※トップ写真:左から、杉本由紀子さん、古柴政美常務理事、岩井広行理事長、加藤駿さん
目次
お話を伺った方:杉本 由紀子 介護老人保健施設 ささづ苑かがやき 副拠点長
加藤 駿 ささづ苑 在宅事業部門 部門長 兼 地域密着型特別養護老人ホームささづ苑かすが ユニット部 部長

はじめに
富山県にある介護事業者 「社会福祉法人 おおさわの福祉会 ささづ苑」 の「ささづ苑 デイサービスセンター」は、かつて法人内で“異動したくない部署”と言われていました。職員のモチベーションは低く、業務は特定の人に依存し、土曜日出勤もあり休んでも“休んだ感じがしない”という状況が続いていました。
しかし2022年度、富山県の働き方改革事業で株式会社ワーク・ライフバランスがコンサルティングに入ったことをきっかけに、わずか4年で、富山県“頑張る介護事業所表彰”を受賞するまでに変貌を遂げました。県内外から見学者が訪れ、“全国一のデイサービス”を本気で目指す組織へと生まれ変わったのです。
その変革の出発点となったのは、テクノロジーでも制度改革でもなく、“カエル会議”という対話の仕組みでした。
2022年―― 当時の課題
2022年当時、ささづ苑デイサービスセンターは深刻な課題を抱えていました。
- ・年間120日の休日は確保されていたものの、休日出勤もあり、職員は体力的にも精神的にも疲弊していた
- ・有給休暇やリフレッシュ休暇の制度はあったが、実際にはなかなか取得できない状況だった
- ・業務上の気づきや連絡が共有されず、2〜3人で話し合って解決した内容が他の職員に伝わらないため、統一したケアができなかった
- ・送迎計画の作成はベテラン職員1名が主に対応し2時間以上を要していた(他の職員が対応すると4時間を要した)――典型的な“属人化”の問題
「法人の中でも、デイサービスだけには異動したくないっていう部署でした。モチベーションもないし、デイに行ったら終わり、みたいな雰囲気で。」
―― 加藤 俊 様
転機―― カエル会議の導入
株式会社ワーク・ライフバランスのコンサルティングにより導入されたのが“カエル会議”です。職員全員が業務上の課題を付箋に書き出し、それを共有・議論しながら解決策を見つけていく対話型の会議手法です。

最初は抵抗があった
導入当初、現場の反応は決して前向きなものではありませんでした。“会議の時間を取られる”ことへの抵抗感があり、管理者である杉本さんは“強行”で実施を決断したといいます。
付箋が変えた空気
しかし、カエル会議の“付箋を使う”手法が空気を変えました。普段は発言しない職員が、付箋に自分の意見を書いて発表できるようになったのです。
「いつも意見を言わない子が付箋を使って自分のアイデアを書き出して、それを発表することで、“自分の意見を言っていいんだ”と思えたんじゃないかと思います。その意見が課題解決に使われると、嬉しくなってモチベーションも上がっていった。」
―― 杉本 様
さらに、リーダー的な職員にも変化が生まれました。これまで“自分が決める”スタイルだった職員が、他者の意見を聞く姿勢を身につけ、チームとしてまとまっていったのです。
やがて小さな成功体験が積み重なり、カエル会議という特別な場がなくても、日常的に建設的な対話ができる組織へと変わっていきました。

現場から生まれた業務改善
カエル会議がもたらした最も大きな変化は、“上からの指示”ではなく“現場発”の改善が次々と生まれたことでした。
入浴介助:6人体制から4人体制へ
“人がいない”という不満は、カエル会議でも繰り返し話題に上がっていました。しかし議論の中で、職員たちの発想が“人がいないからできない”から“どうやったらできるか”へと変わっていきました。
その結果、入浴介助に6人を配置していた体制を、職員自らの提案で4人体制に変更。浮いた2人分の時間で、休暇取得や利用者様のための活動に充てられるようになりました。
「上から“6人もいらないだろう”とずっと言われていたのに動かなかった。でもカエル会議で自分たちで考えて“こうしたら減らせるんじゃないか”って現場から出てきたとき、実現したんです。自分たちで決めたからこそ、くじけそうなときも頑張ってくれた。」
―― 加藤 俊 様
AI送迎計画システムの導入
属人化の象徴だった送迎計画の作成。カエル会議で“送迎を自動で組んでくれたらいいよね”という声が上がり、職員自らがシステムを探し、AIを活用した送迎計画作成システムの導入に至りました。
ベテラン職員でも2時間、他の職員では4時間以上かかっていた作業が、わずか15分で完了。しかも入社したばかりの新人職員でも対応可能になり、属人化の問題が根本から解消されました。
タブレット活用の自発的な定着
以前から現場にタブレットは配備されていましたが、“使え”と言われても活用されない状況でした。カエル会議を通じて、職員自身が“タブレット入力の方が楽だ”と気づき、自発的に活用が広がっていきました。
「上から言われたから使うのでは有効的に使いこなすことは難しい。職員が納得して“だから必要なんだよね”とわかって、自分たちでどう使うか考えて進めたから、今のように早く進むことができた。」
―― 杉本 様

数値で見る成果
カエル会議をきっかけとした一連の取り組みは、明確な数値の変化となって現れています。



稼働率向上という「経営成果」への波及
カエル会議を起点とした一連の取り組みは、現場の変化にとどまらず、経営指標にも明確な成果として現れています。
デイサービスの稼働率は 84%から88.5%へと4.5%向上しました。この数値の背景には、複数の現場改善が連動した結果があります。
入浴介助人数の削減や送迎システムの自動化で、職員に時間的・心理的な余裕が生まれ、生まれた時間を利用者向けプログラムの充実に充てることができました。行事は月2〜3回から月4回以上へと増加し、職員の得意分野を活かした企画が実現し、利用者の楽しみの時間が大幅に増えました。さらに、利用者が企画に参加するなど、サービスの質そのものが向上しています。それにより、施設は「楽しい場所」という認識が広がり、お休みする人が減り、経営安定化に直結する稼働率の向上という重要な改善につながったのです。他施設からの見学申し込みも増加し、外部評価も高まっています。

“異動したくない部署”から“異動したい部署”へ
数値の変化以上に大きかったのは、組織文化そのものの変革です。かつて法人内で最も敬遠されていたデイサービスセンターは、今や“異動したい部署”へと評価が一変。県内外から見学者が訪れる先進的な施設として認知されるようになりました。
リフレッシュ休暇制度も“制度はあるけど取れない”状態から、全員が取得できる環境に変わりました。職員からは“県外に住む息子に会いに行けた”“家族でテーマパークに行けた”といった声が聞かれるようになり、仕事とプライベートの両立が実現しています。
さらに法人では、5日間のリフレッシュ休暇を7日間に拡充。すでに7日間取得した職員も出ています。離職者はゼロになりました。
「今のデイサービスは、法人の顔と言われるようになった。最近入った人たちは、昔こんな暗黒時代があったなんて信じられないといいます。」
―― 加藤 俊 様

法人全体へ、そして全国へ
デイサービスセンターでの成功は、法人全体に波及しています。杉本さんは現在、別の部署に異動し、同じカエル会議の手法で新たな改革を推進中。法人全体でカエル会議を導入し、組織改革を広げています。
加藤さんは、同じ課題を抱える全国の介護施設に向けて、こう語ります。
「人がいないからできない、じゃない。限られた人員でどうやったらできるかを自分たちで考えて、自分たちで問題を解決する。その成功体験の積み重ねで、さらに良くしたいという気持ちが自分事として生まれてくる。そのためには建設的な対話ができる環境が大事だし、その環境があれば、すごく良い施設になれる。」
―― 加藤 俊 様
ささづ苑デイサービスセンターでは見学の受け入れも積極的に行っており、自分たちの取り組みが少しでも他の施設の役に立つなら、という思いで情報を発信し続けています。
働き方改革の本質とは
最後に、お二人に“働き方改革の本質”について伺いました。
「自分が変わるということ。自分たちの力で改善し、自分たちで築き上げていくこと。そういう建設的な対話ができるような環境を作ることだと思っています。」
―― 杉本 様
「働きやすい職場は自分たちで作るもの。その対話ができる環境のことだと思います。」
―― 加藤 俊 様
テクノロジーの導入も、業務効率化も、すべての出発点は“対話する文化”を作ることでした。カエル会議という対話の場が、職員一人ひとりの中にある“もっと良くしたい”という思いを引き出し、組織を内側から変える力になったのです。
ささづ苑デイサービスセンターの挑戦は、これからも続きます。“全国一のデイサービス”という目標に向けて。







