社会を変えるイベントレポート
事例セミナー業種・業態を問わず確実な成果につながる! 心理的安全性アプローチによる働き方改革の取り組みと具体的成果を紹介
弊社では、働き方改革に取り組む企業経営者様や人事ご担当者様から「ほかの企業がどのような取り組みで成功しているのか知りたい」といったご要望を多数いただいております。そこで2021年9月7日、「真の働き方改革につながる心理的安全性アプローチ」をテーマに、4社の企業様の先進的な事例を学ぶ無料のオンラインシンポジウムを開催。今回の記事では、シンポジウムの内容をダイジェストでお伝えするとともに、弊社小室による成功事例や失敗事例に共通するポイントについての解説もお届けします。
オンワードの社風を一変させた「働き方デザイン」の取り組みと成果
株式会社オンワードホールディングス 保元道宣社長
働き方改革に着手したきっかけ
ファッション業界は、お客さまに多様性をお届けするのが本来の仕事なのですが、近年、自社の働き方がそれとは真逆の均質的なものになっているのを感じていました。 当社は昭和2年創業、今年で95年目を迎える会社です。途中で戦争を経験しながらも昭和の高度成長期を右肩上がりに成長し、その中で確立した均質性の高い軍隊式の仕組みを、平成以降も変えずに頑張ってきたようなところがあります。
しかし、長く培ってきた働き方のままでは、楽しいファッションを作れないし、会社も成長できない。そんな課題を抱えていた2018年頃、小室さんの本を読む機会があり、非常に共感したことから講演をお願いしました。
「カエル会議」で業務を徹底的に見直す
小室さんの講演をきっかけに、ワーク・ライフバランス社の皆様から「カエル会議」(チームで目指す目標を設定し、目標達成に向けた課題を抽出し、メンバーがフラットに話し合いながら改善案を策定する会議)を徹底的に現場に植え付けていただきました。 当社の場合、「会社に長く居続ける=会社に貢献している」という発想が根強かったのですが、業務を丁寧に洗い出し、勇気を持ってやめる仕事を見つけた結果、会社にいなくても仕事ができるようになりました。
変化を実感したエピソードの1つが、2年目のコンサルティング最終日に総括会議を行ったとき、現場から「保元社長もたまにはカエル会議に出てよ」という声が上がったことです。本当は私も前から参加したかったのですが、「社長が現場の会議に顔を出してあれこれ口を挟むのもよくない」と遠慮をしていました。誘ってもらったことで、会議に毎週参加するようになりました。 当社はこれまでピラミッド型の組織で、上層部が何を考えているのか現場に正確に伝わっていない側面がありました。こうして、実際に会議に参加してみて、ダイレクトに思いを伝えることがやはり重要だと認識しました。
全社的なデジタル化も促進
当社は百貨店さんを中心にリアルな顧客接点を重視しながら成長してきましたが、約12年前からeコマースの本格的なスタートを切りました。コロナ禍前は、オンラインの売上が約15%と、まだまだ主はリアルでオンラインが従の格好でしたが、コロナ禍の影響もあり、現在では約3分の1の顧客接点がオンラインに移行しました。
これは単に売り場や決済がオンライン化したということではなく、ものづくりをしている人とお客さまが直接会話できるようになったということでもあります。以前はお客さまの声を伝言ゲーム的に聞き取っていたのですが、現在はそれが解消されつつあります。そういった動きの中で、お客様とダイレクトに意見交換しながら商品開発をする#Newans(ハッシュニュアンス)やuncrave(アンクレイヴ)といった若手中心のブランドが立ち上がり、好調です。今後10年はブランドビジネスの主流になっていくと期待しています。
フラットなカルチャーが浸透した
現在は、規模は小さくても収益性が上がる仕組みをデジタルの力で磨いています。小さくてもキラリと光るような、携わっている人の趣味・ライフがそのままワークになるようなブランドづくりに取り組みたいと考えています。
まだ道半ばですが、若い人からフラットでオープンなカルチャーが芽吹いているのを日々感じています。現在はフラットな新しいカルチャーが3割程度まで伸びてきたところでしょうか。95年近く培ってきた軍隊式カルチャーも7割ほど残っているので、油断はできません。ただ、あと2、3年すればフラットな新しいカルチャーが5割を超え、そこから加速度的に変化していくと確信しています。
2年間の取組と成果 これから向かうゴール 株式会社オンワードホールディングス人財部 大竹智恵美さん
残業時間65%削減などを達成
オンワードの働き方改革(通称:働き方デザイン)は2019年8月にスタートしました。ワーク・ライフバランス社の方に伴走していただき、初年度・2年目は各2チームを選出し、コンサルに入っていただきました。また、管理職を対象とした推進リーダー研修を7回行い、研修の内容を各チームに持ち帰って自走でカエル会議を行ってきたほか、2020年3月から在宅勤務を制度化し、9月から朝メール(出社時に1日の業務予定を立て、上司・同僚に共有するためのツール)を導入しました。
成果としては、残業時間65%削減(2018→20年度)、休日取得5日増、うち管理職は18日増(2018年度→20年度)、男性育休取得率2桁増などが挙げられます。定性的な変化には、DX活用による業務効率化、10日間の連休取得を推進する新制度「マイゴールデンウィーク制度」導入などがあります。 軍隊式のトップダウンのマネジメントから、ボトムアップの新しいマネジメントへと移行し、現場からの提案や実行が非常に増えてきたと実感しています。
ネーミングでムードを醸成
働き方デザイン事務局の工夫として、名前を付けることで自分たちらしさを演出しました。オンワードの働き方改革は「働き方デザイン」と名づけています。アパレル企業らしく、自分たちの働き方を自分たちでデザインするというメッセージを込めています。 また、考えるとき・行動するときの思考法として、それぞれ「ひなお(広く・長く・大きく)」「せみち(狭く・短く・小さく)」というフレームワークを使用しました。現在、アクションを実行するための思考法の前提となりつつあります。 各チームでもカエル会議に独自の名称をつけたり、カエル会議で議題に上がった取り組みにキャッチーなネーミングを行ったりして、愛着を持って進めています。
社内周知としては、社内報や社内のポータルサイトにWEB記事やニュースを掲出したほか、社内SNSを活用して誰でも気軽にコメントできる環境づくりを行いました。
カエル会議がもたらした成果
カエル会議では「まずは自分たちで変えられることからやってみよう」という前向きな気持ちを必ず持つと同時に、「どんなに小さな意見でも出す、出た意見を否定しない、リアクションをする」という心理的安全性を重視しています。
レディスブランド企画チームでは、慣習的に行っていた業務フローの見直しに着手。会議参加者を見直し、他部署との連携を強めた結果、期中企画に要する週数が従来の12.5週から9.5週へと、24%削減。また、店舗のスケジュール共有と代理窓口を設定したことで、休日は社内携帯をOFFにしてリフレッシュできるようになりました。 メンズ企画チームでは、「パパ改良計画」をスタート。お手本となるイクメンが1日の過ごし方、子育てについて共有するなど、業務以外に「その人が幸せになるためにはどうしたらいいのか」も話し合っています。
成功の要因と今後の目標
ワーク・ライフバランス社に伴走していただくことで、「会社は本気で働き方を変えようとしている」というメッセージを全社に発信でき、取り組みの優先順位を引き上げることで、取り組みを社内で内製化・仕組み化できたのも大きかったと考えています。 また、経営層の意識改革も実現できたと感じています。さらに心理的安全性、関係の質のマインドセット、会議の手法など、さまざまなアイデアを教えていただきました。第三者の目線から社内の現状を分析していただき、非常に有益な情報をいただけたと感じています。
これからオンワードは働き方改革を通してボトムアップ風土を醸成し、ダイバーシティを推進していきます。働き方デザインを通じて新しいビジネスを創出し、多様で個性的な人財が活躍できる企業を目指していきたいと考えています。
自主的に考えて実行する働き方改革 三建設備工業技術統括本部 大倉俊雄さん
作業項目を洗い出し、仕分けした上で対策を行う
当社の働き方改革は2019年からスモールスタートで始まり、第1パイロットで得られた好事例を第2パイロットで展開し、さらに得られた好事例を残りの8支店で展開していく想定で着手しました。
工事期間の各フェーズの作業項目を洗い出し、業務の割合と時間を算出した結果、現場員が72名で、作業項目が62項目。年間作業時間は18万8880時間で、単純平均1人2623時間でした。残業時間を75時間から30時間にすると考えると、60%削減となりハードルが高そうに感じますが、全体で考えると4万時間削減であり、全体の21%を削減すればいいと考え、目標を立てました。
業務を重要度の高い・低い、緊急度の高い・低いの四つのエリアに仕分けし、重要度と緊急度が高い業務には現場の力を結集して仕事の質を高め、重要度が高いところには支援チームによるサポート体制を構築し、重要度が低い業務は別部署や外部への委託を推進。特に工数が多く重要度が高いゾーンをベースに、4万時間を削減するための施策を立てて進めました。
支店全員の「ありたい姿」から逆算する
建設業界には3K(きつい、危険、汚い)というイメージがあり、若手社員の離職も多いことから、キーワードを「整理整頓」に設定。「整理整頓 働き方改革」と検索した結果、ワーク・ライフバランス社が1番目にヒットしたことから、小室社長の著書を2冊ほど読み、コンサルティングの相談をしました。
ワーク・ライフバランス社との契約を決めたポイントは「①心理的安全性などのマインド面に着目した手法」「②現場主体での働き方改革の進め方」「③時間ありきではない真の働き方改革」「④建設業の実績がある」の4点です。特に「業務以外のライフの充実が重要であり、みんなでありたい姿を協議し、実現のために取り組んでいく」という考え方と、「人口ボーナス期からオーナス期に移行したことで、働き方を変えないといけなくなった」というポイントを伺い、非常に腹落ちしました。
2021年度は「働き方 粋き生きchallenge2021」として活動を進めています。本社から活動を押しつけるのではなく、社員が自主的に考えて実行する取り組みを開始しています。また、カエル会議のリーダー育成教育として会議を運営して、参加者の意見をくみ上げ、とりまとめる能力の育成を進めています。
現場ファーストの働き方改革会議を実施
当社では、当初、トップダウンによる現場IT化推進を行っていましたが、現場の要望とかい離して結果が伴わない状況が続いたため、新たに現場代理人が要望を直接経営層にプレゼンする機会を作り、その場で実施項目を決定・実施していく「現場ファーストの働き方改革会議」へと変更。非常に有効に機能しています。この会議では成功事例を「再発奨励」として発表し、1支店の成功を全支店に展開できる発表会としているほか、発表した内容をWEB配信し、視聴した社員の投票に基づき優秀賞も授与しています。
カエル会議の成果として、年齢層と職種でチームに分けを行ったところ、若手のチームと上司層のチームからそれぞれ本音の不満が出てきました。そこでお互いの本音を伝え、カエル会議で解決策を検討した結果として生まれたのが「タイム・タスクマネジメントカード」です。部下と上司がそれぞれカードを携帯し、「口頭での仕事指示を禁止する」「内容が分かるまでつめる」「できる期日を相互で決定する」「進行状況を報告・相談する」「仕事を通して教育・育成につなげる」「無理な残業はしない」という基本的な考え方を確認しながら仕事を進めるという仕組みです。
イベント実施などのさまざまな工夫にチャレンジ
ITツールを導入しても効果が出ないという課題を受けて、「ITスキルアップチャレンジ」というイベントを実施しました。ブラインドタッチを6か月練習してもらい、1分間に180ワードの入力ができたら合格というチャレンジです。808名(20代〜40代の約80%)が合格という好結果が出ました。このイベントを盛り上げるために、「合格者を豪華賞品で表彰する・合格者の名前をリアルタイムで公表する・社長や支店長も参加する」などの工夫を行いました。
また「若手の教育はeラーニングが有効であるが、作るのが大変」という意見が出たのをきっかけに、管理職のIT教育を兼ねて若手eラーニングの教育資料を作成する取り組みを行いました。300人の管理職全員で分担することによって、毎年3枚、計900枚の資料を作成。若手がeラーニングを実施・評価し、作成者の表彰を行う企画を今後も継続していく予定です。
社内制度見直しでモチベーション低下を防止
事務局として重要なポイントは「リーダーの本気度・キックオフでの瞬発力・やわらかい案内と周知・実施状況の見える化・継続力と形骸化防止・本音を引き出す環境づくり・できたことを褒める・インセンティブ」です。
残業時間の削減で給与が減少することによるモチベーション低下を防止する上では、社内制度の見直しが会社の本気度を示すことにもつながると考えます。当社では、残業時間低減に伴う所得低減対策として、生産性ファンドという仕組みを考えました。これは残業75時間と同じ成果を30時間で出した場合、月収が下がっても年収ではフォローする、10時間で同じ成果を出した人にも年収に差がつかないようにする基本的な考え方です。併せて残業時間低減のためアウトソーシングした原価の発生は、社員へ還元する生産性ファンドの原資を減少させ年収低減につながることを周知し、生産性向上の観点が重要であることを理解してもらう必要があります。今後は、全社的に心理的安全性を高め、自分の年収を守るために正々堂々とお金儲けを議論できる環境にしたいと考えています。
国土交通省道路局の働き方改革PT 国土交通省道路局 大臣官房技術調査課 事業評価・保全企画官 藤浪武志さん 国道・技術課 企画専門官 森大輔さん 企画課 係長 木下覚人さん
働き方改革がもたらした大きな変化
藤浪:幹部を含めた組織全員で小室さんの講演を拝聴した経験が、組織的にスタートを切る上でのポイントになったと思います。最近はコロナ禍の影響もあり、幹部から「若手の本音をなかなか聞けていない」「自分たちの本音を伝える機会が少ない」という悩みが上がっていたのですが、フラットな議論を実施したことで、「相談しやすくなった」「ネガティブな情報も上げやすくなった」との声が聞かれています。
森:紙書類を7割削減したほか、個人のロッカーを少し小さいものに変更したり、机を少し小さくしたりすることでスペースを捻出し、会議室や共有の作業スペースを確保しました。山積みの書類が課内を遮っていた状況が解消され、開放的で明るい雰囲気になったので、非常に評判がよいと感じています。
木下:「普段の業務のラインを越えて主体的に仕事に参加できる機会を作る」という目的の下、道路局で毎年公募して行っている社会実験について、担当外の人が手を上げたらプロジェクトに関わることができる仕組みの導入を進めています。
また、一般の人からの意見や質問を受け付ける「道の相談室」というシステムについて、日本中から寄せられる意見の仕分けやチェックを手作業で行っていたため、非常に時間を使っているという問題がありました。そこで、担当の部下と一緒にホームページの構成を変え、自動的に意見が集約されるようにしたところ、当時の上司からも評価していただき「新しいことをどんどんやったらいいと思う」とのフィードバックも得られました。
ライフや意識の変化
森:仕事以外に振り向ける時間が増えてきたことは、非常に意義があると思っています。子育てをしている方や介護護の負担を抱えている方たちが、気兼ねなくテレワークや休暇取得ができるような雰囲気が醸成されつつあるのを感じています。 国会の対応など、外的要因でどうしても残らなければいけないとき、昔は「みんなで残って乗り切ろう」という雰囲気がありました。しかし今は「夜は誰かが残って、朝は誰かが早く来る」といった役割分担を決め、チームで分散して対応する工夫が見られるようになっています。
藤浪:私自身「24時間働ける、猛烈に働ける」というのが強みだと自覚し、残業時間の長さが自分の評価軸だと思いながら仕事をしていました。しかし、最近は1週間、1カ月を振り返ったときに、どんなアウトプットを出せたかという観点から自分自身を評価できるようになってきました。今では「短時間でこれだけのアウトプットを出せたので効率的な仕事ができた」と自分を褒められるようになりました。
木下:みんなが自由に発想できるようになってきたと思います。「自分はこういう働き方がしたい」「私はこういうふうになりたい」という個々の意見が出始めています。
働き方プロジェクトチームが行った工夫
森:2019年から、所属職員の発意によってPT(プロジェクトチーム)が組織され、若手からベテランまで当初30人ぐらいの人に自発的に参加していただき、意欲的に取り組んできました。
藤浪:一般職員に接することができるプロジェクトチームであり、職員の意見を直接聞きながらフィードバックする形で取り組みを提案できたのが成果につながったと思います。また、個人がやりたいと思ったことを比較的すぐに実現できるところがメリットだったと思います。若手の政策提案の能力アップを図る上でも、良い機会となったのではないでしょうか。
木下:若手の提案を積極的に聞いていただけたり、上の人たちから「どんどん進めていけばいいんじゃないかな」というフィードバックをしっかりもらえたりするのが、すごくいいですね。
道路局は昔から強い上意下達の文化、軍隊的な特徴があると言われることも多いですが、それにはプラスの面もあります。道路は日本中にあるので業務や事業の数が非常に多く、たくさんの仕事を限られた人数でこなしていくためには、素早く仕事を回して意思決定を進めることが求められるからです。 他方で、組織のマネジメント的には上下のコミュニケーションが抑制されることによる悪影響も心配されます。その点、働き方改革PTは、通常業務で作られた三角形のヒエラルキーにうまく窓を作る役割を果たしています。上下関係を超えて議論できる場があることに大きな意義があると感じています。
徹底したオンライン化で効率化と生産性アップを実現! 株式会社銚子丸 三浦正嗣さん
「カエル会議オンライン」を導入
今まで店長会議は店長が本部に集まって行うのが原則であり、時間的に非効率な現状がありました。また、ほぼ一方通行の会議であり、18時、19時くらいまで、皆さんがヘトヘトになって聴き続けるような状況となっていました。
現在はカエル会議オンラインを導入し、いつでもどこでも好きな場所で会議をするようになり、移動時間がなくなりました。会議を開催する際は、「来週○日の□時から、このメンバーでこの議題について話します」と事前に通知し、あらかじめ議題に対して思っていることをどんどん入力してもらいます。そして当日は、解決策を決め、優先順位をつけるための話し合いを行います。会議ではファシリテーターとタイムキーパーを決めておき、議事録は誰がどんな話をしたか、できるかぎり全て記録するように心掛けています。
出にくかったところから意見が上がるように
解決策を決めるに際しては、オンライン上で参加者に投票してもらい、多かったものをタスク化し、担当者を決めています。これにより、すべての人に「どの取り組みについて誰がいつまでに何をするか」が一目でわかるように可視化され、やるべきことが明確化しています。さらに、タスクの期限が迫ったり過ぎたりするとメールでみんなに通知されるので、「早く進めなければならない」と促す効果がもたらされています。
オンライン上でカエル会議を行うことで、普段話さない人、声が小さい人、意見を言いたいけれど言いづらかった人たちから、たくさん意見が出るようになりました。多数の意見が出ることによってタスクに紐付けやすくなり、確実に進められるようになりました。やはりポイントはタスク化と期限の明確化であり、これを決められるようになったのが最大の成果だと考えています。
成功する働き方改革「4つのポイント」 小室淑恵
経営トップに確実に過去の成功体験と決別していただく
最後に「成功する働き方改革のポイント、やるべきこと」についてまとめさせていただきます。
まず、経営トップに確実に過去の成功体験と決別していただくことが大事です。私は「対談でウチのトップを説得してください」とご依頼いただくことがあるのですが、対談形式で経営層とお話をすると、30〜40年のキャリアで築いた価値観に反論しなくてはならず、トップに「否定された」という印象を持たれてしまうので、スムーズに意識を変えていただくのが難しくなります。
もっと有効なのは「働き方改革に意識の低い管理職が多いので、管理職向けの意識改革研修を実施します。最後に講師への感想をお願いしたいので、社長は最前列にお座りください」「社長に同席いただいたら講演料が20%オフになるのでお願いします」などと言って、講演を最後まで聞いてもらう方法です。これなら経営者は自分自身が否定されると身構えませんし、今求められている労働環境や業績が上がる仕組みについて、しっかり聞いてもらうことができます。結果的に、スマートに意識を変えることができると思います。
ただ、1回ですべてが好転するわけではないため、継続して意識を上げ続ける仕組みの導入が必要です。例えば「新春対談」などの名目で、対等な関係で学べる機会を継続的に仕掛けていくことがポイントです。
働き方改革をフラットに話し合える仕掛け
2つ目のポイントは働き方改革をフラットに話し合える仕掛けです。カエル会議では、口頭ではなく無記名で同時に意見を出します。これによって周囲の意見に引っ張られずに自分の意見を出し合うことができます。そうすると、新人や新しく職場に入った人の意見に多くの「いいね」が集まったりします。
管理職や経営層はフラットな話し合いについて学んだ経験がないので、継続的に研修に取り組んでいただくことも重要です。コミュニケーションを変えるためには、管理職が実際に自分のチームで実践し、変化を共有するという取り組みを繰り返す必要があります。
経営層に向けては、私たちは、モデルチームが取り組み発表を行うに際して「必ず失敗事例も歓迎してくださいね」とお話ししています。経営層のほうから失敗も歓迎する姿勢を社内報や動画などを通じて繰り返し発信していくことが重要です。
上昇志向の強い人を積極的に巻き込む
3点目は上昇志向の強い人を積極的に巻き込む、です。上昇志向の強い人は「働き方改革をするべき」では巻き込まれてくれません。まずやるべきは、働き方改革に取り組んだことでいい思いをする部署をつくることです。トライアルチームが成果を落とさずに残業を減らし、トップから褒められたり昇進したりする様子を全社的にオープンにすれば、上昇志向の強い人は羨ましいと感じて動いてくれます。
また、経営層が社外から働き方改革について取材されるような案件を作ることも有効です。社外に発信することで親族などからも反響があり、誇らしく感じられます。「この取り組みには積極的にのったほうが評価される」との認識を持つようになり、自ら走り出すことにつながります。
人事部は、取り組むチームの心情に寄り添う
4点目のポイントは人事部が働き方改革全体の設計と、取り組むチームの心情に寄り添うことに専念できる体制をつくる、です。 働き方改革を進める上では、デジタルツールや研修内容にクレームが出て、その対応に追われて人事が忙しくなるケースがあります。こうしたクレームが生じるのは、トライアルチームに「何かしらの成果を報告しなければならない」というプレッシャーがかかり、思うような成果が出ないことを責任転嫁しようと考えてしまうからです。
こういったクレームにいちいち対応していると、取り組み自体がストップして進みが遅くなります。そこで、文句はあえて外部のツール会社や研修会社に仕向けて、人事部は「充分良い成果が出ていますよ。その調子です」と、チームに寄り添い続けることが肝腎です。そうするとチームは落ち着きを取り戻し、成果が出るフェーズへと入っていきます。
チームに寄り添う際、人事の方に準備していただきたいのは、たくさんの事例です。私たちは事例を学べる機会を常に提供していますので、そこでたくさんの事例を学んでいただき、職種やリーダーの人柄、チームの雰囲気に応じた最適なアドバイスをしていただければと思います。
以上、4つのポイントをお話ししました。私たちは、各企業がこの4つのポイントを具体的にどのように実践したのかという事例を整理しています。ぜひ参考にしていただき、自社の取り組みを加速させていただきたいですし、機会があれば私たちと一緒に心理的安全性の高い働き方に飛び移っていければと思います。本日はありがとうございました。