Case Study

社会を変えるイベントレポート

ワーク・ライフバランス認定コンサルタント第3回事例共有会

2021年事例共有会

2022年11月9日、「第3回事例共有会」が開催されました。事例共有会とは、当社主催「ワーク・ライフバランスコンサルタント養成講座」卒業生の活動報告の場。もともとは同窓会での「みんなの最近の成果をもっと聞きたい!」という声から生まれた企画です。講座を卒業後、それぞれの職場やコンサル先でコンサルタントとして活躍されている卒業生の皆様。今回は社内コンサルタントとして社内の改革に取り組む橋本さん、市役所の改革を任された園田さん、複数の福祉事業所の改革を進める伊藤様の3名に、お取り組みの成果やその裏側をお話いただきました。

会社にとって無視できない存在になる。社内コンサルタントとして始めた草の根働き方改革
株式会社コンセント 橋本愛さん

橋本さん

デザイン会社に勤める橋本さんは、担当プロジェクトの状況によって、かつては長時間労働になってしまうこともあったそうです。そのハードな働き方ゆえに上司からは「軍曹」と呼ばれたこともあったそう。そんな状況が一変したのは妊娠出産を経験したことがきっかけでした。

育休復帰後は、保育園のお迎えがあるため1日に働ける時間は6時間に。

そこで時間というカードが使えない中、「提案の勝率を上げる」ことに注力して受注件数を伸ばし成果を出しましたが、「無理しないでいいんだよ」という周囲の優しさに「戦力として期待されてないんだな」と感じてしまったり、さらに二度目の産休に入ることが決まったため、上司や同僚からは成果に関心をもたれていないように感じ、そのことに「軽く絶望」したと言います。周囲に期待をされていないように感じ、時短で収入も下がり、「まるで私は二級市民じゃないか」と思ってしまった橋本さん。もしかしたら自分と同じように感じてしまう社員もいるのではないか。家庭もキャリアもあきらめたくない社員のために、自分でも動けることはないか。

そう考えた橋本さんは二度目の育休復帰直後の2017年、ワーク・ライフバランスコンサルタントの資格を取得しました。そこから社内コンサルタントとして、社内改革への道を踏み出します。

初めは、一人で社内勉強会を企画しトライアルチームへのコンサルティングからのスタートでした。コンサルティングの経験もない中すべてが手探りだったそうですが、橋本さんの熱意も伝わり、勉強会は社内でも評判になりました。 トライアルチームの中でも特に残業が多かった社員の残業時間が半分になるといったインパクトも相まって、その後勉強会の内容が社内研修のコンテンツに採用されたり、労務チームを巻き込んでバックオフィスの構造改革を進めたりと、活動の幅はどんどん広がっていきます。

そうして6年を経て、今では働き方改革の取り組みは常任委員会の一つとして影響力を持つように。橋本さんご自身は「働き方デザインプロジェクト」として数チームのコンサルを一人で担当されています。社内とはいえ、1人でコンサルを進めるのは一筋縄ではいきません。社内で働き方改革を進める上での工夫として、これまでの経験で得たコツを共有くださいました。

コンセプト様スライド

このようにボトムアップで次々と成果を出している橋本さんですが、当初はトップダウンでの改革を計画していたそうです。ところが最初に相談した役員からは「一つの価値観を押し付けるのではなく、あなたのアイディアをどんどん周囲に伝えていきなさい。そうして少しずつ賛同してくれる人を増やし、実績をつくり、会社があなたのことを無視できないような存在になりなさい」とのアドバイスがあったとか。

このアドバイスをもとに一気に方向転換し、現場へのアプローチという作戦に切り替えたということもお話くださいました。

こうしてこれまでの実績が評価され、役員からも「取り組みをしているチームはパフォーマンスが高く、若手の成長が早いし、リーダーからも自信と楽しさが伝わってくる。」とコメントをいただいたそうですが、橋本さんご自身は働き方改革の取り組みを進めてきて「よかったこと」として、こんなことを挙げてくださいました。

「会社の雰囲気が変わって休むことが申し訳ないことではなくなったし、楽しい職場環境を実現できた。育児理由ではなく働き方の選択肢として短日勤務を選ぶ社員も増え、自分の働き方を自分で決める意識が高まっていると思うそれにチームのコミュニケーションが活発になることで、チームとは気軽に学び合い共に成長するものなのだと提示できたと思う」たった一人で始めた取り組みも、気づけば全社を巻き込む取り組みへと発展。橋本さんの快走はまだまだ続きます。

市長から呼び出しも…!サーベイで浮き彫りになった組織の課題
株式会社キャリア研究所 園田博美さん

園田さん

園田さんは2010年に養成講座を卒業し、福岡でキャリアコンサルタントとして活躍されている、当社の上級認定コンサルタントのお一人です。現在は九州のB市役所の働き方改革の支援をされており、その事例を共有いただきました。B市役所では若手の離職が続いていたこともあって働き方の見直しは急務でした。組織において働き方改革を進める前にまず最初にやることは、現状把握。職場の課題を見える化するための手法は様々ありますが、B市役所の場合は、全職員を対象としたサーベイを利用して職員同士の関係性の質を数値化しました。

その結果わかったのは、

  • ・上司が部下の育成のための時間が取れていない、部下自身も育成されていないと感じている
  • ・上司と部下の信頼関係が築けていない、中には「職場に信頼できる人がいない」と回答する人も
  • ・心理的安全性に関する項目の点数が低いチームほど、各設問の点数も低い
  • ・「家族や友人に勧めたい職場ではない」という声が上がっていた
  • ・職場での信頼関係を築けているほど仕事のやりがいを感じているが、逆に、信頼できる人がいない場合は「やりがいを全く感じられない」と回答する割合が高い

ということ。

総じて職場の関係性に難ありという結果となりましたが、この結果を管理職研修の場で率直に開示したところ、後日市長に呼び出され「この数値は本当なのか」と確認を迫られる場面もあったそうです。

課題山積、前途多難、背水の陣…そのような中で、2チームのコンサルティングがスタートしました。

ひとつは、サーベイで「メンバー同士の信頼関係が低い」傾向があったチーム。このチームの課題は、専門性の高い業務を担当する一方で、ベテランとそれ以外のメンバーで業務について話す機会がなく、相談したいのにできない・誰に相談したらいいかわからない、という状態で業務がスムーズに進まないことでした。

そこで、誰が何の業務に詳しいか一覧化をした表「相談してみまヒョー」を作成したり、今相談に乗れることを意思表示する「相談OKカード」を作成して、相談先、相談方法の確立に取り組みました。何度かトライアンドエラーを繰り返しながらも取り組みを続けた結果、1か月あたりの相談・打合せ回数は大幅に増え、なんと5倍になったのです。

もう一つのチームは、「チームのありたい姿」に「ピリつかない職場」というワードが出てくるほど、普段から緊張した雰囲気の職場でした。このチームの課題は、突発的な窓口業務に追われ回覧文章を見る時間が取れないこと。

この課題を解決するためにいくつかのアクションを実行しました。ひとつは、これまでであれば「回覧文章は全部見なければいけない」と考えていたところを、「いかに読むべき回覧を減らすか」と発想を転換し、担当ごとに整理したことです。 優先順位の低い文章については紙での回覧をやめ、ペーパレス化にもつながりました。

また、窓口にてお客様にあらかじめ手続きにかかる予定時間を伝えておくことにしたところ、自然と効率的な作業を心掛けるようになり、全員の手続き業務にかかる時間がスピードアップしたのです。

週に二日、定時退社デーを設ける施策も効果的でした。事前にメンバー同士の予定を調整する必要があるので、定時退社日だけではなく年休取得の相談もしやすくなり、結果的に年休取得率がアップしたそうです。

さらに朝メールには、その日の業務予定のほかに休日楽しんだこともコメントするようにしました。すると、そういったコメントを見て「席が隣の◯◯さんに、小さいお子さんがいることを初めて知りました」と打ち明けてくれる方も出てきて、メンバーがお互いのことをもっと知れるきっかけになったのです。

どちらのチームも初めは「なんで自分たちが」とやらされ感を感じながらの取り組みでしたが、最終報告会でチームの取り組みを市役所全体に知ってもらい、他の課から応援メッセージをもらえたことで、とても勇気づけられたそうです。

園田様スライド

またこの2チームの成果をみて、サーベイ結果を開示したときには驚いていた市長ともすっかり和解。園田さんは、今では2期目のチームの働き方改革の支援に取り組まれています。

担当者の想いが実った、「褒める」を大切にした組織風土改革
(社会福祉法人 庄内厚生館 伊藤秀海様)

伊藤さん庄内厚生館

庄内厚生館は大分県にある、社会福祉法人です。庄内町内で保育園、児童養護施設、障害者支援施設などを運営されています。2020年に大分県の事業に応募されたことがきっかけで、当社と認定コンサルタントの園部さんが働き方改革のご支援をいたしました。

2020年はグループ内の2施設にてお取組みをスタートしました。こちらの2施設で職場の課題について洗い出していくと、出てきたのは、会議時間が長い・有給取得日数に偏りがある・担当者が休むと業務が回らない、など、どこの職場においてもよくある課題でした。

それを解決するために効果的だったのは、なんと「相手を褒めるマネジメントを定着させること」だったそうです。

例えば「相手の名前を呼ぶ」「顔を見て話す」「感謝の気持ちを伝える」など一見当たり前とも思えることを徹底して実践すること。そうすると、「お互い実はよく見られている」という気づきが生まれたり、職場全体に褒める雰囲気が充満されて、メンバー同士が深い議論もしやすくなったそうです。

2021年も3施設で取り組みを始め、2022年の現在は全施設で展開とグループ全体に取り組み範囲を広げつつテレワーク推進、育児社員をサポートする新制度を創設などの施策を次々に実行。

その結果、有給取得率が26%増、採用応募者が4.5倍、法人内出生数が増加、男性育休取得率が0%から100%となり、しかも全員が2週間以上取得出来てるなど、様々な成果に繋がりました。

伊藤様の発表後、事例共有会の参加者から「なぜ働き方改革をしようと思ったのですが?」と質問がありました。「もともとは国会で小室さんが発言をしているのと見たこと(注1)がきっかけでした。その後育休の話題が世間で盛り上がるようになって、自分も無駄な仕事削減に取り組みたいと思うようになり、そんなときに大分県の事業のことを知り思いきって応募をしたのです。そうしてモデル企業として挑んだ取り組みの初年度は、成功事例で弾みをつけてその後の全社展開をスムーズにするためにも重要な期間だと考え、戦略的に成功しやすそうな施設を選びました。メンバー同士の関係性をよくする取り組みを大切にしていますが、取り組み当初、従業員は心理的安全性という言葉を従業員は知らなかったのではないでしょうか。協調性が大事な業界なので、こういうワードが浸透するにつれ、もっと踏み込んで、共に働くみんなの関係性が深まっていければと思います。」

注1:小室の国会答弁動画 https://youtu.be/98wIWoKQ3_Y

そして最後に「この取り組みが、ゆくゆく業界全体に広がるといいな」と福祉業界全体も見据えた想いをお話くださったことが印象的でした。

庄内厚生館様様スライド

男性育休最前線
(株式会社ワーク・ライフバランス 大畑愼護)

大畑さん事例共有会2022

2022年4月、育児介護休業法が改正され、企業において男性育休推進の動きが加速しました。それに伴い、ご担当者から当社へは、社内で男性育休を推進するために当社に合った施策は何か、男性育休を促進することで、社内に軋轢を生まないようにするにはどうしたらよいか、育休の必要性を感じていない当事者にどのように情報を伝えればよいか、などなど、様々な観点からご相談いただく機会が増えています。

一方で管理職向け研修・育休当事者向け研修などで参加者の声を伺う機会もありました。そこでいただいた多くの声に耳を傾ける中でわかったことは管理職層、同僚、育休当事者それぞれの立場によって「男性育休」の捉え方が違ったり誤解があったり、 それらが積み重なって「育休取らなくてもいい」という判断に繋がるケースも多々あるということです。

そこで今回の事例共有会では、企業の人事ご担当者様と研修参加者の方々、両方と接点を持つ中で見えてきた「男性育休推進のポイント」について弊社コンサルタントの大畑から解説いたしました。

まず、管理職層に向けはどんな観点を伝えればよいのでしょうか。育児介護休業法改正により、企業にはパタハラ防止措置が義務化されましたが管理職としては、部下からハラスメントと言われることを恐れて部下とのコミュニケ―ションを避けてしまう場合があります。

また残ったメンバーへの業務分担やチームとして成果を出せるかといった点を不安に感じています。これがパタハラの裏に潜む心理です。なにより、管理職自身は育休取得の経験がない場合が多いので、自分ごととしてイメージしづらいもの。 だからこそ、管理職層には部下の育休取得をチームビルディング、そして「誰が休んでも回る職場にする好機」と捉えてもらい、部下へも前向きに推進してもらえる状態にするためにも一体どこまでがパタハラで、どこからがパタハラではないのか、その基準を明示したり誰が休んでも回る職場づくりの具体策や事例をお伝えすることが効果的です。

 

実際に育休を取得するとなると、家族や上司だけではなく同僚の協力も不可欠です。同僚としては、業務負担が増えることに最も不安を感じているのでその不安を解消するための取得者本人の事前準備や管理職のマネジメントが必要になります。 また、「男も育児をする時代になったんだな」といった価値観の話と一歩引いて受け取られがちですが実は男性育休は多様性に体験ベースで触れられる貴重な機会。

現代ではライフスタイルが多様化したことにより、個々の事情に応じた、多様な働き方を選択できる社会の実現が求められています。いずれ自身が介護や入院、その他の理由でこれまでと同じ働き方を続けられないこともあるかもしれず、推進担当者としてはそれぞれのケースを想定したメッセージとともに男性育休を社内に推進していくことが重要です。

最後に、育休取得本人については、意外と「本人が取りたくないと言っている」ケースが多いのです。本人がそう考える背景にはいくつかの理由がありました。

ひとつは、特に初産だと産後の大変さがわからず一種の自信過剰バイアスが働いて「大丈夫だろう」と思ってしまうこと。

もうひとつは、夫婦で育児、育休についての情報が揃っておらず、妻側の意志で「(収入が減るから)働いてきてよ」と言ってしまうこと。

しかし産後の女性の死因の1位は自殺。自殺の原因は産後うつです。産後うつを防ぐためには、産後すぐのホルモンバランスが不安定な時期に妻だけに育児をさせないことが非常に重要です。そして育休は、もっとも”事前に計画を立てやすい休み”です。 育休取得に向けて自身の仕事を棚卸し、見える化し、マニュアルを整えるなどして自身が休んでも回る職場づくりを進めることは、ゆくゆくは職場全体の働き方にプラスの影響をもたらします。こういった観点をしっかりお伝えする機会を設け、改めて「育休を取るか、取らないか」を考えてもらうようにするとよいでしょう。

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