主婦から正社員へ —女性の活躍を推進するために—
日本の労働力不足を救う!「女性の活躍」に必要なこと
─職場・保育・夫婦について/弊社社員が語る「主婦→正社員」の選択
深刻な人手不足に直面している日本。今後はますますその傾向が進むと見られています。そんな中、注目したいのは女性の労働力。出産・育児を機に退職し、「働きたい」と思いつつも再就職のきっかけをつかめずにいる人、「家計のため、自分のために働いてみたい」という主婦など、女性の潜在労働力は300万人とも。家庭ごとの「生涯賃金」を鑑みても、共働きのほうが当然有利です。子育てを通じて社会経験を積み、働く意志も持っている女性たちの力を活かすため、社会には、企業には何が必要なのでしょうか? 7年間の専業主婦経験ののち、弊社で正社員として勤務する山田由紀の話を紹介しながら、働きたい女性たちを応援したいと思います。
用語解説
女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律):仕事での活躍を希望するすべての女性が個性と能力を十分に発揮できる社会を実現するため、雇用主である企業等がその推進を担うことを義務づけた法律。優良企業は厚生労働大臣より「えるぼし」の認定を受け、企業イメージの向上や優秀な人材確保につなげることができる。逆にいえば、女性活躍を積極的に推進していない企業は人材確保が難しくなるばかりか、イメージの低下も避けられないので注意を要する。
7年間の専業主婦経験を活かして働く「ワークスタイリスト」
弊社には、コンサルタントがお客様とのやり取りに邁進できるよう、社内業務や外部との橋渡しなどを広く担当する「ワークスタイリスト」という職種があります。1000件以上の働き方改革を実行し、「日本で最も働き方改革が進んだ企業」を自認する私たちにとって、内部の環境を整えたり、さまざまな段取りをしたりと、陰になり日向になり活躍してくれる存在は欠かせません。
今回ご紹介する山田由紀も、ワークスタイリストのひとりとして活躍中です。
以前実施した社員の座談会「コンサルティングを行う私たち自身の働き方改革最前線」にも登場し、「元・専業主婦としての視点」を活かしながら社会を変える一翼を担う日々について、コンサルタントたちと語り合いました。
2018年に弊社に入社するまでの7年間、専業主婦として過ごしてきた山田が一念発起して再就職したきっかけとは、何だったのでしょうか。また、「家庭も仕事も手を抜きたくない」という彼女は日々どんな課題に直面し、どんな工夫をして乗り切ってきたのでしょう。
山田家の経験を紹介しながら、「働きたいと思う女性がやり甲斐を持って働ける社会づくりに必要なこと」を考えてみたいと思います。
仕事もしながら家事育児を両立したいと考えていた。でもそれはとても難しかった。
大学を卒業後、小売業と旅行業の2業種で働いていたという山田。長男を出産したときに仕事を辞め、その後の7年間を専業主婦として過ごしました。
「以前の職場はどちらも残業が多く有休も満足に取れない日々。当時はそれが“普通”でしたし、多忙ながらも責任のある仕事にやり甲斐を感じていました。そんな環境の中で、夫の転勤と第一子出産という大きなライフイベントが同時に発生しました。私も仕事を続けようか悩みましたが、職場はまだ制度が十分に整っておらず、職場にも迷惑を掛けてしまい、家族にも負担を強いてしまうような気がして、とにかく母親業を最優先にしたい!と思い退職しました。今思い出せば、当時は同世代の同僚や友人も同じよう出産を機に仕事と家庭の両立に悩む人が多かったですね。」
8歳の遼太くん、6歳の慶太くんと。「“おやつも料理も手作りし、何もかも完璧な主婦”だった母に育てられ、私自身も母親になったらそんな風にしたいと思っていました」
仕事から離れ、日々成長していく子どもたちと過ごす時間は何ものにも代えがたく充実していて、「今が一番幸せ」と幸せを噛みしめる瞬間も多かったそう。しかし同時に「働いていないことで社会から取り残されている焦りや社会貢献できていない罪悪感、将来へ不安を感じることもありました」と振り返ります。
そして「自分でも“よくばり”だなぁと思うのですが」と前置きしたうえで、こう続けました。「社会に出て働きたい。“両親が共に働き協力しながら家庭を築く姿”を息子に見せて、彼らが大人になったとき、仕事を続けるパートナーの女性と協力しながら家族を持つこと自然にできるように、働く母のロールモデルになりたい、と思いました。でも同時に、仕事を理由に子育てをおろそかにしたくない、家族との時間も大切にしたい。その両方を満たすことは簡単ではないと思いましたが、あきらめずにチャレンジしようと思いました。」
「親の生き方が子どもの価値観の基準になると思うと、私が働き夫婦で協力する姿を見せておきたい、でも、それで今の子どもたちと向き合えなくなるのはイヤだな、という葛藤がありました。仕事を始めた今は、“やりたい仕事に奮闘しながら、家事も育児も夫と協力して子どもたちも含めて家族全員でワンチームにしていこう”と思っています。この先は、働く母親が当たり前になっていく社会。だから今、私が子どもたちにとっての“当たり前”を見せていくんだって」
「働きたい」と希望するすべての女性が活躍するために必要なことは?
働きたい。子育てもしっかりがんばりたい。家族との時間を大切にしてこそ、心置きなく働けるし、暮らしも仕事も充実させられる──そう願うのは、本当に“よくばり”なのでしょうか。すべての女性、いえ、男性を含む誰にとっても、「家庭も仕事も、どちらも重要」と考えるのは当然だと思います。
では、「現在は主婦として子育てをしているけれど、仕事もしたいという意欲を持つ人」が実際に社会に出て活躍するために必要なこととは何でしょうか。
山田いわく、「まずは本人の意欲と責任感。家庭を大切に思うのは誰しも同じなので、“子どもがいるから”というのを言い訳にはできません。でも同時に、子どもが小さいうちはお迎えや日々のケアが必須だし、病気になれば通院も。残業のせいで家族の食事が用意できないのも母としては困ります。そういう点については、職場の制度がしっかり整っていて、周囲の理解が得られる職場環境も重要です。さらに、小さい子がいるなら保育園・幼稚園の確保が必須ですし、そして何よりも夫との協力体勢をいかにして構築するかも大きなポイントです」
貴重な戦力として女性を活用するために、これからの企業に必要な工夫
意欲と責任感、職場の制度、預け先の確保、夫との協力。ひとつひとつを詳しく見ていきましょう。
入社直後から重要な仕事を任され、同僚の信頼を得ている山田。彼女が最初に挙げた「やる気と責任感」を十分に持ち合わせていることはすぐに伝わってきます。
どうしてこの仕事をやろうと思ったのか、山田に聞くと、一度仕事から離れた主婦経験を経て、自身の子どもの将来を見据えたからこそ気づいた動機がうかがえる。 「私に限らず、もう何十年も前から社会では女性の活躍が謳われていたのに、実際、仕事と育児を両立しようとすると厳しい保活を経て時間に追われる毎日が待ち受けています。一方で、女性が育児に専念しようと一度離職したら今度は再就職が厳しいという、子どもを持ちたいと願う女性にとってとても厳しい社会でした。個人の健やかな暮らしのためにも、社会の少子化改善のためにも、この課題を未来に残したくはなく、しかも今すぐにやらなければいけない、と突き動かされました。誰もが自分の人生を自らの意志で選択できる社会をつくりたいという思いになって、自然とうちの会社にたどり着きました。やることはいっぱいありますが、全ては子どもたちが生きる明るい未来のために頑張ります (笑)」
「職場会社の制度」については、弊社の工夫をみなさまにもシェアし、ぜひ参考にしていただきたいと思います。実際に、山田も弊社の制度を活用したことで、平日の幼稚園行事にも休むことなく全て参加することができたそう。
●子育て中の社員も仕事に邁進できる、弊社の工夫
・残業はゼロ。全社員が定時で必ず帰ります
残業は「しなくていい」ではなく、「禁止」。決まった時間内に業務を完璧に終えるための工夫やしくみも多々あります。そうしたノウハウはすべて働き方改革のコンサルティングにも活かし、「生の経験」としてお客様にお伝えしています。
・育児休暇は男性社員も100%取得しています
男性育休100%宣言については、こちらhttps://work-life-b.co.jp/mens_ikukyu_100/にも詳しくまとめています。みなさんの組織でも、ぜひ100%取得を目指してください!
・年次有給休暇は全社員が100%取得、「新しい休み」も試用中
弊社で現在試しているのが、有休に加えて取得できるフレキシブルな「新しい休み」。年間270時間以内を15分単位で取得でき、「通院で3時間だけ休みたい」「早退して美容院に行きたい」「子どものお迎えで30分早く帰宅したい」など自由な休み方ができます。山田も弊社の定時である18時より1時間早い17時まで勤務して子どもとの時間を作るようにしており、「通常の時短だと給与にも影響しますが、新しい休みを活用すればフルタイムと同じ。仕事への影響も出ないように自分で工夫ができるので、とても画期的な休み方だと実感しています」
・Web会議、朝メールの活用などでいつでも在宅勤務ができます
新型コロナ対策で急きょ在宅勤務に切り替えたりオンラインで会議やイベントを行ったりした企業は多く、「なかなかうまくいかない」という悩みも多数寄せられています。弊社では普段から「朝メールドットコム」やWeb会議など、いつでも誰でも在宅でテレワークできるしくみを整えています。
子どもを預けるなら幼稚園?保育園? 自由な選択ができる社会に
「子どもの預け先」については、特に大きなこだわりがあったといいます。それは、「夫も小さい頃に通った幼稚園にそのまま通わせたい」というもの。山田が弊社に就職した際、長男の遼太くんはすでに小学生でしたが、慶太くんはまだ幼稚園児でした。
「フルタイムで働くなら保育園を選ぶのが一般的ですが、私はどうしても六木(むつぎ)幼稚園を卒園させてあげたかった(笑)。園長先生は夫の同級生のお母さまということもあり、昔から山田家がお世話になってきたご縁がありました。それだけでなくご家族で運営されている園長先生をはじめ先生方の子どもたちとの関わり方といい、広々とした園庭といい、本当にすばらしい幼稚園なんです。慶太にとって、私が仕事に出るだけでも大きな変化なのに、その上もし先生やお友達まで変わっていたら、大きなストレスだったろうなと。子どもにとって、一日の大半を過ごす場だからこそ、仕事を始めても信頼できる幼稚園に安心して子どもをお願いできたことは本当に心強く感謝するばかりです。また、弊社の新しい休みを使って、仕事をしながらでも平日の幼稚園行事に全て参加し、その他でも時折子どもの様子を見に行くことができました。私が幼稚園に顔を出すと息子も嬉しそうに喜んでくれて、それだけで母として幸せな気持ちになりました」。」
今年で43年目を迎える六木(むつぎ)幼稚園の園長・星野紀子先生。ご自身も三人の子育てをしながらご主人と二人三脚で幼稚園を運営されただけあって、働くママへの理解もあります。「慶ちゃんママはとても真面目で、仕事も子育ても一所懸命。いつも “すみませ〜ん!”って小走りにお迎えに来るの。謝る必要ないのよ〜、家事だって常に完璧にしなくたって大丈夫よ〜、なんてよく話してましたね」
広々とした園庭に、魅力的な遊具がたくさん!「今日は何で遊ぼうかな〜と考えるところから子どもの夢は始まっていますから。遊び方やお友達との付き合い方は年齢に合わせて丁寧に教えますが、あとは自由。たとえば自転車にはここでの3年間で全員乗れるようになるんですけど、後ろから手を添えるなんて、しません(笑)。みんな勝手に乗って、転んで、乗れるようになる。私たちは見守るだけです」と笑顔で語る園長。「この幼稚園以外には考えられませんでした」という母の気持ちに納得です。
●共働き家庭の保育事情。幼稚園も選択肢のひとつになり得ます
保育園と幼稚園。かつては、「共働きの家庭なら保育園一択」でしたが、待機児童の問題が浮き彫りになって以降、幼稚園を管轄する文科省でも「預かり保育」を推進しています。預かる時間や曜日は地域や保護者の要請によってさまざまで、具体的な取り決めも施設ごとに異なりますが、中には早朝から20時まで保育してくれる幼稚園なども。ちなみに六木幼稚園では、通常の平日保育時間が10:00〜14:30、「預かり保育」を利用すると朝は8:00〜9:00の間に預けられ、夕方は18:30まで見てもらえます。 仕事をしていても子どもは幼稚園に通わせたいと考える方にとっても、待機児童の解消の観点でも、幼稚園という選択肢も有効だと思います。
※2019年10月からは幼児教育・保育の無償化が始まっています。詳しくはこちらhttps://www.youhomushouka.go.jp/をご確認ください。
卒園後も遊びに来る子どもたちや、毎年先生たちが手作りで大きな打ち上げ花火を準備してくれる「なつまつり」に訪れる家族も多いという六木幼稚園。この春から小学生になる慶太くんも、お兄ちゃんの遼太くんと一緒に、この先も遊びにくることでしょう。子どもの成長を家族のように見守ってもらえる安心感は、働く親にとってありがたいものですね。
主婦が働き始めたら家事の分担はどうする? 夫との話し合いと協力
最後に「じつは、結果的に一番大変だったのがこれかもしれません!」と苦笑交じりに語ってくれた、「夫との協力」について。「夫はもともと家事にも育児にも協力的なほうで、私が専業主婦のときも積極的に子どもの世話をしてくれていました」。彼女が正社員として再就職する、と決めたときもご主人は理解を示し、応援してくれたといいます。
「でも実際に就職してみたら、しばらくはケンカばかりだった」という、その理由は何だったのでしょうか。二足のわらじを履くことで忙しくなった妻へのストレス? 子どもとの時間が少なくなったことへの不安? それとも、夫が家事を手伝ってくれない不満?
山田は少し考えてから、「どれも少しずつ当てはまりますが、それより自分自身の気持ちの持ちようが大きかったかも」と分析します。
「専業主婦なら日々の家事育児をこなせますが、仕事を始めると今までのようにはできなくなってしまいます。できないことに負い目を感じている中で、手が回らなくなった家事に対して夫が何気なく言った一言に過剰に反応してしまったし、どこかで“もうちょっと理解して、協力してくれてもいいのに”という気持ちもあったと思います。それぞれの生活が変化する中でお互いの気持ちを思いやれなくなっていた時期がありました。」
完璧主義の真面目な人ほど、同じような気持ちに陥りがち。もともと共働きの家庭なら、妻が出産を経て職場復帰したときに、夫と協力体勢を築くのは比較的容易です(もちろん、男性が育休を取得できるように会社のバックアップが必須ですが!)。でも、山田家のように専業主婦だった人が就職した場合には、夫と改めて「役割分担」を相談しておく必要があります。互いにムリのないよう、そして互いを助け合えるよう、夫の理解と協力は不可欠なのです。両親のその姿を子どもたちが見ているのです。
負担を少しでも減らしながら家族の食事をしっかり用意するため、使いやすい圧力鍋や食洗機などを購入するなど、“賢く手抜きする”ことも夫婦で相談しながら実践中。「幼稚園の園長先生からも“全部が完璧でなくていい。ま、いっか!が大事よ”とよく声を掛けていただきとても心が軽くなりました。」
現在はサポートし合いながらうまくやっているという山田夫妻。「相手へのお願いや感謝も具体的に伝え合うようにして、互いを理解できたかなと思います。夫が『妻のトリセツ』を自分から読んでくれたこともひとつのきっかけになったかも。会社の上司の机の上に置いてあるのを偶然見て、お借りしたんですって。それで、私にも『夫のトリセツ』を買ってきて、“読んで!”と(笑)。互いに話し合うことはもちろん大事ですけど、第三者からの言葉のほうがしっくりくることもありますよね」
「夫が在宅勤務をするときなどは、私が外で夫が家という、今までと逆になる機会も出てきて。帰ったらご飯ができているし、夫が子どもを迎えに行ってくれるおかげで仕事後も焦らず帰宅できるし、すごくありがたかったです。実際に立場が変わるとわかることがあって、何事も当たり前だと思わず、“ありがとう”と伝えることって本当に大切ですね。」
「子育て中の主婦が働きたいと思っても、実際は難しい。ずっとそう思っていましたが、今は世の中も少しずつ状況が変わってきています。私も幼稚園にあずけながら、正社員として働くことができるようになりました。弊社での業務を通じて、企業や社会が変わる瞬間を日々目の当たりにしています。働きたいママたちは、あきらめず前に踏み出してほしいと思います」と語ってくれた山田。
私たちも、そんな女性たちをバックアップできるよう、組織での女性活躍推進に向けてますますサポートしていきたいと思います。
「母として、たとえばPTAの役割を積極的に果たすことも大きな経験になりましたが、社会に出て多様な価値観の方とふれあう日々はそれとはまた違う刺激と変化を与えてくれます。子どもと過ごす時間を確保するべく、時間当たりの生産性を上げながら働くことが当たり前になっていますし、自分のためにも家族のためにも、再就職して本当によかったです」
●女性活躍推進をはじめとする、研修・講演・コンサルティングなどのお問い合わせはこちらから。 オンラインでの研修・相談も承っております。お気軽にお問い合わせください。
撮影/SHIge KIDOUE
文/山根かおり