Case Study

鹿島建設株式会社中部支店様

「働き方改革は難しい」と諦めていては何も変わらない!
支店長の強い思いでスタートした改革が、現場も業界も変えていく

働き方改革が難しいといわれる建設業界も、本腰をあげて動き始めています。中でも大手ゼネコンとして知られる鹿島建設は、全社の中でもいち早く中部支店で具体的な取り組みがスタート。同社で進行中の改革は同業の方々にはもちろん、「建設業界でできるなら自分たちも!」と、他業界のみなさんにとっても光明となるでしょう。

【前編】中部支店長 片山豊さん・働き方改革事務局 川田知美さんインタビュー
【後編】新小牧市民病院建設工事事務所にて、現場のみなさんへインタビュー

中部支店長 片山豊さん・働き方改革担当 川田知美さんインタビュー
〜「働き方改革」の着手に待ったなし!
1人ひとりの気持ちを変えながら、業界全体を変える取り組み〜
「4週8閉所の実現」が急務の建設業界で、今やるべきこと

「働き方改革が最も難しい業界のひとつ」といわれる建設業界。現在直面している大きな課題は「4週8閉所(週休二日)の実現・長時間労働の是正」ですが、改革が進みにくい一因は、仕事の性質上、一企業の自助努力では限界があることです。

ちなみに、鹿島建設では「4週8休」ではなく「4週8閉所」を掲げています。個人レベルなら交代で「8休」が確保できたとしても、その日に現場が稼働していたら心置きなく休むことができないため、現場自体を「週2回(土日)閉所」とするのです。単なる「4週8休」よりも当然難易度が高くなりますが、より意義のある取り組みといえます。

さて、大規模建設の現場には発注者がまず存在し、元請会社であるゼネコンが土木・建築工事一式を請け負って工事全体をとりまとめます。実際の現場では元請会社のほか、型枠大工、鉄筋、とび、電気設備等々、各種専門工事を担当する多くの会社が関わり合いながら作業を進めていくことになるため「うちは休みます」という単独の主張が通りにくい実情があるのです。一般企業で週休2日が定着しつつある中、建設業界の休日数は4週4休(4週間で4日の休日、つまり日曜のみ休日)以下の現場が半数以上、ともいわれるほどです。


力強く働き方改革を進める鹿島建設株式会社中部支店長 片山豊さんに、改革を成功に導くためのポイントを伺いました。〈弊社担当コンサルタント:浜田紗織(左)と松尾羽衣子〉

「働き方改革を実現するのは難しい」──動かしがたい事実を前に、業界全体が諦めムードに包まれていた中、「困難に負けてはいけない。あるべき理想型を持った上で、現状とすり合わせながら、できることを積極的に推進していかなくては」という強い意志で立ち上がった企業があります。それが、今回ご紹介する鹿島建設株式会社です。

「土曜日は休まないのが当たり前」という現場の意識を変えていく

鹿島建設では、押味至一 代表取締役社長提唱のもと、「担い手の確保」をメインテーマとする『鹿島働き方改革』を全社で推進しています。

端的にいえば、若い人材が就職先として建設業を選択したくなる素地を整え、離職率も下げていくこと(=担い手の確保)を念頭に、一般企業と同様「土・日に休むのは当然」という習慣や認識を現場にも広めていこう、という活動です。そして、その全社的取り組みに先んじる形で改革のスタートを切り、その後も大きな推進力となってきたのは、名古屋に拠点を置く中部支店でした。


中部支店長 片山豊さん。支店長就任前は管理部門と現場の両方を経験し、「現場に行くたびに残業が当たり前になるのはおかしい」と思い続けていたそう。ひとつの現場だけを変えるのではなく、支店長となった今こそやりたかったことをやろう!と改革に着手しました。

中部支店が以前から率先して働き方改革を進めてきた背景を語るには、片山豊支店長の存在が欠かせません。今でこそ、政府が日本社会全体の働き方改革を促し、日本建設業連合会(日建連)も各社に改革を呼びかけていますが、片山さんが鹿島の中部支店長となり「社員のワーク・ライフバランスを何とかしたい」と動き始めた当初は、まだ周囲の理解もあまり得られなかったといいます。

■働き方改革の立役者・片山支店長の想いと行動

「自分自身が何時間も平気で残業して働いてきた世代ですから、そこへの後悔はありません。でも、平成のはじめぐらいでしたか、月に2回だけは土曜日も休むというのが会社の制度として決まったとき、“土曜日に家にいる?何をしたらいいんだ?”と戸惑ってしまって。“なんという生き方をしてきたんだろう・・・”と呆然としましたね。自分はいいが、家族を犠牲にしてきたなと。“現場では週休1日、長時間労働が当たり前”というのは今の時代に合わない。だから若い人が建設業界を敬遠して、担い手が不足しているんです」

支店長となった片山さんが各工事事務所の所長に対してまず働きかけたのは「オンとオフの切り替えを明確に」ということ。しかし、現場ではなかなか“腹落ち”してもらえません。手詰まりになりながらも動き続けていた2016年、名古屋で開催された「中部経済4団体新春講演会」で弊社代表 小室淑恵の『経営戦略としてのワーク・ライフバランス』を耳にし、「効率化することで生産性も上がるという視点なら、現場の人間も納得しやすいだろう。これだ!」と直感。弊社に問い合わせメールをいただいたことからコンサルティングがスタートしました。

建設業界の働き方改革はトップダウンでしか進まない

「建設業界の働き方改革はトップダウンでしか進められないテーマです」という片山さん。まず発注者とゼネコンの間で工事請負契約を結ぶ際に工期が決まるわけですが、従来は「土曜日に仕事することを前提とした工期にするのが当然」という暗黙の了解がありました。「ほかの会社が働いているのに鹿島だけ休むわけにはいかない」と感じるのは現場の人たちにとっての“誠意”でもあったのです。

「だからこそ、上の人間が調整していかないと無理なんです。なぜ日本で働き方改革が急務なのか、なぜ建設業界で取り組む必要があるのか。担い手の確保をしなければ立ちゆかなくなる、という点も含めて、“今はそういう時代だから”ときちんと説明すれば、発注者様の大半は理解してくださいます」

■トップに立つ人物が自らの言葉で説明したこととは?

現場を取りしきる所長に対しても、支店長自らの言葉で説明を繰り返しました。

「当初は“土曜日も休むなら、まずは適正工期を確保してほしい”と訴える所長が多かったですよ。でも、そもそも適正とは何だ?と考えてみるべきです。機械を増やすか、人を増やすか、工法を変えるか。そういう解決策を考えるのがゼネコンの仕事ですから。たとえば7月に終わらせる依頼が来たら“休みを確保するために8月末まで伸ばしてほしい”とまずお願いしてみないと始まらない。もちろん、“なぜ鹿島がそのようなお願いをするのか”という社会的な背景も含めて、です。大半は応じてもらえますが、無理な場合も当然あります。となれば、ほかの方法で7月に終わらせるしかない。そこで“休みを返上して働く”のではなく、休みを取ることを前提としてどう動くか、どこを工夫するか。それを考えないといけないんです。最初から無理だと諦めていては何ひとつ変えられません」

ひとつの現場だけ、ひとつの会社だけで事を起こそうとしても、業界全体を変えることはできません。しかし、だからといって「自分だけ変えても仕方がない」「今までこうだったから交渉するのはムダだ」とやる前から諦めてしまっては、大きな広がりにもつながらないのです。

「業界全体が足並みを揃えないと変われません。国会の法案では“2024年には建設業にも適用”ということで5年の猶予が与えられています。でも、猶予があると捉えずに“あと5年しかない”と考えて、トップダウンでどんどん進めなければ後がない。これから先、何をしたら理想の場所へとたどり着けるのか。正解はまだ見えないですが、とにかく一歩ずつでも続けていけば、道は絶対にひらけます。ワーク・ライフバランス社さんと一緒に歩んでいけることをとても心強く感じています」


部下の手本となるべく・・・というわけではありませんが、支店長ご自身も趣味の時間を大切にしていらっしゃるそう。「小唄を習い出しまして。楽しいというより、練習がとにかく大変ですが、発表会もありますし、着物を着たりもしていますよ」

事務局としてできることは?進め方は? 担当者の想いと現場への気遣い

片山支店長直轄の働き方改革推進チームの一員として弊社コンサルタントと現場の橋渡し、さらには現場のみなさんの背中を押す役割を果たしたのが、管理部の川田知美さんです。


管理部 総務グループ 課長代理 川田知美さん。支店長直轄の働き方改革推進チームの一員として、取り組みを支え続けています。

解決すべき具体的な課題・目指すべきゴールがどこにあるかを明確にするため、弊社からまず提案したのは、支店内の組織診断を行って、社員のみなさんがどのようなことを感じているのかを把握することでした。

その結果をふまえ、2017年9月に現場所長向けの「管理職研修」を実施。改革の必要性や会議のやり方などを理解してもらい、翌1月からは3つの現場を対象とする「モデル部署コンサルティング」を8ヵ月にわたって行いました。モデル部署は各地に点在しており、また、社員が稼働中の現場から長時間離れるわけにはいかないため、各事務所とコンサルタントをインターネットで繋ぐWEBコンサルティングを実施。川田さんは事務局として現地で会議のサポートをしてくださいました。

■モデル部署に選ばれた現場の反応に対して、川田さんは・・・?

モデル部署の3つを選ぶ際は「なぜうちが?現場としてはそこまで残業は多くないよ」「忙しすぎて時間なんか取れないよ」という反応ばかりで、決して歓迎ムードではありません。そんな中で現場をまわすわけですから、苦労も多かったはず。

「事務局としてもっと積極的に進めたいと思う部分もありましたが、建設現場は個々に独立していますし、現場の仕事に私が口を出すのはよくないかな、という懸念もあり。そういう意味でのさじ加減は難しかったです。でも、何はともあれ8ヵ月もかけるなら自分たちのためになることをやってみよう!と」


最初は手探りなので議論がとまることも多々あったとか。そんなときは「ワーク・ライフバランス社のコンサルタントのお二人ならこう誘導するんじゃないかな?と想像して、それを自分なりにマネしたりもしていました」と振り返ってくださいました。

実際の現場での動きはこの後にご紹介しますが、川田さんが「改革後の変化」を実感できたのは、現場からの声を聞いたときでした。

「改革後の変化」を実感できた現場からの声

  • 改革当初は半信半疑だったが、実際にやってみると、若手からの意見や思いが聞けるようになった。今までも聞いていると思っていたが、そうではなかったことに気づけた
  • 仕事のやり方など、付帯業務について話す機会がそもそも持てていなかったので、そういう機会を持てたことがとてもよかった
  • “カエル会議”にかける時間も最初の頃よりだんだん短くなり、必要に応じて対応できるようになった
    ※“カエル会議”とは・・・業務の課題を解決するためにチームで集まって実施する、弊社提案の会議法。「働き方を変える・早く帰る・人生を変える」という3つのカエルを込めて“カエル会議”と呼んでいる。

今後も改革を進めていくことになりますが、今回経験した前例があるので、その成功や失敗をもとに、さらなる効果を出していけそうです。「ひとつの現場が終わるとまた別の規模・人員で別の現場へ向かうという特殊な仕事なので、数値的な達成感より、個々が学び、感じたことを次の現場でも活かしていけたら。事務局としてはそういう広がりや展開を期待しています」

事務局としての心配りや牽引力を今後もますます発揮されることでしょう。

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担当コンサルタント

撮影/SHIge KIDOUE
文/山根かおり

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