(写真左から)株式会社ワーク・ライフバランス 松尾羽衣子、株式会社ホリプロ・グループ・ホールディングス取締役 経営管理本部長 兼 人事部長 兼 経営企画部長 池橋 敬雄様、株式会社ホリプロ公演事業本部 ファクトリー部 部長 吉永 千紘様、株式会社ワーク・ライフバランス 滝沢雄太
エンターテインメント業界は、多くの人々に感動や喜びを届ける仕事です。一方で、作品づくりへの情熱が強いからこそ、長時間労働や休暇取得の難しさが課題となりやすい業界でもあります。
そんな中、株式会社ホリプロでは舞台制作を担うファクトリー部を中心に、「良い作品づくり」と「持続可能な働き方」の両立を目指した働き方改革に取り組み始めました。
今回の取り組みについて、ホリプロ・グループ・ホールディングス取締役経営管理本部長の池橋敬雄様と、ホリプロ公演事業本部ファクトリー部 部長の吉永千紘 様にお話を伺いました。
「好きだから仕方ない」が当たり前だった業界
ホリプロは、俳優やタレント、アーティストのマネジメントと、舞台・映像・音楽などの作品制作を両輪として展開する総合エンターテインメント企業です。
しかし、エンターテインメント業界には独特の難しさがあります。
- ・人に依存する業務が多い
- ・マニュアル化が難しい
- ・他社や外部スタッフとの連携が不可欠
- ・常に新しい価値創造が求められる
- ・仕事とプライベートの境界が曖昧
こうした特性から、「好きな仕事だから長時間働くのは当たり前」という文化が長く続いていました。
池橋さん:みんな楽しそうに仕事をしている。だからこそ、働き方そのものに切り込むのは簡単ではありませんでした。
管理職になって見えた“次世代の不安”
働き方改革の転機となったのは、舞台制作部門を率いる吉永部長の問題意識でした。
自身も出産・育児を経験する中で、現場復帰の難しさを実感。さらに管理職として若手社員と向き合う中で、将来への不安や働き続けられるかという懸念の声を数多く耳にするようになったといいます。
吉永さん:私はこの仕事が好きだから、良いものを作りたい気持ちで時間を気にせず働いてきました。でも今の若い社員は、働き方に対して大きな不安を抱えています。また、私自身も、子供を育てているということ以外は何も変わっていないのに、これまでのように働けない壁を感じたこともあり、このままでは良い人材が残れなくなってしまうと感じました。
「好きだからこそ長く続けられる仕事にしたい。」その思いが、改革への第一歩となりました。
まずは“ありたい姿”を語り合うことから始めた
舞台制作をしているファクトリー部は複数の舞台を同時に抱え、担当が舞台稽古や本番のために、日々様々な場所で働いています。なので、集まって働き方について日常的に話すカエル会議や、全員集合の研修実施は現実的に難しいという状況がありました。
そこで、今回の取り組みではファクトリー部24名が月1回集まる研修を3回実施し、その中で働き方改革を進めるという取り組み方をしました。また、研修のために全員が現場から抜けることはできないため、同じ内容の研修を2日程実施し、どちらかに参加する、という方式で働き方改革を進めました。

研修ではまず、「どのような働き方を目指したいのか」を話し合う場を設けました。
当初は、
- ・長時間労働
- ・休みの取りづらさ
- ・業務量の偏り
- ・育成体制への不安
- ・インプット時間の不足
- ・コミュニケーション不足
など、残業削減や、今の働き方に関する不満の声が多くの課題が挙がりました。
しかし、議論を重ねる中で大きな変化が生まれます。
それは、ファクトリー部が元々掲げていた、「一流の制作集団」という言葉を皆で改めて見つめ、「一流の制作集団とは何か」を自分たちの言葉で改めて言語化したことでした。
議論の中では、
- ・作品への強い愛情
- ・チーム力
- ・新しいエンターテインメントへの挑戦
- ・楽しみながら仕事をする文化
といったキーワードが次々と出てきました。
働き方改革は単なる残業削減ではなく、「より良い作品を生み出すために必要な取り組み」という共通認識が生まれたのです。
実際の改革では、まず日々の働き方を見える化するところから始めました。

行動表の活用
誰がどこで働いているのか、そして「いつ休みなのか」を共有する行動表の記入を徹底。
舞台制作の現場では、稽古場、劇場、地方公演、海外出張など勤務場所が日々変わります。また、休日の公演などで勤務した分の振替えで平日お休みを取る社員もいます。だからこそ、相手の状況を理解して連絡することが重要でした。
これまで行動表でお互いの状況が分かるようにしていたものの、記入率が低かったり、詳細が書いていなくて実際には相手が何をしているのかが分からない、ということも起きていました、そのため、用事があるとまずは電話をかける、という人が多かったのですが、行動表を記入し、また確認する、ということを皆で徹底した結果、先輩が「●●さんに連絡して」と言った際、行動表を見てその人が休みであれば、「今日休みなんだね。明日でいいよ」という声掛けが自然に生まれるようになったといいます。

チームミーティングの定着
複数人でチームを組んでいる中で、それぞれが多忙でチーム内のコミュニケーションの時間を取りづらく、報告・相談がおざなりになり特に若手が孤立したり、やり方が分からず戸惑うということが起きていました。
ただ、様々な作品の規模や状況が異なり、画一的なルールを当てはめにくい部署のため、作品ごとに組まれるチームで、それぞれが定期的なミーティングを実施することになりました。現場ごとに、その都度最適な方法でより良い働き方の検討・実施が始まったのです。
チームによっては週1回実施、またあるチームでは毎日の「帰りの会」を導入するなど、それぞれに合った方法で運用しています。
松尾:舞台稽古を見学させていただいた際、稽古中に台本などが変わっていくことを目の当たりにしました。またどこまで稽古が進んだか、により、翌日の業務も変わっていく、ということもお伺いしました。ベテランは翌日のイメージができるとしても、若手の方は毎日の変化をくみ取り、次の日の業務がどう変わるのかを考えるのは難しいだろうと感じたので、「帰りの会」などの実施はとても良いですね。
計画的な休暇取得
ある現場では、公演期間中でも、比較的余裕のある時期にシフトを工夫し、週2日休める体制づくりにも挑戦。2日間休めるとリフレッシュできた、という声が増え、その時間を使って他作品を観劇するなど、制作に必要なインプットの機会も生まれました。また、休むことで何かトラブルが起きるのでは、と心配もありましたが、結果的にトラブルは発生していません。
「言えなかったことが言える」組織へ

吉永さん:
働き方について時間を取って話し合ったことで、実はみんな同じことを感じていたんだと分かりました。全部解決できなくても、言えるようになったことで希望が見えたんです。
さらに、事務作業の効率化や資料共有の工夫も進み、クリエイティブな仕事に時間を使うための改善が少しずつ積み重なっています。
「特別な作品をつくる。でも働き方は特別じゃなくていい」
池橋さん:エンタメ業界は特別だと思われがちですが、仕事を要素分解していくと、決してそうではありません。作るものは特別でも、働き方は普通でいい。そういう会社でありたいと思っています。
これからも、一流の制作集団であり続けるために

働き方改革は一度実施して終わるものではありません。
ホリプロでは今後も、チームミーティングの継続、スキルマップ整備 、ノウハウ共有
、学びの場づくり などを通じて、より良い働き方を模索していく予定です。

吉永さん:働き方改革は、知れば知るほど長い道のりだと思います。でも、始めなければ何も変わりません。みんなで一緒に考えられる土壌ができたことが、今は何より大きいと思っています。
エンターテインメントの感動は、人がつくるもの。
だからこそ、その人たちが長く活躍できる環境づくりこそが、未来の作品づくりにつながっていくのかもしれません。







