Case Study

社会を変えるイベントレポート

建設業界オンライン勉強会『2024年までに現場で売り上げ向上と残業削減を達成する働き方とは』

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2021年11月16日、『2024年までに現場で売り上げ向上と残業削減を達成する働き方とは』と題した建設業界向けオンライン勉強会を開催しました。国土交通省・保全企画官の藤浪武志氏を迎えた基調講演をはじめ、働き方改革に邁進されている各社の担当者より、改革への姿勢や戦略、現場での具体的な取り組み方などをシェアしていただきました。建設業界出身である弊社コンサルタント・浜田紗織がモデレーターを務めた当日の様子をお伝えします。

『建設業をとりまく環境変化と働き方改革について』
  国土交通省 大臣官房技術調査課 事業評価・保全企画官 藤浪武志 様

211116国土交通省藤浪様①

日本を取り巻く状況

今後、日本の「生産年齢人口(15〜64歳)」は急速に減少することが予想されています。「経済成長=人口の増加×生産性の向上」と考えれば、人口減少を補えるほどに生産性を上げていかなければ国力は維持できません。

生産性向上のための施策としては、たとえばデジタル化が挙げられます。コロナ禍でテレワークやオンライン会議の導入が進んだこともあり、社会全体のデジタル化が進展して働き方も大きく変わっています。建設業界でもデジタル化を積極的に取り入れるなど、早急な対応が必須といえます。

建設産業の現状

建設業にも「人口減少」の影響が及んでいて、就業者・技術者・技能者のいずれも減少の一途を辿っています。就業者の高齢化も進み、現在では約3割以上の方が55歳以上、29歳以下は約1割です。今後10年も経てば55歳以上の方の大部分が退職されるため、若い世代の雇用と技術の継承が大きな課題となっています。

一方で、建設業界における働き方の現状を見てみると、若い世代が「働きやすい」と思える環境が整っているとはいえません。4週8休、つまり週休2日ができている方は建設業全体の2割程度にとどまり、建設工事の現場全体では技術者の約4割が4週4休以下で就業しているのが現状です。この働き方を続けていくと、2024年には労働基準法違反に相当することになります。

労基法の改正においてとくに注意すべきなのが、時間外労働の規制です。みなさんご存知の36協定を結んだ場合でも、月に45時間かつ年間360時間(月平均30時間)の超勤規制があります。4週4休以下の勤務状況ではこれを越えてしまうため、週休1日という働き方は早急に見直していく必要があります。この働き方を変えていかなければ、建設業のイメージは向上しません。私自身は非常に魅力のある産業だと思っていますが、現状では良いイメージを持たれているとは言えず、「子どもの就職先としてすすめたくない」と考える方が多いという結果も出ています。

今後、災害の頻発が予想されることもあり、地域の守り手である建設業でインフラ整備や管理の担い手を確保していくことは非常に重要です。従来いわれていた“きつい・きたない・危険”の「3K」から、“給料が良い・休暇が取れる・希望が持てる”という「新3K」の産業に変えていく必要があると考えております。

建設業における働き方改革

こうした新3Kの実現に向けて、国土交通省直轄の工事で実施している取り組みを給与・休暇・希望の3つのブロックに分けて、一部ご紹介します。

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【給与】適正な労務単価の設定
東日本大震災の前まで労務単価は下降の傾向にありましたが、それ以降は9年連続で上昇しています。

【休暇】週休2日対象工事
週休2日を必ず実施していただくようお願いする工事を拡大しています。年々増加し、昨年は約9割の工事で週休2日が実現しました。今後もこの取り組みを続けていきますが、3億円以上の本官工事については発注者が週休2日を指定する工事がすでに100%、3億円以下の分任官工事でも順次割合を増やし、令和5年度には100%にしていく計画です。道路工事や災害対応など現場を閉鎖できない工事については交替制で週休2日としていただくなど、内容に関わらず全工事で週休2日を確保していくことにしています。

【休暇】適正な工期設定指針
週休2日を反映させた上で工期を設定するだけでなく、実工期を柔軟に設定していただけるよう「余裕期間制度」なども取り入れています。

【希望】i-Constructionの推進
2025年までに生産性を2割向上するという目標実現のために、たとえば大企業だけでなく中小企業でもICTを導入できる現場環境を整えたり、コンクリート工の規格を標準化したり、あるいは特定の時期に発注が集中しないよう発注者側が施工時期の平準化を進めたり、非接触・リモートでの遠隔臨場を実現したりと、さまざまな角度から取り組んでいます。

こうした取り組みは横展開していくことが重要なので、『i- Construction大賞』を設けて大臣に表彰していただき、受注者・発注者の良い事例を全国に広げていくということも進めています。

インフラ分野のDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進

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これについては国土交通省だけ、業界だけで実現できることではないので、国民・業界・行政が連携しあって、仕事の仕方をデジタル化していく必要があると考えています。各種手続きの迅速化・無人化や、自律施工による安全性・生産性の向上、3次元データの活用、点検・管理業務の効率化などをはかり、仕事のプロセスや働き方を変革していきます。

『鹿島建設株式会社』の事例
 鹿島建設株式会社 東京土木支店 阿部泰典 様

211116鹿島阿部様④

今回この現場で働き方改革に取り組んだ経緯として、2021年4月に現場組織の再編成があり、私自身が初めて所長を拝命したことがあります。

当時の状況としては
・経験豊富なベテランの年上社員に助けてもらえるか?
・人数が多く、事務所内のベテランと若手の風通しもあまりよくないため、
 若手社員や協力会社とのコミュニケーションはうまくいくか?
・前任の所長が優秀だったのに比べると、自分に対応できるか?

といったさまざまな不安を抱えていました。

そんなとき、会社と組合の共催で「働き方改革の啓蒙活動」が実施され、WLB社のセミナーに参加しました。そこで初めて「心理的安全性」というキーワードに出会い、非常に共感したのを覚えています。同じタイミングで、WLB社のコンサルティングを受けられるモデル現場に運良く選定してもらいました。

不安や課題を払拭するためにも「雰囲気を良くして、助けてもらうしかない! 流れに乗っかって、何でもやってみよう!」という思いで取り組みをスタートさせました。現場で取り組む際「心理的安全性」というキーワードを浸透させる、などの目標を掲げ、それを具現化するための工夫をいろいろと実践していきました。

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現場での取り組み~現在取り組んでいるプロジェクトを例に~

●ご意見吸い上げワーク(付箋会議)

主に若手や職長を対象に「どんな現場が良い現場?」というアンケートを実施。 どんな内容も否定せず、良い現場のイメージを模索しました。その結果「雰囲気の良い現場・楽しい現場」の重要性を再認識し、がんばって実現していこうという流れが生まれました。

●雰囲気を変える取り組み

・グッジョブカード

会議の中で「何かやろうよ」と出てきた取り組みの一つ。名刺サイズのカードを利用し、現場で見かけた「良い行動」に対するコメントを書いて、JV職員や協力会社職長から作業員にその場で手渡しています。作業員さんが喜んでくださったり、次の会話のきっかけになったりして、コミュニケーション向上と「良い行動」の推奨につながっていると思います。

テーマを決めたご意見ボード

「現場でのグッジョブにはどんなものがありますか?」「現場でやりたいこと」など「今週のお題」を示したホワイトボードを事務所や現場に設置し、付箋を利用して自由に意見を出してもらいました。作業員さんの本音を拾えることが我々にとっては重要ですし、「自ら参画している」という気持ちになってもらえたのも大きかったと思います。

・現場スローガンの策定

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コンサルティングを通じて「ゴールや目的を見える化し、共有する大切さ」を教えていただいたので、それを実践しました。これも付箋会議で出てきた意見から完成したスローガンで、私自身も大好きな内容です。朝礼で共有したり現場に掲示したりして、周知にも力を入れています。

●実施工への改善取り組み

・付箋会議による施工洗い出しワーク(定期開催)

意見を出しやすい雰囲気に変わっていたこともあり、各々で「現場に対して気になっていること」を付箋に書いて貼り出すというワークを定期的にやってみました。結果、現場担当社員だけでは気づきにくかったことも、経験豊富なベテラン層から「そろそろこういうことが懸念されそう」など早めに指摘してもらえ、事務所全体で懸念点を共有できました。若手が相談を持ちかけやすい雰囲気を作れただけでなく、主体的に考えてくれる空気が強まり、若手のやる気もアップしたなと感じています。

取り組みを通じて得られた効果

主に以下の2点が挙げられます。

・現場の雰囲気やコミュニケーションは明らかに向上
・調整や相談の機会が増え、安全面・施工面にも良い影響が!

取り組みを通じての所感

・若手は楽しんで取り組んでくれたが、その一方「遊び」の要素が多かった
⇒意見を否定しないよう心がけながらも、すべてを採用するのは難しかった

・逆に年配の幹部層は楽しむことに壁を作っている
⇒最初は取り組みに対する壁もあったが、実際に空気が変わってくると、若手に対して「叱責」ではなく「意見・アドバイス」をしてくれるように。若手が変化する様子を目にすることで、徐々に幹部層も改革に参加することを楽しんでくれるようになってきた

・協力会社はさまざまな立場や意見があり一概には言えないが、共通する見解として、「下請けと元請けとしての立場の壁はある」というものがあった
⇒協力会社の意見・本音を吸い上げながら、どういうやり方がいいかを模索し、現場全体を成長させることにつなげたい

一人ではできないことも、積極的に推進してくれる人と一緒に取り組むことで、良い結果につながった場面が多々ありました。まずはタッグを組んで、楽しんでやってくれる仲間を増やしながら進めていけば空気感はどんどん変わっていくと思います。

『新菱冷熱工業株式会社』の事例
  首都圏事業部 加藤生一さん

211116新菱加藤様⑦

当社で「働き方さわやかProject」の取り組みをスタートした背景には、長時間労働の是正が「担い手確保」のためにも必須であること、働き方改革を最重要の経営課題と捉えて中期経営計画に取り入れたことが挙げられます。

本来は業界全体で取り組むことで効果が上げられるのですが、まずは「自分たちでできることからやろうよ」と、スタートさせました。2017年に「働き方さわやかProject」フェーズ1をキックオフし、今年で5年目。現在では海外を含め全社で取り組みを展開し、グループ会社も参加しています。

働き方改革のスタートは「カエル会議」です。モデルチームが目指す働き方を実現するため、以下のようなプロセスを取ります。カエル会議は働き方を見直すうえで非常に有効だと思っています。

①目標を決める→②今の働き方を見える化→③課題・問題点を抽出→④解決策を検討→解決策を実行。カエル会議で実際に提案された改善事例をご紹介します。

●事例1 見える化(ホワイトボード活用)

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ホワイトボードの使い方を工夫し、各自の仕事内容や期限を見える化しました。ひとりが多くの仕事を抱え込まないように、仕事量の平準化ができています。これは非常に効果があります。ホワイトボードや付箋を使ったアナログ感も、今は逆にわかりやすくていいと思っています。

●事例 2 営業担当者による、①見える化、②目標設定

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営業職が1日どのような仕事の仕方をしているかをまず分析しました。理想のワークバランスに近づくように、業務のシェア・社内書類の整理・社内会議の時間調整などを工夫することで、本来の仕事であるお客様訪問の時間を増やしています。この「仕事時間の分析」は技術部でも実践しまして、大変効果が出ています。

●事例 3 管理職の意識改革に向けた活動

働き方改革の推進には管理職の理解と意識改革がとても重要です。役職員を対象とした活動報告会や勉強会、社外講師による講演会などを開催しています。

●事例 4 ICTを活用した現場業務の効率化

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世の中にはICTを活用した便利なものがたくさんありますので、常にアンテナを張って新しい技術を取り入れることが大切です。躊躇することなく取り入れて、ダメだったらすぐあきらめる、よかったらどんどん展開するというやり方で、まずは生産性を向上させることです。

●事例 5 成果をまとめたガイドライン公開

具体的な実施例をガイドラインとしてまとめ、社内掲示板に載せています。働き方改革には「特効薬」がないので、改善事例を真似することが早道です。TTP、徹底的にパクる!「二番煎じ」大歓迎です。

●事例 6 社員へのさまざまな啓発活動

働き方改革の参考になる情報を社内掲示板や社内報で紹介しています。ホットな情報をなるべく早く展開するのがポイントだと思います。

これまでの成果

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数字的にはそれほど大きくないかもしれませんが、私たち社員は「変わったな」ということを強く実感しています。

この5年間で、社員の意識や仕事への姿勢は大きく変わりました。取り組み前は「そもそも無理、できるわけない」と考えていましたが、現在は「有給休暇を取りやすい、早く帰りやすい」という会社に変わってきています。

今、魅力ある組織に変わらなければ将来はない、と私は考えています。同じ仕事であれば条件のいい会社を選ぶのは当然なので、今後の人材確保のためにもやはり今、変革が必要です。 当社は働き方改革=経営戦略と捉えています。企業というのは一般的に増収・増益を目標にしますが、これからは「いかに人を集めるか」も大きな鍵になってくるのかなと考えています。魅力ある働き方、やりがいのある仕事ができる会社になる必要があり、今後も働き方改革を進めたいと思っています。

とくに印象的だった、現場での成功事例

●東京・八重洲の高層ビルでの「残業申告制」

若手を中心に、残業を「申告制」にしました。残業の内容や終了時間を申告し、管理職がヒアリングして緊急度を確認し、承認する、という流れです。実際に聞いてみると「それは翌日でもいいんじゃない?」「これはあなたの仕事じゃないよね」という内容がけっこうありまして。高層ビルというと長時間労働が当然のようなイメージがあるかもしれませんが、工期を通じて社員の残業は平均45時間前後におさめられました。とくに若い人には、「残業申告制」は有効かなと思っています。

●名古屋での「急ぎの仕事はお断り」

みなさんもご経験があるかと思うのですが、「今日中に」「明日中に」とか「今日は金曜日だけど月曜日の朝イチで」など、「早く帰れない」「土日も休めないな〜」という依頼ってけっこうありますよね。私どもはサブコンですから、元請けである建築会社にお願いしてこれをお断りするようにしました。

最初はなかなか難しかったですが、なぜそういう期限になってしまったのか話し合うと、「じつは担当者があたためていた結果、ぎりぎりの依頼になってしまった」という。それがわかると、急ぎでなくてもいいという話になってきますので、最後まで「急ぎの仕事はお断り」を続けました。

ただ、ひとつ大切なポイントがあって、「依頼された期限は絶対に守る」ということです。結果、建築会社にとってもメリットはあったようです。

『信幸プロテック株式会社』の事例
  経営管理部 村松直子氏さん

211116村松様⑫

岩手県にある社員数41名の会社ですが、18〜72歳まで幅広い年齢層で構成されています。若い層は若い層の、シニア層にはシニア層の強みがありますので、それを学び合える環境づくりをモットーとしています。

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働き方改革までの道のり

●2017年
岩手県働き方改革推進モデル企業に選定
WLB社のコンサルを受けながら1部門(管理部門)で取り組み開始

●2018年
いわて働き方改革個別プロジェクト賞受賞 
工事部門中心に全社で取り組み開始、kintoneなどによるIT化着手

●2020年 
kintoneAward2020 北海道東北代表として全国発表
テレワーク制度開始

●2021年
新社屋移転
会計クラウド化、オンラインイベント配信開始

初年度に取り組んだ6つの取り組み

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その中から、業務の洗い出し→スキルマップ・手順書の作成についてご紹介します。まず、メンバーの日々の業務をすべて書き出して一覧にまとめ、重複しているもの、複数の担当者がついていない(属人化している)ものを洗い出しました。必要に応じて手順書を作成し、重複業務の削除と「当たり前水準」を向上させていきました。

もうひとつご紹介するのは、現場同行です。こちらは、受付水準の向上・管理部門とサービスマンの連携向上・サービスマンが抱える問題の拾い出しを目的としたものです。私たち管理部門のうち1〜2名が現場を視察し、その内容を部門会議で共有することで全員が追体験しています。

こうしたことを進める一方、「どんな業務に何分かけているか」を棚卸しした結果、「減らしたい」と考えていた業務に最も時間をかけていたことが判明しました。最近は何でも「IT化、IT化」となりがちですが、すぐに手を打つことはせず、棚卸しを通じて「減らしたい/効率化したい業務」を特定し、そこからIT化を進めていきました。

その結果、以下のような効果が得られています。

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また、初年度に取り組んだ管理部門の女性スタッフからは多くのポジティブな感想が寄せられました。

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その後、他部門へも展開すべく、管理部門で実行した付箋ワークや部門ごとの取りまとめなどを、各部門・社員全員で行いました。

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全体で1つの施策に取り組むのではなく、各部門の実情に合った内容で展開しています。その理由は、ルールとして1つのやり方を決めてしまうとなかなか続かず相当な推進力が必要とされますが、部門ごとに自分たちで決めたやり方であれば負荷なく続けられることを体感できていたからです。

たとえば工事部門では、工事ごとの作業手順書や完了時の損益計算書などを作成しました。ITに強くない方も多いので、まずは手書きで作ったものを社内SNSで広げていくなど、工夫をしながらできることから取り組んでいます。

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全体としても、4年間の取り組み後、以下のような成果が出ています。

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そして、単に「早く仕事を終えて帰りましょう」ではなく、効率化して生み出された時間に何ができるかを考えることも大切だと思います。

たとえば
・現場同行の件数を増やして部門間の連携を高める
・ブランディングチーム発足による付加価値の向上
・社内ファイル管理、会計システムのクラウド化推進
・DIYワークショップ、イベント開催(年間11回)
など、「緊急ではないが重要」で「時間をかけたいと思っていた業務」に時間をかけられる状況が生まれています。

テレビや新聞、雑誌、書籍で取り上げられたり、サイボウズ社主催の「kintoneAward」で発表する機会をいただいたりと、広報としての効果も大きかったと感じています。

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FacebookやInstagramなどを活用して、小さな取り組みでもとにかく発信し続けています。写真を撮るという習慣がつきますし、自分たちがどんな取り組みをしてきたかが振り返りやすくなります。また、若手が更新を担当することで「なんのためにやったんだろう」と考えながら取り組むことにつながるので、若手の育成にもつながると思います。


ご発表いただいたみなさま、本当にありがとうございました。最後に、2024年に向けた取り組み方のポイントをご紹介します。

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こちらもご参照いただき、ぜひ取り組みを加速させていただきたいと思います。