Case Study

鹿島建設株式会社中部支店様

「働き方改革は難しい」と諦めていては何も変わらない!
支店長の強い思いでスタートした改革が、現場も業界も変えていく(2ページ目)

新小牧市民病院建設工事事務所にて、現場のみなさんへインタビュー
〜特殊な働き方をする「現場」での改革は
若手とベテランそれぞれが意見を出し、成長していくこと〜
改革が難しい「現場」こそ変えなければ、意味がない

鹿島建設が働き方改革の「モデル部署」として選んだのは管理部門ではなく、規模や条件の異なる3つの現場。建設業界の働き方改革では、「現場」を変えることが最も難しく、しかし同時にその「現場」を変えなくては意味がないからです。

建設現場はひとつの案件ごとにチームを作り、工期が終了すれば解散して、また別の現場へと向かいます。メンバーも期間も場所も条件も毎回異なる、特殊な環境。しかも、先に述べたように発注元があり、ゼネコンがあり、多種多様な仕事を請け負う専門工事業者があるのです。

そんな中、工期終了まで寸暇を惜しんで動き回るみなさんにとって、「働き方改革といわれてもぴんと来ない。無理でしょ?」というのが正直な感想。ひと筋縄で進まないことは想像にかたくありません。

■「新小牧市民病院建設工事事務所」の現場で起きた変化とは?

3つのモデル現場として選ばれたうち、今回お話を伺ったのは「新小牧市民病院建設工事事務所」のみなさんです。多忙なスケジュールの合間に“カエル会議”を開くこと自体が至難の業でしたが、8ヵ月かけて少しずつ確実に変化を起こした新小牧チーム。当事者の面々に感想を伺いました。


5年次の園田朋之さん(左)と1年生の花村雄樹さん。教育係である園田さんが指導する形で、花村さんにスポットを当てながらの改革でした。

当初は“カエル会議”を全体で実施していた新小牧の現場ですが、現場全体での業務見直しがひと段落したこともあり、若手だけの“カエル会議”を開催することに。若手が自分たちで主体的に“カエル会議”を行うことで、若手のレベルアップを図れることも期待していました。

当初の気持ちを、おふたりに振り返っていただきました。

1年目の若手を育てることで、現場全体の働き方改革が進んでいく

花村さん──最初のうち、カエル会議は蚊帳の外。上の人たちが議論している内容自体がそもそも何の話?という感じで。でも、若手にスポットを当て、若手中心に開いてもらえるようになってからは、すごくためになりました。現場でのいろいろなやり方を変えてみて、もっと一人前になりたいと思えました。

園田さん──会議中に「現場巡視の時間を減らしてデスクワークにまわせませんか?」と花村くんから聞かれ、僕としては「そもそも現場巡視にそんなに時間をかけていたのか!?」と驚きました。1年生なので仕方ないですが、僕からしてみたら「ここまで大きい現場はなかなかない。いろいろ分担できるのに、巡視にそこまで時間を使う必要はないだろう」というのが率直な感想なんです。

それまでにも「いろんな人から意見が聞けるんだから、誰かに頼れば早いのに」と思っていました。質問してくれないとアドバイスもできないし。自分から発信すれば答えてもらえるんです。でもその一歩を踏み出せない人、踏み出す必要に気づかない人もいますから。

花村さん──同じエリア担当の園田さんや工事課長には聞くようにしていましたが、エリアが違う先輩に聞きにくかったのは事実です。でも、カエル会議を通して「やることは違ってもアドバイスはすぐにもらえるんだ」とわかって。そこからは、いろんな人に相談しようと思えるようになり、とりえず現場には出るけど困ったらすぐ聞くようにしたので、ムダは減りました。

■「何がムダなのかがわからない」・・・まずはそこからひとつひとつ

園田さん──試みとして、花村くんの1日のスケジュールを出してみて、どこにムダがあるのか一緒に確認することから始めました。「1日かけて何をしている?」→「これはムダでしょ?」とひとつひとつ。

花村さん──そもそも「それがムダだ」ということ自体がわかっていなかったです。会議で意見をもらって初めてムダに気づき、解決法もわかりました。たとえば、朝、専門工事業者に渡す作業指示書に詳しい説明資料を付けておくようにしたので、職人さんを連れ回して説明する必要がなくなったし、自分が全部を見る必要はなく、要所だけでいいとわかりました。

園田さん──はたから見ていても、それまでは言われたことだけやっていたのが、自分で考えて動けるように成長したと思います。そうなれば任せられる部分も増えてくるので、自分は今後のことや竣工に向けた課題に対応できるようになりました。

花村さん──自分でも、動けるようになったと思います。1年生でも判断できるポイントがわかってきたというか。おかげで、やり甲斐も感じています。作業指示書ひとつでも「今まで伝わっていなかった理由は何か」がわかるし、自分から動いてみることで仕事への構えもプラスになりました。以前は現場に居ても、周りの人たちから“1年生が散歩してんな〜。あいつに聞いてもダメだしな〜”と思われているのを感じていましたが、今は職人さんも“監督”として見てくれます。ようやくスタート地点に立てた感じです。

■どこに改善点があるのかを「自分で気づく」ことが大切

園田さん──本当はそれが当たり前なんですが、自分で気づけたことが大切ですよね。みんなそこを通って今があるから。試行錯誤しながら伸びていくんだと思います。1年もあれば現場の状況がどんどん変わっていく特殊な仕事です。上司ともこの現場が終われば最初で最後になるかもしれない。聞けるアドバイスはどんどん聞くべきかなと。自分自身も、若手の意見を聞けたのはよかったです。なかなか聞く機会はないし、結局「意見としてはみんな一緒じゃん、手法は違っても、より良い仕事をするためにあらゆる工夫をしてきているんだ」と思えました。

花村さん──今後も別の現場でカエル会議をやるとしたら近い年次の人たちにしぼってやってもらうと効果があるんじゃないかと思います。そして、後輩ができたら僕と同じようにスケジュールを書かせて、「ここがムダだったよね」とサポートしたい。そこから自分も変わっていけたので。

園田さん──現場では、職人とケンカするくらいの強い思いでみんなやっていますから、後輩に対しても「そのくらいやれよ」という思いはあります。現場によっては人数が少なすぎて会議どころじゃない場合も多いですが、そんな中でも、頻度ややり方を現場ごとに変えて、たとえば2ヵ月に1回程度は集まって話し合えれば、その都度その現場に必要なことがわかってくるかも。昔の現場での経験も話せるし、「同期のあいつには負けたくない」「自分のやり方は合ってた」と、向上できますよね。

数字にあらわれる成果以上に、目に見えて意義深かった現場の変化とは?

最後に、新小牧市民病院建設工事事務所所長 河野久成さんと、事務課長代理 野中章吾さんにお話を伺いました。


河野久成 所長(右)と、野中章吾 事務課長代理。若手・ベテラン双方の立場を考えながら初めての改革に取り組み、見守り続けたおふたりの感想は、今後へのヒントに満ちています。

■「若手」が何に悩んでいるかを正確にとらえるために

河野所長──カエル会議を若手主体に変えたのは、全体だと若手が話に乗れないという理由もありますが、ある年次以上になると改善ポイントが限られてくるためです。現場で一番時間をムダにしてしまうのはやはり若手ですから、彼らに最も変わる余地があると思っていました。

僕らの年齢になると、1年生たちが悩んでいることってたいした問題じゃない。アドバイスすれば一言で終わってしまうわけです。それに、彼らはどうしても遠慮しながら話すので、問題の本質が正確に捉えられない。そういう意味でも、直近の人たち同士で話したほうがいいなと。だから若手主体の会議では口出ししないようにしました。

野中さん──たしかに、どんな会議でも上の人間がいると空気が変わるし、若手は「こんなこと言うといけないんじゃないか」と遠慮します。同じ若手でも、1年違うだけで先輩には聞きづらいものです。そういう状況下で、仕事とは違う雰囲気の中で業務から離れた別の時間を作れた意義は大きかったかなと。舵取りはできたかなと思います。

河野所長──1年生の花村くんは取り組みを通じて明らかに成長しています。現場にいる姿を見ていても、「お、仕事してるな!」という、いい顔になってきた。同じ1年生でも、上司の年齢や性格によって指導の仕方も変わりますが、直属の園田くんが面倒くさがらずに下にやらせてくれていましたね。

■“やらされ感”を払拭し、能動的に動いて成果を出していく!

野中さん──モデル現場として選ばれたときは、大変だなとしか思えなかったですよね。もともと残業が多いのに、さらにみんなを会議のために拘束することになるので、難しい面は多々あります。取り組み当初は“やらされ感”がどこかにありつつも、いざ始めてみると、その中で成果を出そうと能動的に動いた期間でした。

大きな変化として、若手・中堅・所長それぞれのコミュニケーションが活性化されたのは確かです。若手同士のコミュニケーションも取れてきたかな。また、会議時間や現場業務の見直しに取り組んだことで、1人当たり1ヵ月約40時間の削減ができました。ただ、同時に工事が最盛期に入って業務量が増えたため、結果、残業時間としては大幅な減少にはなりませんでした。しかし、「数値的に何かを達成できた」という成果よりももっと大切なことが得られたと思っています。

河野所長──大規模現場でじっくり物事を考えるというのはものすごく大事だし、アイデアの出し方や伝え方など、ワーク・ライフバランス社さんのノウハウもおもしろかったですよ。所長としては、残業削減はこの現場のテーマでもあったので、カエル会議は非常にタイムリーだったと思います。

みんなの様子を見ていても、若手は自ら発言して成長する術を学んだし、ベテランは今まで当たり前だと思っていたことをいくつかやめたりして、「当たり前を変えられる」と知りました。

野中さん──8ヵ月間、かなりつらかった面もありますが、すべてが終わってから2ヵ月が経ち、今はどこかで“カエル会議ロス”を感じている自分もいます。8ヵ月にわたって中心的に関わることができたので達成感があるし、次にもし取り組むなら“やらされ感”なくできるかもしれない。「またぜひやりたい!」とはまだ思えませんけど(笑)

■今後、改革を進めていくために重要なポイントは?

河野所長──今後も働き方改革を各現場で進めていくことになると思いますが、その際に重要なのはテーマ選定だと思います。うちの場合は「時短」でした。せっかくカエル会議をやるのなら、一体何を目的とするか?をしっかり決めないと、それこそムダになる。組織として何か無理やムダがあるなら、それを改善するためのテーマをきちんと選ぶべきでしょうね。

野中さん──うちの現場は人数が多かったので、必然的に話し合いの「島」が大きくなります。なるべく人数をしぼって、みんなが主役になれるシチュエーションを無理にでも作らないとうまくいかないと感じました。そして、現場が好きで、一所懸命やる人が旗を振らないと、動くものも動かない。やるからには積極的にやっていかないと。

“カエル会議ロス”という思いがけない発言まで飛び出した新小牧事務所。現場はいずれ解散し、それぞれがまた別の現場で仕事をすることになりますが、鹿島建設の働き方改革は今後も続きます。冗談まじりに「またぜひやりたいとは思えない」と語ってくださった野中さんには、次に“カエル会議”をスタートされる職場のみなさんに意義や効果を伝える役割を担っていただくことになり、弊社コンサルタントとともにさらなる改革を進めていきます。

鹿島建設の取り組みは、ほかの企業を巻き込みながら業界に変化をもたらす

支店長、事務局担当者、現場のみなさん。それぞれの立場から振り返っていただいた、働き方改革の第一歩。「はじめのうちは“働く時間を短くしなさい”と言われるのはむしろストレスだったと思うが、ここ4年でうちの支店は一気に変わってくれた」という片山支店長の言葉が随所に実感できる、意義深いインタビューでした。

そして、「建設業界は今もこれからもなくてはならない業種です。若い人が魅力を感じて働いてくれるようでなければ絶対にダメ。業界全体を変えないといけないんです」という支店長の思いは、実際に外へと広がっています。

弊社がコンサルタントを担当している別企業でのエピソードですが、許可をいただいてご紹介します。「建設業界の歴史が変わっていくのでは!?」と、私たちも大変うれしくなった出来事です。

■鹿島建設での実例が、他企業で難航していた改革に光明を!

鹿島建設と現場をともにする機会も多いその企業にて、働き方改革役員と、中部働き方改革推進責任者幹部との会議があり、その際に「われわれの働き方はゼネコンに左右されるので、支店の技術部門で改革を進めるのは難しい」という論調になったそうです。その際、事務局を担当されている課長が「いいえ、鹿島建設さんの現場では4週8閉所を実現されています」と発言され、流れを大きく変えたのです。

出席していた役員や副支店長は興味津々、半信半疑でヒアリングを繰り返しました。以下のような話が交わされたといいます。

  • 現場は混乱しないのか?→前もってわかっているので不具合はない
  • 休めと言っても出てしまうのでは?→鍵を鹿島建設さんで管理する現場があるなど、休むための環境づくりがなされている
  • 持ち帰り残業はないのか?→基本的にはサーバーから持ち出せないのでできない
  • 全部本当に休めたのか?→納期の最後には一部例外もあったが、ほかは4週8閉所が確保された
  • ほかの鹿島建設さんの現場でも4週8閉所、厳しくても4週6閉所が確保できているところがある
  • 以前から鹿島建設さんは中部で積極的に改革を進められていて、近年さらに良くなったように感じる

こうした話し合いの結果、諦めムードだった会議全体が「鹿島建設さんとならできるんだ!」と本当に大きく励まされたといいます。

担い手の確保を急務とする建設業界に差し込んできた、改革の明るい光。これから先もこれをどんどん大きく広げていき、業界全体を変えていくことが必要です。鹿島建設の一層の取り組みに、今後も大いに注目したいと思います。

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担当コンサルタント

撮影/SHIge KIDOUE
文/山根かおり

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