社会を変えるイベントレポート
コロナ渦にも動じない組織づくり、「本当にやっててよかった!」
担当者交流会で浮き彫りになる“働き方改革=経営戦略”の重要性
弊社でコンサルティングを実施している各企業では、働き方改革の段階や進み具合によってさまざまな課題や悩み、多様な失敗/成功体験を有しておられます。取り組みが進むほど「ほかの企業ではどう取り組んでいる?」「他社の話を聞いてみたい」という好奇心も自然と生まれるもの。そうした要望にお応えし、さらに取り組みを進めていただくため、継続的に『働き方改革ご担当者様交流会』を開催しています。今回の記事では、2020年3月、「従業員幸福度アップにつながる働き方改革 〜今問われる、働き方改革の本質〜」というテーマで行ったオンライン交流会をご紹介。「目からうろこ」のアイデアや心底納得できるノウハウが惜しみなく語られますので、ぜひご一読ください。
ミサワホームを激変させた「トップのコミットメント」と「社員の自主性」
−ミサワホーム株式会社 取締役常務執行役員 堤内真一さん−
2017年にから本格的な働き方改革に取り組んでおられるミサワホーム株式会社。「社員の満足度が低い」「若い層の離職率が高い」といった課題を抱えていた同社で取り組みを主導してこられた堤内さんに、担当コンサルタントの堀江咲智子が貴重なお話を伺いました。
多様な取り組みの中からから、同社の改革を成功に導いたポイントをピックアップしてご紹介します。
・トップ/役員をまず巻き込み、予算もしっかり確保する
日本人は外圧に弱い傾向があるので、外から言ってもらったほうがいい場面が多々あります。取り組み初期に小室社長に講演をお願いしたのも、ひとつにはそういう理由がありました。
合宿形式で、グループディスカッションなどもやりまして、最初は抵抗もありましたが、やるからにはみんな真剣に臨んでいました。小室さんの講演を聞き、「これは本当に変わらなきゃいけない」と上の意識がまず変わったんです。これがないと、働き方改革にいくら取り組んでも成功しません。
トップの意識を揃えることと同様に不可欠なのは予算確保です。「経費以上に生産性と業績が向上しますから」と具体的に示して、数千万円単位の予算を確保しました。精神論だけでは現場は動きませんからやっぱり数字が重要ですね。
たとえば当時、弊社は若手の離職率が非常に高かった。ミサワが好きで夢を抱いて入ってきたのに何らかの理由でたった3年で辞めてしまう。単純に考えてコスト的に3000万円は損していますよと。教えた手間もムダになるし、辞めた本人の人生を考えてももったいない。お互いにムダなんです。中堅にしてもやる気が低下しているし、シニア層も若手に任せておけばいい、というスタンス。
そんなことを、インパクトを出しながら提言しました。トップのスイッチをまず押すのがけっこう大変なのですが、これが押せないといくら事務局が頑張っても最終的にうまくいかない。制度が定着しないんです。予算確保とトップの意識改革。これが最初の段階のキーであり、難しいポイント。ここにかなり腐心しました。
・メンバー50名の自主性に任せる
改革の担当者は専任ではなく日々の業務との兼任にしています。老若男女いろんな人を取り混ぜて50人ほど選出し、やりたいことをみんなにやってほしいというスタンスで臨みました。
社員が自分で「ミサワを変えたい」と思っている課題や方策が、私が思っている以上にいろいろ出てきたんです。ですから、案が出てこない限りやらない、みなさんがやりたいと思ったことに優先順位をつけてやっていこうと。私自身は役員研修のこととか、みんなが言いにくいものを引き受けた感じです。
・部長向けの研修で「昇進の登竜門」を設定
一方的に教えられるだけでは人は育たないので、「生産性向上についてとにかく自分たちで考え抜く機会を作ってほしい」とWLBさんにお願いして、研修を実施しました。小室さんのお話を聞き、納得して、さぁでは具体的に何をすればいい?と考えてもらったんです。この研修は「昇進のための登竜門」にして、とにかく真剣に取り組んでもらいました。
最初は「上から言われるからやらないといけないな」という程度の認識だったのが、実際に自分の部署の部下に対してスピーチする必要性に迫られると、部下の疑問にも真摯に考えて「こういう理由だから」と答えられるようになる。自分のこととして自分の言葉で部下に話すことで、「この改革は自分たちでやらなきゃいけないんだ」という気持ちになるんです。
●ミサワホーム株式会社様の事例はこちらでもご紹介しています。
社員のエンゲージメントをあげるための多様な取り組み
−マニュライフ生命保険株式会社 人事部参与 奥瀬 篤さん−
2014年、前CEOのギャビン・ロビンソン氏が国際ビジネス会議での小室の基調講演を耳にして大いに共感され、ご相談いただいたことをきっかけに2015年よりコンサルティングがスタートして今年で5年。その間、本社が移転してオフィス環境が一変したり、社長が交代されたりと、大きな転機を経験しながら確実に改革を進めてこられました。リーダーとして見守ってくださっている奥瀬さんに、担当コンサルタントの浜田沙織と大西友美子が多様な取り組み内容を伺いました。
・会社として大きな転機でもあった2015年に取り組み開始
働き方改革への取り組み初年度である2015年は本社が調布市から西新宿に移転し、オフィス環境が一変した年でもありました。試みの一例として、座席数を職員の9割のみ用意。座席はフリーアドレスで、ミーティングスペースでの勤務も可能としましたので、実際には十分に足りている状況でしたが、あえて9割とした狙いは「社外勤務」を促進するためです。
フリーアドレスなのでその日の仕事が終わったら書類を机に置きっぱなしにすることはなく、自分のもしくは共有のロッカーに片付けることが習慣化されました。キャビネットの数も減らし、ペーパーレス化にもつながったと思います。もちろん、在宅勤務の率も増えています。ドレスコードも段階的にカジュアル化を進めてきました。
これらの施策は、弊社の人事の特色のひとつである「プロフェッショナリズム」に基づくものです。服装や労働時間、働く場所の裁量を労働者側に与え、自由に選択できるわけですが、その裏には当然ながら責任が伴います。プロフェッショナリズムがなければ成立しない自由裁量なのです。課題はまだ多いですが、今後もこの視点を大切に取り組んでいきたいと思っています。
また、同年にインターンシップの学生を10日ほど受け入れた際、「ワークライフバランスになぜ会社として取り組むのか調査してください」という課題を出しました。当時、学生たちは「自分は働きたいのに、なぜ会社がライフのことに取り組む必要があるんだ?」と疑問を抱いていたようですが、学んでいく中で「あ、そういうことか!」と腹落ちしてくれました。
ちょうど翌年から政府が本腰をあげて働き方改革に取り組み始めたこともあり、今度は学生から「御社のWLBはどうですか」という質問が来るようになりました。今では学生が「企業の働き方改革の進み具合」をチェックするのは当たり前になっていますよね。私どもの活動は採用面でも成果をあげていると思います。
・2年目はリーダーを中心に本社全部門に拡大、3年目はサブリーダーが展開
1年目は6つのパイロットチームで進めましたが、2年目は約80名のリーダーにそれぞれのチームで取り組んでもらいました。課題解決のキーは現場で働くチームが握っていますから、彼ら自身が解決策を出し、人事はそれに向けてしくみやプラットフォームを提供する。コンサルタントのみなさんにそれを後押しし、手助けしてもらうという流れでした。
2年目の活動を受け、「上司は知っているが部下にはまだ浸透していない」というチームも見られたため、3年目は一層下のサブリーダーを中心にした取り組みに移行し、理解者を増やすこと、取り組みに厚みを持たせることに邁進しました。
3年間の取り組みの中には、「楽しみながら続けられるように」と遊びも取り入れるように工夫しました。たとえば服装に裁量を与える際にはGAPさんとコラボ。ちょうど先方で「デニムフライデー/金曜日にジーンズをはきましょう」といった推進をされていたので、「GAPに行ってコーディネートしてもらい、その服は無料で進呈します。就業時間中にお店に行っていいですよ」と職員からモデルを募ったところけっこう希望者がいまして、ファッションショーもやりました。
こうした取り組みを通じて職員たちも「あ、本当にやっているんだな」と身近に捉えるようになり、誰もが自分の言葉で働き方改革を語れるようになったと思います。
・「テレワーク・デイ」への参加を機に、現在は8〜9割がテレワークに
2017年から政府が7月24 日(2020年東京オリンピックの開会式が予定されていた日)を「テレワーク・デイ」と名付け、実施を呼びかけてきました。私たちも初年度から手を挙げ、最初は169名が実践しましたが、いざやってみると「回線がつながらない」などのトラブルが多々ありまして。「朝やってもつながらないので出社しました」というケースもあり、試行錯誤を繰り返しましたが、「あのときやっておいてよかったな」とコロナ渦の今、心底実感しています。
年を経るごとに日数が増え、「デイ」から「デイズ」に、昨年は「テレウィーク」になりました。現在は原則「在宅勤務」ということで、8〜9割がテレワークを実践しています。失敗しながらでも、あきらめずに取り組んでよかったなと思っています。
●マニュライフ生命保険株式会社様の事例はこちらでもご紹介しています。
小室淑恵が伝えたい、「働き方改革担当のみなさんにやっていただきたいこと」
弊社代表・小室淑恵からもみなさんに向けてメッセージを発信。パンデミックで日本の働き方はどう変わるのか。すべての組織が「今すぐ取り組むべきこと」をご提案しました。
新型コロナウイルスへの対応を機に着手すべき点に関しては、
withコロナ時代、企業が今すぐやるべきこと
−社員は「時間自律性」、管理職は「マネジメント手法」確立のチャンス−
でもご紹介していますので、ぜひご一読ください。
withコロナで「残業を減らそうと考えなくても自然と減っている」「何となく在宅勤務ができている」という企業は少なくありませんが、アフターコロナで生き残るには、もっと本質的に生産性を高めて、筋肉質な組織になる必要があります。
“危機意識”は自然と生まれるものではないので、人事の方が社内のみなさんに注意喚起をしてください。たとえば、過去のファイルやクラウドデータの整理・廃棄、仕事の棚卸しと優先順位付け、カエル会議の開催など、これまで忙しくて取り組めていなかった人たちに「今こそやりましょう」と伝えていただければと思います。
また、社員にとって今は「インプット/トレーニングに適した時期」でもあります。自粛の流れで研修や会議が延期・キャンセルになりがちですが、同じ場所に集まらなくても、Web上で「リアル開催に負けない迫力・説得力」を持つ研修を行うことは可能です。これは一種の「慣れ」なので、豊富な経験を積んだ弊社のコンサルタントにお気軽にご相談ください。
インプットのチャンスというのは経営層にも当てはまります。会合で忙しかった方でも今なら多少時間があるはずなので、「今こそ働き方改革を進めるチャンスです」ということを納得していただく好機。「経営戦略としての働き方改革」という講演を役員全員に聞いていただくことで、真に腹落ちして取り組みが本格化した、というケースは多々あります。
経営層自らがコミットしなくては、改革は進みません。そのための機会をしっかり作っていくことが本当に重要なんです。ぜひこの機会に、役員のみなさんのスケジュールをおさえに行っていただきたいと思います。
今回の交流会で小室がみなさまにおすすめした具体的なツールや行動
・朝メールドットコム「働き方改革に必須の弊社オリジナルツール『朝メールドットコム』をお使いいただくことで、朝一番に時間の使い方を組み立て→1日の終わりに振り返り→翌日以降に活かす、という流れが自然とできます。これをしないと仕事が後ろに流れて夜型になり体調をくずしていきます。テレワークが長期化するとこうした課題が顕著になりますので、ぜひ朝メールドットコムをご活用ください」
・在宅勤務支援金「コロナ以前から弊社でずっと行っている制度で、各人が自宅での生産性をあげるため、年間2万円の支援金を支給しています。たとえば仕事に適した机やイスを購入したり、インターネット環境を整えたり、各自が自分に必要なものを整えるために活用しています。そういった投資をしていかれるのも新しい方向としておすすめです」
・チャットツールを必ず導入「在宅勤務の生産性は、チャットツールの有無によって大差が生じます。同僚や上司に質問したいことがあっても、メールや電話ではハードルが高くて、避けてしまうんです。チャットなら気軽に書き込めるし、ほとんどの方が普段より雄弁になります。そのチャットツールをその先もずっと使い続けよう、ということではなく、まずは少し投資してみてチャレンジ。今回を機にやってみて、それがうまく機能するなら続ければいいんです。まずは早々に導入してトライしてみましょう」
・リーダーはもっと発信を「在宅勤務が進むとマネジメントの在り方が問われます。「部下の仕事の進捗が見えない」と戸惑い、「終わったのか?本当にやっているのか?」という猜疑心からせっつく・・・というやり方は決してうまくいきません。リーダーのみなさんは、自分の仕事だけに集中するのでは不十分なので、チームに向けて「今週はこういう点に気をつけて、ここを目指して仕事していこうね」といった発信の回数を増やしてください。「判断に困ることがあればチャットで今聞いていいよ」と語りかけるのも有効です」
小室が注目する「この先のキーワード」はインターバルと睡眠力
勤務間インターバル制度の導入は、2019年4月から「努力義務化」されていますが、「義務化」が早まるのではないかという情報があります。そのタイミングよりも早く、いかに先んじて実態を作っていけるかは大きなテーマです。
インターバルと同時に注目していただきたいのが睡眠力です。ただ7時間眠ればいいのではなく、質をあげていくことが重要です。
たとえば弊社では株式会社ニューロスペースとコラボして、全社員の睡眠の質を計測しています。「1000社以上見てきましたが、こんなに良質な眠りがしっかり取れている会社は初めてです」とニューロスペースさんが衝撃を受けるくらい睡眠を褒めていただいています。しっかり眠れていればイライラを誰かにぶつけることもないので人間関係のトラブルも起こりにくくなります。
勤務間インターバル制度の導入とともに睡眠力の向上にもぜひ取り組んでみてください。ある企業では、睡眠アプリを全社員に活用してもらい、6時間以上眠った社員にはカフェテリアポイントを毎日100ポイント支給して、楽しみながら睡眠力を高める動機付けをされています。
いずれにしても、インターバルやメンタルの健全性を語れるのは、みなさんが働き方改革のファーストステージをクリアしておられるから。着実に進んできたからこそ、次のステージにあがってより生産性の高い働き方を目指せるのです。今後も、一歩も二歩も先を進んでいただきたいと心から願っております。社会を驚かすようなたくさんの事例を一緒に作ってまいりましょう!
担当者様交流会は3月以降も5月、7月に実施し、最新の情報をご提供するとともに多様な取り組みの経験談をみなさまとシェアいたしました。今後もこうした交流の機会を作ってまいりますので、担当コンサルタントにご要望やご質問をぜひお寄せください。
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