社会の動向と対策
コロナ禍における政府・省庁の働き方に関する実態調査
2020年8月
2006年創業以来、働き方改革コンサルティングを経済産業省・内閣府・総務省・国土交通省等の行政機関、および民間企業1,000社以上に提供してきた株式会社ワーク・ライフバランス(本社:東京都港区、代表取締役:小室淑恵) は、この度、「コロナ禍における政府・省庁の働き方に関する実態調査」を実施し、2020年3月から5月までの働き方にどのような変化があったかについて、国家公務員480名の回答を収集した結果をまとめました。
■対面での説明や、メールではなくFAX連絡を求めるなど
外出自粛が求められる中、国会議員から国家公務員に対して配慮無しが「9割」
■4割の国家公務員が、残業時間が単月100時間超
■デジタル化が進む省庁1位「環境省」2位「経産省」、環境省はテレワーク率も1位
■~テレワーク体験者ほど家族との時間増を実感、デジタル化の鍵はトップのリーダーシップ~
1.約4割の176人が、残業単月100時間を超過。200時間、300時間超えも
2.議員とのやり取りで、官僚の働き方に配慮を感じるかという問いに9割が「そう思わない」と回答
3.「議員への説明はオンラインに移行せず対面のままだった」との回答が8割
4.議員とのやり取りは、いまだ86%がFAX
5.大臣とのレクにおける電話やオンライン化・ペーパーレス化は省庁による差が大きく、1位:環境省、2位:経済産業省、3位以下を大きく引き離す結果に。環境省はテレワークの浸透も1位
6.各省庁のインフラが脆弱で1つの回線を3人で分け合うなど、仕事にならない環境。ハード面の整備の遅れ以上に、議員の「相手の働き方への配慮」不足や、各省庁の「仕事の進め方の慣習」が大きな障害となってデジタル化が進んでいない
7.テレワークの浸透に課題はあるものの、家族との時間が増えた喜びの声も
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コロナ禍から国民の安全を守るため、世界各国の政府は一層のデジタル化戦略が求められています。そのなかで、各国の国会や政府の機能も含めたデジタル化レベルによって、戦略の具体性や効果性に差が開きつつあります。
安倍首相は2020年7月15日に「IT本部が中心となって、行政分野のデジタル化と行政データの見える化を集中的に実行していく。今後3年間を集中投資期間とし、政府CIOの強力なリーダーシップの下で、政府全体のシステム整備を一気に進める」と発表しています。その一方で、今回の調査では、システム整備などのハード面での整備の遅れ以上に、国会議員の「相手の働き方への配慮」が不足している点や、各省庁の「仕事の進め方の慣習」が大きな障害となって、デジタル化が進まないことが明らかになりました。
テレワークが機能しないままでは、政府中枢でクラスターが発生した場合の予行演習が出来ておらず、政府機能の停止、行政の崩壊が起きてしまうことが予想されます。
今回の調査で、回答者の約4割にあたる176人が、「過労死レベル」といわれる「単月100時間」を超える時間外労働をした、と回答をしました。「200時間超え」や「300時間超え」という回答もあり、組織として持続可能ではない働き方に頼っている現状が明らかになりました。
また、日本中で徹底した感染予防や外出自粛が求められる中、業務で国会・議員対応がある回答者382人のうち、83%が「議員への説明が電話やオンラインに移行したか」との質問に対して「そう思わない」と回答しました。自由記述欄には、長時間にわたり、対面で、三密に該当する環境での説明が求められたというコメントが寄せられました。紙資料の印刷、FAXでのやり取りが続けられていることからも、実務の進め方が感染予防と両立しないものになっていることがわかりました。「議員とのやり取りで、官僚の働き方の質を高めるための配慮を感じる変化が起きたか」という質問に対して、91.3%が「そう思わない」と回答しており、力関係の強い相手側からの対応が働き方の質に大きく影響していることがわかりました。
政府・省庁全体としての課題が明確になる一方で、省庁ごとの取り組みの影響も明らかになりました。特に、省内での電話・オンライン会議化、ペーパーレス化は省庁による差が大きく、1位の環境省と2位の経済産業省が他省庁を大きく引き離す結果となりました。
職場でのデジタル化については、「大臣への説明の様子を、幹部もweb会議で同時に見られるようになったため、報告の手間がなくなり、ニュアンスの違いからくるミスコミュニケーションもなくなり、効率化につながった(環境省20代)」、「大臣など政務が変わっても、今の大臣や政務との打ち合わせのようにオンラインが常態となることを維持したい(環境省40代)」、「紙の枚数は相変わらず減らない。課長級以上はやはり紙を持ってこいという雰囲気。レジ袋何枚分だろうと思いながら毎夜大量の無駄紙をシュレッダーにかけている(国土交通省20代)」などのコメントが見られ、省庁のトップである大臣、そして中間層である管理職のリーダーシップが変革の鍵となっていることがわかりました。
全体としては、「テレワークができた」と答えた回答者の71.4%が「家族との時間が増えた」と回答しており、「テレワークができなかった」と答えた回答者の33%に対して有意な差が見られました。テレワークを推進していくことにより、国家公務員自身のワーク・ライフバランスの推進のみならず、空いた時間を活用したインプットによって、策定される政策の質が変わっていくであろうこと、より多様な人材が活躍できる土壌作りにもなることから、政府・省庁においてテレワークを推進していくことは国民の利益に直結するものであるといえます。
官・民共に協力して乗り越えてゆくべき国難ともいえるコロナ禍において、いかに持続可能な組織運営をし、新しい生活様式・新しい生活様式の中で感染予防を両立していくかは、政府・省庁、民間企業、国民のひとりひとりが考え、行動してゆく必要のある課題です。トップの強いリーダーシップの元、取引先との間で互いに「仕事の質を高めるための配慮」をし、「仕事の進め方の慣習」を見直し変革していくことは、民間企業・他組織においても重要なことであるといえるでしょう。
<回答者省庁別内訳>
省庁別回答者内訳は、厚生労働省70名(回答者中14.6%)、文部科学省59名(同12.3%)、内閣府45名(同9.4%)、経済産業省43名(同9.0%)、その他43名(同9.0%)、国土交通省42名(同8.8%)、環境省41名(同8.5%)、農林水産省33名(同6.9%)、総務省29名(同6.0%)、外務省25名(同5.2%)、防衛省24名(同5%)、法務省11名(2.3%)、財務省11名(2.3%)、復興庁3名(0.6%)、国家公安委員会(警察庁)1名(同0.2%)となっています。
<調査結果>
1.約4割にあたる176人が、残業時間単月100時間を超過。200時間、300時間超えも。
本調査対象者のうち、約4割にあたる176人が、「2020年3月~5月で最も忙しかった月の実際の残業時間は、100時間を超えた」と回答しました。そのうち「200時間~299時間」と回答した回答者は20人(厚生労働省9人、文部科学省5人、内閣府3人、経済産業省1人、その他2人)、「300時間以上」と回答した回答者は5人(厚生労働省4人、法務省1人)でした。
民間では2019年4月より、改正労働基準法が施行され、労使協定を結んだ場合においても原則として一か月45時間が時間外労働の上限となり、特別条項を適用した場合においても、単月では100時間時間未満(複数月平均では80時間)が上限となっています。この基準は過労死ラインとも呼ばれています。国家公務員は労働基準法の対象外とされていますが、平成31年2月1日付の人事院事務総局職員福祉局長による通知においても、原則として一か月の時間外労働の上限は45時間と定められています。
それに対し、本調査では過労死ラインを大幅に超過する時間外労働が行われていることが明らかになりました。労働時間のばらつきの大きさから、一部の人材に頼る働き方となっていること、業務が属人化されており、緊急時における組織としての対応力が弱くなっていることが推測されます。
2.議員とのやり取りで、官僚の働き方に配慮を感じるかという問いに9割が「そう思わない」と回答
「議員とのやり取りで、官僚の働き方の質を高めるための配慮を感じる変化が起きたか」という質問に対しては、91.3%が「そう思わない(全くそう思わない71.7%、そう思わない19.6%)」と回答しました。自由記入欄には「時間内に聞ききれない量の質問を通告してこないで。部下も鬱になったし私ももう来たくない。なぜ厚労省で死者が出ないのか不思議なくらいです。(厚生労働省30代)」との具体的なコメントも見られました。
【自由記述欄のコメントより抜粋】
・議員が配慮している様が全く見えてこない。不要不急のレクを設定してきたり、地元支援者への特例措置を求めてくるなど。(法務省30代)
・緊急事態宣言が出ていても党の会議で平然と役所を呼びつける感覚などは信じがたい。(文部科学省40代)
・これまでもずっと言われていることだが、質問通告がそもそも遅い上に、通告しても極めて抽象的な例が散見される。また、国会はいつまでたっても紙の資料で議論をしており、非効率な上にさらに無駄な税金が充てられていることになぜ問題意識を持たないのか疑問。(厚生労働省30代)
・緊急時に、関心が高まるのは分かるがその資料要求レク要求がより行政を逼迫させている認識がなさ過ぎる。多少面倒でも自分でHPを調べて。FAQに載っていることを聞いてこないで。時間内に聞ききれない量の質問を通告してこないで。部下も鬱になったし私ももう来たくない。なぜ厚労省で死者が出ないのか不思議なくらいです。(厚生労働省30代)
・政策を考える時間を最も阻害したのが、議員対応であった。最も詳しい者が対応にあたることを求められると、政策の検討ができない。電話ですむ内容のために呼ばれることや、数時間待ちぼうけを余儀なくされることもあった。同じ内容を同じ党の議員からバラバラと問い合わせられた。野党合同ヒアリングが始まり、一元化されるかと思えば、個別対応も残って結果的に忙しくなっただけであった。(厚生労働省40代)
・同じ党の議員から、五月雨かつ前後して繰り返し同じことを詰問され、何度も同じ説明をさせられる。 何度説明しても同じもしくはちがう者から前回のやりとりを踏まえない問題意識に基づきゼロから同じ詰問を繰り返される。 精神的にきついこともあるし、生産性がなく、これに対応する時間があれば前向きな政策議論にあてたいと心から思う。(経済産業省20代)
3.8割が「議員への説明はオンラインに移行せず対面のままだった」と回答。
業務で国会・議員対応がある回答者382人のうち、83%が「議員への説明が電話やオンラインに移行したか」との質問に対して「そう思わない(全くそう思わない56%、そう思わない27%)」と回答しました。自由記述欄には、「国会議員のレクのためだけに出勤せざるを得ない状況だった」といった回答が多く、長時間にわたり、対面で、三密に該当する環境での説明が求められたケースや、マスクを外させられたというケースも複数みられました。
【自由記述欄のコメントより抜粋】
・緊急事態宣言中は基本テレワークだったが、国会議員のレクのためだけに出勤せざるを得ない状況だった。(内閣府40代)
・全くオンラインは進まず、3密の状態でのレクが常であった(15人以上が部屋に膝を詰めてレクを実施)。(財務省20代)
・省内の接続環境の悪さのせいか、オンラインだと音声が途切れたりそもそも聞こえないなどのトラブルが多く、結局そういったトラブルを回避するために、「失礼のないよう、できるだけ対面で」と役所側も気を遣ってしまう傾向にあると感じる。(文部科学省20代)
・電レク後にわざわざ資料持って説明に来させる議員もいた。 役所側も丁寧に説明しようと、根回しやレクで積極的に会館周りに行く例もあった。(文部科学省20代)
・三密としか言えない中での問取りが何回かあった。(文部科学省40代)
・事前に質問要旨を送った上で、問取レクのため担当課を会館に呼ぶ議員が未だほとんどの印象。会館の事務所に複数省庁・複数部署が行かざるを得なくなり、順番に行うため事務所の前で蜜の状態で何十分も立ったまま待たされる。その挙句、議員からは、質問要旨に書いてあるとおりだけど質問ある?と聞かれるに過ぎず、特に質問がない場合は問取レク自体は5秒で終わる。 問取レクを会館で一律に実施するのではなく、まずは電話で対応を受け付けつつ、さらに電話だけでは意思疎通が難しい場合にのみ、その箇所だけオンラインでやるなり会館で対面でやるなりしていただきたい。(文部科学省20代)
・レクに行ったらマスクを外させられた。(厚生労働省40代、防衛省30代等複数同趣旨のコメント有り)
・給付金関連の部署で勤務。連日連夜の野党PTでは、PT開催前の資料持ち込み(100部)を要請しながら、各PT委員から個別に資料の事前事後共有の要請あり。さらに、国会の委員会対応でも個別のレク対応頻発、中身のない要旨(問い合わせ不可)の提出が委員会前日の夜に届く、といったことが続く。遺憾なのは、そうした過度の対応を役所に求めている一方で、PTや国会では「給付に時間がかかりすぎ」「対応が遅い」と批判をされること。(経済産業省30代)
・全て対面だった。(国土交通省20代)
・緊急事態宣言中なのに平気で毎日のように職員を呼びつける議員がいた。(防衛省20代)
・緊急事態宣言下、国会内は議員席はソーシャルディスタンスが取られていても、答弁者に随行する官僚の席はぎゅうぎゅう詰め。(その他40代)
・省内、省庁間、民間とのやりとりのほぼ全てがオンラインに移行した中で、議員レクや党の会議や国会だけが相変わらず対面を前提としたもので強い違和感を感じた。(経済産業省30代)
・議員側にレクの方法を役所側から変更してもらうことに大きな抵抗感がある。オンラインレクは議員側から要望がない限り困難。(内閣府50代以上)
【一時的にはオンラインや電話に移行したが、対面に戻ってしまったという声も】
・緊急事態宣言直後までは資料送付のみで済むものや、電話会議形式でのレクが多かったが、解除後は対面に戻ってしまった。(内閣府30代)
・一部の若手議員で積極的にオンラインのレクや会議(党の会議であっても)を推進する議員もおり、少し変化を感じた。 ただ、宣言解除後はそういったレクや会議もほぼ対面に戻ってしまったのは残念。(文部科学省20代)
・これまで対面しかなかった議員からオンラインレク、電話レクの依頼になったことも数件あったが、全く定着せず、5月頃からは完全に普段通りに戻った。また、レク以外の部会などの党の会議の対応は全く変わらなかった。(厚生労働省30代)
【ポジティブな声】
・議員レクの随行人数は随分減ったので、バッジ確保などロジ面の負担は減ったかもしれない。(内閣府30代)
・意識する議員としない議員で二極化。(内閣府30代)
4.議員とのやり取りは、いまだ86.1%がFAX
「議員とのやり取りがFAXからメールに移行したか」との質問にたいしては、86.1%が「そう思わない(全くそう思わない58.9%、そう思わない27.2%)」と回答。パソコンで打ち出した文章を送信側が出力してFAXし、受信側が再度システム入力をしているなど、人的資源の観点からも、紙資源の観点からも非効率な慣習があることがわかりました。
【自由記述欄のコメントより抜粋】
・メールで議員事務所に送ったものと同じ資料をFAXで再度送るように言われた。こちらとしては手間が増えるだけ。(農林水産省30代)
・省内でペーパーレス化が進んでも、議員が使うことを想定して紙(片面)を用意することがほとんどで、コロナ前後で変化はない。(農林水産省20代)
・省の国会連絡担当窓口とのやりとりはFAXだが、それを除けば個別の担当課は相当以前から議員とのやりとりではFAXでなく電話、メールになっている。(文部科学省40代)
5.大臣とのレクにおける電話やオンライン化・ペーパーレス化は省庁による差が大きく、1位:環境省、2位:経済産業省。環境省はテレワークの浸透も1位
「大臣とのレクが電話やオンラインに移行したか」「大臣レクにおけるペーパーレス化が進んだか」という質問に対しては、環境省と経済産業省は他省庁を大きく引き離し、環境省では電話やオンラインへの移行が2.8、ペーパーレス化は2.6、経済産業省では電話やオンラインへの移行が2.5、ペーパーレス化は2.1という平均スコアでした(0:全くそう思わない、1:そう思わない、2:そう思う、3:強くそう思う)
「大臣とのレクが電話やオンラインに移行したか」については、1位の環境省は3:強くそう思うは84.8%、2:そう思うは12.1%、1:そう思わないは3.0%、0:全くそう思わないは0%。2位の経済産業省は3:強くそう思うは60.5%、2:そう思うは31.6%、1:そう思わないは7.9%、0:全くそう思わないは0%でした。
「大臣レクにおけるペーパーレス化が進んだか」については、1位の環境省は3:強くそう思うは72.7%、2:そう思うは15.2%、1:そう思わないは12.1%、0:全くそう思わないは0%。2位の経済産業省は、3:強くそう思うは36.8%、2:そう思うは44.7%、1:そう思わないは10.5%、0:全くそう思わないは7.9%でした。
職場において「テレワークができるようになったか」という質問に対し、トップ5は環境省(平均スコア2.7)、総務省(平均スコア2.6)、外務省(平均スコア2.5)、経済産業省(平均スコア2.4)、文部科学省(平均スコア2.3)でした(0:全くそう思わない、1:そう思わない、2:そう思う、3:強くそう思う)。「テレワークができるようになったか」については、1位の環境省は、3:強くそう思うが69.7%、2位の2:そう思うが30.3%、1:そう思わないと0:全くそう思わないは0%でした。
2位の総務省は、3:強くそう思うが73.3%、2:そう思うが13.3%、1:そう思わないが6.7%、0:全くそう思わないが6.7%でした。
【自由記述欄のコメントより抜粋】
・wifi環境が悪く、ウエブ会議に使える職場PCも少ない。電話会議も、設備が使いづらい。(外務省30代)
・回線容量が十分でなくテレワーク中に接続できなくなる、テレワークだとネットワークに接続できない端末の職員がいる、オンライン会議を実施するために接続確認や資料の事前共有など別の手間が生じている。(環境省30代)
・省庁間で会議システムが異なり、省庁を跨いだテレワーク会議が難しい。省庁共通のシステムを導入すべき。(経済産業省30代)
・政府のオフィシャルな会議をオンライン化したが、絶対にミスできないため物凄い手間のリハーサル、回線チェック、参加者のフォローが必要になり、効率という点ではマイナスだった(密回避には有効だったが)。(経済産業省30代)
・在宅勤務といいつつ、会社PCに保存したデータを閲覧する方法が皆無のため全く業務が進まなかった。(厚生労働省30代)
・省内決裁は相変わらず紙、対面、押印。幹部がテレビ会議システムを使う気がない。(厚生労働省30代)
・電子化しても、紙媒体も求められるため、手間が逆に増える。(国土交通省30代)
・幹部がオンラインレクに反対の方がおり、その場合必ず登庁しなくてはならなかった。(財務省20代)
・契約書類等は全て紙なので、出勤しないと仕事ができなかった。(内閣府30代)
6.各省庁のインフラが脆弱で一つの回線を3人で分け合うなど、仕事にならない環境。
ハード面での整備の遅れ以上に、国会議員の「相手の働き方への配慮」が不足している点や、各省庁の「仕事の進め方の慣習」が大きな障害となって、デジタル化が進んでいない
各省庁や国会での「慣習」ともいえる、民間企業や国民一般の立場からは理解しがたい仕組みが明らかになりました。このような「慣習」のために多大な時間を費やし、モチベーションが下がる職員が続出している状況では、民意を反映している働き方とはいえません。上層部のITリテラシーが低い中での制約の数々は、セキュリティ上、すでに時代遅れであったり適切であるとはいい難いものも見られたりすることから、早急に適切な専門家を入れて基準の見直しをし、全体のITリテラシーについても向上させていく必要性があるといえます。
特に、自由記述欄には民間企業ではすでに改善されて長年経過するような、デジタル化を阻害する省庁特有の「ルール・慣習」が存在することが示唆されていました。代表的なルール・慣習は以下のとおりです。
<省庁特有のルール>
①緊急事態宣言下でも、議員レクや党の会議、国会は対面での実施。電話ですむ用件であっても、議員から呼び出される。
②大臣や議員、省庁幹部が関係する案件は、紙資料での説明が主流。印刷ルールや部数指定のルールが厳しく、印刷に時間がかかる。(国会答弁を20セット印刷して付箋でインデックスをつけて複数種類の資料をセットに組み、台車で持ち込み、配布する作業、及び終了後の廃棄など。)
③議員向けの説明のときに、パソコンのタッチ音がしないように紙でメモを取っている。(パソコンでメモを取ることは失礼にあたるという文化のため)
④省内幹部・管理職のITリテラシーが低く、オンラインレクではない従来の方法を踏襲しようとする。
⑤テレワーク用のパソコン台数やログインできる人数に上限を設けている。(よって通信環境が安定しない。)
⑥省内決裁は相変わらず紙、対面、押印が推奨されている。
⑦各省庁でのシステムの違いやセキュリティの理由から、スムーズにオンライン会議ができない。
【自由記述欄のコメントより抜粋】
・内閣府側が主催者となって設定するskype会議以外の会議(外部の方に招待される会議や、zoomなどによる会議)については、セキュリティ制限を解除した端末を使う必要があるが、部局に1台しかないため、取り合いになる。(内閣府30代)
・局の総括担当だが、職場のPC環境(執務室、テレワーク時問わず)が貧弱で、メール一つ開くのに30秒以上かかり、業務効率を著しく悪化させているが、改善されない。 他省庁との会議はオンライン化されたが、内部打ち合わせは、議員からの資料要求の締め切りがタイト過ぎて、オンラインでは間に合わず、結局繁忙な担当は出勤して打ち合わせている。(内閣府20代)
・省内職員の多くが同時にテレワークしているからか、テレワーク時の通信環境が劣悪。ひどいときは1通メールを送るのに30分近くかかる(自宅は光回線)。(総務省20代)
・現状ではSkype以外のシステムが使用不可のため、Skypeが使用できない自治体との会議には支障がある。 大臣レクは当省は対面が原則となっているが、 副大臣等の他の政務は先方よりオンラインレクの要望もあった。 また、印刷物に関しては、会期末に多く出される質問主意書について印刷ルールや部数指定等が厳しく、そのために部下が多くの時間を割く羽目となった (閣議請議書の青枠に後ろの答弁書を透かしてみて、青枠内に収まらないとやり直し、等)。(総務省30代)
・幹部がオンラインレクに反対の方がおり、その場合必ず登庁しなくてはならなかった。(財務省20代)
・大臣レクについては、弊省の大臣室は基本的に柔軟性がないため、緊急事態宣言中でも対面でのレクが基本、紙での資料配布も変わらなかった。大臣レクの際に毎回、紙で20部ほど印刷・持参し、さらには手早く2手に分かれて配布できるよう配布用の人員(係員など)を2人付けなければならないことになっている。時間と人員の無駄なので、これを何とかするよう省内のアンケートでも毎回書いているが、なかなか変わらない。(文部科学省20代)
・テレワークしている職員の多くが同じ時間に、PCがフリーズする現象が1ヶ月に3回ほど起きた。(文部科学省20代)
・法令作業は一太郎で行い、紙で審査部局に持ち込むよう求められるが、ホームページ掲載時に全省共通のシステムで再度同じ作業を求められるものがあり不毛。 部下が会議資料をPDF化してページ等を整えるのに2時間以上かかっていた。 オフラインでPCを使えないので紙でしかメモを取れない時がある。議員レクではタッチ音がしないよう紙でメモを取っている。 テレワークをするとワードのスクロールすら満足に出来なくなる。(文部科学省20代)
・私物ルータが通信速度制限を食らったので職場からルータを借りたところ、5~10分に1回動作が停止してしまって仕事にならなかった(結局自腹で別途レンタルルータを借りた)。(文部科学省20代)
・職場ではバージョンが古いスカイプしか使えず、議員がオンラインレクにしてくれても、通信が切れたり、うまくいかないことが多い。(厚生労働省40代)
7.テレワークの浸透に課題はあるものの、家族との時間が増えた喜びの声も
「テレワークができた」と答えた回答者のうち、71.4%が「家族との時間が増えた(強くそう思う24.8%、そう思う46.6%、そう思わない12.4%、全くそう思わない16.2%)」と回答しており、「テレワークができなかった」と答えた回答者の33%(強くそう思う10.1%、そう思う22.9%、そう思わない11.9%、全くそう思わない55%)に対して有意な差が見られました。
【自由記述欄のコメントより抜粋】
・テレワークは柔軟に取得できるようになり、育児に積極的に参加できるようになった。(内閣府30代)
・学校の送りも迎えも父側が実施できるようになった。(外務省30代)
・明らかに心身のストレスが減り、よく眠れるようになった。(文部科学省20代)
・テレワークの日は、通勤時間に当てていた往復2時間を自由時間や睡眠時間に当てられるようになり、ワークライフバランスが改善した。(厚生労働省20代)
・家族と過ごす時間を確保することができたのが一番のメリット。平日の夜を家族全員で過ごすことがこんなにも幸せなことだとは思わなかった。息子に「初めてお父さんと一緒に夜ご飯が食べれて嬉しい」と言われ、今まで人並みの親らしい事をしてあげられなくて、申し訳ない気分になり泣いてしまった。職員の家族の犠牲の上に成り立つ霞ヶ関の働き方を再認識した。(厚生労働省30代)
・通勤時間にとられていた時間や昼休憩の時間を洗濯などの家事に充てることができ、夫婦間の家事分担が進んだ。(農林水産省40代)
・昼夜と家族でご飯が食べられて幸福度が増した。(経済産業省20代)
・入省してから初めて平日に家族と夕食を取ることができた。(国土交通省20代)
・家族との時間が圧倒的に増えた。通常の働き方では、平日は子供の寝顔しか見ることができなかったが、離乳食や風呂など、業務時間外の触れ合いが増えた。(環境省30代)
・通勤が如何にストレスになっていたか分かった。(環境省50代)
・昼の休憩時間に買い物、夕飯を家族揃って食べた。娘から、コロナは嫌だけど、ママがいえにいてくれるので嬉しかったと言われた。(40代)
【調査概要】
調査名:株式会社ワーク・ライフバランス/2020年 官僚の働き方アンケート(コロナ禍でのデジタル化推進状況)
調査対象:現役の国家公務員(インターネット、SNSにて回答を募集)
年齢:20代~50代以上 性別:男・女(無回答含む) 居住地:全国
調査期間:2020年06月19日~7月13日
調査方法:インターネット調査
有効回答数:本調査480件
※回答率(%)は小数点第2位を四捨五入し、小数点第1位までを表示しています。そのため、合計数値は必ずしも100%とはならない場合があります。
◆株式会社ワーク・ライフバランスについて
2006年創業、以来14年にわたり企業の働き方改革により業績と従業員のモチベーションの双方を向上させることにこだわり、働き方改革コンサルティング事業を中心に展開。これまでに自治体・官公庁も含め企業1,000社以上を支援。残業30%削減に成功し、営業利益18%増加した企業や、残業81%削減し有給取得率4倍、利益率3倍になった企業など、長時間労働体質の企業への組織改革が強み。
会社名:株式会社ワーク・ライフバランス
代表者:代表取締役社長 小室 淑恵
サイト:https://work-life-b.co.jp/
創立年月:2006年7月
資本金:1,000万円
主な事業内容:
働き方改革コンサルティング事業・講演・研修事業
コンテンツビジネス事業・コンサルタント養成事業
働き方改革支援のためのITサービス開発・提供
「朝メール.com」「ワーク・ライフバランス組織診断」「介護と仕事の両立ナビ」
カードゲーム体験型研修「ライフ・スイッチ」
実績:1,000社以上(国土交通省、鹿島建設中部支店、住友生命保険相互会社、アイシン精機株式会社、内閣府、三重県、埼玉県教育委員会など)
・代表 小室 淑恵プロフィール
2014年9月より安倍内閣「産業競争力会議」民間議員を務め、働き方改革関連法案施行に向けて活動し、2019年の国会審議で答弁。2019年4月の施行に貢献。国政とビジネスサイドの両面から働き方改革を推進している。年間200回の講演依頼を受けながら、自身も残業ゼロ、二児の母として仕事と育児を両立している。
【release】2020年08月03日_コロナ禍の官僚の働き方に関する実態調査