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なぜ今、「働き方改革」が急務なのか?
〜政府の動きと社会のニーズに対応するために〜

弊社代表・小室淑恵が安倍晋三内閣総理大臣に提言したこと

「理想的なワーク・ライフバランスを作り出す」「働き方を改革する」という使命を持って株式会社ワーク・ライフバランスがスタートを切った2006年。当時はまだ「ワーク・ライフバランス=女性の育児支援」という程度の、偏った認識しかない時代でした。男性も含む全社員の労働時間を改善する必要性を、ほとんどの日本企業が微塵も感じていなかったのです。

あれから10年の歳月が流れ、2016年。弊社代表・小室淑恵は安倍晋三内閣総理大臣から官邸に招かれ、「日本社会全体で働き方改革を進めることが急務であること」「日本の未来を救うためには、変革のタイムリミットはわずか数年しかないこと」「具体的にはどんな法改正が必要か」などをお話ししました。

なぜ今、働き方改革を推進する必要があるのか? なぜ、タイムリミットがあと数年しか残されていないといえるのか? 小室が、限られた時間内でデータや表なども駆使しながらご説明したのは、以下のようなことでした。

目指すべきは、夫も妻も喜びと余裕を持って子育てに関われる社会

長時間労働が常態化した社会では、「働くこと」と「子どもを育てること」のどちらかしか選べない状況になっています。人口のボリュームゾーンである団塊ジュニア世代の女性の多くが出産時期を先送りせざるを得なくなり、その世代が出産期を終えると母体数が激減する結果になります。

すると、未来の人口を増やすことはもはや不可能となり、年金の払い手も激減し、財政破綻へまっしぐら・・・。そんな絶望的な未来を避けるには、「今、出産したい」と思っている女性たちが迷わず生める環境にしなくてはならない。その出産期が終わるまでに、あと数年しか猶予はないのです。つまり働き方改革をこの国が解決すべき課題の優先順位トップに引き上げ、スピードを上げて本気で対策すべきなのです。

厚生労働省が同じ夫婦を11年間追跡調査したデータがあります。それによると、1人目が生まれた際に夫の帰宅時間が遅く、夫の家事・育児参画時間が短い家庭ほど、2人目以降が生まれていないことがわかります。

長時間労働社会のせいで、母親にとって1人目の育児が孤独でつらいトラウマ体験になってしまうことが真の少子化の原因です。つまり、女性の労働時間への配慮だけが重要なのではなく、男性を含めた職場全体、社会全体の長時間労働を是正しない限り、少子化の危機から日本社会を救い出すことはできません。

働き方改革に今すぐ本気で取り組まなければ、企業にも日本にも未来はない

2019年春に労働基準法の改定が見込まれていることもあり、社会はますます働き方改革の必要性に迫られていきます。「国がやれというから」「会社が取り組めというから」と、仕方なく働き方改革に乗り出す担当者も少なくないでしょう。「なんとなく流れに乗っておいて、”改革ブーム”が去るのを待とう」と考える方も、中にはいらっしゃるかもしれません。

しかし、働き方を改革し、ワーク・ライフバランスを実現することは、決してブームでは終わりません。もしも今、本気で取り組まなければ、会社の未来どころか、日本の未来はない、と断言できます。働き方改革は、日本という国が抱える急務なのです。

とはいえ、「労働時間が減らしてしまうと、会社としての成長もストップしてしまうのではないか」という懸念を抱いておられる方も多いでしょう。世界経済の中で日本の影響力が次第に低下している現状を見ても、「なぜ今、がむしゃらに働くことをやめ、労働時間を削減するのか」「世界の競争に置いていかれるのではないか」「競争の激しい業界なのに、それは不可能だ」といった疑問がわいてくるのは当然かもしれません。

しかし今、日本経済の成長を阻害する最大の要因は何だと思われますか? それは、人手不足です。仕事があっても人手が足りず、ムリに受注すると今いる人材への過剰な負担がかかり離職率が高まる。結果、会社の業績を上げるための本来の業務は滞り、採用と育成への費用ばかりがかさんでいきます。

こうした問題を表層的にではなく本質的に解決する、その「答え」が働き方改革なのです。

働き方改革の必要性を知るには「人口ボーナス期・オーナス期」の理解から

「働き方改革は社員のためになるだけでなく、経営戦略として必要不可欠である」「改革が進めば企業競争力をも向上する」という事実は、弊社がご提供する研修や講演の中でも数多く取り上げているテーマです。その際に必ずご説明するのが「人口ボーナス期・人口オーナス期について」。1990年代にハーバード大学のデービッド・ブルーム教授が提唱し、世界的に広く認知されています。

「人口ボーナス期」というのは、その国の人口構造が国の経済に”ボーナスをくれるような”おいしい時期がある、という考え方です。若者が多く、高齢者が少ないのが特徴で、中国・韓国・シンガポール・タイなどが今まさにその時期にあります。

人口ボーナス期の国は、安い労働力を武器に世界中から仕事を受注し、早く安く大量にこなして儲けます。一方、高齢者の比率が低いため社会保障費もかさむことはなく、余った利益はインフラ投資にまわすことができます。つまり、爆発的に経済発展をするのが当たり前の時期なのです。「アジアの奇跡」と呼ばれる経済発展のほとんどが、この人口ボーナス期で説明できるでしょう。中国では間もなくこの時期が終わりますが、インドでは2040年まで続くとされています。では日本は・・・?

日本は人口ボーナス期が終わって、すでに20年が経過しています。具体的には、1960年代半ばから90年代半ばまでが日本の人口ボーナス期で、高度経済成長を遂げた時期とぴったり合致することがわかります。日本では「高度経済成長=団塊世代が多くの残業をして頑張ったから」という論調が強いようですが、実際には人口構造によるところが大きいのです。

人口ボーナス期はいずれ必ず終わり、一度終わった国に二度とその時期は訪れない、という法則があります。では、日本は現在どのような時期を迎えているかというと、「人口オーナス期」です。

長時間労働で利益があがる時代はもう来ない。これから日本が向かう先は?

オーナスは負荷や重荷という意味で、人口オーナス期とは人口構造がその国の経済の重荷になる時期を指します。端的にいえば、支えられる側(高齢者や子ども)が支える側(働く人)より多くなってしまう構造です。こうなると、安く大量に請け負うことで受注を増やし爆発的な経済発展をするという、人口ボーナス期と同じ手法は通用しません。

前出のブルーム教授によると人口オーナス期を迎えた国が直面する典型的な問題は、「労働力人口が減少し、働く世代が引退世代を支えるような社会保障制度を維持することが困難になる」こと。まさに日本の現状そのものではないでしょうか。

日本が人口オーナス期に入ったのはヨーロッパ諸国より遅かったのですが、日本のほうが課題は深刻です。その原因は、少子化対策に失敗してしまったこと。そして、少子化が進んでしまった大きな要因が、長時間労働のせいで夫が家事や育児に参画できなかったこと、なのです。

では、ヨーロッパを追い抜いて人口オーナス期に突入してしまった日本は、もう経済発展を見込めないのでしょうか? もちろんそんなことはありません。そのために必要なのが、働き方改革です。

働き方改革は企業の生産性を向上させ、売上を伸ばす・・・だけではない!!

働き方改革に取り組んで会社を根本的に変えれば、社員の満足度・やる気は確実に向上し、業務を効率的に行うべく工夫をするのでスキルもアップします。そしてそれは必ず業績にもつながるのです。さらに、働きやすさと好業績が両立しているため、「入社したい」と願う有能な人材が増え、「辞めたい」と考える人は減ります。

働き方改革は企業の生産性を向上させる。それは100%正しいと断言できますが、喜ばしいことに、変革できるのはそれだけではないのです。社会の働き方改革の行く先には、私生活に目を向け、時間を自由に使うことができた結果として「夫婦間の信頼関係の再構築」、「家庭内の幸福度の大きな上昇」、「子どもたちを包む空気の変化」が待っています。

長時間労働が当たり前になってしまっている社会では、勤める人は常に疲弊し、職場でも通勤電車でも、もちろん家庭内でも、日々の不機嫌をぶつけ合うしかありません。家族の関係はぎくしゃくし、子育てや介護にイライラがぶつけられてしまう。現代の日本における「子どもの自己肯定感」は先進国中で最も低いという重要な事実は、親の働く環境と無縁ではないはずです。

さらには、「子どもを生める環境を作れるのかどうか不安がある」「もうひとりほしいけど状況が整わない」「二人目ができたら会社を辞めるしかない」という状況が起きるため、少子化は加速し、社会保障負担も年々重くなります。

まさしく悪循環。こんな社会は、もう私たちの世代で終わらせて、子どもたちの世代に「理想」を引き継いでいきませんか?

働き方改革を実践した企業では、社員のやる気が職場にみなぎり、笑顔と活気に満たされます。それは家庭環境にまで影響を及ぼし、疲弊して文句を言い合う夫婦ではなく、テニスのダブルスのように互いをさっとフォローし合える余裕を持った夫婦関係が築けます。そして、自己を肯定し未来に希望と意欲を持ちながら育つ子どもたちが次世代を担っていく・・・という好循環が生まれます。

ひとつの企業内で起こるこうした変化を積み重ねていけば、当然ながら日本社会全体が変わります。社会全体が子どもたちの育つ環境を温かく見守れる余裕を取り戻し、子どもが歓迎される社会としてあり続けることができる。これまで、さまざまな事情で社会参画できずに苦しんできた人たちも、それぞれの特性を活かした社会貢献ができるようになり、日本という国全体の幸福度があがっていく・・・・・・働き方改革は、そうしたすべての根本となり、原動力となるのです。

詳細は、代表・小室が執筆した書籍『働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例20社』『労働時間革命 残業削減で業績向上! その仕組みがわかる』(いずれも毎日新聞出版)などもご一読ください。