Case Study

社会を変えるイベントレポート

現在の日本では、民間企業だけでなく地方自治体でも働き方改革の推進が求められており、すでに取り組みを実践した自治体では、続々と成功事例も生まれています。そういった事例を共有するため、2023年7月31日に「自治体改革に挑む! 首長のリーダーシップと現場職員の熱意でスタートした働き方改革」と題するオンラインシンポジウムを開催。千葉県、掛川市による実践事例をご発表いただきました。その内容をお伝えします。

自治体改革に挑む!首長のリーダーシップと現場職員の熱意でスタートした働き方改革

オンラインセミナー
自治体改革に挑む!
首長のリーダーシップと現場職員の熱意でスタートした働き方改革

冒頭挨拶 ㈱ワーク・ライフバランス代表取締役 小室淑恵

◎自治体の働き方改革は“待ったなし”

小室:本日は、ご参加くださいましてありがとうございます。私たちの会社では 3000 社の企業の働き方改革、そして自治体、中央省庁、公立・私立の学校といった、さまざまな働き方改革のコンサルティングを提供してきました。本日貴重な事例をお話しいただく予定の千葉県では、2022 年にコンサルティングをご依頼いただき、お手伝いをしています。また、掛川市でも弊社のコンサルタント松久晃士がDX推進員に就任しており、働き方改革をお手伝いしています。

各自治体をお手伝いする中で、今、自治体は変革が重要なタイミングを迎えていると感じています。前例踏襲では解決できない新しい課題がどんどん出てきていて、「住みやすい、ここで暮らしたい」と思われるようなまちづくりが求められています。

その中で、自治体では優秀な人材の確保が大変難しくなってきている現状もあり、総務省の調査によると8割の自治体でメンタルヘルス不調の方が増加傾向というデータも報告されています。働き方改革はもう待ったなしの状況です。

民間企業に目を移すと、2019年の労基法改正をきっかけとして、働き方改革に本気で着手する企業が多数出てきています。私たちもたくさんお手伝いをしており、実際に取り組んだ企業の業績は大きく上がっています。また、出生率が上がり、優秀な人材も確保するなど、成果にしっかりつなげています。

自治体も民間企業と人材を奪い合っているわけですから、変革の必要性は当然高まっています。ただ、自治体の皆さんとお話をしていると、「住民のために働く公僕」という意識の中で、仕事を減らしたり前例のないことを始めたりするのはハードルが高いという声も耳にします。そこで今日は、トップの決断のポイントやマネージメント層による具体的な実践方法などについて、取り組みを進めていく上でのヒントや工夫をご発表いただきたいと思います。


◎さまざまな手法で自治体の改革を支援

私たちは千葉県や掛川市以外にも、三重県、富山県、福井県、盛岡市、会津若松市、四條畷市など、多くの自治体の働き方改革の支援を行ってきました。働き方改革のコンサルティング、DX推進、男性育休100パーセント宣言、勤務間インターバル宣言など、いろいろな手法で改革を支援できますので、いつでもお問い合わせいただければと思います。

働き方改革は1回の研修では限界があり、長期的に取り組むことが大事ですが、1回の研修の予算しか取れないということもあると思います。そういった場合は、その研修を進めながら、同時に時間をかけて本気で取り組めるような仕組みを提案したり、相談に乗ったりすることができます。

弊社には、自治体の取り組み支援を生きがいとするコンサルタントが揃っています。ぜひ、お気軽に声をかけていただき、全力で伴走させていただければと思います。本日はどうぞよろしくお願いします。


ゲスト登壇① 千葉県知事 熊谷俊人様

事例1

▼千葉県庁様の事例紹介ページはこちら 
「他県にできるなら千葉県にできないはずがない! 事務局の細やかなサポートとモデル3課の活躍で大きな一歩を踏み出した千葉県庁」


働きやすい職場づくりの取組について

◎常に新しいことにチャレンジする

熊谷知事:私は元々民間企業で働いていて、千葉市長を経て現在は千葉県知事を務めています。千葉市でも働き方改革に取り組んできましたが、新型コロナウイルス感染拡大の中で働き方の概念が大きく変わりつつあります。DX・デジタル化も非常に速い速度で進んできて、今まで以上に働き方改革を進める土壌が整ってきたと思います。決して先駆的な取り組みではありませんが、どのような形で我々が取り組んできたのかをお話したいと思います。

県庁公務員は、基本的には定年退職するまで非常に長いスパンで働きます。その間には、出産や介護などいろいろなライフステージがありますので、どんな変化があっても働き続けられる環境を作ることが大事です。また、県民に対するサービスを最大化し、スピード感と生産性の向上を図っていくためには、常に新しいものにチャレンジをしていく組織風土が必要です。そういった観点から、働き方改革以外にもさまざまな取り組みをしています。


◎業務改善の支援と幹部の意識改革に取り組む 
令和4年度はワーク・ライフバランス社に支援いただきながら、3つの所属を対象に業務改善の試行を実施しました。業務の可視化やビジネスチャットの活用、共有フォルダのルール化など、小さな取り組みを積み重ねた結果、ある所属では時間外勤務は約8割、紙使用量は22箱分を削減できました。今年度は取り組みを横展開するとともに、業務改善しやすい組織風土づくりに着手しています。

事例2

まずは全庁に対して業務上の課題を寄せてもらったところ、本庁だけでも約800件もの課題が出てきました。デジタルを活用して課題を解決していくために、各部局にDX推進リーダーを配置しました。また、新しくデジタル化支援室を設置し、民間アドバイザーと連携しながら各部局を支援しています。

全庁一丸となって組織風土の改革を進めていく上では、ボトムアップとトップダウン両方が必要です。幹部の意識改革を進めるために、先進的な民間企業の方々による働き方改革セミナーを実施しました。アジャイルや業務効率化、オフィス改革の取り組みなどの話をお聞きして、チャレンジ精神やトライアンドエラーの重要性を学んでいます。

◎テレワークの推進
テレワークに関しては、まずは週1回程度を目標に取り組んでいます。私自身も出張の車中で部下からのレクチャーを受けることがあります。これまでは自宅と介護先がテレワーク可能な場所でしたが、実施場所の拡大も行いました。千葉県にはワーケーションに適した自然豊かな場所がたくさんありますし、コワーキングスペースで多様な人たちと一緒に働くことも可能になっています。


◎男性育休の推進
男性職員の育児休業取得率は、私が就任する前に27.6%でしたが、2年で66.7%まで向上し、今年度もさらに伸びています。今後すべての男性職員が取得できるように、管理職、幹部職員の意識改革も進めていきます。育児休業を希望しない職員に対して「どうして取らないのか」と聞いたり、そういう職員がいる所属にアドバイスを行ったり、職員御助会と連携して育児休業支援金を支給するなどの支援も行っています。

事例3

男性の育児休業取得率は、あくまで1つの目安であり、子どもが小学校になっても男性職員であっても、早く帰ったり休みを取ったりできる環境づくりが大事です。育児や介護に関わる人、そして子どもを持たない人も含め、それぞれのライフステージで必要な休暇を取得できる職場環境を作っていきたいと考えています。


◎働き方改革に向けた新たな取り組み
(フレックスタイム制)
フレックスタイム制については、令和4年12月時点で国や12の都県で導入済みとなっており、千葉県も導入に向けて検討を進めています。すでに時差出勤やテレワークを導入していますので、できる限り多様な働き方ができるようにしていきたいと思います。職員が柔軟に働ける環境を増やすことが、最終的には優秀な人材確保や県庁能力の向上にもつながっていくと考えています。

(オフィス改革)
千葉県庁は今後の庁舎整備も予定していることから、一部の所属で試験的にフリーアドレスの実証実験を実施し、オフィス改革にもチャレンジしていこうと考えています。また、庁内では幹部もチャットによるコミュニケーションを行うようになっており、市町村や外部事業者との連絡手段にも使おうとする試みが始まっています。簡単に情報共有やコミュニケーションができる状態を目指しています。

(知事と若手職員のランチミーティング)
私は就任してから若手職員と定期的にランチミーティングを行っており、今まで100人ほどが参加してくれました。その中で、例えば育児の部分休業を取っている男性職員から、「今の制度だと小学校入学前までだけど、小学3年生ぐらいまでは必要じゃないか」という声が上がりました。それを受けて、延長に相当する休暇の新設に向けて検討を始めています。


◎インプットを増やして働きやすい県庁を目指す 
県庁で制度を担当している部署には、「働き方改革にチャレンジしている行政機関や民間企業の話をもっと聞こう。インプットを増やして、千葉県庁に適した働き方改革や、新たな取り組みのアウトプットを出していこうよ」と話をしています。しっかりインプットするのと同時に、現場で働いている職員たちの想いを吸い上げていく仕組みを作り、1歩ずつ働きやすくて生産性の高い県庁を目指していきたいと思っています。


(質疑応答)

質問者①:トップダウンの改革が現場の職員の負担になっていることはありますか。また、学校現場などでは浸透しているのでしょうか。

熊谷知事:現場の負担にならないようなコミュニケーションを心掛け、無理に一気に進めるのではなく、1歩ずつ取り組んでいます。その点では、ワーク・ライフバランス社さんが入ることで、いろいろなサポートをしていただいていると認識しています。

学校現場では、どうしても現場の皆さんだけで働き方改革を議論しがちですが、外部視点で見ると「そもそもその業務をやめてもいいのでは?」ということがあります。そこで今年度は、外部の人たちに参加してもらう形での業務改善を進めています。最初は若干の負担がかかると思いますが、最終的にはトータルでの現場の負荷軽減につながると考えています。いずれにしても、現場では意味がないけれど対外的な発信を意識した取り組みは避けるようにしています。

質問者②(高際みゆき豊島区長):豊島区でもDX推進をいろいろ行っていますが、どういう観点で進めていけばよいのか難しさを感じています。県庁で一番力を入れている取り組みをお聞かせください。オフィス改革についても、これから注力したいことがあれば教えていただきたいと思います。

熊谷知事:DXについては、DX部門がいきなり考えてもうまくいかないケースが多いと思います。まずは現場でどういう課題があるのかを把握し、それをDX的に解決するというニーズベースで進めようと話をしています。現在、本庁だけでも800件の課題を吸い上げたところであり、各局に配置している推進リーダーが1個1個の課題を見て、優先順位の高いものやDXで解決できる案件を選ぶところから着手しています。

オフィス改革においては、ハードから入りがちですが、そのためには仕事の仕方そのものを変えなければならないことが、これまでの研究でわかってきています。まずは県庁内で比較的対応しやすい仕事をしているところからオフィス改革に取り組み、その知見を全庁に広げていくつもりです。ちなみに、千葉市役所は庁舎の建て替えと同時に、全面的にフリーアドレス制を取り入れて頑張っています。その好事例や課題なども参考にしたいと考えています。


◎担当したコンサルタント永田瑠奈のコメント

永田:これまでいろいろな自治体を担当してきましたが、自治体にとってフリーアドレスは腰が重い取り組みではないかと感じています。すでにそこに着手されたということで、これからの千葉県の働き方がますます楽しみです。

また、若手とのランチ会の取り組みも本当に素晴らしいですね。現場の皆さんの生の声には改革のヒントがたくさん詰まっていると思いますし、知事自らがその声を取りに行くことで現場の皆さんに本気度が伝わり、大きな勇気づけになっているのではないでしょうか。


ゲスト登壇② 千葉県担当者 岡野様

千葉県庁での「デジタル化推進・業務プロセス改善」の取り組みについて




やってみて分かった業務改善事業を成功させる5ポイント

◎これまでの千葉県の取り組み

岡野様:千葉県では平成30年から3年間、外部の専門家を雇用し、業務改善アドバイザー事業として、県庁内で特に要望の多かった整理整頓、会議の効率化などの支援を行いました。令和2年度には業務フローを可視化し、改善点を見つける業務プロセス改善(BPR)事業を実施、令和3年度は前年度の事業のフォローアップをしつつ、事業の良かった点、見直すべきと感じた点を踏まえ、令和4年度にデジタル化推進・業務プロセス改善に係る課題解決支援事業を実施しました。そして今年度は、デジタル化・プロセス改善アドバイザーを雇用し、積極的な庁内の支援を行っています。


◎「デジタル化推進・業務プロセス改善」事業の流れと重要なポイント
ここから令和4年度のデジタル化推進・業務プロセス改善に係る課題解決支援事業についてお話しします。
業務改善を外部に委託で行う場合、専門家に県の業務を客観的に見てもらい、改善点や改善方法を提案してもらう手法を検討することがあります。しかし、その場合、どうしても課題が自分ごとにならなかったり、提案を受ける改善点がずれていたりということが起こり得ます。そこで本事業では、外部の専門家から職員が自分の業務の改善点を見つける方法や変えていく方法を教えてもらうことを主な目的とし、仕様にも明記しました。

事例6

この仕様を踏まえ、プロポーザルで委託事業者を公募し、ワーク・ライフバランスさんが提案くださった手法が目的達成に有効であると評価したため、選定させていただきました。今回の事業では、モデルチームすべてで成果が出ていますが、事業の目的を「自ら改善点を見つけ、変えていく力をつける」に重点を置いたことが大事なポイントだったと思っています。


◎モデルチーム選定のポイント
モデルチーム選定にあたっては、手上げ(立候補)で3チームを募集しました。その際、「今の仕事のやり方を変えたいと思っている」「事業の参加に対し、上長の了解を得ている」といった応募条件をつけました。
モデルチームを選ぶときに、必ずと言っていいほど「忙しくてやる気のないチームこそ選ぶべき」「県庁で共通している業務を選ぶべき」という意見が上がります。これに対しては「まず成功事例を作ることが大事である。確かな好事例ができれば、今後の展開につながる」と説明しました。モデルチームの選定は本当に難しく、先行して実施している他県の方々に先行のポイントをお聞きしました。結論としては、最初のモデル所属はやる気のあるチームでいいと言えるかと思います。

事例6


◎取り組みの流れ
チームが決まったら、取り組みを始めていきます。まずキックオフ研修でありたい姿を設定。日々の業務の見える化を行う“朝メール”、自分たちが今解決したいものは何か、誰が何をどうやって進めていくかを決める“カエル会議”に取り組んでいきます。
各自で1、2週間に1回実施するカエル会議のうち、月1回はワーク・ライフバランスさんと事務局が同席する定例会となります。自分たちで行うカエル会議だけでは、どうしても活動が止まってしまったり、議論が堂々巡りしてしまったりするけれど、定例会があることで突破できたというメンバーの声もありました。

事例7

カエル会議では、「仕事を見直して、余力を確保したい」「書類をはじめ、探し物の時間が長い」「同じ内容を何度も転記する作業をやめたい」といった意見が上がりました。これらの課題は、おそらくほとんどの職員が感じていることだと思います。ただ、それを口にしたり、ほかのメンバーに伝えたり、どうやって解決するかを決めたりすることは、なかなかできていないのではないでしょうか。今回の事業を通じ、普段考えていることを話し合う時間を持つことの重要性を実感しました。


◎自分ごととして改善策を考える
課題がきちんと自分ごとになっているから、実行できる改善策が出てきます。「ペーパーレスを進める」「WordやExcel、チャットをもっと活用する」など、一見するとよく言われている、簡単なことのように思えるかもしれません。しかし、外から言われてもなかなか実行できないことが多い中、この事業ではきちんと実行され、改善に結びつきました。

最近はデジタル化・DXという言葉が重視され、どの自治体でも取り組んでいると思いますが、デジタルツールの導入が主眼となっていて、働きやすくなっているという実感がないということがあるかもしれません。カエル会議で出てきた改善策を見ると、デジタル化を前面に押し出した事業でなくても、業務の効率化をしようとすると、結果的にデジタル化が進むことがわかりました。

事例8

◎成功事例ができると自然と広がっていく
取り組みが全庁的であることを示すためにも、モデルチームの職員のためにも、報告会の実施は大変重要です。中間報告会をきっかけに、所属長へ取り組みの進捗を共有し、コメントをいただきました。また最終報告会では熊谷知事からあいさつをいただき、取り組みについて説明する時間をいただきました。報告会を活用しながら、多くの関係者を巻き込み、庁内外に発信していくことがとても重要です。

こうした取り組みをきちんと行っていると、確実に成功事例につながります。成功事例ができたら取り組みを広げる段階に入っていきますが、きちんと事例ができていれば、自然と広がっていきます。例えば、子育て中の職員が中心となって仕事と家庭の両立について検討するプロジェクトチームで、朝メールやカエル会議などの業務共有化は庁内へ展開させるべき活動であるとして、県幹部に報告いただいたということがあります。

取り組んだチームは成果が出ることで「これからもやっていこう」と思いますし、報告会で成果をリアルな声で伝えてもらうことで、「自分たちもやりたい」という声を拾うことができます。次はそういったチームをモデルチームとして継続する方法も選択肢の一つとなります。事務局としては「全庁に波及させなくては」と力が入ってしまうかもしれませんが、まずはきちんと確実に成功事例を作っていくことが大事だと考えています。庁内でさまざまな部署の成功事例を積み重ねていくことで、全庁展開への課題やヒントが見えてきたり、当たり前に働き方改革の議論が繰り広げられる職場がおのずと増えていくことをお伝えしたいと思います。


◎取組を進める上での3つのポイント
最後に、事務局を1年間やってみてのポイントを3点まとめました。1点目は「解決するのは自分たちであると自信を持つと良い」です。委託事業だからと事業者からの助言を待つのではなく、自信を持ってどんどん主体的に動いてください。2点目は「庁外への発信は積極的に行うと良い」です。 プレスリリースなどを行うことで、結果的に庁内の人に取り組みを知ってもらえます。千葉県では、2022年度にワーク・ライフバランスさんから広報についてもアドバイスをいただき、積極的に発信をしたことが大変有効だったと感じております。3点目は「取組の初期から、幹部の巻き込みをできるだけやると良い」です。取り組みを後押しするコメントを直接もらえることで、全庁展開への波及や、モデルチームの職員のモチベーションを高めることにもつながります。


(質疑応答)

質問者①:「上司への相談や報告は対面でないと失礼」との認識が上司・部下ともにありますが、意識改革はどのようにされていますか。

戸崎様(千葉県デジタル課支援室長):ビジネスチャットは、やはり幹部に積極的に使ってもらうことが最も効果的です。県庁内では幹部の方がチャットで気軽に話をしています。そういった姿を見ることで、「幹部にチャットを送るのは失礼ではない」という意識が出てきたと感じています。部下が思っている以上に、上司、幹部の方は意外にチャットやLINEなどテキストメッセージのコミュニケーションを抵抗なく使いこなしていると思います。

質問者②:自前ではなく委託されて良かった点はありますか。

岡野様:職員が自分で課題を見つけて解決策を提案できることをねらいとしていましたが、そのための話し合いを回すところでサポートをいただきました。意見を言いやすい雰囲気づくりだったり、意見をまとめる手法に関しては県職員にはないスキルだったので、本当によかったと感じています。また、他県や他社の事例をたくさんお持ちだったので、困ったときに、「他県ではこうやっています」「他の会社ではこうやっています」という事例をたくさんいただけたところが良かったと思います。


◎担当したコンサルタント 山﨑純平のコメント

山﨑:サポートさせていただく中で特に印象的だったのは、「半年間でチームって変われるんだな」というメンバーからの言葉でした。「取り組み当初は懐疑的だったけど、やってみたらどんどんいい成果が出てきて嬉しかった」という言葉をいただいいたことです。
また、私たちの支援の手を離れても週 1 回カエル会議を続けてくださっています。その秘訣をお尋ねすると「人事異動でメンバーが入れ替わっても、業務改善の必要性を全員で確認しているからだ」とおっしゃっていました。根本的な必要性の理解から進めることが大事なのだと改めて感じました。


ゲスト登壇③ 掛川市副市長 石川紀子様
職員の力を最大限に引き出す全庁改革にチャレンジ




掛川市について
石川様:
私は新卒でNECに入社し、20年間勤務していました。そこでの経験を別の業界で活かしたいと考え、掛川市の副市長の公募にチャレンジしました。現在ではDX、広報・シティプロモーション、働き方改革、ダイバーシティの4つのテーマを主にリードしています。

掛川市は日本の真ん中ぐらいに位置する、静岡県西部のまちです。新幹線が停車し、高速道路のインターチェンジもあり、30分ほどクルマで走ると空港もあるなど、とてもアクセスの良い環境です。人口は11万5000人ほどで、お茶のまちとして有名であり、他にもさまざまな産業があります。また、掛川城をはじめとする観光地も多く、賑わっています。地域の皆さんがまちづくりにとても積極的で意識が高く、日本一ごみの排出量が少ないまちでもあります。


◎全庁改革プロジェクトを始動
そんな文化や産業や住民意識の高い掛川市ですが、やはり人口減少は喫緊の課題です。誰からも安心して選んでいただけるまちにするために、掛川市では「全庁改革プロジェクト」を立ち上げて始動しています。これはまさに市役所改革であり、市役所の職員一人ひとりが最高のパフォーマンスを発揮し、働く人に選ばれる市役所になることを目指し、トップダウンで改革を進めています。

掛川市の全庁改革プロジェクトには、コミュニケーション、DX、働き方という大きく3つの軸があり、その中心にウェルビーイングを置いています。市民の皆さんのウェルビーイングを実現するために、市の職員1人1人がウェルビーイングであることがとても大事だということです。本日はその中でも働き方中心にお話をしたいと思います。

事例10

◎働き方改革3つのポイント 
働き方改革では、働きやすさと働きがいの両方に注力して進めていますが、そこで大きく3つ大切にしていることがあります。1つはトップの本気度です。トップが本気になるのはもちろん、その想いを職員一人ひとりと共有し、共感してもらえるようなコミュニケーションを日々行っています。例えば、部長会や部課長会などで職員と対話をする機会には、市長を中心に必ず改革の話をしてもらうようにしています。副市長として、私もメッセージの中に盛り込んでいます。

そして、トップの本気度と同じぐらい大事なのが職員一人ひとりの声です。いくら強烈なリーダーシップがあっても、職員の声を聞かずに現状と乖離した取り組みをやっても効果は出ません。掛川市役所ではサーベイという形でアンケート調査を行い、職員一人ひとりの声を吸い上げて分析し、全庁でオープンに共有しています。その中で優先して解決すべき課題や解決策、解決のスケジュールも職員全員と共有しています。アンケートで収集できない声は「モヤモヤ相談窓口」を設置して、対面やオンラインで職員の働く現状や率直な意見を集めています。

ウェルビーイングについては、1on1や私と職員とのスキップミーティングなどを通して、1人1人のウェルビーイングを達成できるようにコミュニケーションをとっています。


◎トップから率先して行動する
DXや働き方改革が大事だと言うだけでなく、幹部一人ひとりが自分事にしていくことがとても大事です。ワーク・ライフバランスの松久晃士さんに、幹部向け・職員向けに話をしていただくなど、幹部のマインドセットを変える機会を作っています。また、10月のデジタルの日には三役がVRゴーグルを装着し、メタバース上で会議を実施するなど、トップ自らが新しい技術を体感し、働き方改革や行政の新しいサービスの在り方などを模索しています。

事例11

そして部長会の後には、チャットでのコミュニケーションやビデオ会議のやり方、スケジュール管理の方法をDX推進課のメンバーがレクチャーし、部長自らトレーニングする時間を作っています。


◎働く環境・制度の整備

事例12

職員一人ひとりのウェルビーイングを高めるためには、誰もが働く場所や働き方をフレキシブルに選択できることも大事です。掛川市は早くから無線LANやクラウド環境、デジタルツールの活用を始めており、かなり定着してきました。これらをさらに活用できるようにするため、平成30年度から時差勤務、テレワークも進めています。私自身も、月に3回以上は在宅ワークをしたり、春には沖縄県の久米島町でワーケーションをしたりと、いろいろな働き方を実践しています。

そして現在チャレンジ中なのが、さらなるペーパーレスです。庁内の資料はタブレットやパソコンで参照することを徹底しようとしています。また、固定電話の廃止やフリーアドレスにもチャレンジしています。

こういった取り組みを進めていく中では、組織文化を変えていくことがとても大事であり、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンを組織文化としてしっかり定着させることにも注力しています。



◎小さな成功体験を創出する

事例13

掛川市もワーク・ライフバランスさんにご尽力をいただき、カエル会議を進めています。そこで導き出した解決策を実践し、たくさんの職員に、小さくてもいいので成功体験を積んでもらい、少しでも多くのチェンジリーダーを発掘して育てていくことを目指しています。

例えば、私が就任してすぐ、職員の皆さんと話をする中で「とにかく庁内の職員同士の電話が多い。電話を減らしたい」という話が出ました。電話ではなくチャットを活用しようという発信をしたのですが、なかなか電話が減りません。よく観察していると、ほとんどの資料や掲示の問い合わせ先に電話番号が書いてありました。電話番号の記載をやめただけで、電話での応対は減りました。ちょっとした気づきや工夫で行動が変わり、課題解決となりました。その他にも、Teams上のオープンなコミュニティで問い合わせをし、回答を共有することで、同じような問い合わせを減らし、重複する対応の工数削減にもつながりました。

事例14

また、うまくいったTipsを庁内でシェアしたりTeamsの活用術をクイズ形式にしてランキングをつけてみたり、いい取り組みにはみんなで「いいね!」とリアクションしたり、職員同士で改革をポジティブに進めていく取り組みを全庁一丸となって行っています。


(質疑応答)

質問者①:働き方改革の意義について一人ひとりが理解して腹落ちするにはどうしたらいいですか。「うちでは無理」といった声はないのでしょうか。

石川様:職員の皆さんの意識や想い、今の働きやすさがそれぞれ違うので難しいと思いますが、チームという小さい単位で「自分らしく働くためにはどうしたらいいのか」を考える対話の機会を作っていくことが大事です。

また、なぜ働き方改革が必要なのかを1番初めにトップから職員の皆さんに共有することも大切です。掛川市では日々「小さなことから一緒に進めていきませんか」というコミュニケーションを行っています。

質問者②:ペーパーレス化をしても、結局「紙で出してくれ」と言われます。トップ層の人たちの意識改革はどう進めればいいのでしょうか。

石川様:まさに掛川市でも三役の中でも意見が分かれるところでしたが、やはりトップからやるべきだと考え、市長室、副市長室には大型モニターを設置して、基本的に室内ではペーパーレスにしています。それでもまだ職員の皆さんが気を使って紙で印刷してくれるのですが、そのときには「次回からはもう紙はいりません」「データが置いてある場所はどこですか?それをチャットで送ってください」といった声を掛けて少しずつ進めています。


◎掛川市の副業人材として市の職員でもあるコンサルタント 松久晃士のコメント

松久:掛川市では「対話」がキーワードにされています。掛川市はお茶が有名であることもあり「チャ」は「茶」で、「茶レンジ」「茶ンピオン」など。私は個人的に「は茶らき方改革」と言ってくださるようになるのではないかと楽しみにしています。この「対話」は本当に欠かせないキーワードであると私も実感しています。職員同士が対話を繰り広げる光景が増えているのではないかとも感じます。


▼その他の自治体のお取組み事例はこちら
https://work-life-b.co.jp/case/