建設業特化型!働き方改革勉強会
2024年4月から労働時間に関する上限規制が適用されるなど、建設業を取り巻く環境は大きく変化しつつあります。弊社では2024年6月27日に建設業特化型の働き方改革勉強会を開催。中央建設業審議会専門委員であるコンサルタントの浜田紗織が変化の背景を解説するとともに、三菱ケミカルエンジニアリング様、大本組様の成功事例をご紹介しました。このセミナーの模様をお届けします。
■建設業を取り巻く環境の変化
株式会社ワーク・ライフバランス取締役 浜田紗織(中央建設業審議会専門委員)
◎業界内の最近の様子
浜田:2024年を迎えて、働き方改革が難しい業界と言われ続けてきた建設業も、一般産業と同じルールでやっていくことになりました。担い手不足や、一品生産で生産性向上が難しいといった特殊な環境の中で、どうすれば持続可能な組織をつくっていけるのか。今日は三菱ケミカルエンジニアリングさま、大本組さまから取り組みのコツと苦労話もお聞きしたいと思います。
まずは、建設業ならではの環境の変化についてお伝えしましょう。何よりの大きな変化は、時間外の上限が法律で規制されたことです。今までは過少申告が黙認されてきた状況もありましたが、ここから先は法律違反になってしまうのが大きな違いです。現在は、社員がしっかりと勤怠を付け、オーバーしたところには速やかに手を打つなど、持続可能な働き方に目を向ける企業も増えてきました。
とはいえ、建設業には5年の猶予が与えられていたこともあり、他の産業と差を開けられてしまった現状があります。建設業ではすでに3割以上の方が55歳を超えているとされ、その意味では課題先進業界といえます。
◎働き方改革を離職率低下につなげる動き
リクルートワークスが毎年出している大卒求人倍率の調査によると、建設業の求人は今最も厳しいことがわかっています。求人倍率は13.74倍であり、13社が1人ずつ求人を出したとして、そのうち1社決まるかどうかという状況です。他産業を見ると金融業は0.21倍であり、1つの求人枠に対して希望者が5人来るのが平均となっています。建設業は金融業と比べて65倍の厳しさがあるわけです。
この状況に対する有効な打ち手が働き方改革ですが、うまく回っている企業ではどのような取り組みをしているのでしょうか。弊社で実施した調査で、離職率低下に最も関係する取り組みとして上がったのは「各部署で今後の働き方に関する議論の時間が設定されていること」でした。2位は「特定の人への業務集中を防ぐための情報共有の仕組みづくり」、3位は「勤務環境の改善」、4位は「部門間の連携を強化する取り組み」となっています。今後の打ち手として参考にしていただければと思います。
ここまで危機感を共有してきましたが、上手に取り組む会社も出てきました。東亜建設工業さまは「働き方改革をすることで、社員の幸福度が向上する」という仮説のもとに取り組んでいます。同社では若手社員が全員リクルーターとなり、自社の働き方改革の取り組みを語り、新卒の皆さんに「そんなにいい会社だったら、入ってみたいな」と思ってもらえるようになりました。そして、実際に入社した若手が「先輩が言っていたとおり、自分たちのことを大事にしてくれ、変化を起こしてくれる会社なんだ」と実感するサイクルが回り始め、辞退率が右肩下がりになっています。
◎建設業法改正の大きな柱
新しいホットトピックとして、6月7日に成立した建設業法の改正についてもお伝えします。この法改正の背景には、他産業と比較して厳しい建設業の就労環境があります。長年の商習慣によって発注者が強く受注者が弱い、民民の請負契約があると国が介入できない状況もありました。そういった環境下で、使命感の強い建設業の従事者は、自分の生活時間を差し出して残業や休日出勤をすることで、国土を支える仕事を完遂してきたわけです。
ただ、このままでは地域の守り手の役割を果たし続けられなくなります。そこで持続可能な建設業になるために、労基法の改正が行われるタイミングで、建設業法もルールを変えることになりました。
改正の柱は大きく3つあります。1つ目は処遇改善です。受発注の関係の中で、職人さんに賃金が行き渡らないという問題がありました。元請けが一次下請けに発注し、二次下請けに発注し……というプロセスの中で、もともと見込んでいた労務費がどんどん圧縮されていたのが大きな理由です。
これに対して、著しく低い労務費による受発注を禁止しています。発注者が著しく低い労務費で発注してはならないというほかに、受注者側がどうしても仕事を欲しいからと労務費を圧縮することもNGになっているのが大きなポイントです。さらに、国交省が「このランクの方にはこのくらいの賃金」という標準労務費のモデルを定めており、そういったものを活用しながら労務費の妥当性を確認できるという点が、処遇改善の大きな変化といえます。
◎持続可能な業界づくりが意識されるようになった
2つ目は、資材高騰に伴う労務費のしわ寄せ防止です。資材が高騰したにもかかわらず、最初に総価で契約した内容が見直されないことによって、労務費が削られてきた状況があります。これについては、契約前に資材高騰のおそれ情報を受注者側が発注者に通知する義務があり、実際に資材高騰が顕在化したときは、変更を協議できるという条項が加えられました。資材高騰分の転嫁協議を円滑化し、労務費へのしわ寄せを防止していく仕組みです。
そして3つ目は、働き方改革と生産性向上です。働き方改革の大きなポイントは、工期のダンピング対策の強化です。生活時間を差し出して仕事を完遂していく手法は建設業法違反となり、違反した建設業者には指導・監督をしていくことが決められました。
あわせて、現場技術者の専任義務を合理化して見直し、ICTを活用した現場管理の効率化も推進していくことが、今回の建設業法改正の大きなポイントです。
◎勤務間インターバルの推進がカギ
今後ぜひ注目していただきたいのは勤務間インターバルです。勤務間インターバルは建設業法の中にも出てきますし、2024年4月に見直しが行われた「工期の基準」や監理技術者の専任要件緩和でも勤務間インターバルの推進が推奨されるようになっています。6月21日に出された骨太の方針の中でも勤務間インターバルを取っていくことがうたわれています。今後ますます業界の中でも注目されてくると思います。
勤務間インターバルは、その日の仕事を終えたら、11時間連続で休息を取らないと次の日の仕事を始めてはならないルールであり、EUでは全ての業種で批准されています。睡眠を7時間取り、その前後に生活時間と通勤時間を入れたとしても、11時間を空けることができるため、命を守る・安全性第一の業種ほど、早期に適用すると効果が高いといわれています。
人間の集中力に関する研究によると、人間が集中力を発揮できるのは、朝目覚めてから13時間以内であるというデータもあります。人間は一晩の睡眠の前半に体の疲れが回復し、後半にはストレスが解消するとされますが、睡眠の後半はなんと6時間目以降です。皆さまの会社でも健康経営をしていくときに、しっかり7時間睡眠を取れるかどうかを1つの指標にしていただくとよいかもしれません。
勤務間インターバルが推進されてきた背景には、業界団体からの後押しもありました。全国建設業協同組合連合会では、トップが勤務間インターバル推進を宣言してくださいました。東急建設では、発注者が鉄道会社であることが多い中で、持続可能な働き方をするために勤務間インターバルを導入しています。国土交通省内でも勤務間インターバルにチャレンジする動きが出ています。また、高知県の中小企業であるフクヤ建設では、勤務間インターバル導入など、いろいろな働き方改革の取り組みを複合的に行い、新卒の応募者が3.5倍になりました。例えば「GG・BB休暇」(じいじ・ばあば休暇)という制度があり、高齢社員にもライフをしっかり取っていただきたいというメッセージが込められています。
◎自社の働き方を確認する10のチェックポイント
先進事例のご発表に先立ち、自社の働き方について10のチェックポイントにチェックを付けてみてください。
1 現場ごとの時間・有休の状況が見える化されていない
2 自社の評価・報酬制度が改革を阻害している……例えば、長く働く人のほうがたくさん給料がもらえるということがあるかもしれません。
3 時間当たり生産性を測る指標を持っていない……どれだけ効率的に仕事を終わらせても、そうでなくても同じといったことがあるでしょうか。
4 業務フローのデジタル化が進んでいない
5 現場がアラートを出せない
6 部門の壁・職種の壁が弊害を生んでいる
7 ハラスメントや離職者の問題に手を打てていない
8 エンゲージメントが下がっている・または計測していない
9 経営トップが働き方に対して、日常的に発信していない
10 組織内の心理的安全性が低い
先日、私がある県の建設業協会でお話をしたところ、集まった企業では半分ぐらいチェックが付くのが標準値という印象でした。欠けているポイントにアンテナを立て、先進企業がそのポイントをどう克服されているのかに注目していただければと思います。
■「労働生産性」の向上と「従業員の働き甲斐」の向上
三菱ケミカルエンジニアリング株式会社 企画管理部 花岡真琴氏
ナビゲーター 株式会社ワーク・ライフバランス 風間正彦
◎働き方改革推進のきっかけ
風間:花岡さんには、そもそも働き方改革を推進しようと思ったきっかけからお聞かせいただきたいと思います。
花岡:2021年に小室社長の講演を聴講したことがきっかけです。当時、中期計画の中で3つの戦略があり、その中の1つに働き方改革が含まれていました。「これはチャンスだ」と思い、小室社長の講演と弊社の社長・専務の鼎談を企画しました。そこから徐々に働き方改革のプロジェクトが進んできました。
風間:私は当時の上司の方に「なぜ花岡さんの提案を承認されたのですか?」とお尋ねする機会があったのですが、「提案のロジックがしっかりしていたのはもちろんですが、これだけ熱意がある社員がやりたいと言っている働き方改革を、承認しないという選択肢がなかったんです」とおっしゃっていました。これから皆さんが働き方改革取り組もうとするとき、社内からネガティブな反応もたくさん来ると思いますが、やはり熱意がなければネガティブな反応を乗り越えていけません。人は動かすには、花岡さんのような熱意が必要になると思います。
◎取り組みを進める上で大変だったこと
花岡:初年度である2021年度はコロナ禍で戸惑いながら始まったのですが、大胆な取り組みをしてくれるチームもありました。2年目は、1年目に取り組んだチームの事例や資料を各チームが事前に学んでいたことで、心理的ハードルが下がり、早いスタートダッシュを切ることができました。また、PDCAの回転が早くなり、施策の質が向上し、前年以上の成果につながりました。例えば、チームメンバーだけでは解決できない課題を上司が引き取って検討を進めるなどのサポートも行われました。3年目は全社展開となり、間接部門はもちろん、設計、建設部門、本社、全事業所が参画しました。
風間:展開が進んでいく上で、大変だったことは何でしょうか。
花岡:初年度はコロナ禍のスタートであり、そこが大変でした。働き方改革はロジックだけでは伝えきれないことが多い中、慣れないオンラインでの関係づくりがとても大変だったのを覚えています。また、2021年当初は「労働生産性の向上」と「満足度向上」の2軸で目標を設定したのですが、経営層は労働生産性向上の成果を気にする傾向があり、定性的な成果に目を向けていただくのが大変でした。
風間:労働生産性を高めていくことも当然大事ですが、「労働時間が減ったけど仕事がつまらなくなった」というのでは意味がありません。仕事の満足度や働きがいにも注目されたのは素晴らしい点だったと思います。一方で、経営層は数字に責任を持ってらっしゃるので、定量的なところに目が向きます。そこは丁寧にコミュニケーションをされたということですね。
三菱ケミカルエンジニアリングさんでは、徐々に事務局のメンバーも増えていったのも素晴らしかったと思います。バックアップする事務局自体のチームワークが非常によく、それが働き方改革の成功につながったと思います。
◎各チームのテーマ
花岡:ここからは、2023年度の期末共有会で発表いただいた各チームのテーマについて、事業所、事業部、本社の順に説明いたします。
事業所では、ツールの活用やマニュアルの整理、執務室環境整備などがテーマに挙がっていました。四日市事業所の電計システムグループでは、テレワークの実施、会議の見直し、業務フローの見直しなどを通じて年間180時間削減しました。現在、業務フローの見直しは全社的に挑戦しているところです。
風間:豊橋事業所は、局排計算書の書式統一に取り組まれました。書式を統一する前はベテランごとに自分が好きな計算書を使っていたので、若手は先輩たちに合った計算書を全部使いこなさなくてはいけないのが非常に大変でした。これを「若手が大変だから変えていこう」と、ベテランの方々が決心したのが大変印象的でした。
自分が慣れ親しんだ書式を捨てるわけですから、「よく決心されましたね」とリーダーにお話ししたところ、「働き方改革は若手のためにもやる施策なので、若手の目線で変えたいという期待には、ベテランとして応えていきたい」とお答えになったのに感動しました。若手もベテランの意図を理解し、「ベテランもたくさん努力してくださるのだから、自分たちも頑張ろう」というムードが生まれていました。
花岡:先日、その時のリーダーとコンタクトを取ったのですが、継続してこの取り組みを続けており、年間178時間の削減を実現しているとのことでした。また、大竹事業所では「NHK活動」と称して、なくす(N)、減らす(H)、変える(K)活動を行っており、年間380時間の削減となりました。
風間:社内では一般職から総合職に切り替わった当初、「私たちは何をすればいいんだろう」「エンジニアに囲まれて、特定の技能がない私たちはどう貢献できるのか」と戸惑う女性が多かった中、よそ者・若者の視点から斬新なアイデアを出すことができるかもしれないと考え、行動されていました。非常に興味深く、皆さんにも参考にしていただける事例だったと思います。
◎さまざまな工夫で業務の効率化を実現
花岡:事業部では、現場で働き方改革を進めてくれたメンバーも大変多く、自部署特有の課題解決、休暇取得、時間外・ストレス低減の活動をする部署が多数ありました。
風間:取り組みがバラエティーに富んで面白いと思います。建設グループは、何か事故が起きると人の命に関わるので、ついつい保守的になりがちで変革を起こしにくい代表的な職場だと思いますが、「これは改善しても大丈夫、ここはちょっと慎重にやろう」というのを適切に整理しながら取り組んでいましたね。
花岡:四日市事業所の建築グループでは、現場ウェブカメラ設置によって業務効率化の施策を行い、100時間削減を実現していました。また、本社生産ロジスティクスは、安全という観点から取り組み、トラブルを未然に防ぐことを目標にした活動で、短時間で効率良く抜けのないチェックリストを作成しました。とある現場の定例会に参加した際に、モデルチームのメンバーがが外国人作業員の方々から1人ひとり出身地をお聞きして、それぞれの言語で現場のマナーについて紙に書いて表示していました。一歩先の安全を考えることが大切だと思いました。
◎本社の働き方改革の重要性
花岡:続いて本社コーポレート部門ですが、業務整理、標準化、情報共有が多かったのが特徴的です。経理部はコロナ禍で行っていた特別な施策を止め、手間が掛かっていたプロセスを見直しました。未提出件数も大幅に減少したことがとても良かったと思います。
風間:どの会社でも間接部門があると思いますが、この部門の生産性が上がったり効率化したりすることで、現場にかかる負担も軽減されます。建設業ではついつい現場が注目されがちですが、本社の働き方改革もセットで行う必要があるということですね。
花岡:営業部は「みんなが明るく健康で、やりがいを感じ、定時に帰る」というチーム目標を掲げていました。1週間の業務時間を細分化して記録することで可視化し、残業時間を削減しました。今年度は顧客訪問時間の増加を目指す活動を行っており、どの時間を増やしたいかという意識を持って取り組んでいるのが素晴らしいと思います。今年度から朝メールを利用しているので、今後の結果がとても楽しみです。
◎働き方改革メンバーとDX推進室がコラボ
花岡:2023年度はDX推進室の協力を得て、働き方改革メンバーがいろいろなアプリを開発しました。アプリを作ったメンバーからは「働き方改革のチームメンバーだったからこそ、やりたかったことができた。アプリを作ったことで自己成長につながった。他者への貢献をしたことでモチベーションが上がった」といった声が上がっていました。
風間:三菱ケミカルエンジニアリングさんが素晴らしかったのは、DX推進と働き方改革という相乗効果のある連携施策ができたことです。よく見かけるのは、DX推進はシステム部門が所管していて、働き方改革は経営企画が所管しているケースです。さらに、男性の育児休業やダイバーシティーは人事が所管しているなど、本来は一緒にやったら相乗効果があるのに、所管部門が違うので連携がうまく取れないところが結構あります。相乗効果を生み出す取り組みにしていく上では、相関性のある施策はしっかり連携し、相互コミュニケーションを大切にしていくといいのではないかと思います。
◎事務局が行った4つの新たな試み
花岡:2023度は、事務局の新しい試みを4つ行いました。1つ目はバーチャル空間を使った共有会開催です。2年間は本社でリアル開催しましたが、昨年度はバーチャル会場を利用しました。3会場同時で36チーム実施することができ、限られた時間の中で参加された皆さんから大変好評でした。ワンクリックで会場移動できるのは大変便利だったと思います。
2つ目は発表者の代わりにアバターが原稿を読むアプリの活用です。バーチャル空間の共有会では、このアプリを利用して発表するチームが多数ありました。アバターに原稿を説明してもらうことで発表者の負担軽減につながります。弊社特有の施策、手法を生み出し、着実に働き方改革を自分たちの取り組みに発展させ、全社展開への歩みを着実に進めることができたと思います。
風間:全国に拠点があり、たくさんのチームが共有会を実施するので、リアルで開催するには広い会場が必要となり、移動のコストも大変です。そこでITツールを上手に使い、しかも、もはや人間が発表しないことに驚きました。人間がやらなくていいところを上手にIT、アバター、AIに任せていくのは先進的な取り組みであり、大変勉強させていただきました。
◎「横のつながり」という試み
花岡:新しい試みの3つ目、4つ目は横のつながりを意識した活動です。Team Voiceというチームメンバーの声を社内シェアポイントに掲載しています。働き方改革のメンバーは働き方改革にかける思いもさまざまであり、メンバーの声を届けるとともに、横のつながりを強化したいと思い、企画しました。
また、ワークライフバランスコンサルタント養成講座を受講した方が20名以上になり、受講生同士の意見交換会を開催しました。チームメンバーの中には、働き方改革のリーダーとしてコンサルさながらに活躍する方もいましたし、事業所の管理職に向けた働き方改革の勉強会を開催したメンバーもいます。
風間:社内からネガティブな反応が出てきたときに、事務局の方が受け止めていると、それがストレスになり、気持ちが折れてしまうこともあります。三菱ケミカルエンジニアリングさんは、推進派の社員を着実に増やし、お互いに連携してコミュニケーションを取りながら支え合っていました。それも着実に働き方改革の規模を広げた秘訣ではないでしょうか。仲間を増やして孤独にやらないというのは、皆さんにも参考にしていただけるポイントだと思います。
◎働き方改革による成果
花岡:営業利益と平均時間外労働の推移についてお伝えします。働き方改革を含め全社でさまざまな取り組みをした結果、時間外労働を減らして、営業利益を維持できたと経営層も喜んでおります。2023年度は、営業利益は右肩上がり、残業時間は導入前に比べて右肩下がりというトレンドが見えています。
取り組みが順調に拡大するとともに、活動を継続しているチームが41チーム中30チームあり、大変誇らしいことです。継続してくれるチームが多いことは、事務局としては本当に嬉しい限りです。また、研修やセミナーを通してメンバー以外の方も働き方改革の企画に参加してくださっています。
風間:今まで懐疑的だった方に、「他社ではこんな事例があります、あんな事例があります」と言うより、「御社ですでにこんな実績が出ていますよ」と説明するほうが説得力があります。毎年少しずつテーマや様子が変わっていきますが、これからも上手に皆さんを支えていければと思います。
◎今年度以降の展開
花岡:今年度以降の展開についてお話しします。昨年度、小室社長との対談で、社長の藤井が「ぜひ全社を巻き込んで文化にまで定着するよう進めたいと考えています。私が理想とするのは、多様な人が上下なく、自由に活発に意見交換を行い、わくわくするような仕事をする職場です」と伝えていました。先日、藤井と働き方改革について話したとき、「働き方改革の活動、まだやってないの? と言い合える会社にしていきたいよね」と後押ししてくださったので、大変心強いです。
風間:昨年度から藤井社長が就任されましたが、働き方改革の本気度が大変高く、事務局の皆さんも安心されたと思います。これまで取り組んでいた従業員の方々も、働き方改革の方向性は変わらないんだ、はしごを外されないんだと安心されたのではないでしょうか。藤井社長が、もともと働き方改革が必要だと腹落ちされていたのはもちろんですが、花岡さんを中心とする事務局の皆さんが「これはうちの会社にとって大事なことなんだ」とインプットされていたからこそ、藤井社長も前向きな発信を続けてくださっていると思います。さらに、従業員の方々が働き方改革の必要性を理解し「自分たちなりにやっていこう。自分たちでいい会社にしていこう」という姿勢で取り組まれたのが、ここまでの変化につながっていると思います。
花岡:弊社のスローガンは「Better Engineering for Well-Being」です。会社のスローガンであるwell-beingの考え方に沿って、働く人1人ひとりがより良い将来の展望を持てる活動にしていきたいと思います。当初はやらされ感で取り組む方もいましたが、徐々に「この取り組みをやって良かった」と言ってくださる方が増えてきました。働き方改革を通じて得られた最もうれしい収穫は、いきいきと楽しそうに活動しているメンバーの顔を見たことです。働き方改革をすればいきいきするわけではなくて、どういう意識・気持ちを持って取り組むかが大切だと感じました。あくまでも働き方改革は手段であり、本来の目的であるwell-beingの考え方が大事だと感じています。
風間:ありがとうございました。
◎質疑応答1
浜田:皆さんからのご質問を紹介したいと思います。「ベテラン社員の場合、なかなか取り組みに賛同してくれない方もいるかと思います。全社へワークライフバランスの必要性を理解してもらうために取り組んだこと、苦労したことがあれば教えてください」とのご質問です。
花岡:小室社長の講演を聞いて経営層の本気度が高まったということもあります。ただ、1回きりではなく、折に触れて繰り返しメッセージを発信することが大事だったと思います。
風間:現場のベテランの皆さんの協力を得る上では、花岡さんたち事務局の方々が現場にしっかり足を運び、やらせっぱなしにしなかったのは大きなポイントでした。また、最初のキックオフのときに「若手が育つということは、ベテランが楽になることでもあるので、お互いWin-Winだよね」といった具合に、一方的にベテランが損して若手が得する取り組みではなく、Win-Winの取り組みにしていこうと発信したことで、ベテランの方々が前向きになったと感じています。
◎質疑応答2
浜田:「働き方改革に取り組むにあたり、熱い気持ちが必要であることがわかりました。ただ、前のめりになり過ぎると相手が引いてしまうこともあるのではないでしょうか。どうしたら仲間を増やせるのか、テクニックがあれば教えてください」というご質問です。
花岡:コロナ禍が明けたあとは、各事業所に説明に行き、興味がある方には「働き方改革にはこんないいことがあるんだよ」とお伝えしました。
◎質疑応答3
浜田:アバターによる発表について、「発表や原稿など、さらに準備が必要になってしまうとか、新しい取り組みをやるがゆえに、かえって手間がかかるようなことはあったのでしょうか」というご質問をいただいています。
花岡:パワーポイントの下の段にコメントを書くだけでアバターが読んでくれるアプリですので、とても簡単です。
◎質疑応答4
浜田:「DX推進室との連携がうまくいっているというお話でしたが、どのように連携したのでしょうか。例えば働き方改革をやる中で、DXにつなげたほうがいいと思うネタが見えてくるのか、それともDX推進室がいろんなものをキャッチして、花岡さんたちに連携してくださっているのか。具体的にお聞きできると嬉しいです」とのご質問です。
花岡:働き方改革のチームメンバーから上がった「こんなアプリが欲しい。こんなものをつくってみたい」という意見をDX推進室担当の方にお話しして、それが現実になったという形です。
浜田:働き方改革のチームメンバーから出てきた意見やアイデアをしっかり拾って届けることをやってくださったわけですね。ご発表、ありがとうございました。
■建築部門の働き方改革 〜取り組みのスタートと加速〜
株式会社大本組 建築本部 石川宣文氏 安達智行氏
ナビゲーター 株式会社ワーク・ライフバランス 川本孝宜
◎建築部門で働き方改革が求められた背景──石川宣文氏
石川:大本組の建築部門の働き方改革について発表いたします。大本組は総合建設業であり、1世紀を超える歴史の中で技術と信用に注力してまいりました。建築、土木とも、地域のさまざまなランドマークを手掛けている会社です。
平成30年に「働き方改革一括法」が公布され、事業者の責任として労働時間の短縮などの方針が加えられるとともに、建設業に5年間の猶予が設けられたことはご承知のとおりです。大本組では、特に建築部門の長時間労働と人材不足が深刻でした。「民間工事で短工期が発注者の要求事項であり、休日出勤や長時間労働で期待に応えていたこと」「全国に工事現場が点在し、短いサイクルで勤務地が変わり、転勤や単身赴任が多いこと」「結果で管理、評価するため、生産性より完成度を重視し、時間管理の意識が脆弱であること」などの実態があり、特に有能な社員に次々と仕事が降ってきて、多忙を極める状況を改善する必要がありました。
◎環境整備から取り組みスタート
「働き方改革一括法」公布直後に、働き方改革ワーキンググループを編成。実態の把握とICTツールの導入など、働き方改革のための環境整備に着手しました。初期に把握した課題は5点あり、それぞれ改善策を講じました。
課題①移動時間の削減……現場と事務所が離れた部署では、移動に多くの時間を費やしていたため、クラウドやタブレット、監視カメラを導入し図面を見るために事務所に戻ったり、揚重や搬入状況の確認のために現場に行く時間を減らしました。
課題②電子メールのデメリットの解消……スピーディーで確実な情報伝達を行うため、ビジネスチャットを導入しました。
課題③デスクワークの業務量削減……クラウドサービスを導入し、デスクワークを管理部門に集約しました。
課題④仕事の区切りをつけ、定時に退社……仕事の区切りを時刻で意識できるように、PCの定時シャットダウンを導入しました。
課題⑤契約・派遣社員との長期契約……人手不足も深刻でしたので、長期契約に切り替えました。
◎コンサルティングの導入を決定
「ACe建設業界」2020年11月号の特集記事「働き方改革の進路を探る」で、ワーク・ライフバランスさんを認知しました。当時のわれわれは環境整備を進める一方で、追い込まれた働き方改革そのものの状況でした。
2021年度、建築部門単独でワーク・ライフバランスさんのコンサルティングを受けることになりました。最初に全社講演を行ったあと、上層部による推進Gとモデル現場を決定し、ワーキンググループの活動のPDCAを回すしくみを作りました。当初は、それぞれが思いのままに発信し、歯車がなかなかかみ合いませんでしたが、コンサルティングによりコミュニケーションが徐々に活性化し、歯車がかみ合うように導いていただきました。その結果、人や部署の関係が徐々に良くなっていきました。
◎機運を高める仕組み作り
川本:この取り組みを進めるために、体制づくりについて特に工夫されたことをお聞かせください。
石川:現場の実態に合った実効性のある働き方改革の施策が必要でしたので、意識の高い現場所長と次長を体制に組み込み、特に実行力に優れた安達君に期待をして実質的なリーダーに抜擢しました。働き方改革モデル現場には突貫工事をあえて選定し、現場発の127件の業務削減リストをまとめ上げ、働き方改革ワーキンググループで課題を解消するサイクルをつくってくれたり、モデル現場以外の効果的な取り組みを吸い上げて全社に展開してくれたりと、働き方改革の機運を飛躍的に高めてくれました。
川本:安達さんの動きで象徴的だったのは、現場の所長を説得して削減リストを出したり、所長ご自身のアクションを促しながら推進グループに持っていったりするなど、現場と幹部の橋渡しをしてくださったところです。これがコミュニケーションの促進に大きな変化を生み出していたと感じています。
◎取り組みの加速──安達智行氏
安達:意識改革のスタートは、ワーク・ライフバランスさんの全社講演だったと思います。全社員を対象にしたこと、外部のコンサルティングを依頼したことなど、インパクトが大きく、講演内容もあいまって覚悟が決まった瞬間でした。
コンサルティングでは、決まったことだけを伝えるという社風に気づいてくださり、取り組みの見える化が必要との助言をいただき、毎月「働き方改革レポート」を配信するとともに、四半期ごとに働き方改革の進捗状況報告会を実施するようになりました。はじめの数か月は、コンサルティングに直接関わらない人に向けて、コンサルティングの講演以外の取り組みの経過を伝えていく内容としました。
また、新菱冷熱工業さんとのディスカッションの機会は大変効果的でした。経営層、担当者層、それぞれの役割など、働き方改革の先進事例をご説明いただき、とても前向きになるきっかけをいただきました。
ワーキンググループの取り組みの効果はどうなのか、さらに良くするためにはどうすべきかもレポートに掲載しました。効果が出ている内容を掲載することで、ワーキンググループへのねぎらいにもなったと思います。
レポートには、若手にも親近感を持ってもらえるような取り組みも掲載もしました。若手に働き方改革は自分自身で考えること」と捉えてほしいという意図がありました。掲載することで本人への褒め・承認も形になったと思います。
当初、働き方改革レポートの掲載内容は、ひらめくままに決めていましたが、現場とコミュニケーションを重ねると、自主的にさまざまな取り組みを進めていることがわかり、途中からそれらを「取り組み事例」として紹介する内容になりました。紹介した取り組み事例は「取り組み一覧」にまとめ社内ポータルに掲載しました。まとめたことで、「素早く見返し、素早く真似できる」と大変好評です。そして「○○現場で採用」と記載することで、「あの現場、あの所長が使っているなら、効果は大きいのではないか」と感じてもらう工夫もしました。
さらに、レポートでは社内で一目置かれる所長からの発信を行いました。働き方改革に前向きな方にとっては取り組みを加速する効果があり、様子見な方への気づかせにもなりました。
レポートの閲覧回数も細かくチェックし、累計閲覧1万回の記念号では、建築省力化を結集した大型工事の現場見学会の様子を取り上げました。
働き方改革レポートの掲載を開始してから2年がたち、2024年5月末には当社ホームページにトピックとして働き方改革の取り組みを掲載するに至りました。本日このような講演をさせていただいているのも、この延長線だと思っています。
◎現場で改革を進めるコツ
川本:具体的な取り組みの発表をありがとうございます。現場の人である安達さんから見て、忙しい現場で進めるときのコツはありますか。
安達:今やらなければいけない業務や、突発的に本日発生してしまう業務などをこなすことで現場は進んでいきます。コンサルティングやカエル会議にかかわらず、新しい取り組み、新しいオペレーションが加われば、ストレスを感じてしまいます。それを打開するためには、チームに合わせたきめ細やかなサポートをしていく必要があります。私自身が直近まで工事現場勤務で、同じ境遇だったので対応できた部分もあると思います。
川本:岡山の現場は若手が多く、配属されて1年目の若手の女性もいらっしゃいました。ダイレクトというツールを使って本社がフォローしていたのが印象的でした。実際にやりとりをした石川さんからご覧になって、いかがでしたか。
石川:グループチャットの導入は若手社員からの提案でした。業者さんと一緒に使う上で、情報漏洩のリスクもケアする必要がありましたので、ダイレクトというビジネスチャットを採用しています。社内のルールとして、「現場内の共有用」「社内報告用」、「社員教育用」など、複数のトークグループを作成しています。ご覧になったのは社員教育用のトークグループで、ここには集合教育の講師も入り、現場OJTをサポートしています。
◎取り組みの振り返り──石川宣文氏
川本:最後に全体のまとめのご発表をお願いします。
石川:初回の全社講演はやらされ感に満ちた中での開催でしたが、大変興味深い内容で、特に反響が大きかったのは、「働き方改革を進める手順の落とし穴」でした。これを大本組でも参考にして取り組みを進めています。
コンサルティングを受け、特に、相手の話の内容をきちんと理解し、適切なレスポンスを返せるコンサルタントの皆さんの聞く力に圧倒され、このスキルをわれわれも身につけたいと感じました。また、当たり前のコミュニケーションをしっかりとこなしていく重要性を再認識しました。
今回の勉強会に参加する機会をいただき、改めて「働き方改革の進路を探る」の記事を読み返してみると、概ね「先手を打つ働き方改革」の段階4ぐらいまで実現できていることに気が付きました。一方で、時間外労働上限規制への対応を優先するため、一時的に生産性が低下していることも事実です。先手を打つ働き方改革により、生産性向上を実現していきたいと思います。
◎取り組みの振り返り──安達智行氏
安達:横割り組織(横断的に部門同士が連携を取り合う組織)は、コミュニケーションを図ってこそ成り立つと感じています。この取り組みをさらに大きなものにしていけたらと思います。
また、働き方改革と前置きしなくても業務改善が習慣になれば理想的です。直近の2、3年間は残業時間の規制対応を優先していろいろなことを減らそう・やめようという意識が強かったのですが、それでは長続きしないと思います。業務改善を突き詰め、その結果として、大本組の強みや魅力をどんどん生み出したいと思っています。
最後に、建物をつくることはとても楽しいと感じています。業務に追われたり人間関係がうまくいかなかったりすることで、仕事の魅力が失われるのは非常にもったいないことです。もともと建設業に興味や魅力を感じて業界に飛び込んだわけですから、建設業の魅力をみんなが感じ続けられる状態にしたいと思います。自分の子ども・身内にもすすめられるぐらい、魅力的なものにしていけたらと考えています。
◎「歯車を合わせる」ことで大きく前進
川本:お2人がこれだけ取り組むことができたのは、建築本部長や副本部長も一緒になって進めたことも影響していたと思います。そういった幹部の動きについて、どのように感じていますか。
安達:当初は建築本部が進めたいことと全社の方針が必ずしも一致せず、現場やワーキンググループの提案が進まない時期もありましたが、建築本部長、副本部長には、推進G、現場の意見、ワーキンググループの歯車をあわせる配慮や、全社に向けた働きかけを引き受けていただくなど、多くの力添えをいただきました。その結果、組織の一体感と全社的な理解度が高まり、社内規程の改定などに至っています。社内の働き方改革で歯車がかみ合っていることは心強く、非常に感謝しています。
川本:「歯車がかみ合った」というキーワードをいただきました。大変わかりやすかったです。ここまで大きく取り組みを進めてくださり、変化が生まれたことに私たちも大変嬉しく感じており、ぜひ他社の皆さまにも参考にしていただきたいと思います。石川さん、安達さん、本日はご発表ありがとうございました。
◎質疑応答1
浜田:「施主の方にどうやって同意を取っているのでしょうか」「週休2日施工について、民間発注者さまに同意いただけないのでは?」というご質問です。
川本:神奈川平塚市の大型モールの現場で取り組みを進めてくださったときに、「テナントの内装や仕様が決まらないので、工期が後ろになってしまう」「依頼がないので、自分たちの負荷がかなり高まってしまい、品質に影響がある」といった形で交渉をされていました。現場レベルで「もう少し早く調整してくれませんか」というと、担当者の方は割とすんなり「わかりました。もうちょっと早く決めないといけないですね」と反応されていたと思います。現場や発注元の考えにはさまざまあると思いますが、相談に乗ってくださるケースがかなり増えてきていると感じています。
浜田:先ほど紹介した建設業法の改正によって、協議の場に応じることは義務化されています。そういったものも活用しつつ、まずは場をセットすることに取り組んでいただきたいと思います。
◎質疑応答2
浜田:一方で、鉄筋型枠や内装設備工事など、専門業者への委託が必要となる中で、委託会社の働き方改革についてもご質問が寄せられています。「委託会社のほうから週休2日にしないでくれという要望もあるのではないか」「一次請け、二次下請けの働き方改革について取り組んでいることがあれば教えてほしい」といったご質問については、いかがでしょうか。
川本:岡山の現場の事例ですが、大本組さんの社員が5、6人と、一次請け、二次請けの社員の方も常駐する形で現場を進めていました。そこでは、委託先のメンバーもカエル会議に一緒に参加していただきました。
現場に入社4、5年ぐらいの若いメンバーが半分以上いたこともあり、所長は「若手も育てていく必要があるし、仕事の品質も保たなければいけないし、自分も忙しい」という悩みや課題を抱えていました。そんな中、委託先の方に頼ったり相談に乗ってもらえたりしたのが非常に良かったとおっしゃっていました。委託先の皆さんもフラットに巻き込んでいくというのは、建設業界の1つの変化の兆しではないかと感じています。
浜田:私は職人の業界団体にヒアリングを行う機会が多く、「日給、月給だから働き方改革に反対です」とおっしゃる真意についてお聞きしています。それによると、とにかく賃金が行き渡っておらず、時間を増やすことでしか賃金を確保する方法がないから要求しているだけであり、本当は要求したくないという話をよく聞きます。
本当は、賃金がしっかり確保されている状態で、お休みも取り、持続可能な働き方をしたいというのが、職人団体の総意です。だからこそ、建設業法の改正の中で、賃金の行き渡り、労務費の圧縮の禁止がうたわれているわけです。これらがしっかり確保できれば、「日給、月給だからもっと働かせて」という声はなくなると予想されています。今はコンフリクトが起きているケースもありますが、先を見たときにどういった姿であるべきかという答えは、すでに出ていると思います。
交渉の仕方については、大本組さんが新菱冷熱工業さんとディスカッションを行ったときにも話題になっていました。新菱冷熱さんからは「『その工期でお受けできない』ということを、苦しいながらも申し上げないといけないことがあります。ただし『これは可能です』と言って受けたものについては、ちゃんと納期に戻すことが何よりも大事です。『この責任でこの内容なら、きっちり自分たちの技術力でお戻しできる』ということを明確にした上で交渉をしていくと、信頼を得ながら、実際にどれくらいの工期が妥当なのかを説明しやすくなる」というアドバイスをいただきました。皆さまにもご参考になればと思います。
◎質疑応答3
浜田:最後の質問です。「ベテラン社員がなかなか前向きになってくれないケースがあります。単身赴任で現場に行っているから、早く帰るメリットが思いつかないという方の意識改革をどうすればよいのでしょうか。なかなか賛同してくれない方に対して、どんなふうに取り組まれましたか」といった内容です。
川本:大本組さまの中では、賛同できない理由として「現場が忙しいので、働き方改革をやっている暇がない」「そもそも時間を減らすと仕事の質を下げてしまうのではないか」「これまでもやってきたけど、上が動いてくれない。何回同じやりとりを続けるのか」といった声が上がっていました。
平塚の現場で所長クラスの方とお会いしたときには、「これまでも要望を何度もあげてきたけど、なかなか実現されていない。非常に歯がゆさを感じているけど、どうしたらいいか』というご相談をいただきました。それに対して「実際に皆さんが減らしたいものや工夫してほしいものを、ぜひ項目として挙げてください」と申し上げたところ、現場から127の削減項目を出してくださいました。
その127の削減項目を安達さんと私たちが本部に上げ、第1回の回答で「30〜40項目については減らす、または何らかの工夫で削減を検討する」と示したことによって、「今回のこの取り組みは本気なんだな。自分も本気でやりたいと思います」と皆さんの風向きが変わりました。
また、改めて気づいたのは、ベテランだけではなく、若手にもいろんな方がいらっしゃるということです。若手は早く帰りたいと思う方が多いのですが、実際にお話を聞くと、「私たちは早く帰りたい気持ちもありますが、せっかくやりがいのある大事な仕事をしているので、早く一人前になりたい。この取り組みを早く一人前になるための取り組みにしたいです」という声を上げていました。中には、「自分が同期の中で一番になりたい。それをモチベーションとして取り組みたい」という声もありました。1人ひとりのモチベーションを大切に扱っていくことは、一歩を踏み出す上で非常に大事だと思いました。
◎2社の事例からみる、事務局のありかた
浜田:ありがとうございました。発表された2社のお三方とも、働き方改革の事務局として非常に大きな成果を出されていました。そこで振り返りを行いたいと思いますが、ポイントが5点あったと思います。
1つ目は、事務局メンバーの人選が秀逸であったという点です。いずれも現場の葛藤がよくわかるメンバーを選定していました。現場感をプラスすることで、現場と事務局との関係を作ったところに特徴がありました。
2つ目は、伴走する姿勢が非常に上手だと感じました。信頼関係をつくった上で、「あとは現場よろしく」と任せっぱなしにしないところがポイントだったと思います。コミュニケーションの頻度も非常に高めで、特に三菱ケミカルエンジニアリングさまは、全国各地に実際足を運ぶとともに、オンラインでクイックに打ち合わせをしていました。ハイブリッドに使える手法を使っていくところも、工夫の一つです。
3つ目は、お三方とも忖度を排除してしっかりトップを巻き込んでいました。キックオフをするときにメッセージをいただき、背中を押していただくなど、トップが味方になると効果が高くなります。また、トップのメッセージだけでは伝わりにくいときに、弊社の対話で引き出していく場をセットするなど、非常に工夫がありました。
4つ目は、社風にあったアレンジ力です。取り組みが深まっていくにつれて、ニーズが多様になってきます。DXのニーズが上がってくることもあれば、評価を変えたいというところもありますし、育成の仕組みを変えるべきとか、いろんなものが出てきます。こういったニーズに、2社ともかなり柔軟に対応している印象です。アレンジ力があったからこそ、取り組みが広く浸透していったのではないかと見ています。
5つめは、現場と本社の架け橋役を担っていた点です。三菱ケミカルエンジニアリングさまは、DXとの連携を強調していましたが、それ以外にも現場だから・本社だからやれることが必ずあります。
例えば、ある企業でこんな事例がありました。現場は安全の書類を月末にしっかり上げることが求められています。複数の書類に同じ内容を書く必要があり、無駄が多いと感じているけれど、安全書類を改革する権限はありません。毎回大変だけど、30分、40分、50分のことだから頑張ろうと、どうにか対応していました。それに対して本社には、書類を変える権限がありますが、まさかそんなに重複に苦しんでいるとは気づいていません。この現場と本社の架け橋をしていくことによって、改善できたことがありました。大本組さんでも部門横断で取り組むプロジェクトを立ち上げ、ワーキンググループを通じて現場と本社で協働的な成果を出しています。
自社の課題は、刻々と変わっていきます。2社ともに課題を適切に捉え、効果的な進め方をしているところが非常に特徴的でした。これから働き方改革を持続可能な形に加速させていくにあたっては、事務局のあり方5点を意識していただければと思います。
◎働き方コンサルティング5つのステップ
ここからは、皆さんから事前にいただいたご質問やご相談を取り上げたいと思います。まずは「本気で組織改革をしたい。若手が望む働き方を実現するにはどうしたらいいのか」というご質問です。
本日、お三方に実証いただいたのが、時間が減って利益が増えるという働き方改革コンサルティングであり、注目いただきたいのはステップ1~5です。
まずは、【ステップ1 手に入れたい働き方の言語化】です。若手の望む働き方は何なのか、ベテランの望む働き方は何なのか、それは会社が利益を上げる方向性と一致しているのかについて、ステップ1でしっかり握っておくことが大事です。私たちのおすすめは、会社単位で描くことも重要ですが、現場単位、職場単位でしっかり言語化することです。「この現場だからこそこういう働き方がしたい」という声が若手からもベテランからも必ず上がりますので、ステップ1を職場単位で実施することが非常に大事です。
その上で、【ステップ2 働き方や労働時間の把握】→【ステップ3 実態から抽出した課題の分析】→【ステップ4 課題を解決するための議論の支援】→【ステップ5 解決策の効果検証・次の対策の構築支援】というPDCAサイクルを回し続けることがポイントです。自社で独自に取り組むときも、5つのステップが上手に回っているか、ぜひ確認いただければと思います。
◎建設業2024年問題伴走プログラム
現場ごとにいろいろな特色がありますが、「ここはとにかく大変なんです」という現場があるかと思います。そういう現場を助けるために、ITを導入したい声もたくさんいただきました。
現場自身で、【ステップ1 手に入れたい働き方の言語化】を行い、現場特有の課題を抽出していただくのが王道ですが、「忙しいからそれがなかなかできない」という悩みもあります。とにかく早く変化を出したい、この現場を助けてあげたいという場合には、建設業独特の問題に併走するプログラムをご提供するケースもございます。
このプログラムは、皆さんが自分で解決策を考える時間を短縮するという意味で、私たちが触媒的な効果をご提供するプログラムです。現場の課題のヒアリングをしたり、アクションの実行に伴走したりすることをスピーディーに実施します。こういったやり方もご参考いただけると思います。
昭和コーポレーションさまでは、現場が混乱している状態でIT導入を進めるよりも、現場でやめる仕事を見つけて削減したほうが効果が高いということで、私たちが実際にご一緒しました。例えば、いろいろな部材を扱う部署で価格改定のメンテナンスを実施するなど、現状で削減できるところを先に見つけた上で、会社として課題解決する仕組みを作るという順番で取り組んでいただきました。
◎心理的安全性を高める「カエル会議オンライン」
「カエル会議オンライン」という、オンラインでチームの働き方改革をガイドするツールを活用していただいたのが、鹿島建設さまの東京土木支店、外観中央ジャンクションの工事事務所です。この工事事務所では、いろいろな取り組みを心理的安全性高くやっていくためにカエル会議オンラインを導入しました。
カエル会議オンラインは、皆さんが匿名で自由に意見を出し、そこから何を実行していくかを決め、進捗を見守ることができるツールです。毎月の工事の施工図、ステップ平面図と工程表ベースでの素案を出すと、若手もベテランも自由に意見を出していきます。一次請け、二次請けの方にも入っていただき、専門的な視点からコメントをいただくことで、施工計画を何度も練り直すことなく進めていけるようになりました。
◎講演を意識改革につなげる
ベテランやトップも含め、改めて意識改革をしたいとご依頼をいただくケースもあります。今回のアンケートの中でも「どんなふうに意識改革をすればいいですか」というご質問がありました。
働き方改革を進める手順について端的にお話すると、多くの企業がやりがちなのが、まず【1 多様な背景を持つ人材(新卒・男子・独身・日本人以外)の積極採用】を進めることです。
そうすると、多様なメンバーがいるので、「介護で時短が必要になる」「育児で休職が必要になる」といった、いろいろなライフイベントに直面します。そこで【2 休業・時短を経て継続就業できる制度の整備】を行うわけですが、制度があるのにメンバーが仕事の成果を出してくれない、モチベーションが下がってしまうという悩みにぶち当たります。
こういう問題がなぜ起きるかというと、【3 長時間残業の是正】が行われていないと、長時間残業できない人は一人前とみなされず、モチベーションは下がってしまうからです。また、重要な会議が時間外に行われたり、19時以降に育成タイムが設けられたりすると、時間制約のある方は育成システムに乗っていけません。あるいは出世するポストは出張、転勤、残業が多く、これらが是正されないと、せっかく多様なメンバーを入れても活躍できなくなるわけです。
長時間残業が是正されない理由は、【4 評価の見直し「成果主義」の定義修正】に関係します。成果が「月末や年度末に締めたときにどれだけやったのか」と定義されていると、どれだけコストがかかったとしても、1分1秒でも長く働き、少しでも山を積んだ人が勝つことになります。でも、本当に生産性を上げるならば、「9時から5時でどれだけやったの?」という時間当たり生産性を上げていく必要があります。
つまり、問題が見えた順に対応していくと、1→2→3→4の順番になりますが、本当は4→3→2→1の順番で対応していくことが重要です。講演では、こういった本質について各社の課題に合わせてお伝えしています。
なお、「現場のみんなが忙しくて、集まって講演を聞くなんてできない」という場合は、講演動画を活用いただいています。三機工業さまは、現場での働き方改革と、それをサポートする本社側の改革が非常に進んだ会社ですが、動画のコンテンツを加速の起爆剤にしていました。
◎「朝メール」で属人化を解消
ほかにも「うちの場合はトップが問題なんです。トップを勉強会に連れてきたかったぐらいです」とお聞きするケースもあります。トップはいろいろな時代を経て、今の働き方を確立しています。そこにはポリシーや大事にしたいものが眠っているので、それを今の時代の背景と上手に合わせることができれば、働き方改革を加速するキーマンとなります。そこで、私たちがトップの皆さまと対談を行ったり、役員リレー方式で対談したりするケースもあります。
また、「とにかく人が来ません」というお悩みもいただきました。現在は、かつてと違ってオンライン採用がメイン戦場になっており、新しいノウハウを身につけてしっかり発信をしていくことが重要です。冒頭でご紹介したフクヤ建設さまは募集人数が3.5倍になったとお話ししましたが、ここに専門的なノウハウがあります。まずは採用・人事から取り組みたいという場合も、ぜひ一緒に取り組めればと思います。
「仕事をコントロールできません」という悩みについては、仕事の属人化を解消し、チームでしっかりコントロールしていくために、「朝メールドットコム」というツールをご提供しています。朝メールは、時間の使い方・タイムマネジメントにメスを入れたいという企業さまに、ぜひご参考いただきたいツールです。国交省の道路局さまでも導入され、国会や法案のスケジュールなどアンコントローラブルな状況の中、上司と部下のタイムマネジメントをもとにしたコミュニケーションを取った結果、「超勤45時間以上の職員が20%減少」「有給取得日数は20%増加」といった効果をもたらしました。
東芝プラントさまの施設設計グループチームでは、若手メンバーが新たにチームに参加したとき、朝メールを見るだけで先輩たちの時間の使い方がよくわかるようになりました。「仕事の効率的な組み立て方がよくわかるようになった」「朝メールをきっかけにコミュニケーションが取れるようになって、アドバイスや相談を受けることができた」といったコメントをいただいています。若手が即戦力になるツールであり、ぜひ取り組んでいただけたらと思います。
◎女性活躍への有効な打ち手
「女性活躍を進めたい」というご相談もいただきました。女性活躍については、「一般職の女性を活躍させたい」「現場での女性の活躍をしていきたい」「管理職候補を増やしていきたい」など、会社によってフェーズがさまざまあり、私たちもいろいろなプランをご提供しています。
オーテックさまでは、現場のチームと現場を支援するチームがあり、支援チームは女性のメンバーがたくさんいらっしゃいました。この両者が合同で働き方について考えるカエル会議を実施することで成果が出てきています。特に女性活躍を課題にしている会社さまに、ぜひお話を伺えればと思います。
他にも、「ダイバーシティーの意識が足りない」という課題の解決や、男性育休推進のニーズが非常に増えてきており、こういったニーズに応える学習動画や各種研修もご提供しています。
また、私があるプラント系の会社のコンサルで仙台港の事務所にお伺いしたとき、「ライフ・スイッチ」というゲーム型の研修を実施したことがあります。これは価値観の多様性を理解できる研修であり、無料体験会もございます。さらに、DE&Iの実践パッケージなどを準備しております。
なお、本日ご登壇いただいたお三方には、ワーク・ライフバランスコンサルタント養成講座を受講いただきました。すでに働き方改革を推進する役割を担っていて、もっと加速させていきたいという方には、ぜひ申し込みいただければと思います。
本日は、建設業特化型勉強会にご参加いただき、ありがとうございました。ご登壇いただきました三菱ケミカルエンジニアリングの花岡さん、大本組の石川さん・安達さんにお礼を申し上げます。皆さま、本当にありがとうございました。