社会の動向と対策
中央官庁・学校で働き方改革が進まない理由。
コンサルタントにできることは?
2018年12月17日
日本の働き方改革を加速させる鍵は中央官庁と学校にあり!
教育委員会や学校という場所では、働き方改革が遅々として進みません。それは一体なぜなのでしょうか。まずはその背景にあるさまざまな要因を考えておく必要があります。
国家公務員は労働基準法ではなく「国家公務員法」という法律のもとに働いています。働いた時間分の残業代が払われる仕組みはなく、かつ労働時間の法的な上限もありません。
年度始めに年間の残業予算が決められ、それを残業が発生した割合に応じて分配しているため、実際にどれだけ残業が増えたとしても残業代自体が増えることはなく、時間当たりの単価が下がるだけです。当然、残業を減らそうという意識が生まれるはずもなく、なんと労働基準監督署を管轄している厚生労働省が最も残業の多い省なのです。
そして、教員も通称「給特法(きゅうとくほう)」と呼ばれる「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」により、残業代に当たる「教職調整額」が月給の4%支払われることになっています。
しかしこの「4%」という数値は、国が教員の残業時間調査を実施した1966年当時の平均が月間8時間程度だったことを根拠に算定されたもの。文部科学省の教員勤務実態調査によると、中学教諭の6割が過労死ライン(月間80時間)を超えた残業を行っているのが現状のため、本来なら10倍が支払われるべきということになります。
中央官庁とのやり取りで発生する“上からの働き方破壊”
この2者の長時間労働は、企業にも強い影響を及ぼしています。まず中央官庁がもたらす影響について考えてみましょう。多くの企業が管轄省庁と何らかのやり取りをしていますが、ここでいわば“上からの働き方破壊”が行われることになります。
どういうことかというと、多くの官僚はいまだに生産性を一切意識せず、時間を無尽蔵に使おうという発想にあります。そうした相手と仕事をしていると、たとえば金曜日の夜に膨大な書類の追加提出要請が来て、締め切りは週明けの月曜日というようなことがよく起こります。
こうした管轄省庁からの急な依頼と短い納期に対応しているうちに、長時間労働が習慣化せざるを得なくなる民間企業は多く、この現象こそが“上からの働き方破壊”といえるのです。
学校で無意識的に起こっている“下からの働き方破壊”とは?
次に学校がもたらす影響について考えてみると、こちらでは“下からの働き方破壊”が起こっています。つまり、企業に入社する人材は、日本の教育のもとですっかり「一律管理型人材」に最適化してしまっている、という現象です。
働き方改革を考える際、「人口ボーナス期・オーナス期」 について知っておく必要がありますが、これを人材に置き換えると、人口ボーナス期(かつての日本)の企業で活躍できるのは「体力に自信があり、時間がかかる作業にも疑問を持たず耐えられて、他者から外れない行動を取れる人材」です。
一方、現在の日本は人口オーナス期に入っています。そんな時代の企業に必要とされるのは「知識やスキルを常に磨いていて、時間当たりの付加価値を高めることに意識が高く、多様な働き手と協働しながら他者にない斬新な発想を臆せず口にして、行動できる人材」です。
今、各社はマネジメント手法を変えて、何とか人口オーナス型人材を採用し、育てられる職場環境を作ろうとしているわけですが、そもそも学校教育の段階でその多くが人口ボーナス型に“矯正”されて社会に出ているのです。
現在の教育課程では人口オーナス型の才能を持つ子どもたちほど辛い環境に置かれ、「集団行動ができない子」として否定されて自己肯定感をなくし、社会に出るところまで辿り着くことさえも難しくなっています。もしくは、人口ボーナス型の教育に疑問を持ちながらも一律的に行動するスキルを身につけ、社会に出る頃には人口オーナス型の才能をどう発揮すればよいのか分からなくなっています。
人口ボーナス型人材に矯正してしまう教育は、長時間労働企業の経営者に悪気がないのと同様に、誰にも悪気はなく、むしろ使命感のもとで行われています。だからこそ、改革をより難しくしているのです。
社会構造が変化していることを教師自らが体感できる環境作り
かつて学校が担っていた最大の使命は、大量生産型社会に適応できる人材を育成することでした。社会に出て苦労しないようにそのルールを早くから子どもに教え、従わせる訓練を授業や部活動を通じて行ってきたのです。一律の物差しで優劣の順位をつけ、階層化された組織での位置づけを理解させました。
その使命を立派に果たし、「成功してきた教育プログラム」を真面目に学んだ教員にとって、学校とは「こういうもの」です。そんな中で、「本当にそうだろうか? 社会構造が変化しているのだから違うやり方をする必要があるのではないだろうか?」と疑問を持つことがどれだけ難しいかは想像にかたくありません。
教員が社会の変化を自ら体感し、人口オーナス型人材の本質や必要性を理解して初めて、今の教育に対して強い疑問を持つことができるはずなのです。しかし、当の教員自身が過労死レベルの労働時間で働いている現状では、「多様で枠にとらわれない人材こそが求められている」という社会の変化・本質に触れることすらできないのです。
中央官庁と学校を何とかしたい! 赤字覚悟で臨むコンサルティング
企業の働き方改革に伴走すればするほど、「中央官庁と学校を変革しなくてはならない」という弊社の想いは強くなっています。そんな背景から、2017年度は優先的に中央官庁・教育委員会・学校といった組織へのコンサルティングを行っていきました。
ただ、これらの組織では危機感を実感として持っている担当者に巡り会うことがまず難しく、奇跡的にそんな人材に出会えたとしても、その上層部には危機感がないことから予算はまったく取れないのが現実でした。
そこで私たちも「社会に大きな影響を与える組織の働き方変革のためだ」と意を決し、たとえ大赤字でも経験・実績の豊富なエース級のコンサルタントを担当につけて、本気で関わってきました。
働き方改革を「自分たちの問題」として意識しづらい地方自治体への対策
同様に、利益度外視でコンサルティングを実施しているのが地方自治体です。高齢化と人材不足が深刻化している地域ほど働き方改革は急務なのですが、「働き方改革は都会の大企業の話だ。自分たちには無縁の世界だ」と距離を置いて考える人が多く、なかなか第一歩が踏み出せません。
そこで弊社では2009年から、全国に約1,600人のワーク・ライフバランス コンサルタント養成講座卒業生を輩出してきました。当時は、卒業しても仕事がありませんでしたが、「必ず各地で働き方改革のプロフェッショナルが必要とされ、役に立てる時が来ますから、それまで経験値を上げながら頑張りましょう!」と励まし合ってやってきました。
中でも2018年度に登録数が50名を超えた「認定上級コンサルタント」は、各都道府県で地元企業と連携して、地域性に合わせたコンサルティングができるスキルをかなり磨いてきています。
現在は「ワーク・ライフバランス北海道」「ワーク・ライフバランス東北」「ワーク・ライフバランス北陸」「ワーク・ライフバランス東海」「WLBC関西」「ワーク・ライフバランスコンサルタント九州」といった組織を形成し、多くの地方自治体から委託され、弊社と連携しながら全国の中小企業の改革に深く関わっています。
究極的な目標は「働き方改革のコンサルタント」が必要とされなくなり、中央官庁も学校も、もちろん大企業も中小企業も地方自治体も、すべての組織で理想的な働き方が実現できていることです。実際のところその道のりはまだまだ長いですが、その理想が現実のものとなる日まで、各地域のコンサルタントと連携を深めながら前に進み続けなければなりません。