Case Study

社会を変えるイベントレポート

働き方改革の最新トレンドを共有! 2023年 経営者交流会を開催

経営者交流会トップ万紀子さん写真付き2023年2月28日、毎年恒例となる経営者交流会をオンラインで開催しました。この交流会では、経営者の皆様と働き方改革の最新トレンドを共有するとともに、ゲストスピーカーによる取り組み事例の発表が行われました。その内容をダイジェストでお伝えします。

【最新トレンドのご紹介】

2023年の働き方改革の潮流とは
〜最新の国の動きや企業の取組みをもとに〜
株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長 小室淑恵

(1)男性育休は取得率から取得「日数」に注目

育休取得日数が多い企業の特徴とは

私たちは男性育休100%宣言(男性の育休取得率100%を目指して取り組む経営者の宣言)の賛同企業を募集しており、現在157社が集まっています。これを政府に何度もお届けしたことによって、国が動き、男性育休を企業から打診することが義務付けられました。 そして2023年4月には有価証券報告書に男性育休取得率を公開することが義務付けられます。この法施行に先立ち、厚生労働省と我が社が150社にアンケート調査を行ったところ、取得率は2020年度53%→2022年度78%に上昇していることがわかりました。ただし、平均取得日数は30日(2022年度)と伸び悩んでいます。これを踏まえて、現在は取得日数に大きな注目が集まっています。 今回のアンケート結果から、取得日数が高い企業の特徴が見えてきました。

  • ・当事者以外の社員も男性育休の重要性や制度・方針について学べる仕組みがある
  • ・当事者及び自社社員のパートナーが男性育休の重要性や制度
  • ・方針について学べる仕組みがある

つまり、本人だけでなく妻や職場全体の理解も重要ということです。

小室さん経営者交流会1

男性育休研修の効果

取得日数の伸びに課題を感じられている企業さんは、ぜひ「男性育休推進研修 定額制サービス」のご利用をおすすめします。これから子どもが生まれるプレパパが人数制限なく父親学級に参加できるサービスであり、現在100社が導入されています。また、プレパパの上司を対象に、人数制限のない「管理職意識改革セミナー」も行っており、2022年は2000人の管理職が参加されました。 父親学級は年3回実施していますが、毎回400名近くが参加されます。

ここで他社の男性育休取得予定の皆さんとディスカッションすることによって、「うちじゃ取れない」と言っていた人も刺激を受け、育休に対する意識が向上しています。研修は男性社員とともに配偶者も同時に視聴できますので、ぜひ受講いただけたらと思います。


(2)「11時間の勤務間インターバル制度」の動き・必要な対応

勤務間インターバル制度が職場にもたらす効果

従業員満足度、特に若手のワークエンゲージメントを上げ、離職率を下げたいと考えたときに、給与アップを検討することが多いと思います。もちろん給与アップで従業員満足度は高く上がりますが、離職率の低下には効果がないことがわかってきています。一方、従業員満足度の向上と離職率の低下の両方に効果が出ているのは勤務間インターバルの導入であることがわかりました。

では、どうして勤務間インターバルの導入に顕著な効果があるのでしょうか。 『ウォール・ストリート・ジャーナル』では、「睡眠不足の上司ほど、部下に侮辱的な言葉を使う」という研究結果を紹介しています。見せかけの働き方改革を行う企業では、従業員の労働時間だけ減らそうとするあまり、上司に仕事を巻き取らせてしまいがちです。

しかし、上司が睡眠不足になると自我消耗(自己をコントロールできなくなる)のため部下に虐待的な言動をとるようになり、部下のワークエンゲージメントを低下させます。つまり、従業員のワークエンゲージメントを上げるためには、上司の睡眠をしっかり確保していく必要があります。

勤務間インターバル制度とは

11時間の勤務間インターバルとは、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に11時間の休息時間を確保する制度です。7時間の睡眠と前後1時間ずつの生活時間、通勤時間を合わせて11時間となっています。1日のうち11時間の休息を除外し、そこから8時間の労働時間を差し引くと、計算上は5時間の残業ができます。1日5時間ということは、月間100時間の残業が可能です。その状況でも勤務間インターバルの導入が難しいというのは、経営能力に問題があると言わざるを得ません。

また、もう1つの懸念点に緊急時の対応が挙げられますが、全ての国で勤務間インターバルを導入しているEUでは、緊急時の適用除外規定を設けています。さまざまな理由で11時間のインターバルを確保できなかった場合は代替措置を作ることが可能ですから、前向きに制度を導入していただきたいと思います。

経営者交流会 小室さん2

睡眠確保は国家戦略

今、日本は世界で最も平均睡眠時間が短い状態にあり(約6時間22分、2020年)、特に女性の睡眠時間が短いことがわかっています。睡眠不足は脳の集中を下げ、うつになりやすいなどのさまざまな問題を引き起こしています。 EUでは勤務間インターバルの義務化という睡眠確保策がありますし、アメリカは時間外割増率が1.5〜1.75倍という残業抑制策があります。一方で、日本は勤務間インターバルが努力義務の状態であり、時間外割増率はたった1.25倍です。これは、国として睡眠という人間の根幹である人的資本投資を怠ってきたということです。睡眠は政策によって国民に増やすことができる健康資産であり、財源はほとんど要りません。他国では国家戦略として積極的に行っています。 国民の平均睡眠時間とGDPの相関は、データ上から明らかになっています。

日本人があと1時間多く寝たと仮定すると、日本のGDPは倍増が見込まれます。こうした、睡眠と成果の関係性を定量的に解明したのが、2022年5月に慶応大学の山本勲教授が発表した研究結果です。この研究によると、従業員1人当たりの睡眠時間が長い企業ほど利益率(ROS)が高く、この傾向が2年後にも続いていることが明らかとなりました。

小室さん経営者交流会山本教授資料

国も推進に動き出している

こういった研究を受け、2022年11月4日には、自民党の中に雇用問題調査会「勤務間インターバル推進PT」が発足。このPTから厚労大臣に提言書が渡されましたが、主な内容は以下の3点です。

  • ①勤務間インターバルの意義を周知広報
  • ②業種別のマニュアル整備・専門家のアウトリーチ型コンサル
  • ③中小企業支援強化 また、今岸田内閣が一番力を入れている「新しい資本主義実行計画」の中にも「勤務間インターバル」という言葉が初めて入っています。

アドバイザーを育成する仕組みも

勤務間インターバル導入の政府目標は2025年15%ですが、まだ5.8%の企業しか導入していません。ここからかなりテコ入れが必要であり、助成金や施策が増えてくると予想されます。そこで私たちも「勤務間インターバルアドバイザー」という資格を作り、その内容をレクチャーする取り組みを昨年から始めています。 2022年には既に30名のアドバイザーが誕生しており、23年は6月に開催予定です。勤務間インターバルの導入を検討されている企業さんは、ぜひ受講をおすすめします。既に導入している企業による事例発表、11時のインターバルをあけられるような職場づくりのノウハウだけでなく、成果をPRして採用に生かす方法や、助成金の効果的な活用についても盛り込んだ講座となっています。 また、働き方改革そのもののノウハウを持つ社員を育てたい企業さんには、「ワーク・ライフバランスコンサルタント養成講座」を受講いただければと思います。


(3)有価証券報告書における「男女の賃金格差開示」

■世界に見る「男女の賃金格差開示」

有価証券報告書における男女の賃金格差開示は、2022年7月に法改正が行われており、7月以降に決算を迎えた企業は決算から3カ月以内に開示する必要があります。 OECDの加盟国中、すでに10数カ国で賃金格差の開示は義務化されおり、外部への公表も5カ国が義務付けています。イギリスでは2018年から250人以上の企業の開示が始まり、その結果、男女の賃金格差は約3ポイント縮小しています。

また、スイスでは企業が国の補助金を申請したり政府調達に参加したりする場合は、申請書類に男女の賃金格差を記入することがルール化されています。男女の賃金格差が5%以上ある企業は、そもそも入札できません。日本でもこの手法を導入することが予想されます。最も健康で教育された女性を使わないというのは、豊かな資源が埋まっている大地をあえて掘らないようなものです。「どうして男女の賃金格差の開示をしなければいけないんだ」などと考えている場合ではなく、危機感を持つ必要があります。

公表にあたってのポイント

国では、男女の賃金格差の平均的な計算方法を指定しており、「正規労働者」「非正規労働者」「全ての労働者」それぞれにおける男女の賃金の差異を公表する形となっています。この計算方法では、従業員に若い女性が多い場合、賃金格差は大きく出てしまいます。ですので、まずは国の方法を使って開示した後に、例えば年齢や勤続年数や学歴を制御して比較すると格差が縮小することを追加提示していく必要があります。 制御して比較するときには、東京大学エコノミックコンサルティングの「GEM App」というツールで計算できます。ぜひこのツールを活用していただけたらと思います。その上で変化に向けて本質的なアクションをしていくフェーズに入っていただければと思います。

オンワードホールディングスの取り組み

オンワードホールディングスでは、2019年から働き方改革コンサルティングを開始し、2021年からは女性活躍推進コンサルティングも同時に行っています。その結果、残業時間は大幅に減少し、営業利益のV字回復も実現しています。 同社では、私たちと一緒に「2030年までに女性取締役比率30%」という目標設定を行いました。その際、きめ細かいシミュレーションを行うことで、女性の役員候補2名を確実に就任させる必要があると認識し、その2名に対して執行役員4名がメンターとなる制度を作りました。

さらに、「役員メンターに研修と定期的なフォロー」「全役員に心理的安全性研修」「全女性課長・部長にキャリアプランニング研修」「新任管理者(係長・課長)にダイバーシティ研修」を実施。働き方改革も全社で行い、部長3%→10%、課長14%→17%、係長33%→40%(いずれも2021年→2023年)と変化し、着実に目標に近づいています。 なお、ダイバーシティ研修では「ライフスイッチ研修」というものを行っています。カードを用いた研修であり、「育児中」「介護中」などいろいろなシチュエーションのカードに従い、その人生を模擬的に生きてみて、その中で仕事の成果を出すにはどうしたらいいのかを実感するゲーミフィケーションです。ぜひ無料体験にご参加いただければと思います。


【ゲスト登壇者様による事例共有】


株式会社アイシン
アイシンにおけるD&I推進
株式会社アイシン シニアエグゼクティブアドバイザー 伊勢清貴様

2018年から改革に着手

アイシンはトヨタグループの一員であり、自動車部品のサプライヤーです。三河地区にメインの工場等が存在しており、売上高が約4兆円、従業員が全世界で約12万人。自動車部品の中でもパワートレインを主体に、走行安全や車体関連の部品を扱っています。 現在、自動車業界は100年に一度のCASE革命に直面し、電動化が進む一方で主力のオートマチックトランスミッションが先細りになっており、私たちには構造改革が求められています。

私が社長になった2018年から、下記に取り組みました。

  • ①分社化からグループ経営に(会社の統合)
  • ②事業の選択と集中(赤字事業の撤退など)
  • ③間接部門の生産性向上

①と②はトップダウンの取り組みであり、③はボトムアップの構造改革です。特に③では「働きがい改革」と「女性活躍推進」を進めてまいりました。

個人と会社にとってウィンウィンを目指す

私が入社した1980年代は、日本の自動車産業はまだまだ未熟で、欧米の車に追いつくために量をこなすことに注力していました。ところが、2010年以降は人口が減少し、新興国から追われる立場となり、自分たちで新たな価値を作らなければ負ける時代を迎えています。 そこで、働き方の質を上げることを目的として、「働きがい改革」として取り組むようになりました。取り組みの柱は「働きがい改革の推進」と「ダイバーシティ&インクルージョンの推進」です。働きがいの向上は個人のためにもなり、会社としては新しい価値の創造が期待できるため、双方にとってウィンウィンになることを目指しています。

アイシン様経営者交流会1

働きがい改革がもたらした成果

ここで非常に良い結果が出たことを受け、20年からは全社展開を実施。21年からグループ企業全体に展開をしています。チームごとに取り組みの成果を毎年報告してもらいネットで公開するなど、良い取り組みはどんどん真似てもらいながら展開を図っています。 取り組みの結果、2019年春時点ではアウトプットに占める主業務の割合が4割にすぎず、付帯業務が6割を占めていましたが、2021年秋には付帯業務が約3割にまで減少しました。今後は付帯業務25%以下を目指して取り組みを継続しています。

アイシン様経営者交流会2

女性活躍推進について

アイシンでは、以前から女性活躍に地道に取り組んできており、女性活躍推進を進める「きらりプロジェクト」という女性グループがあります。そこからシビアな意見と提言を受け、メンター制度や在宅勤務制度などの施策を導入しました。取り組みにあたっては、女性本人に向けた制度だけでなく、「イクボス塾(※)」と称する上司を育成するための研修なども行いました。

※「イクボス」とは、職場で共に働く部下のキャリアと人生を応援しながら、組織業績の結果も出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司のことで、多様な個を活かすことのできる上司を育成する、約7か月間のアクションラーニングにて学ぶプログラム 2023年には年初の社長挨拶において昨年の好事例が発表されましたが、4事例のうち女性に絡んだ事例が3例あり、女性活躍推進の成果を実感しています。

女性管理職数・役員数が向上

2018年以降、意識的に女性管理職の数を増やしており、2018年1.53%→2021年は2.6%まで上昇しています。また、内部昇格の女性監査役が1人誕生しています。2030年の6%という目標実現に向け、女性が活躍できる企業へのシフトを目指しています。 こうした取り組みの結果、2020年から3年連続でなでしこ銘柄の認定を受けるなど、外部からも評価をいただいています。これに恥じないよう、今後とも活動を進めていきたいと思います。

(担当コンサルタントのコメント──田川拓麿

製造業では、数字にこだわりすぎるあまり関係の質を忘れがちですが、アイシンさんでは関係の質を向上させながら結果を出しているところが注目すべきポイントです。 また、QCサークルを廃止し、朝メール.comとカエル会議に取り組まれました。朝メールは約8000名、カエル会議はグループ内1500チームが実施しており、文化を変える活動となっています。さらに、コロナを機にほぼ残業がゼロとなり、より女性活躍が進みやすい環境ができています。


株式会社オーテック
CC Projectへの取り組み
株式会社オーテック 取締役事業部長 原田和彦様

属人化からの脱却目指す

弊社は1934年創業で、東京から大阪まで全国に9拠点あります。「環境システム事業」「管工機材事業」という2つの柱を掲げており、主に今回のプロジェクトに取り組んだのが環境システム事業です。 働き方改革実施に関しては、2017年に自社で働き方改革委員会を立ち上げ、取り組みを開始。これにより全社に改革の意識が生まれ、土壌が熟成されました。ただ、2024年から残業時間の上限規制が適用になることを踏まえ、非常に危機感を覚えるようになりました。

そういった中、2019年に小室社長の講演を拝聴し、大きな衝撃を受けました。 小室社長のお話にあった「情報共有を強化して、属人化から脱却した仕事のやり方」が進むべき方向であると確信し、その方向性を明確化するためにエンジニアリング部を創設。2022年4月からはワーク・ライフバランス様のお力を得て、新たな働き方改革であるCC Projectがスタートしたという経緯です。

新たな働き方へ挑戦する

CC Projectは、Challenge to Change(変わることに挑戦する)という意味で名付けました。今までの慣習やルールにとらわれることなく、ワークライフバランスを確立するために「新たな働き方へ挑戦する」をスローガンにしています。 プロジェクトでは4つのトライアルチームを作りましたが、選定にあたっては全社的な取り組みとするために全国の4支店を選定。また、幅広い部署を選定することで、全社員が取り組むという方向性を明確にしました。

最初にトライしたのは心理的安全性の確保です。経営側はチームに直接関与せず、事務局を通じて思いを伝えることに専念しました。これによって、受動的な姿勢から脱却し、主体性を醸成することを期待しています。

オーテック様経営者交流会1

プロジェクトによって起きた変化

東京支店エンジニアリング部は「頼まれたことだけやればいい」「残業が多いのは自分たちのせいではない」という他責思考のチームでしたが、プロジェクトを通じて他部署が求めていることを把握し、業務効率を上げようとする自責思考のチームへと変化しました。 このチームは、自らの問題点をあぶり出すために関係部署にアンケートを実施しています。自分たちの評価を聞き出すことは非常に勇気がいりますが、こうしたアクションが自発的に出てきたことは大きな変化であると考えています。

北海道支店工事課は「やらされ感がある」「他人のことを考えることがない」「働き方改革を理解していない」といった認識を持っていましたが、カエル会議を重ねることで主体性が芽生え、同じ方向を向いて考えるようになり、働き方に対する前向きな意識が生まれました。リーダーも「早く帰ることを中心に考えていたが、何かを変えるということを中心に考えるというマインドチェンジができた」と語っています。 今後は定量的な変化も目指していきたいと考えています。

オーテック様経営者交流会2

プロジェクトを終えて感じたこと

1期目を終えて感じたポイントの1つ目は心理的安全性です。 弊社の社員は真面目で風通しが良い風土だと自負していますが、風通しが良いだけでは、社員全員の気持ちが伝わってこないと気づきました。全社員の意見を吸い上げるためには、心理的安全性の確保が非常に重要であると感じています。

2つ目のポイントは、定量的な目標を設けなかったことです。目標に縛られず、結果を出すことにとらわれず、どのように働いたらいいのかに向き合った結果が意識改革につながりました。

3つ目のポイントは事務局です。どのチームもスムーズにことが進んできたわけではありません。事務局の粘り強い対応と献身的なサポートで山を乗り越えてきたからこそ、結果につながったと考えています。

今後は、2024年を前に控え、実践をして結果を出すべき段階に入ります。各店で自由な発想で議論を行い、多くのアイディアが出ることを期待しています。経営層ではどんなアイディアもいったん受け止め、検討をしていきます。 仕事の効率化を図ることで、社員にも会社にも好循環が生まれます。社員1人ひとりが自ら働き方改革を考えて、その結果、残業時間が減って24年度に対応できればと考えております。

(担当コンサルタントのコメント──川本孝宜

原田様も事務局の皆様も、現場とコミュニケーションを丁寧に取りながら取り組みを進めてくださいました。積極的に関わってくださった分だけ取り組みが進んだと感じています。来期もぜひ引き続き取り組みに巻き込まれ、また巻き込んでいただければと思います。


株式会社銚子丸
働き方改革の取り組み
株式会社銚子丸 代表取締役社長 石田満様

売上を捨ててでも改革を進める

当社は主に回転ずしを営む会社であり、関東一都3県で93店舗を展開しています。従業員は正社員が470名、パート・アルバイトは8時間換算で約1000人います。2022年5月に勤務間インターバル制度の導入に着手しました。 私たちは2017年から「新生銚子丸」と銘打つ働き方改革を進めてきました。労働基準監督署から残業時間のご指摘を受けたことがきっかけであり、残業削減からスタートしました。

当社では給与の中に固定時間外手当が含まれており、店長は残業時間を前提にシフトを組んでいたため、実際の残業は増えることはあっても減ることはありませんでした。そこで、固定時間外労働時間の削減を目途として、従業員1人ひとりの労働時間について本部が「正しい打刻ができているか」「シフト通りに来てシフト通りに帰っているか」「休憩は取れているか」などを細かくチェックした結果、月70時間から45時間まで減らすことができました。

このとき、固定の時間外労働時間を減らしても給料は減らさないと約束したことで、従業員の信頼を得ながら前向きに進めることができました。 この間、会社としても営業時間の短縮や営業形態の変更など、労働時間をコントロールするための施策を打ち、売り上げを捨ててでも働き方改革を進めることで本気度が伝わったと感じています。

勤務間インターバルの導入に着手

2020年3月以降はコロナ禍に見舞われ、否応なく営業が縮小しました。このとき、各店舗の裁量で最も効率的な営業時間と従業員のシフトについて調整した結果、ほとんどの店舗で11時開店、21時閉店という営業時間に落ち着いてきました。 社員は開店の2時間前に出勤しますので、閉店作業を1時間で終えて店を出れば論理的に11時間のインターバルは確保できます。そこで、機を逃さず勤務間インターバル制度の導入に着手しました。

当初はベテランの職人を中心に「なぜ早く帰らなければならないのか」という戸惑いがありましたが、それまでの働き方改革の取り組みが浸透してきていたこともあり、スムーズに勤務間インターバルの導入に着手できたと認識しています。重視したのは、細かな方法論を押し付けるのではなく、店ごとの工夫に任せるということです。「開店から出勤まで11時間あける」という原則だけを周知し、実現方法は各店の裁量で決めてもらいました。掃除の仕方、棚卸方法の工夫や開店時のルールなどをゼロベースで見直し、店舗スタッフとマネージャーの間で話し合っています。

その上でデータを本部で共有し、毎月結果を社長に直接報告させることにした結果、少しずつ改善してきています。私自身、週末の店舗訪問時には、実績の上がらない店舗で店長から「できない理由」を確認したり、改善のアドバイスをしたりしています。

従業員が実感した変化

従業員には健康面、メンタル面の改善を感じている人が多いようです。「食事や睡眠の時間が安定したことで体の疲れが本当に軽減された」「帰宅後ゆっくり湯船につかれるようになったので、眠りの質が良くなったと思う」などの声が聞かれています。

特に若手からは「早く帰れる分、早く起きられるようになって公休日が充実した」「家族と一緒に朝食が取れるようになった。子どもとの時間が増えた」など、家族で過ごす時間の充実を挙げる人が多く見られました。

当初は抵抗感があったベテラン世代からも「おかげさまで体が楽になりました」とお礼を言われるようになりました。 働き方改革のメリットには、「労働環境の改善による離職率の低下」「従業員の休息時間が確保されることによる生産性の向上」が挙げられます。離職率は2018年に10%を超えていましたが、現在は7.5%に低下しています。生産性向上については、1人が1時間働いたときの売上が2018年の4532円→2022年は5123円に上がっています。 勤務間インターバル制度は、おおよそ80%を超える数字で推移しています。まだ緒についたばかりで完璧なお店はありませんが、100%に近づけるようしっかり定着させていきたいと考えています。

銚子丸様 経営者交流会1

朝メールの効果

当社では、エリアマネージャーを中心に業務改善に取り組んできましたが、その中で最も定着し、役立っているのが朝メールです。

「主業務以外の業務にマネージャーが関わっている時間が多い」など、自分の仕事のあるべき姿と実態を振り返ることができ、各人の仕事量の適正化、精度の向上が実現できました。 また、互いの出勤状況や勤務状態が見えることで、コミュニケーションの量も増え、質も上がってきていると感じています。働き方改革に終わりはありませんから、1つひとつのテーマについて、今後もじっくり取り組んでいきます。

(担当コンサルタントのコメント──原わか奈

これまでの成果は石田社長、堀地常務のリーダーシップと率先垂範の賜物だと考えています。閉店時間の繰り上げや勤務間インターバルの宣言など、効果的な取り組みを進めてくださいました。石田社長はエリアマネージャー、店長の朝メールにコメントをして会社の本気度を伝えてくださっているのも素晴らしいと思います。


新菱冷熱工業株式会社
新菱冷熱工業の働き方改革
新菱冷熱工業株式会社 代表取締役副社長 阿部靖則様

全社横断のプロジェクトを立ち上げる

我々の会社は建設業であり、主に空調衛生工事を行っています。人の居住区にあっては人の環境、工場にあっては生産・品質向上、都市においては省エネ化やCO2の排出量削減に取り組む環境エンジニアリング企業です。

建設業は労働時間が長いという課題を抱えており、2024年4月の改正労働基準法適用をにらんで働き方改革をスタートさせました。 当初は時間短縮、残業削減などを目的に話を始めたのですが、「何か違う」という意見が出てきました。時間を減らすことは1つの手段であり、働き方改革の本来の目的は“自分たちの幸せ”ではないかと考えるようになり、以下のような「働き方のありたい姿」の目標を定めました。

  • ①さわやかで風通しの良い、働きやすい職場
  • ②誇り・やりがい・達成感・成長
  • ③充実し、バランスのとれた仕事と生活
  • ④限られた時間で最大限の成果を出す働き方

当社の経営ビジョンは「さわやかな世界をつくる」であり、「さわやか」は非常に重要なキーワードです。そこで、全社横断のプロジェクトを立ち上げ、「働き方さわやかProject」と命名しました。

さまざまな手法で全社展開を実現

プロジェクトを全社展開するに先立ち、まずは小室社長に講演をしていただき、目からうろこが落ちる体験をしました。最初は4チームから小集団活動をスタートし、最終的にグループ各社を含め100チームを超えて展開し、プロジェクトを続けています。

また、チーム内で出てきた働き方改革、時間短縮のアイディアをまとめた「ガイドライン」「攻略ガイドブック」を公開。良い取り組みはどんどん真似て広げていきました。 さらに、もともと残業大好きだった現場代理人たちにプロジェクトを進めるリーダー役になってもらい、社内報に登場してもらうなど、風土の醸成にも努めました。 ほかには、人事部がしっかり関与することで、掛け声だけに終わらせず、制度設計や社内規程に落とし込むことも意識しました。

新菱冷熱様経営者交流会1

「チャレンジ45」を開始

このように小集団活動と意識改革を行ってきたわけですが、次第に限界を感じるようになりました。建設現場ではいろいろな人とのやり取りがあるため、自社だけが早く帰ろうとしても、そう簡単にはいきません。会社として組織的に動く必要があると考え、2021年度からチャレンジ45を開始しました。これは「月45時間を6カ月以上」「月75時間は6カ月以内」「法定休日は必ず休む」という目標を明確に定め、全社的に取り組むという仕掛けです。

チャレンジ45のロゴを作成し、バッジにしたり名刺に印刷したりするなど、みんなで意識を高めてきたのですが、再び壁に突き当たりました。それは頑張って残業時間を減らしていった結果、給料が下がっていくのでモチベーションが上がらないという問題です。そこで、時間外労働時間を平均60時間と考え、働き方改革で従前より下がった分+αのベースアップを実施したほか、施工職には施工職手当を導入しました。

新菱冷熱様経営者交流会2

ボトムアップとトップダウンがもたらした成果

全社展開のスキームを整理すると、以下のようになります。

(ボトムアップ)
①さわPによる全社員の草の根運動→②働き方を見直すいろいろなアイディア発表→データベース化→④全社共有→⑤TTP(徹底的にパクる)

(トップダウン)
⑥月次の残業時間を執行役員会で共有→⑦事業部長・支社長に改善を促す→⑧技術部長が本音の議論→⑨全社的、組織的な改善を促す

このボトムアップとトップダウンが連関する取り組みを行った結果、有給休暇の取得率は2015年度56.3%→2021年度87.3%に向上。平均残業時間は2015年度46.1時間→2021年度40.4時間と、12.3%減の成果を出しています。 従業員の意識調査では、「この会社が好きですか?」という好意度に関して2019年84.7%→2022年85.2%、総合満足度は2019年61.0%→2022年66.7%にまで上がっています。

今後の課題

あと1年で改正労働基準法が適用になりますが、まだ達成できていないのが現状です。今後の課題は、自分たちではどうにもならない部分です。「4週4休しかない」「工期が短い」「休日に仕事をしなければならない」といった、お客様に関わる課題に関しては、「打ち合わせは定時時間内にしてほしい」「適正工期を確保してほしい」といった要望書を提出して配慮を求めているところです。 設備工事業1社だけでは労働時間を調整できません。建設業の働き方改革は関係各所の連携が必要です。ぜひ、みんなで力を合わせてやっていけたらと考えています。

(担当コンサルタントのコメント──浜田紗織

新菱冷熱工業さんによる働き方改革のポイントの1つめは、ボトムアップとトップの決断のバランスです。そして2つめは事務局の体制です。人事部のメンバーは非常に優秀であり、今では鬼軍曹も旗振り役になっているところが非常に素晴らしいと思っています。 最後の3つめは、オープンに協働したいと言ってくださっていることです。「うちもやりたい」「新菱冷熱工業さんに学びたい、一緒に考えたい」という方は、ご協力いただけると思いますし、ぜひ一緒に頑張っていけたらと考えております。

 

経営者交流会 最後