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社会の動向と対策

海外の事例や他省庁との連携を視野に入れた、
新たな「部活動」の発想を提言

2018年12月17日

子どもたちが抱える根本的な課題を解決するために、部活動の必要性を問う

中学校以降の教員たちが直面している長時間労働の大きな原因の一つは「部活動顧問」です。実は、部活動の指導はすべてボランティア扱いなのをご存知でしょうか。教員の長時間労働が問題となっているにも関わらず、把握されている勤務時間の中には「部活動指導」の時間が入っていないということなのです。

文科省の会議で弊社・小室淑恵がその点の改善を提言したところ、かつて部活動に熱心だった元教員の方から「学校生活になじまない生徒の受け皿が部活動であり、居場所を作る上で重要だ」「部活動である程度時間を拘束しておかないと、空いた時間で非行活動が増えてしまう」という意見が出ました。だから部活動は大事であり、長時間労働の是正のためとはいえ部活動には踏み込むべきではない、というのです。

そうしたご意見は、教員として生徒を思う熱心なお気持ちからであると受け止めたうえで、「学校生活になじまない生徒は、学校という世界だけに閉じ込めず、むしろ外の世界に活躍の場があることに気づかせてあげたい」と思います。

「非行活動のある子どもには、その根本的な要因になっている本人の背景に寄り添えること」が大事です。だからこそ、その対話ができる技術を教員が習得する時間の確保が今後ますます必要なのです。

子どもの根本的な課題解決策として、部活動よりもさらに適切な方法があるのではないかという観点から議論することが重要でしょう。


「トップアスリート×子どもの育成」という理想的なマッチング

海外に目を向ければ、オリンピックに出場したようなトップアスリートが、セカンドキャリアとして各地域でクラブの運営を政府から委託されて行っています。本当にスポーツを極めたい子どもにとっては、そうした環境のほうが、日本の一般的な部活動よりよほど才能を伸ばすことができます。

日本では、オリンピックでメダルを獲得した選手ですらセカンドキャリアは非常に困難であり、かつてのスポンサー企業で事務仕事をしている人も多いのです。ここをマッチングさせることで、教員の長時間労働の是正と、より専門的なスポーツ指導環境の実現、スポーツアスリートのセカンドキャリアの問題解決という三方よしが実現するわけです。

文部科学省は、毎年教員の増強予算を申請しては財務省から削減されるという攻防戦を繰り広げていますが、スポーツ庁とも連携して、この地域スポーツ環境づくり予算を取りに行くような、枠を超えた発想を期待しています。

文科系の部活動に関しても、音楽や美術の領域で活躍する方々に準教員のような資格を与えていくことで解決できる道筋は、発想を広げればいくらでもあるはずです。


「学校の部活動」と「社会のクラブ活動」を線引きした岐阜県の好事例

部活動に関して、非常に先進的な事例がありますのでご紹介しましょう。

岐阜県多治見市では教育委員会がガイドラインを設け、「学校教育の部活動」と「社会教育のクラブ活動」に分けて組織しています。

「部活動(学校教育活動)」は「同好の生徒をもって組織し、共通の興味や関心を追求する活動で、学校の管理下において行われるもの」と定義し、活動時間は「(1)課業期間中の平日の下校時刻まで(2)長期休業中の8時〜17時の間」と規定しています。

一方「ジュニアクラブ活動」は「学校区を基本単位として保護者や地域の社会人によって設置され、部活動を充実させることを基本目的とする活動」と定義し、活動時間は「(1)平日の下校時刻以後(2)土・日・祝日」と規定して、明確に両者を分けています。

この方法により、学校での部活動は平日の下校時刻までとなったので、教員の負担は大幅に減少し、しかもこの方式で育った生徒が通う多治見高校は甲子園に出場しました。


日本の未来は学校の働き方改革にかかっている!

小学校では2020年度から、中学校では2021年度から新しい学習指導要領が実施されます。英語学習やプログラミングが必修になるなど、教育内容や大学入試も大きく変わろうとしています。しかし、現状の教育現場では、その新しいニーズに対して教員自身が勉強する時間が取れません。

経済協力開発機構(OECD)の調査で、日本の教員の「仕事時間」は諸外国の平均値を大幅に上回っている一方、「指導への自信」は参加国・地域の中で最も低いことがわかっています。教員自らが学び、向上していくための時間が取れていないことが、彼らの自己肯定感を下げていることが考えられます。

こうした現状にメスを入れ、教員の働き方改革が進まない限り、子どもたちへの英語教育もプログラミング教育も効果的には行われないでしょう。学校での働き方改革に日本社会の未来がかかっているといっても過言ではないのです。


小室淑恵が行ってきた数々の提案が、ようやく明文化

しかし現実は厳しいもので、タイムカードやICTで退勤時間を正確に把握している公立小中学校は2割のみ(文科省調査)。点呼や自己申告だけでしか把握していない学校が多数を占めています。そして、国会で議論されている働き方改革関連法案の中には、まだ教職員の残業時間に対する是正が何一つ触れられていません。

弊社・小室淑恵は2015年から文部科学省中央教育審議会の委員になり、何度もこの点を発言してきましたが、その頃は具体的な動きにまでは至りませんでした。それから2年が経ち、2017年5月にやっと文部科学省から「教員の長時間労働是正」に関するヒアリングに呼ばれました。

2015年当時は弊社自体も学校における働き方改革の具体事例を持っていなかったため説得力が弱かったのかもしれません。その後の2年間で学校における実績が多数できていたことも功を奏し、2017年のヒアリングの際には静岡県教育委員会をはじめとする各校の取り組みやその成果、改革の障壁、具体的な提言をお伝えすることができたのです。

とくに、各校で大きな成果の出た「留守番電話の設置」や「部活動の休養日を設けること」などは、1校だけで取り組もうとすると、時として保護者からの反発が大きくなる可能性もあり、文科省から強いガイドラインが出されることによって、現場の改革は力強く後押しされると主張しました。

この改善案の大半が、2017年8月に文科省から出された緊急提言に組み込まれました。留守電やタイムカード、部活動休養日等が詳細に書き込まれています。

〈中央教育審議会がまとめた、国や教育委員会、学校に対する緊急提言〉
1.校長及び教育委員会は学校において「勤務時間」を意識した働き方を進めること
2.全ての教育関係者が学校・教職員の業務改善の取り組みを強く推進していくこと
3.国として持続可能な勤務環境整備のための支援を充実させること

上記〈緊急提言〉の骨子

◦ タイムカードやICTで勤務時間を正確に把握できる仕組みを
◦ 留守電やメールで問い合わせに対応できる体制を
◦ 部活休養日、休暇中の閉校日の設定
◦ 教育委員会が時間外勤務削減へ業務改善・計画を策定
◦ 教委は教材共有や公務支援などでICTの活用を推進
◦ 国や自治体は学校への調査や報告依頼の数を適正化
◦ 国は2018年度予算で専門員の増員など環境整備を

働き方改革に先進的に取り組んだ各校のおかげで、教育現場で残業を減らす方法に光が差し込んでいます。学校でも、働き方改革はできるのです。

各都道府県、市区町村の教育委員会でも、これまであきらめていた人々が再び声を上げ始めています。

教育現場が変われば日本は確実に変わります。全国の教育関係者の皆様はぜひこのタイミングで声を上げていきましょう。