男性が長期育休を取って、家族みんなでできること
パパが長期育休を取ったら、家族みんなが幸せになった!
育休手当だけで暮らせる「フィジー移住」という選択
「3人目が生まれたら、パパも育休を1年取って家族でフィジーに移住する!」そう決めていた若き夫婦がいます。弊社コンサルタントの大畑愼護と、妻・恵吏さんです。「再現性があることを示したかったので、育休給付金だけで生活費すべてをまかなった」というこだわりと、夫妻の明るい語り口、子どもたちの輝く笑顔は、男性育休に対する誤解や思い込みを見事に吹き飛ばしてくれます。「子どもが小さいうちに南の島で自由に暮らしたい。その夢をかなえたらまた次の夢を見られそう」──夢を夢で終わらせなかったおふたりに話を聞きました。
男性育休を当たり前にする、“目からうろこ”の起爆剤
みなさんの周りでは「男性社員の育休取得」、進んでいますか? 女性なら当然なのに、こと男性となると、本人は「休みにくい」と感じ、周りも「休んで何をするの?」といった態度を取りがちです。「少子化対策」「働き方改革」において男性育休の取得率を上げることは急務ですが、本人も雇用側もいまひとつ「ぴんと来ない」というのが現状なのです。
ここで重要なのは、前例を増やして「男性も休むのが当たり前」な社会に変えること。弊社では講演・研修やコンサルティングを通じてそうした点を訴求し、実際、社員は男女問わず好きなだけ育休を取っています。そんなわが社でも、「育休中に家族5人でフィジーに移住」という大畑家の選択は目からうろこ!
弊社コンサルタントの大畑愼護と、鍼灸師の妻・恵吏さん。
彼らのすばらしいアイデアと柔軟な対応力をご紹介することで、「1週間でもいいから、まずは育休を取ってみよう」と実行に移す男性、そして、それを心から応援する経営者・上司・同僚がひとりでも増えてほしいと願っています。
暖かく晴れた、秋の海辺にて。砂も波も気にせず、日暮れまで半袖で元気にかけまわる子どもたちを見ていると「“全力で遊ぶ”とはこういうことか!」「こんな育児がしたかったんだなぁ」と思わず納得です。
男性育休の現状
ユニセフの発表によると、41カ国による2016年時点での子育て支援策の中で、「給付金などの支給制度を持つ出産休暇・育児休業期間の長さ」において、日本の制度は男性で1位の評価を得ました。しかし取得する父親は少ないという特異性も同時に指摘されています。実際、男性の育休取得率は、統計が開始された1996年以降、0〜6%台で低迷し、2018年度でもわずか6.16%に過ぎません(女性は8〜9割で推移)。
この現状に対し、「制度は充実しているのだから、あとは周知徹底すればいいだけだ」という声は依然として多いのですが、周知活動だけでこの低迷から抜けることはもはや不可能であり、男性育休を義務化すべき段階にきています(弊社代表・小室のFacebookでのレポートもぜひご一読を!)。
人材を確保する上でも、男性社員が育休を取りやすいしくみ・雰囲気をつくることはすべての組織において急務なのです。
■弊社が呼びかけている「男性育休100%宣言」に、続々と宣言企業が集まっています。みなさまもぜひご参加ください。
2人目までの育休は消化不良。
第三子誕生で満を持してフィジーへ
大畑は、第一子誕生時に1ヶ月、第二子では2ヶ月+1ヶ月と2回にわけて育休(※1)を取得しました。が、「休むまでの準備、仕事の状況、気持ちの整理など、あらゆる面で自分の力不足のため消化不良。満足のいく育休を取れなかったという強い後悔がありました」と振り返ります。
満を持して迎えた「三度目の正直」が、今回の海外移住でした。フリーランスで鍼灸師として働いていた恵吏さんはいったん仕事を辞め(現在は復職)、大畑本人は1年の育休を取得して、2018年7月から翌年2月末までの8ヶ月間をフィジーで過ごしたのです。
「育休を取っても何をすべきかわからないという方も多いですが、“妻の手助けをする”のではなくて、一緒に育てるつもりで臨めば、やるべきことは多々あります。もちろん誰もがフィジーに行くべき!とは思っていなくて(笑)、1週間でも1ヶ月でも、家族のためになることをやればいいと思います。とにかく育休を取らないと良さはわからない。絶対に取得すべきですよ!」
1年の育休というと「男性でもそんなに休めるの!?」と驚く方が多いかもしれませんが、性別を問わず1年間は取得(※2)できます。
大畑は帰国後にSNSや雑誌、イベントなどで自身の経験を発信。その結果、「マレーシアで育休移住を実践中」など“後続者”が続いています。あるいは「移住はしないけど、長めの育休を取得して家族の時間を大切にする」「1人目は1日も休まなかったけど、今回はしっかり育休を取る」など、“積極的に子育てするパパ”を増やす結果にも。
そもそもなぜ
「育休使って海外移住」を
思いついたのか?
「妻は普段から、日々の備忘録やアイデア、長期的な願いなど、思いついたことを付箋に書いて自宅の壁に貼っています。その中に“海外で3ヶ月以上暮らす”というのがあり、頭の片隅に残っていたんです。好きな仕事を辞めてまで移住、というのは現実的ではないし、リタイアしてからというのも違うなと。で、3人目を妊娠する前から“生まれたら育休を1年取るから、子育てのために海外に移住しよう”と決めていました」
フィジーにて。「子どもたちが楽しめる環境で子育てしたい」という“子ども目線”での移住先ですが、こんな笑顔を日々見ることができるのは、親にとってもすばらしい環境!(写真/大畑)
移住先としてフィジーを選択した理由は、
- 英語圏である
- 価値観が日本と違う(貴重な経験ができる)
- 海がきれいで自然が豊か(子どもたちが楽しめ、リラックスできる)
- 住民が優しくて、治安がいい
- 物価が安い
という5つの条件を満たしていたから。
フィジーに移住した理由はこちらにもまとめています。
優しいフィジーの人々との交流も、短期の旅行ではなく「住んでいるからこそ」できたこと。きっと生涯記憶に残る貴重な体験です(写真/大畑)
とくに「物価」に関しては誰しも気になるところ。
「移住に関する費用は、当時住んでいた都内の賃貸マンションの引っ越し代、荷物を実家に送る送料、あちらへの航空券から生活費、帰国後に家を借りる敷金・礼金まで、“育休手当だけですべてをまかなう”と決めていました。育休手当は月給の約2/3(※3)、フィジーの物価も日本の約2/3なので、その点でも移住先として向いているな、と。一番の決め手は自然の豊かさ、子どもたちがストレスなく過ごせる環境、という部分ですが、やはり金銭面の問題は大きいですからね」
コンサルタントとして日々「男性育休にまつわる課題と直面する企業」をサポートしている大畑としては、「自分の経験には再現性があり、誰にでもできることなんだと証明したい」という強い思いもあり、育休手当だけでまかなうことにとにかくこだわったのだといいます。
「私の妻は個人事業主なので育休手当はありません。奥さんも会社員の家庭なら2人分の給付金が支給されるわけですから、わが家よりもずっとラクにフィジーで暮らせますよ(笑)」
「産後うつ」になりやすいワンオペ育児。
夫が共に過ごすのは当然!
男性が育休を取得する意義は、「その人自身が父親として子育て経験を積める」「育休中に得た経験は、その後のライフやワークに大きく影響する」ということ以外にも、「妻との関係性を良好に保てる」「妻の体調を整えてあげられる」「働く妻の職場復帰を応援できる」「2人目、3人目を生みたいと思える」など多くのメリットがあります。
産後の女性は心身ともに調子を崩しがちです。ゆっくり休みたくても、赤ちゃんの世話を優先させるため自分の休養はあとまわし。出産後の女性の10人に1人が「産後うつ」を発症し、産後女性の死因一位は自殺という現状を見ても、女性ひとりにのしかかる負担の大きさは明らかです。その女性が仕事を持っているなら、「自分はいつ職場に復帰できるのだろう?」という不安や、「2人目もほしかったけど、ムリ!」というトラウマ体験を抱き、あきらめることになるのです。
3人目の妊娠・出産を機に、恵吏さんはいったん仕事を辞めました。しかも海外に移住したのですから生活環境はがらりと変わったわけですが、夫との二人三脚なので不安やストレスはなし。「行ってしまえばなんとかなります」と明るく笑います。
フィジーに引っ越した直後は「住む家をどうするか」など何かと慌ただしかったものの、恵吏さんは常に前向きな気持ちで過ごせたといいます。「夫が家探しに奔走しつつ家事や育児にもしっかり関わって、ふたりで協力しあえましたから。彼が育休を取らなかったらこういう関わり方はできません。もちろん苦労はありましたけど、それも含めて貴重な8ヶ月でした」
育休は本当に良いもの。
誰もが絶対に取ってほしい!
育休をしっかり取りたい、と考えている男性は少なくありません。でも、仕事の状況を優先し、上司や同僚への遠慮もあって、自分から“休みます”と言えない人が多いのです。
「“38歳のハードル”も影響していますよね。世代によって価値観にはギャップがありますし、もちろん個人によっても違います。でも、男性育休はそうした違いに関係なく取ってほしいし、会社側も、今後採用される世代は“育休がきちんと取れる会社かどうか”をしっかり見ていることを認識していただきたいです。男性社員が育休を取るのは当たり前という風土を早々に作り上げた会社は、採用・定着・イノベーションの面で強いですよ」
「育休は本当に良いもの。絶対に取ってほしい!」と語る“育休移住の先駆者”大畑。そのすばらしい経験と家族の笑顔を見聞きし、誰もが多くのことを感じ取られたのではないでしょうか。ぜひ、それぞれの立場から、「男性育休の取得率が上がること」「育児を通じて幸せな家族が増えること」に貢献してみてください。
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大畑本人へのご依頼も受け付けております。
撮影/SHIge KIDOUE
文/山根かおり