住友生命保険相互会社様
総労働時間を2016年対比で11.6%削減
生産性評価の導入など、先駆的な取り組みで働き方改革を推進!
中期経営計画に合わせ2020年度から3か年のコンサルティング契約を締結
健康増進への取り組みに応じて保険料が変動するイノベーティブな商品「住友生命Vitality(バイタリティ)」を発売するなど、魅力的なサービスで知られる住友生命保険相互会社。2015年から働き方改革に着手し、2018年度から「WPI(Work Performance Innovation)プロジェクト」に全社で取り組んでいます。篠原秀典 取締役代表執行役副社長に働き方改革で成果を出す秘訣についてお話を伺いました。聞き手は同社の取り組みに伴走しているコンサルタントの田川拓麿です。
住友生命保険相互会社
取締役 代表執行役副社長
篠原秀典様
働き方改革に着手した経緯
田川:働き方改革に取り組まれはじめたのはいつですか。
篠原:WSI(Work Style Innovation)として取り組み始めたのは、2015年からです。主に長時間労働の削減に取り組んでいました。業務用PCを19時半に一斉シャットダウンする取り組みなどと並行して、業務削減にも着手し、オフィス365の導入や営業職員の携帯端末更改など、今日につながるインフラ整備の計画なども着実に進めていました。
ただ、正直なところ成功の確信もなく、やや停滞していたのが実情です。当時は1人ひとりの熱量にもムラがあったため、部下が業務を効率化したことを上司が適切に評価せず、モチベーションが続かないという問題が起きていました(2017年の労働時間削減率は2016年対比2.9%)。やはり経営層を含めて全社的に取り組まなければ、上司は本気にならないと痛感しましたね。
田川:もともと篠原さんは、働き方改革を若いころからされていたのですか?
篠原:いやいや、若いころは長時間働き、長時間飲むという昭和期の典型的なワークスタイルでした(笑)。30代後半から40代頃は、夜10時まで仕事をして、そこから飲みに行き午前様で帰宅。翌朝は8時までに出社するのがパターン化していました。
そんな私が2年前の経営会議で「わが社は原則二次会を禁止しよう」とプレゼンしたのですから、当時をよく知るメンバーは大爆笑だったくらいです(笑)。
田川:当初の業務時間削減が主だった取り組みから、どう変化していったのですか?
篠原:経営層を含めて全社的に取り組み、ギアをもう一段上げなくてはと考えていた2018年のタイミングで、御社の小室社長の「経営戦略としての働き方改革」というプレゼン資料を目にする機会があり、「これだ!」と。
もともと当社には、上司が能力の高い部下を抱きかかえる傾向がありました。そうやって個に成果を出させるマネジメントには限界があると感じていたので、小室社長の「チームで成果を出す」という発想に出会い、大いに共感しました。
同時期に当社は南アフリカのディスカバリー社と提携して健康増進型保険「住友生命Vitality」という商品を開発したので「健康経営を実現する」という視点からも働き方を捉え直す機運が高まっていました。そこで新たに「WPI(Work Performance Innovation)」と名称をつけ、再スタートを図ることにしたわけです。
田川:その時、すぐに外部コンサルを入れようという話になったのでしょうか?
篠原:いえ、当社は伝統的にコンサルティングの導入に消極的です。御社がさまざまな企業のコンサルティングで実績を上げているのは存じていましたが、正直なところ当社にマッチングするという確信はありませんでした。
そんな中で、導入に至った最大の要素は「人」です。やはり人と人との関わりが基本となるので、お会いした瞬間の印象を最重視しました。
第一印象は、若さが印象的だったのと同時に「クールな熱さ」みたいなものも感じました。商売熱心であるがゆえに熱く語るというのとは違って、御社はたたずまいがクールですよね。そのクールさは、おそらく働き方のクールさに由来すると思うのです。しかしながら働き方を変えるということにおいては非常に熱い。そんなクールさと熱さの両立が新鮮に感じられました。
さらに決め手となったのは、仕事を見える化するための「朝メール」「カエル会議」といった、弊社にはない、そして簡単には作り出せない価値をお持ちだったことです。当社では、これまで日常の仕事を「見える化」する手段も経験も持たずに来ました。ただ、チームで仕事をするためには「見える化」が不可欠です。御社の「朝メール」「カエル会議」のようなツールが非常に有効だと感じました。
意思決定者の若返りが急務
田川:初年度は5チームが働き方改革のトライアルを実施しましたね。
篠原:多様なチームが参加したこともあり、うまく行かないチームが出ると覚悟していました。フタを開けてみると、DCサービス室は当初、セミナーを開催することが原因で時間外業務が発生すると言っていましたが、セミナーの件数はむしろ増やしながら、時間外のセミナー件数を減少(2019年1~3月において前年同期比53件減)させることができて驚きました。運用企画部はアローケーション会議の資料を6割削減できていました。まったく違う業務を行っているチームが、それぞれのチームにあったやり方で成果を出してくれました。
御社がチームのカラーに応じてきめ細かなコンサルティングをされ、メンターとしてチームに寄り添い、個別の解決策を導いていただいたことに感動しました。その様子を見た感触からも、コンサルティングの成果が出ることを確信しました。
田川:職員の皆さんが遠慮なく意見を主張されるようになったのも、大きな変化だったと感じています。
篠原:そうですね。当社は、ともすると部下から上司に積極的に提案をする文化に乏しかったかもしれません。若い人も意見を言ってくれるようになったことは、とてもポジティブな変化ですね。
私が30代、40代の頃と比較すると、意思決定者の年齢が10歳くらい上がっている印象があります。若い会社では20代、30代の方が同じレベルの意思決定をしているわけですから、当社も意思決定者の若返りをもっと図らなければなりません。若い人に意思決定してもらうためには、まず情報開示から始める必要があります。
現在、経営会議の資料は、一部の機密事項を除いて、室長層まで見ることができるようになっています。この取り組みはさらに加速させたいと考えています。
田川:中期経営計画の内容が、2020年からずいぶん変化した印象があります。
篠原:以前の中期経営計画は、どちらかというと業務優先の傾向がありましたが、今回はSDGsに象徴されるような社会的使命を中心に据えたいとの思いがありました。
そこで、「社会になくてはならない保険会社」をメインテーマとし、「社会に貢献する」「社会に信頼される」「社会の変化に適応する」の3点を掲げました。この「社会に信頼される」のテーマは「すべての主語はお客さま」です。これを具体化するものとして「住友生命グループ行動規範」を策定しました。「住友生命グループ行動規範」の浸透と「WPIプロジェクト」の推進を両立することで、お客さま本位の仕事を実践していくといったイメージです。
3年間の成果
田川:これまでの3年間を振り返って、どんなところに成果を感じていらっしゃいますか。
篠原:目標の「総労働時間を2016年対比10%削減する」を11.6%削減で達成し、「WPIの取り組みを理解・実践していますか」という問いには82.5%が肯定しています。こうした定量的変化も素晴らしいですが、それ以上に若い世代の社員を中心に大きな変化が出ていると感じています。例えば、新しい事業のアイデアを募る取り組みに対して、提案の数が顕著に増えました。また、外部の経営者を招いて講演をしていただく機会には、たくさんの社員が聴講に来るようになりました。限られた時間で濃密に働き、早く帰るというスタイルに多くの社員が適応しているのを実感しています。
田川:私たちから見ても、その変化が顕著で、本当に素晴らしいと思います。今後の御社の業績に大きく寄与してくる変化なのではないでしょうか。
生産性評価の導入に込めた思い
田川:「評価」という最も難しい点にも着手されましたね。
篠原:当社には、同じくらい成果を出している人なのに、一方が「あの人は残業もできるから」という理由で評価され、他方は「あの人は時短だから」という理由で低評価になる傾向がありました。
私自身、そうした傾向を無意識のうちに追認していたのかもしれませんが、小室社長のお話を聞き、「これまでの評価制度は公正なものとはいえない」と痛感しました。そこで管理者に対しては「チームとしての成果」と「部下の労働時間」を評価対象としました。時間度外視で、チームの成果を積み上げさせるようなマネジメントは評価されないようにしたのです。
一人ひとりの社員には「生産性ポイント」を導入し、時間当たりの生産性を評価することを明確にしました。
田川:非常に印象的だったのが、この評価の変更によって「情報システム部門にバグを問い詰めない」という方針が示されたことです。
篠原:そうなんですよ。過去を振り返ると「トラブルゼロ」を目指し、トラブルが出たときには細かく責任追及して再発防止策を講じる取り組みをしていました。けれども、結果的にそれが新しいチャレンジの回避へとつながり、トラブルの数自体は減少する一方で、システム更改などでは機能の向上よりも現状維持をよしとする姿勢が定着してしまいました。
そこで、トラブルの数を完全になくすのではなく、起きてもすぐ対処でき、コントロールできることに軸足を置くことにしました。基本的に細かなトラブルにはあえて責任追及をせず、「トラブルの恐怖症」からの脱却を目指しました。ストレスが軽減されたこともあり、徐々に新しいことにチャレンジするムードが見られるようになり、驚いたことに、新規の開発が増えてもトラブルの数は増えていないのです。
田川:グーグルの「プロジェクトアリストテレス」でも示されているように、心理的安全性が高い部署ほど生産性が高まるということですね。
さらに高みを目指す、次の手は
田川:2022年度に本社機能の移転を予定されていますね。モノや仕事の削減も加速しそうですね。
篠原:まず「モノを捨てる」取り組みはかなり進みました。仕事については「削減」というと伝わり方が曖昧なので、「やめる」と明快に言っています。例えば、押印の廃止や社内用務の出張原則廃止、会社の経費での就業時間外に飲食をやめることを検討しています。
田川:「会社の経費での就業時間外に飲食をやめる」はさすが斬新ですね。他社ではなかなかできないのではないでしょうか。実は弊社はもともと創業以来、ほぼクライアントとの夜の会食などをしない方針です。ランチなどで懇親したり、日中の商談の中で腹を割って話すということを実践してきて、それでも創業以来ほぼ増収増益です。
コロナ禍で、今後の働き方はどうされていきますか?
篠原:今後は既存業務の30%削減を掲げて進めます。その取り組みの過程でオンラインのコミュニケーションやリモートワークはますます加速するので、「仮に必要となった場合には100%リモートワークで対応できる」ような体制作りを進めています。
今回の緊急事態を受けて感じたことは、年齢が高くなるにつれ急な変化に対応できないというのはどうしてもあるということ。それを踏まえ、今後はどんどん若い世代を中心に変革をリードしてほしいということですね。
一人ひとりがきちんと評価されているという実感が得られるように、今まで以上に仕事を見える化し、そのためのデジタルインフラへの投資も行っていきます。
さらに、営業の現場では、営業拠点への出勤ルールの見直しを検討したいと思っています。出勤して内向きの仕事に割く時間よりも、外向きの仕事へ時間をシフトできることが重要だと思っています。
田川:働き方改革に取り組む経営者へのメッセージをお願いします。
篠原:先が見えない状況の中で、多くの経営者の皆様が試行錯誤されていると思います。弊社の社長も「やってみてダメだったら戻せばいい」と繰り返し口にしていますが、私の経験からも、まずやってみることが大事だと思います。
今、企業で主力として働いている人たちは、「やらされ感」を嫌悪する一方で、自分が納得すれば自律的に動き出す機関車となれる存在です。ですから、大切なのは「自分たちで決めた」と思えるような機会を作ることです。
そこで求められる経営者のスタンスは「失敗しても怒らない」こと。これだけめまぐるしく世の中が変化しているのですから、失敗しないほうが不自然です。最終的には「どれだけ失敗を許容できたか」が変革の成否を決めるのではないでしょうか。
田川:まさに、私がコンサルティングしてきた企業の変化を見ても、その経営者のスタンスが最も変革を加速させると実感しています。今日は貴重なお話をありがとうございました。