大王製紙株式会社 山崎副社長・藤田事業部長 × 弊社代表取締役社長 小室淑恵
2025年4月の改正育児・介護休業法の施行により、企業には介護と仕事の両立支援を一層強化することが求められています。大王製紙株式会社では、弊社の「介護離職予防研修」の導入や社内制度の整備を進め、社員一人ひとりが安心して働き続けられる環境づくりに取り組んでいます。今回は、大王製紙株式会社の山崎副社長、藤田事業部長(※以下敬称略)と、弊社代表の小室淑恵が「介護と仕事の両立」をテーマに対談。社内アンケートから見えた課題や、ご自身の介護経験、誰もが長く活躍できる職場を実現するためのアクションについて語り合いました。

■社内アンケートから見えた、大王製紙の介護の現状
小室:今、ほとんどの企業で大きな課題となっているのが「介護と仕事の両立」です。大成建設では育児で休んでいる女性の数を、介護で休んでいる男性の数が上回っています。トヨタ自動車では5年後に親の介護を抱える人の数が1万4,000人、社員の5分の1に達すると見込まれています。そして経済産業省の試算では、介護と育児の両立ができないことで生じる経済損失は9兆円と試算されています。御社では介護と仕事の両立についてどのように向き合われているでしょうか。
山崎:2025年4月に大王製紙の全従業員を対象とした「介護に関する実態把握アンケート」を実施し、2,046名の回答が集まりました(回答率83%、男性1,712名、女性333名、その他1名)。回答率からも介護への関心の高さがうかがえます。今回のアンケートで、回答者のうち実際に介護経験のある従業員は16%(336名)、その中で現在も介護をしている人は35%(118名)という実態がわかりました。ただ、介護休業や介護休暇を取得する社員はほとんどいない状況です。実際に介護を抱えている社員の話も耳にしていますし、私が40歳以上の部下と1on1ミーティングをする際には「お父さん、お母さんは元気ですか?介護は発生していませんか?」といった話をして実態把握に努めています。
小室:1on1の中で水を向けなければ、恐らくご本人から介護の話題を出されることはないと思います。もちろん介護に関する情報提供も大事ですが、山崎さんのように、社員が実際に休みを取る前から、マネジメント側が早めに状況を把握しておくことは非常に重要ですね。
藤田:今回のアンケートで、現在も介護をしている社員が「介護をしていて困っていること」として回答数が多かったのは、「介護がいつまで続くか分からず、将来の見通しを立てにくい」(44%)、「介護両立支援制度についてあまり理解していない」(25%)という意見でした。また、介護経験の有無にかかわらず、従業員の93%(1,895名)が介護をすることに「不安」を感じており、その半数以上が「会社の両立支援制度」や「公的介護保険制度の仕組み」のことをよく知らない、ということもわかりました。情報がないからこそ、問題を一人で抱え込み、介護と仕事の両立を難しくしてしまうことにもつながります。公的制度や両立支援制度の周知、介護と仕事を両立するための職場環境づくりなど、会社として従業員をサポートする体制を構築する重要性を改めて認識しました。
■経営層自身の介護体験から得た気づき
小室:お二人は、実際に介護の経験をお持ちでしょうか。その際に困ったご経験などがあればぜひお聞かせください。
山崎:私は実母が要介護状態であり、現在は介護施設に入所しています。最初の異変は7、8年前、スーパーに買い物に行くたびに毎回同じ、今必要のないものを買ってきて、家中に大量に溜まるということが起きました。そこから、一緒にデイケアの見学に行ったり、ケアマネジャーの方に相談したりしたのですが、母は70歳くらいまで看護師をしていたので、施設に入った瞬間に“仕事のスイッチ”が入り、シャキッとしてしまう。そんなわけで介護サービスを受けずに来たのですが、そのうち紙幣でしか買い物ができず、小銭を使えないようになってしまいました。最終的に、元々母が勤めていた病院の方にいろいろ助けてもらい、施設に入所できたという経緯です。
小室:幸運にも介護に詳しい方が身近にいらっしゃったということですね。当時は、会社に相談したり、会社から情報提供を受けたりしなかったのでしょうか。
山崎:そのときは「自分でなんとかしなければ」という考えでしたが、今思えば人事に相談すれば良かったかもしれません。
藤田:私は実父を約10年前に亡くしました。3年近く介護状態が続いていましたが、私は静岡や海外で働いていたこともあり、ほとんど介護に関わる機会はありませんでした。幸いにも、父は弟夫婦と同居していて、義妹がケアマネの資格を持っていたこともあり、最終的には弟夫婦が自宅で看取ってくれました。
私がしたのは、定期的に自社のオムツを送り、数か月に1回父と話をすることくらいなので、本当に弟夫婦には頭が上がりません。当時、私も会社に相談するという発想がなく、誰にも介護について話せませんでした。そのころはまだ「介護と仕事を両立させる」という意識が乏しい状況だったと思います。
■介護に関する社内制度と利用状況
小室:現在、御社では介護に関してどのような制度をお持ちでしょうか。利用状況も含めて現状を教えていただければと思います。
山崎:介護休業、介護休暇や、所定外労働・深夜業の免除、短時間勤務など両立支援の制度を設けています。制度利用者の状況ですが、2024年度の介護休業取得者は1名です。介護休暇は0名ですが、保存年次休(失効年次有給休暇の積立制度)を介護事由として取得した人が37名(男性32名、女性5名)となっています。
藤田:そのほかにも、介護と仕事の両立支援策として、新たに「仕事と介護両立ハンドブック」を作成したり、介護の専門家への外部相談窓口を設置したりしています。介護について悩みがあっても、誰に何から相談していいかわからない状況がありますので、自治体の窓口に相談に行く前段階として、会社が支援できることを始めたところです。何かあったときには、最初の一歩として使ってもらいたいと思っています。
小室:一般の法律では介護休業は93日ですので、御社は非常に充実した制度をお持ちです。ただ、せっかく制度が充実していても「介護で休みを取ると評価が落ちる」「キャリアに傷がつく」と心配されている方がいます。会社側は「決してそんなことはない」と思っていても、それが伝わっていない状況がありますが、御社ではいかがでしょうか。
山崎:過去に、ご家庭の事情で部下が思うように働けなくなったことがありましたが、そのときは「無理をしなくていい。あなたの評価が下がるわけではないから心配しなくていいよ」と話した経験があります。介護に関しても、同じように伝えていく必要があると思います。
藤田:確かに昭和の時代には「長く休むとキャリアに傷がつく」という意識があったと思いますが、今は時代が大きく変わっています。労働力人口も減っている中で、一人ひとりが力を発揮しなければ会社が成り立たない状況であり、介護で休んだからといってチャンスを失う心配は無用です。
小室:厚生労働省のデータによると、65歳ぐらいまでの労働力人口は激減していますが、実は75歳前後までベテランが働き続けることができれば、2070年まで労働力人口の比率が変わらないことがわかっています。60歳や65歳でリタイアを選ぶ方に「もう少し会社にいてください」と言うと、「働きたい気持ちはあるけど、孫の面倒もみたいし、介護もあるし、旅行も行きたい」などとおっしゃいます。それらは、今からでも、時々休みを取ったり、会社の制度を使って働き方を工夫すればできるはずです。まだまだ活躍できる人がリタイアするのは、日本社会にとって大きな損失です。そういった意味でも、どの人も長く働きやすい環境を作っていくことが非常に重要だと思います。
■介護の正しい知識を知る・伝えることが大切
小室:では、今後、制度の認知度向上や、利用しやすくなる風土づくりはどのように進めていく必要があるでしょうか。
山崎:私は1on1の場などを通じ、自分の経験を踏まえて「介護は基本的に自分でしないほうがいいよ」とお伝えしています。特に離れた地方に親がいる場合などは、現実として介護に深く関わるのは不可能です。制度を適切に使いつつ、介護はプロに任せたほうがいいと話しています。
小室:介護休業に関して法定93日の意味をよく知らない方が多いと感じています。男性育児休業は「君自身がしっかり育児するんだよ」と言って送り出すことが大事ですが、介護休業は本人が介護をするための休みではなく、介護が安定して行われる体制を組むための休みです。本人が介護に取り組もうとすると、いろいろな手続きなどに忙殺され、職場復帰が難しくなります。「自分で介護しない」「仕事との両立体制を作る休業期間」というのは大事なメッセージだと思います。
ちょっとした事象が出てきたときに「心配だから親を呼び寄せて同居する」という選択肢を選ぶ方が多いのですが、本当はその前に介護に向けて準備する段階が必要で、そのために使うのが介護休業制度です。ほとんどの方が「介護の休みは、深刻な時、よほどの時に使うもの」と考えているのですが、最初の段階で休みを使って病院などに付き添い、正しく要介護度の認定が行われるようにサポートすることが肝心です。早めに介護の体制を構築できれば、職場に復帰することも可能です。また、補助金を活用してバリアフリーの改修を行うなど、早めにできるアクションはたくさんあります。見通しが立たないからこそ、早めに会社の制度を使われるとよいのではないでしょうか。
■研修を通じて介護への理解を深める
山崎:同感です。仕事と介護を両立させるにはどうしていけばよいのか、社員には早めに知っておいてもらいたく、2024年から御社の「介護離職予防研修」を導入しています。御社の研修は、基本的な両立支援だけでなく、経営者・管理者向け、介護に直面する世代向けの内容など、それぞれの悩みに対応したテーマを設定していただいているので、非常に有意義な時間となっています。当社は全国に拠点があり、全員が集まって研修を受けるのが難しいので、オンラインで研修を受けられ、アーカイブ動画も視聴できるのは非常にありがたいです。
小室:ありがとうございます。本サービスは、対象者や人数を限定せずに受講いただけます。介護に直面する前から正しい知識を得て、社内で共通認識をつくる機会として、ぜひ継続的にご活用いただければと思います。
藤田:当社は介護する人・受ける人・支えるご家族など、介護に関わるすべての方が“安心”で“快適”に“自己実現”できるよう、「介護の快護化」の実現に力を注いでいます。
例えば、大人用紙おむつブランド「アテント」は、“ひとりひとりをひとりにしない”というスローガンのもと、介護に関わる方々の不安に寄り添い、安心とやさしさで包みこむ存在を目指してきました。実は、尿だけではなく軟便・水様便の吸収にすぐれたアテントは、社員とお客様とのコミュニケーションがきっかけで開発されました。病院施設の営業をしていた社員が、親しくなったお客様から「あなたのところのおむつを着けて看取ることができ、うれしかった」との話を聞き、仕事と商品に対する意識がガラッと変わったといいます。そこから「本当に困っている状態をどう変えるか」という課題と真剣に向き合い、産学連携による研究や、介護の最前線で働く方々の声をもとに、より快適に過ごせる商品を開発・提供したということです。
また、当社では介護をしている方を対象に、大学の先生によるセミナーや、鎌田實先生をお招きしての講演会なども開催しています。ただ商品を売るだけでなく、介護を支える企業として社会に貢献できればと考えています。さらに、アテントに関わる営業、マーケティング、開発部門の社員は介護施設に伺い、実際の現場で研修をしたり、介護職員初任者研修をはじめとする資格を取得したりしています。ゆくゆくはグループ全社員が介護への理解を深めるよう取り組んでいきたいと考えています。
小室:これまでも仕事を通じて、介護分野のプロフェッショナルとして取り組まれてきたということですね。全社的な意識が高まれば、ブランド向上にもつながると思います。
■介護との両立を支える「誰が休んでも回る職場」づくり
小室:介護は長く続くので、日ごろから誰が休んでも回る職場づくりが求められます。そのために、どんなことをすればよいとお考えでしょうか。
山崎:介護に限らず子育てなど、さまざまなプライベートの事情と仕事を両立しなければならない社員はこれからも増えるでしょう。これまで会議の仕方、資料の作り方、社内の手続きルールなどの見直しを進めてきましたが、まだまだ仕事の属人化から抜け出せていません。早急に手を打っていく必要があると考えています。
最近、4カ月ほど育休を取った男性社員がいたのですが、そのとき「プロ野球では、主力選手が海外に流出しても、ちゃんと次の4番が出てくる。だからやってみようよ」という話をしました。実際、彼が抜けている間にチーム内でスキルアップしたメンバーが何人もいましたし、仕事は問題なく回りました。こうした輪を広げていければと思います。
小室:山崎さんがおっしゃるように、誰かが休むことは誰かが育つことにつながります。優秀な人が365日健康で休まない職場では、その優秀な人の仕事が属人化し、結果としてチームは弱体化していきます。
少し前までは「君にしかできない仕事がある」という人が評価されましたが、これからの「優秀な人」は、自分自身も長時間労働しないし、自分以外の人の生産性が上がるように情報を共有し、チームの生産性を向上できる人です。こういった人たちをマネジメントが評価するかどうかで、チームのモチベーションには天と地ほどの差が出ると思います。
山崎:当社の工場は24時間稼働しており、管理職がすべてを見ることができません。現場を知る管理職ほど、経験的に情報共有の重要性を理解しているはずです。
藤田:確かに、昔は一人でノウハウを抱え込み、それが自分の存在意義だと考える職人気質な人もいましたが、今はチームで仕事を回していかないと生産性は上がりません。そこで、H&PC部門でも、計画的な人事異動を実施しながら複数の部署の経験、多能工化を進めています。これは、本人のキャリア形成にもつながりますし、より効率的な仕組みへの改善効果もあると考えています。
また、H&PC部門は女性社員率が高く、育児との両立に直面している社員が大変多くいます。男性社員の育休取得者も増え、期間も伸びていることから、おのずと複数人で業務を進める取り組みが広がっていると感じます。
小室:情報共有に関しては、日常的に仕事を越境してできることがあるかもしれません。例えば他社では、本社勤務の人がフォークリフトの資格を取得できるようサポートを行っている例があります。台風などが発生し、突発的にフォークリフトを運転できる人が必要になったとき、本社から急きょ派遣し、緊急対応が終われば、元の持ち場に戻るというわけです。部署そのものの枠を見直し、部署や担当の壁を日常的に越えさせる仕組みを導入する方法もチャレンジの余地があるのではないでしょうか。

■誰もが生き生きと働き続けられる職場へ
小室:これから介護に直面する方も増えていくと思います。ぜひ、お二人からメッセージをお願いします。
山崎:先ほどもお伝えしましたが「自分で全部やろうと思わない」というところは、重ねて強調しておきたいと思います。そして、社内のインフラはぜひ活用してもらいたいですし、何らかの事情に直面したときには、まずは会社に相談してほしい。また、プライベートの事情があるなしにかかわらず、すべての社員がプライベートの時間を確保し、充実させることが、仕事への意欲にもつながってくると思います。
藤田:誰がいつ介護を抱えるかわかりません。いつ誰の介護が発生しても対応できるようなチームづくりを進めることが大切です。「自分が介護を抱えた時」を想定しておく。自分が誰かをサポートできるようにスキルアップを心掛ける。チームで仕事を進める体制を整える。これらがかみ合えば安心できますし、そのために私も社内改革を進めていきたいと思います。
小室:全体の仕事のやり方を変えずに一部の人だけに配慮すると、特定の人たちに仕事が付け替えられることになり、職場内の対立構造が深まり、お互いに責め合う職場となってしまいます。独身であっても、事情を申告していなくても、すべての人に必ずライフはあります。サポートする側・される側が固定化しないように、経営が先頭に立って全体の仕事のやり方を見直していけば、ドラスティックに変化できるはずです。ぜひお二人にはリーダーシップをとっていただき、より生産性が高く、いろいろな方が生き生き働ける職場にしていただきたいと思います。本日は大変ありがとうございました。
※本対談は、大王製紙株式会社の社内報に掲載された内容を、同社の許諾を得て一部編集・転載するものです。
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