Case Study

社会を変えるイベントレポート

経営者限定セミナーレポート[3]
国会の働き方、AIの活用、経済学の視点・・・各界の専門家によるパネルディスカッションから見えてくること

小泉進次郎 衆議院議員の基調講演、弊社代表・小室淑恵による『働き方改革2019 法改正のポイント』解説に続き、今回は有識者によるパネルディスカッションの様子をご紹介します。それぞれの立場から「働き方改革の現状と展望」について語っていただき、非常に有意義な内容となりました。

【登壇者】


小泉進次郎 衆議院議員(自由民主党、厚生労働部会会長)
1981年神奈川県横須賀市生まれ。関東学院大学経済学部卒業後、2006年米国コロンビア大学院政治学部修士号取得。米国戦略国際問題研究所(CSIS)研究員を経て、衆議院議員小泉純一郎氏秘書を務めた後、2009年8月衆議院議員初当選し、現在4期目。内閣府大臣政務官、復興大臣政務官を務めた後、2015年より自由民主党の農林部会長、2017年8月より自由民主党筆頭副幹事長、2018年10月に自由民主党厚生労働部会長に就任。


国光あやの 衆議院議員(自由民主党)、医師
1979年3月生、長崎大医学部医学科卒。国立病院機構東京医療センター勤務、2005年に厚生労働省入省。カリフォルニア大学ロサンゼルス校公衆衛生大学院・修士課程修了。東京医科歯科大学大学院で博士課程修了。2017年1月に厚労省退職。同年衆議院総選挙で茨城6区から初当選。現在、衆議院厚生労働委員会所属。小学生の子を持つ。


中室牧子 慶應義塾大学総合政策学部准教授
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、日本銀行、世界銀行、東北大学を経て現職。コロンビア大学公共政策大学院にてMPA、コロンビア大学で教育経済学のPh.D.取得。専門は教育経済学。産業構造審議会委員、革新的事業活動評価委員会(規制のサンドボックス)委員を兼任。著書に「『学力』の経済学」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『原因と結果』の経済学」(共著、ダイヤモンド社)など。


松尾豊 東京大学大学院特任准教授
2002年 東京大学大学院博士課程修了。博士(工学)。産業技術総合研究所研究員、スタンフォード大学客員研究員を経て、2007年より、東京大学大学院工学系研究科准教授、2014年より特任准教授。専門分野は、人工知能、深層学習。2014年から2018年まで人工知能学会 倫理委員長。2017年より日本ディープラーニング協会理事長。

小室淑恵 弊社代表取締役社長

1,000社以上の企業へのコンサルティング実績を持ち、残業を減らして業績を上げる「働き方改革コンサルティング」の手法に定評がある。安倍内閣産業競争力会議民間議員、経済産業省産業構造審議会、文部科学省中央教育審議会などの委員を歴任。著書に『働き方改革生産性とモチベーションが上がる事例20社』(毎日新聞出版)『プレイングマネジャー 「残業ゼロ」の仕事術(ダイヤモンド社)等多数。二児の母。

“まず官より始めよ”。霞ヶ関と国会を変えるため民間からも働きかけを

小室淑恵(以下、小室):最初に小泉さんにお伺いしたいのが、永田町の変化についてです。2015年時点では、多くの議員が「労働時間の管理はしないほうがいい」というお考えだったと思います。ご年配の方を含め、働き方改革について本当に議員の皆さんが腹落ちしているのか、ぜひ率直に教えてください。

小泉進次郎(以下、小泉):まだまだこれからでしょうね。だから民間の皆さんから、いい意味での外圧が欲しいと思っているんです。霞が関と国会の働き方改革が伴わなかったら、社会全体が大きく変わらないと思います。特に民間のみなさんには、国からいろいろなことを言われたときに、「で、そっちはやってるの?」と言っていただきたいです。

官が変われば日本を変えることができます。特に厚労省の改革は絶対不可欠です。というのも、霞が関の中で最も残業が多く、働き方改革が進んでいない省庁である厚労省が、皆さんへの働き方改革を求めているわけですから。

民間と官の双方が切磋琢磨していくためには、いい意味での緊張関係が必要です。「言われたらやる」ではなくて、「そっちはやっているの?」と、いろんな機会にプレッシャーをかけてほしいですね。

小室:大臣の答弁を書くための官僚の残業代が、なんと一国会につき20億円かかっている、という事実が明らかになっています。「その20億円があったら・・・」と思いますよね。そういう民間の声が届かないと、なかなか変わることができないというところですね。

小泉:昔は“財界総理”という言葉があって、国に物申す経営者の方がいました。ぜひ、そういう方に出てきてほしいですね。

ちょっと話が変わりますが、国が障害者雇用を水増しして、法定雇用率を守っていなかったという問題がありました。国税庁の水増しが1100人。仮に皆さんの企業が1100人水増しをしていたら、1100人×年60万円を払うことになるわけです。

そういったことも踏まえ、今回の法改正にも国が守れなかった場合の措置を盛り込みましたが、“まず官より始めよ”というのは本当に大事なキーワードだと思います。

実現できないと思われていることをやってこそ、本当の政治改革

小室:今、小泉さんは国会改革実現会議というものを進められています。そういった取り組みについても教えていただけますか。

小泉:みんな「できっこない」と思っているんです。でも、私はできっこないと思われていることをやるのが政治改革だと思っています。これはずっと訴え続け、小さいことでも前に進めていくつもりです。

まずは与野党で利害がぶつからないところで話してみたら、たとえば「ペーパーレスだったら、与党も野党も損得ないね」という具合に話が進んだので、今、ペーパーレスの推進などに取り組んでいるところです。

小泉議員が自身の事務所で行っている「法律以上」の取り組み

小室:そんな中、国会議員の考え方も変わってきたと思うのですが、いかがですか。

小泉:だから今日、すでに自分の議員事務所から働き方改革を進めている衆議院議員の国光さんに登壇していただいているんだと思っています。私も、厚生労働部会長として働き方改革を語るからには、「まずは自分の事務所から」という思いで、一歩一歩進めています。

せっかくやるなら「法律で求められているから」ではなく、「法律で求められている以上のことをやる」という取り組みをしたいと考え、私の事務所では産業医の方と契約しました。

これは本来、50人以上の規模の事業所に求められている法律です。けれども、私の事務所では産業医と契約して、事務所のスタッフ一人ひとりの面接などを定期的にしていただいています。このように、一歩踏み込んでいる議員事務所があるということで、周りにも何か伝えられるのではないかと思っています。

私自身は、どうしても休みの日も仕事のメールをせざるを得ないことがあります。だからこそ、一緒に働く人が楽しかったり、健康だったり、「この事務所で働いてよかった」と思ってもらえることが大事。国会議員の事務所で働くことが大変で、負荷をかけているのは十分にわかっていますので、一緒に働く人に対する投資は、自分の精神的負担を軽くすることにもなっています。

SNSなどを通じて一人ひとりの声を届け、意味のある改革を

小泉:この春の法改正で、有給休暇の取得時季指定が企業に義務化されました。そのことについて、友人に「有給休暇5日間の義務化って、どう?機能している?」とリサーチしています。そうしたら、ある大手企業では、この有給休暇5日間の義務化をもともと休みだった夏休み期間に取得するように指定したそうです。

小室:きわめて悪質な例ですよね。

小泉:そこで働いている知り合いは、「だから全然変わらないよ。今まで夏休みだったのが有給休暇になっただけだから」と言っていました。これから企業側がどう対応するか、われわれもただ法律を変えるだけでなく、今後どのように運用されていくのかまで、きちんと見ていかなければいけません。今はSNSなどを通じて一人ひとりの声が届く時代ですので、働き方改革をしっかり意味のある形にしていくことを期待したいと思います。

小室:ここからはパネリストのお三方にリレー形式でプレゼンテーションをいただきながら、ディスカッションを進めてまいります。最初に国光あやの衆議院議員からお願いします。

「ブラックな働き方」を経験した国会議員だからこそできる改革を

国光あやの(以下、国光):今日お集まりの皆さまは、ホワイトな働き方改革に取り組まれていると思いますが、私自身は非常にブラックな現場を渡り歩いてきました。

たとえば医療現場。私はもともと医師でして、私が働いていた15年前は、1カ月も病院から出ず、ひたすら救急当直をして、それを誇りに思うような働き方をしていました。結果的に体を壊して2週間入院した経験もあります。

おそらく、今も救急病院の現場はあまり変わっていません。それはおかしいのではないかと思い、厚生労働省に入省し、13年働くことになったのですが、ここもまたブラックでした。そうしたことを改革したいと考え、今は国会議員として活動しています。

「働き方改革に取り組むことは国会で決まったけど、この人手不足の中、どうしたらいいの?」これは、特に中小企業の皆さまが強く感じるところだと思います。また、「そもそも国会自体が働き方改革できてないじゃないか」という声もいただきます。

たとえば、4月1日から税制などの制度が変わるとき、3月末に通知が出るケースがよくあります。短期間で対応する現場は残業で対応することになるわけです。こういうことが起こるのも、国会の働き方改革ができていないからです。忙しすぎて、あるいは生産性が低すぎて、皆さまにご迷惑がかかっている現状があります。さらに国会では突然の資料要求や呼び出しもあります。こういうことを改善していかなければなりません。

働き方のチェンジは業績UPのチャンス!

国光:この働き方改革のパンフレットで応援団長をやってらっしゃる、サッカー解説者の松木安太郎さんが「働き方のチェンジは業績UPのチャンスですよ!」とおっしゃっていますが、本当にそうだと思います。

私は、働き方改革は楽しくなければいけないし、単に早く帰れという運動では無意味だと思います。早く帰ることで時間当たりの生産性が上がったら、会社の業績もアップするはずです。

働き方改革で変わることは主に3つあります。1つは、時間外労働の上限規制です。2つ目に、年次有給休暇の時季指定毎年5日。3つ目に、同一労働同一賃金です。

小規模事業者の方は来年からですが、それ以外の大企業の方を中心に、時間外労働は原則月45時間、年間360時間が法律で上限規制され、例外で80時間、マックスで単月100時間となります。原則45、例外80、マックス100。ぜひこの3つの数字は覚えていただきたいと思います。

国会議員の働き方、現状はどうなっている?

国光:政府をあげて日本社会の働き方改革を進めているわけですが、小泉さんもおっしゃっていたように、国会議員は休みがほとんどないのが現状です。私も、当選してから1年半ほどの間に、休みは1日あったか、2日あったかという状況です。子どもがインフルエンザになったときでした。そんな私が、議員事務所全体で働き方改革をはじめまして、先月初めて子どもの参観日に行けたんです。

うちの事務所のスタッフは、東京と地元に9名おり、半数が女性でダイバーシティに富んでいます。

地元の茨城で求人をしたときに、人手不足を痛感しました。特に地方の場合、女性や介護中の方、テレワーク、パートタイム勤務など多様な人材に活躍いただかないと仕事が回せません。そこで、各自の持ち味を生かして時間当たりの生産性を最大化するため、ワーク・ライフバランス社にコンサルに入っていただき、本気で働き方改革を進めているところです。

働き方改革に本気で取り組んだ結果、残業は減り、処理件数は増加!

国光:今までうちの事務所は結構ブラックで、通常の時間外労働は45時間ギリギリ。国会開会時などの例外は80時間となっていました。これでも議員事務所の中ではいいほうでして、もっと長時間労働の事務所もあります。

しかし、働き方改革に取り組んだ結果、前月比残業時間が大幅に減りました。前年比でも3割減となっています。一方で、要望やご意見の処理件数が1.5倍に増えました

具体的には、スタッフ全員でビジョンを共有するための“カエル会議”を行い、早く帰るためにどうすればよいのか、付せんに書き出しながら議論していきました。特に良かった取り組みが小室さんの会社に教えてもらった手法“夜メール”です。本日やった仕事や、明日やる仕事、かかった時間などをメールで共有するというものです。これによって、仕事に漏れがなくなりましたし、ネガティブな情報も上がってくるようになりました。

また、国会議員の事務所は非常にアナログですが、地図ソフトや経理ソフトを導入し、効率化を図りました。

今は、非常に楽しく仕事をしております。アナログな国会・永田町に、生産性の高い変革を起こすべく、小泉さんと共に頑張ってまいりたいと思います。のちほど、いろいろディスカッションできればと思います。ありがとうございました。

「時間外労働を減らしたほうが業績は上がる」という民間企業の事例

小室:国会や議員事務所が働き方改革をしないことが、なぜ皆さんにとってマイナスなのか、わかっていただけたと思います。民間企業が苦労しているポイントとずれているところにいたら、当然、民間企業に必要な政策は出てきません。

逆にいえば、国会のずれを直し、議員事務所の働き方が変わることで、私たちが欲しい政策が出てくるようになります。

さて、本日会場にお越しの皆さんにはいろいろな企業の事例をお配りしています。

たとえばUQコミュニケーションズさん。格安スマホに乗り出した年に、売り上げ1.7倍でありながら、労働時間は10時間減。丸井さんは営業利益3.9倍に対して残業時間70%減という驚異的な結果を残しています。豊田通商さんは、所定外労働時間が3年間連続して下がりながら、経常利益は3年連続して上がり、有給休暇取得率も右肩上がりとなっています。

このように、時間外労働を減らしたほうが業績は上がるというのを、今日お集まりの企業さんは強く実感されていると思います。

では、一体どうして成果が出るのか。中室先生のプレゼンテーションをお聞きいただくとエビデンスが多数いただけると思います。中室先生、よろしくお願いします。

長時間労働は脳や心臓疾患の発症を高め、メンタルヘルスにも悪影響

中室牧子(以下、中室):本日は、“経済学とエビデンスに基づく働き方改革”というお話をさせていただきます。

ご承知のとおり、経済学の中には労働経済学とか組織経済学といわれる分野があり、働き方改革に関しても、国内外のデータをもとにさまざまな研究が行われております。

まずはなぜ長時間労働が問題なのか、です。近年の研究によると、長時間労働が脳や心臓疾患を発症させるリスクを高めることや、メンタルヘルスに悪影響を与えることが明らかになっています。さらには、メンタルヘルスの不調による休職、あるいは退職者の多い企業の利益率は低くなる傾向があるとする報告もあります。

経済学では「自信過剰バイアス」の存在が指摘されており、長時間労働の結果、心身の健康を損ねるリスクを過小評価する傾向があり、自分自身の健康を過信し、長時間労働を続けた結果、気が付いたときには心身の健康を損ねてしまうというわけです。したがって、長時間労働を労働者の自己管理の問題と片付けることなく、企業や政府など第三者による積極的な介入が正当化されると考えられます。

長時間労働が続くと生産性が下がる、という法則が経済学的に実証

中室:次に、長時間労働は生産性を下げるのかという問題です。

経済学では、「限界生産力逓減の法則」がよく知られています。これを働き方の問題と絡めて考えると、労働の投入量の増加に伴う生産量の増分は、労働量の増加とともに減少するという経験則のことです。

実際に限界生産力逓減の法則が成り立つかどうかを調べてみた結果、時間外労働の10パーセントの増加は、限界生産性を2〜4パーセント低下させるということを示した研究もあります。


その理由として指摘されているのは睡眠時間の低下です。次の勤務までの間隔が11時間未満になる回数が増加すると、不眠や仕事上のミス、健康上の問題を訴える労働者が増加し、生産性の低下につながるとの研究があります。国際的に見ても、日本人の睡眠時間が非常に少ないことは指摘されていますので、長時間労働が睡眠時間の不足につながらないか注意が必要です。


成功報酬が生産性を上げる」のは本当か

中室:近年、高度プロフェッショナル制度などの創設の背景に「(時間に縛られずに働く)成功報酬のほうが固定給よりも生産性は高くなる」という考え方があるように思われますが、この点は新しい研究で意見が分かれ始めており、注意が必要です。

近年経済学で話題になった研究に、コンピュータ上で行った仮想実験で、成功報酬(pay for performance)が生産性を上げることや創造的で革新的なビジネスにつながるのかどうかを明らかにした研究があります。この研究の結果が明らかにしたことは、初期の失敗を許容し、長期的に成功した場合に報酬が大きくなるようなスキームのときに、労働者の生産性が高くなり、創造的で革新的なビジネスにつながりやすいということです。

革新的な技術・アイデアを必要とするような仕事では、ある程度リスクを取り、失敗を許容するような時間的なインターバルが必要となります。しかし、最初から成功報酬にすると、リスクを取らずに小さい成果を上げようとするインセンティブが働きやすくなることがわかっています。

このため、直ちに「成功報酬にして、時間に縛られない働き方にすれば、生産性が上がる」というわけではありません。労働者がリスクをとって、長期的な成果を高めるインセンティブが働くような制度設計を考える必要があります。

労働時間の総量規制を導入し、「同調圧力」を活用すべし

中室:最後に、どうすればいいのか、です。

私自身は労働時間の総量規制を導入するほうが望ましいと考えています。経済学者の中にも、規制の適用除外をなるべく減らし、複雑ではない制度が良いと考える経済学者は少なくないと思われますが、私もそうした考えを持つものの一人です。

2つ目には、「同調圧力」を逆手に取った改革をするということです。長時間労働が当たり前になっている職場で、労働時間を自己裁量に任せると、同調圧力によってラットレースになる危険性が指摘されています。

国際比較したデータによれば、日本人は同調圧力に弱いといわれています。育児休業や有給休暇を取らない理由を尋ねられたアンケートで、「周りに取っている人がいないから」という回答が多いというのが象徴的です。理由があって長時間労働をしているというよりは、「みんなが長時間労働だから自分も」というのであれば、その同調圧力を逆手に取って、「みんなが残業はしないのだから、自分もしない」「みんなが育児休業をとるのだから、自分も取ろう」という方向にしていけばよいのです。

スウェーデンで行われた研究によると、法律の変更によって、ある特定のコホートに育児休業を取る人が強制的に増加した結果、強制的に育児休業を取る法律の対象ではない労働者まで自発的に育児休業を取り始め、国全体で育児休業を取得する人が11~15%増加したという結果が出ています。

仕事の合間に意図的に休憩時間を設けることで、仕事の効率が上がる

中室:3つ目は、スラックタイム(ゆとり)を作るということです。

スラックタイムの研究は、いつも混雑している病院が、救急の患者さんをたらい回しにしてしまう問題をどう解決するかというところから始まりました。研究では、常に空きベッドを作っておくルールを設けることで、生産性が改善し、たらい回しになる患者さんがなくなったという結果が報告されています。

これは労働についても同じです。スラックタイムを作る、つまり意図的に仕事の合間に休憩時間を設けたり、メールや電話に対応しない時間を作ったりして、本来やるべき仕事に集中するよう指導したところ、銀行員の融資や預金業務の伸び率が高くなったという研究があります。

今回引用した研究の中に、こういうタイトルの論文があります。

“Manage your energy, not your time”

これは、非常に重要な言葉だと思います。今われわれがマネージすべきは時間ではなくて、われわれが1日に使うことができるエナジーをどうコントロールするかが非常に重要です。私からの報告は、まずはここまでといたします。

データや科学的根拠に基づいて制度を設計することが大切

小室:特にポイントだと感じたのは、長時間労働を10年継続した労働者は、急性の心臓疾患の発症リスクが16パーセント高いということ。また、成功報酬にするとリスクを取らずに小さな成果を上げようとする、というところです。

小室:特にポイントだと感じたのは、長時間労働を10年継続した労働者は、急性の心臓疾患の発症リスクが16パーセント高いということ。また、成功報酬にするとリスクを取らずに小さな成果を上げようとする、というところです。

では、どういう報酬形態にすると生産性が上がるのか、そこをお聞きしたいと思います。

中室:投資期間が長くて革新性が要求されるような仕事の場合、失敗が許されるトライアンドエラーの期間が必要になります。そのトライアンドエラーの期間に成功報酬を設けてしまうと、なるべくリスクが少ない方法を取るようになるわけです。成功報酬と固定給みたいものを組み合わせていく必要がある、というのが今回ご紹介した研究の含意なんですね。

しかしながら、わが国で議論されている高度プロフェッショナル制度などの裏側には、「成功報酬が生産性を上げる」という考え方があります。実は、過去の経済学では、成功報酬が生産性を上げるという結論が主流だったときがありました。しかし、近年では経済学だけでなく、心理学、経営学などの知見も融合して新しい研究が行われ、成功報酬と生産性の関係は、以前ほど明確な結論が得られなくなってきました。したがって、過去の古い研究成果や感覚的なものに頼って制度設計をすることは、非常に危険だと思っています。きちんとしたデータ、科学的な根拠に基づいて制度を設計したり、政策を決定したりすることが重要だと思います。

十分に休むことが生産性向上につながっている企業の事例


小室:スラックタイムという考え方をお話しいただきましたが、今日お配りした事例集にも、お休みに関連する事例があります。

たとえば、ジャパネットホールディングスさんは、なんと16連休を推奨されています。その結果、残業時間は30パーセント減、売上高は120パーセントに上がり、お客様満足度も年々上昇しています。

イーソルさんは有給休暇取得率75.1パーセントですが、社員満足度最高値を連続更新しており、売上高もどんどん上がっています。このように、休むことが生産性につながる事例もたくさん出てきています。

インセンティブや報酬の設計についてもお悩みだと思いますが、住友生命相互会社さんは、時間当たりの生産性を人事評価に導入されています。つまり、どんなに成績を上げても、労働時間がある限度を超えてしまったら評価されないということです。

三菱地所プロパティマネジメントさんは、平均残業時間20時間以内、有給休暇取得80パーセント以上をクリアしたチームに1人6万円支給しています。この6万円の財源は、2015年から比較して30パーセント残業削減することで浮いた1億8600万円を全額社員に還元しているということです。さらに、今後減った残業代は、2022年まで全額還元し続けると約束しています。その結果、「コトフィス」という企業向け託児所付きワーキングスペースのサービスが生まれ、お客さまから大変好評を得ています。

このように、報酬形態を変え、インセンティブを変えていくことで、働き方に対する考えを変えていくことは大きなポイントです。

現状では、労働時間を伸ばしていくことで報酬も増えていく感覚がありますが、今後は長く働くスタイルではAIにはかないません。では、今後AIはどうなっていくのか。今、日本でAI研究者として最も注目されている松尾先生にお伺いしたいと思います。

将来的に、どのくらいの仕事がAIに変わるのか?


松尾豊(以下、松尾):少しAIの話をしていきたいと思います。アルファ碁というものの将棋版の棋譜データが公開されており、羽生善治九段がこう言っています。「王将を中段に動かすことをいとわないのは今までの将棋理論にはなく、新たな可能性を示している」。

まだ序盤にもかかわらず、玉が真ん中のほうに出てくる。普通、こういうことはやらないわけですが、考えてみれば玉が中段に出ていくと逃げ方が四方八方あるので、実はちゃんとコントロールされている限りにおいては、そんなに悪い作戦ではなかった。ところが、人間は思考を節約したいので、玉は端っこに囲っておき、その上で攻め方を考えるということを長年やってきました。つまり、実は、将棋の世界でもわれわれが知らないことがたくさんあるわけです。

今、ディープラーニングによって、画像認識の精度が人間を超えたり、重機を自動で動かしたりすることが現実化しています。また、翻訳の精度もほぼ人間並みになっている現状があります。

今後も、われわれの日常生活や仕事の中でAIがどんどん使われるようになります。将来的に、仕事がどのくらいAIに代わるかをオックスフォード大学が調べたものがあります。その日本版を野村総研が発表しており、約50パーセントの仕事がなくなるといわれています。残るのは、基本的に人と人が接するような仕事であり、目的を設定したり、価値判断したりするような仕事、創造性を持った仕事などです。

このように世の中は大きく変化していきますが、私がAIの研究をしていて感じるのは、人間の本性は変わらないということです。人間は知能を持った生命体であり、知能はAIによってどんどん進んでいきます。ところが生命の部分は変わらない。多くの人がこの2つを混同しています。

たとえば「おいしい」という感覚は、人間がサルだった頃に栄養のあるものを食べたほうがいいことから、栄養があるものをおいしく感じるようにできているわけです。逆に、ばい菌がいたり、腐っていたりするものを食べない個体が生き残ってきたため、そういうものに接すると、われわれは「くさい」と感じて拒否します。

実は、われわれが洞窟に住んでいた頃から生命の部分は変わっていません。でも、知能の部分は、文字を発明したり、印刷を発明したり、インターネットを発明したりと、大きく変化してきています。

企業内の「部族ごっこ」(=出世競争)は控えて、若者を活用せよ


松尾:人間は社会性を持った動物です。仲間を大切にし、ルールを破る者を嫌い、団結して敵と戦うことが大好きな生き物です。サッカーのワールドカップが盛り上がるのも、本能に直結しているからです。

だから、人間は放っておくと、味方をつくって敵と戦うゲームをやってしまいます。会社という組織内では、A部族、B部族、C部族などをつくり、出世競争をします。ちょっと言葉は悪いですが「部族ごっこ」みたいなもので、人間にとって非常に面白い行為ですが、生産性とは直結しません。

私は、この部族ごっこは、この先少し控えたほうがいいと考えます。AIを入れていく中で若者を活用していく必要がありますが、若者を活用する上で部族ごっこは障壁となります。人間の知能と生命の部分を理解しながら、社会設計、制度設計を進めていく必要があると思います。

AIが続々と参入してくる中で、経営者・管理職がすべきことは?


小室:松尾先生のスライドの中に、重要になる人間の役割として「目的の設定」とありました。社員が目的を設定する能力を身につけるために、経営者は何をしたらいいでしょうか。

松尾:AIが入ってくると、必然的にそういう働き方になるということです。目的を設定したあと、それをうまく達成するところは、AIがどんどん入ってきます。AIに決してできないのは、何のためにこれをやるのか、目的を設定するところです。人間がやるべき仕事として、それがメインになってくることが予想されます。

小室:松尾先生のお話、深く考えさせられました。中間管理職の方が部下を育成するときに、「若い頃に負荷をかけないと人は成長しない」などと指導することがあります。管理職にとって、“若い頃の負荷=寝ないで頑張ること”だったケースが多いので、ついつい「3日ぐらい徹夜して働かないと人は成長しない」という話に転換されがちです。

確かに「若い頃に負荷をかけないと成長しない」は正しいと思いますが、負荷の内容は時代とともに変化しています。かつては、寝ないで仕事をして、時間をかけて仕事をすれば、熟練性を増すスキルがあり、その身につけたスキルがその先20年ぐらい使えましたが、そうした熟練性で身につくスキルこそ、AIが最も得意な分野になっています。

中間管理職は「負荷」の内容を現代に当てはめて伝えていかなければ、AIに負ける人材を育てることになると感じました。

ですから、時間をかけるという負荷ではなく、社外のコミュニティーに出て情報を収集して、そのインプットを活かして斬新な商品やサービスを考えるような「負荷」をかける必要があります。

AIに代替されない取り組みを実践している企業の事例


小室:それから、松尾先生の資料に「代替可能性が高い職業100」というものがありました。そこに会計のお仕事も入っていましたが、今日は会場にあずさ監査法人の理事長もいらっしゃっています。

あずさ監査法人さんでは、AIに代替されない価値を生み出すため先手を打って攻めているのですが、その中でも社内ネットワークへの接続制限という取り組みに衝撃を受けました。20時になったらネットワークが切れ、データベースにアクセスできない状況を作ったということです。能力も意欲も高い会計士の皆さんに無制限に働ける環境を提供していると、実際がむしゃらに仕事をやってくれて、膨大な量をこなしていくのだそうです。しかしそこに制限を設けることで、会計士の本来の仕事とは何か、そのために現状の仕事の仕方をどう変えていくべきかに向き合い、新しい考え方に進んでいった事例です。体調不良で産業医の部屋を訪れる人の数も激減したのだそうです。

また、「部族ごっこ」というキーワード、大変面白かったですね。皆さんの業界でも続いている「実は生産性とは関係ない慣習」があると思います。

大塚倉庫さんは、大塚製薬の物流を一手に担っている会社であり、他社のトラックドライバーが自社の荷物を運んでくれるという関係です。その中でなんと、自社の従業員ではないトラックドライバーの方の労働時間の削減からまずは着手しました。

トラックドライバーは、夜の仕事を終えたあと、倉庫の前に車を停め、翌朝の荷積みの順番待ちの列を作って車中泊するのが慣例になっていました。車中泊をしている時間は休憩時間にカウントされ、収入も出ない状況でした。それに対して、大塚倉庫さんはスマホで荷積みの時間を予約できるシステムを導入しました。予約しておけば、いったん家に帰って子どもたちと一緒に寝て、翌朝倉庫に向かうことができます。

スマホで予約するシステムは、決して難しいテクノロジーではありません。「どうして今までやらなかったのですか」と聞いたところ、会長は「かつてトラックドライバーを待たせておくことは、どっちが偉いのか上下関係を認識させる上で重要な儀式だったんだよ。でも、その儀式によってドライバーが疲弊して辞めてしまったら、物流業界は成り立たないんだから、生態系全部が滅んでしまう。働き方改革は下請け会社と一緒になってやらないと意味がない」とおっしゃっていました。

このように、「部族ごっこを変えなければ、業界全体が生き残れない」と認識することが大事ですね。

専門家の立場から見てきたこと、感じること

松尾先生には、AIを入れたことで定量的に生産性向上につながった事例があれば、お伺いしたいと思います。

松尾:たとえばうちの研究室と一緒に共同研究をしたリクルートさんは、AIをかなり活用して売り上げにもつながっています。最近では、製造業の外観検査は、人がやっていたものを自動化する取り組みがあります。これは人件費の削減にもなりますし、製造工程においていろいろチェックができるため、全体の品質向上にもつながる効果が生まれています。

小室:中室先生からは、成功報酬にすることで、リスクを取らずに小さな成果を取ろうする、という話がありました。それは一体どうしてなのか、もう少しお伺いできればと思います。

中室:これは報酬体系だけではなく、すぐに解雇できるかどうかという労働法のあり方も影響しているとの研究もあります。海外の研究ですが、特許数と労働法の関係を検証したところ、成功報酬だけれども解雇しやすい国の研究者は、リスクを取らないで、すぐ成果が上がるような研究をしやすくなっているというデータがあります。成功報酬以外の環境も重要だと思います。

小室:国光先生にお伺いしたいのですが、おそらく地元の中小企業の方にとって、働き方改革はあまり歓迎されていなかったのではないかと思います。具体的などんなお声を聞かれて、どうお答えになっているのかお聞かせください。

国光:去年の今頃、法定審議していた当時は、全く歓迎されていない状況でした。「なんでこんなことするんだ」「どうしてくれる」というクレームばかり耳にしていました。ただ、制度のPRが進むにつれ、「やっぱりこれは、やらなければいけない」という雰囲気が生まれ、実際にアクションを始める企業さんも出てきました。

まだまだ昔ながらの非効率な働き方をしている現場があります。暗黙のルールを変えていくにあたって、AI、ICTの活用は非常に効果があるという事例を、私も拝見しております。

さらに、外国人の技能実習生や特定技能の関係も、昨年末に法律が成立しました。AIやICT、女性や高齢者の力を借りても生産性が向上しないときは、外国人の方も最後のオプションとして用意したというのが、この1年の流れかと思っています。

法改正の「猶予」が中小企業にもたらすデメリット

小室:中小企業は、今回の法改正が1年後ろ倒しとなります。ただ、私はむしろよくない結果になるのではないかと思います。というのも、この春から大企業が先に働きやすくなります。働きやすい大企業と、従来のままの中小企業が戦ったとき、どちらに人が行くのか。当然、働きやすい大企業に人が流れることになりますので、中小企業も、自ら今年の春にリミットを置いて変わらなければ生き残れないのではないでしょうか

猶予や免除が実は逆効果となる。その代表例が、建設、運輸、医療、教育、霞が関です。これらの業界では、労基法の上限を猶予されたり、免除されたりしてきた経緯があります。結果として、話題になった物流業界では、労働環境の過酷さで人が来ない状況に陥り、配送がままならないという事態が生じましたね。法律対応への猶予期間があったことで「あの業界は上限がないから無理が効く」と思われ、どこまでも無理をしなければならなくなり、その過酷さが悪評となって人が来なくなるという悪循環に陥ります。

国光先生は、元医師でもいらっしゃいますので、ぜひご意見うかがいたいのですが、今、医療の働き方にやっとメスが入ってきましたよね。

しかし、「毎週、毎日、具体的に自殺や死を考える」と答えている勤務医が、なんと4パーセントもいるんです。ここまで追い込まれています。その中でやっと働き方改革の中間報告書が出され、「現状、年間3000時間に近い時間外労働をしている医師がいるから、1860時間ぐらいの残業におさめようという設定してはどうか」と議論されています。キャノンさんの総実労働時間が1720時間であり、それと同じくらいの時間外労働までをよしとしようという検討しようというレベルです。この現状をどう思われますか。

国光:いろいろな業界の人と話をしていて、非常にソリューションが難しいのが医療分野だと思います。もともと医師不足が原因の一つでもあり、その解消を政策としてやらなければなりません。また、医師は徒弟制度が厳しい職業の代表格でもあります。

私も若い頃、50代、60代の上司の医師から「自分が新人の頃は、病院に寝泊まりして当たり前だった。夕方、帰りますなんて言うもんじゃない」と言われて育ちました。今でもそういう風潮は残っています。やはり、時代にカスタマイズして働き方を変えていく必要があります。

若者に期待したいこと、伝えたいこと

小室:それでは、会場からもぜひご質問をいただきたいと思います。

質問者1:現時点では育児とか介護などの問題に向き合っておらず、大いに働きたいと考える若者がいると思います。そういう若者に対して、働き方改革をどう伝えていけばよいのか。また、兼業によって多様なスキルを身につけたいという声が出たとき、どう向き合うべきか。中室先生、お願いします。

中室:大学で学生を指導する立場で申し上げると、確かに20代は体力も意欲もあるので、大いに働きたいという人は多いと思います。ただ、それが長時間働くことと同じではないとの認識が重要です。

近年、若い人たちと話しますと、1社でずっと働き続ける意識を持つ若者は極めて少ないと感じます。就社ではなくて、自分の描くキャリア像のために就職するという意識です。会社としてもそういう認識を持たないと、若く優秀な人が採用できなくなると思います。

私も兼業についての意見は肯定派です。会社内でのオン・ザ・ジョブ・トレーニングも非常に有用ですが、兼業を機会に外の世界で得られた技術や知識が会社に還元されることもあります。兼業が必ずしも会社にマイナスになるとは考えていません。

若いころは、政治家は、のような例外を設けないほうがいいと思います。小泉先生も国光先生も、国民の負託を受けているから休みがないとおっしゃいました。それを言うなら社長さんも社員の生活を預かっていますし、医師は人の命を預かっていますし、われわれ教員は保護者からお子さんを預かっています。誰もが責任を持って社会の中で生きているわけです。「この人たちだけは例外でいい」となると、全て例外でいいということになる、と思います。

私は学生たちに、社会に出た後、職業人として誇りを持ち、幸せになってほしいと考えています。長時間労働で、苦しい社会人生活を送ってもらいたくはないので、社会全体で若い人たちを育てていくという気持ちを、皆さんと一緒にシェアしながらやっていきたいと思います。

小室:私はよく若者の転職相談に乗るのですが、その会社に入りたくて入ったのに、その企業に時間を注ぎ続けて働いた結果、辞めるという選択をする方が大変多いです。こうならないために、若者には限られた時間内に成果を出すことをシビアに伝え続け、社外の経験もたくさんさせて、広い世界を知っているけれど、納得してこの職場を選んでいるという状態を作ることが非常に重要だと思います。

また、AIがこれだけ進化している中で、AIの勉強会に一度も行ったことがないという社員が、皆さんの企業にもたくさんいると思います。実は、お金をもらって自社で残業しているほうが安心です。そうしているうちに、社外に出て意見交換することが怖くなり、いつも安心な場所にとどまるケースが多いので、名刺の通用しないようなコミュニティーにどんどん出ていくよう促すことも大切です。

私たち40代以降の人間は、AIが本格化する前にキャリアを逃げ切れるという思いがどこかにあります。けれども、20、30代はAIとガチンコ勝負ですから、自分で勉強してトップにAIの必要性をプレゼンするぐらいの気概がないと駄目だよ、と言ってあげるといいと思います。

40代以降の世代はAIにどう向き合うべきか?

質問者2:松尾先生にお聞きしたいのですが、「若者や女性に対しての話は非常によくわかる。しかし本当に活性化してほしいのは実は45歳以上のおじさん層なんだ」という経営者の声を多く耳にします。その世代の方たちにAIとの付き合い方、働き方改革の効用をどのように説いていけばいいか、ぜひご示唆いただければと思います。

松尾:やはり勉強するべきだと思います。小室さんは「40歳は逃げ切れる」とおっしゃいましたが、全然逃げ切れないと思います(笑)。今のAIの技術は、実は非常に学びやすくなっていますし、理論的な背景がしっかりしていて、少なくとも理系の人が学ぶと納得感が大きいです。

今、多くの企業がAIに関する人材不足で困っていますが、40歳でも50歳でも60歳でも、勉強していただくとかなり戦力になるはずです。私が関わっているディープラーニング協会で資格試験を行っていますが、人工知能、ディープラーニングの知識を問うG検定に最高齢で受かった方は70歳台です。年齢を気にせず、学びに時間を使っていただくといいと思います。

しめくくりとして、皆さんに伝えたいこと

小室:最後に皆様から会場の経営者の皆さんにメッセージをお願いいたします。

国光:私から一つ申し上げたいのは「やればできる」ということです。できない理由を述べるのは簡単ですが、できない理由を言っていても社会は進みません。

私の事務所のパートタイムのほぼ全ての方は兼業されていますが、兼業されている方のほうが時間当たり生産性が高いです。また45歳、50歳以上の方に、いきなりICTを使いこなせといってもなかなかできませんが、言って聞かせて、やっていただくを繰り返していれば、いずれ到達するときが来ます。ですので「やればできる」ということを諦めずに申し上げたいと思います。

松尾:最初に将棋の話をしましたが、将棋の世界ですら伝統芸能になっていたわけです。玉を端っこに囲うという戦法を誰も疑わってこなかったのですが、必ずしも正しくなかったことがわかってきました。

AIと働き方改革に共通しているのは、既存の価値観を一度疑ってみるということです。「本当にこのやり方でいいのか。これは何のためにやっているのか」と疑い、もう一度最適なやり方を模索することが重要です。働き方改革と一緒に、AIも活用していただければと思います。

中室部族ごっこや精神論などが支配的になる裏側には、きちんとデータが取れていないということがあります。小室さんの資料を拝見すると、うまくいっている会社さんは、成果についてのデータをきちんと取り、それをプレゼンテーションしておられます。この点が非常に重要です。

思い込みとか固定観念にとらわれず、きちんとデータを取って証明していく。これは、一見面倒くさいように思えますが、結果的に正解にたどり着く近道でもあります。ですので、きちんとデータを取って、働き方改革の効果を検証していく必要があると思います。

小室:今日はいろいろディスカッションさせていただきましたが、働き方という問題は、国会をはじめ全ての業界がつながっています。なぜ医療の働き方がブラック化しているのかというとき、実は企業の働き方が大きく関連しています。というのも、企業内で時間単位の有休を取ったり、気軽に時差出勤ができなかったりすると感じている方は、病気になったときに、明日の朝の会議は休めないから、今日のうちに深夜の救急医療にかかろうとします。これが医師の長時間労働になる。そうした行動が変わらない限り、医療の働き方も変われません。


同様に、国会と企業の働き方もつながっています。法律改正がなされた今、もうここからは、今日お集まりの経営者の皆さまの大きなパワーで変えていくことを強く期待しております。本日はありがとうございました。