点から、今一度制度の趣旨の徹底を図ること、また、短時間保育士の活用に否定的な市町村がある場合には、その理由を分析して解決策を提示すること等により、実際に活用が進むような対応を検討すること。

2.保育士確保対策

(1)保育士の処遇改善
保育士の確保ためには、保育士の平均給与(月収21万円程度)が全職種平均を10万円ほど下回る状況を改善することは必須である。平成26年度において、職員の勤続年数や経験年数に応じ平均3%程度の処遇改善措置が講じられているが、平均給与が全職種平均を下回る状況は変わらない。このような状況を改善するため、公費での対応に限定せず、例えば、保育料の見直し、保育事業者での処遇改善を促すような仕組みを含め、保育士の処遇改善に向けての検討を幅広く行うこと。

(2)保育士養成施設の新卒者の保育士としての就職促進
保育士養成施設の年間新卒者4.2万人のうち、保育士になるものの割合は現状50%程度であり、児童福祉施設や幼稚園等への就職者数を含めても80%程度となっている。残り20%の新卒者を保育士とするための各種の支援メニュー(学費の支援等)も用意されているが、その支援メニューの効果をも検証しつつ、より実効性の上がる施策を検討すること。

(3)保育士への参入を促す仕組み
処遇改善を図った上で、さらに長期的には未就学児の教育がこの国の競争力向上においても重要になってくる観点から、幼稚園教諭や小学校教諭の参入が可能となることも検討すること。さらに、一定の子育て経験者を有する者の参入も検討すること。
なお、小学校教諭免許状保有者が保育士資格を取得しやすくするための特例措置についても検討すること。(幼稚園教諭免許状保有者の特例措置は既に措置済みであり、福祉系の国家資格を有する者に係る特例措置も検討予定)

また、保育の質を維持する観点からは、あわせて以下の措置を講じることも検討すべきではないか。
①保育所の事務のICT化を進め(書類作成等の事務のアウトソーシングも含む)、例えば、タッチパネルの操作により日々の報告が簡単に作成できるようにする等、保育以外の業務の効率化を図ること。その際、書類作成の必要性をも見直し、真に必要な書類作成に限定すること、各自治体が要求する資料のフォーマットが異なることによりICT化や 事務の効率化が阻害されている実態があることも踏まえ、自治体間の異なるフォーマットの統一化を図ること。保育士の負担感を軽減し、保育士の疲弊感を改善 することで離職率低下にもつながることが期待される。

②保育園のマネジメント力向上を図る観点から、保育所の管理職に対する360度評価(上司だけでなく部下である保育士による評価)を導入し、評価結果を処遇に反映させる方法について検討すること。保育所の実態把握につながり、保育の質の向上にもつながることが期待される。

3.より中期的な改革に向けて

保育園を整備しても、あと数年で子どもが減るので需要が下がるという論調がまだまだ強いが、実際には単なる保育ではなく、教育も兼ねた未就学児の入園ニーズは、ここから20年はまだまだ伸びるという想定でデザインすることが重要である。

幼稚園・保育園の区別をなくし、保育の必要性に関わらず、0歳児から幼稚園・保育園への入園を可能とする政策への転換を図るべきではないか。
待機児童解消後は、保育園利用率の向上(保育の必要性に限定しない)を前提に、保育サービスを成長産業とする視点も必要ではないか。

そのためには、 ①多様な保育人材を確保し、保育の質を高めていく観点から、実務経験を積みながら保育士資格を取得していく新たな資格取得の道を創設すべきではないか。具体的には、子育て支援員として働きながら実務能力を身に付け、定期的な評価を受けながらステップアップをしていくことで、最終的には保育士資格を取得するという、現在の筆記試験を受けて資格を取得するだけではない仕組を導入すべきではないか。

②また、保育士資格を有する者についても、単なる就業年数を考慮したステップアップではなく、マネジメント能力の習得・向上を図る観点からも、管理職に至るまでのキャリアの節目ごとに評価を受けながらステップアップしていく仕組みを検討すべきではないか。その際、現行の処遇加算の在り方を見直し、評価結果を踏まえた処遇加算の考え方を導入すべきではないか。その際、諸外国では、保育士が適正な社会的評価を受ける仕組みが整備されていると仄聞しているところ、諸外国の保育士の評価制度や処遇の実態についての調査・分析も必要ではないか。

(参考)
※イギリスでは、幼児教育・保育サービス及び学童保育も含め、全ての施設やサービスを法律上は「チャイルドケア」と総称しており、児童福祉法に基づき、地方自治体に整備を義務付けている。

※ドイツでは、幼児教育・保育サービス及び学童保育も含め、全ての施設を連邦法上は「児童通所施設」と総称しているが、各州に主な立法権・行政権があるため、国としての統一規準はなく、あくまでも大まかな方針や枠組みが定められているだけである。施設区分を始めとし、具体的な施設基準やカリキュラムなどは各州により異なる。

※スウェーデンでは、1~5歳児を対象としたプレスクールについて2011年7月1日より、学校教育に位置付けられ、学校の一施設とされている。なお、スウェーデンでは0歳児については、育児休業制度を両親がとることが前提とされているため、例外的な場合を除き、受け入れないことが学校教育法で明示されている。

以上