新潟県厚生連 糸魚川総合病院様
人手不足の悪循環を断ち切り、地域の医療崩壊を防ぎたい 「北陸一働きやすい病院」を目指す糸魚川総合病院
新潟県糸魚川市。その街で市内唯一の総合病院として機能しているのが、糸魚川総合病院です。同院の山岸文範病院長は、深刻な人材不足や現役スタッフのエンゲージメントの低さ、そしてその先にある、医療の担い手不足による地域医療崩壊への危機感を募らせていました。そこで、働きやすい病院づくりを目指して弊社の「働き方改革コンサルティング」の導入を決定します。2021年10月から2022年6月までの9カ月間、働き方改革に取り組んだ医療現場では、何が起きたのでしょうか。取り組みを先導する山岸文範病院長に、弊社の担当コンサルタント桜田陽子が伺いました。
働き方改革取り組みの背景
糸魚川総合病院が働き方改革に力を入れたきっかけは、糸魚川市における圧倒的な看護師不足への危機感からでした。新潟県は全国ワースト1位を争うほど医師・看護師不足の地域です。その中でも糸魚川市は少子高齢化によって新卒看護師が相対的に不足し、それに追い打ちをかけるように現役看護スタッフの都市部への流出もあって、医療機能維持をしていくための大きな壁となっていました。地域の医療を担う糸魚川総合病院においてこのまま人材不足が続けば、それはすなわちイコール糸魚川市全体の医療機能の崩壊へと直結します。
「地域医療を守るために、どんな状況であってもスタッフを確保して病院機能を維持し続けなければならない」「そのためにも、この病院で働くスタッフのことを知りたい。」山岸病院長は病院長に就任をしてすぐに、自らがスタッフへのヒアリングの場を何度も設けたり、外部の組織サーベイを実施したりと、アクションに取り掛かりました。
これらの調査の中で浮かび上がってきた課題は、「エンゲージメントの低さ」でした。 職員の要望把握・人員の適正性・処遇の納得性といった項目が最も低く、 少ない人数での診療・看護業務によって長時間労働の慢性化とそれによる効率低下を招き、それがまたスタッフの離職へつながる悪循環に至っていたのです。
このような現状を前に、山岸病院長は「ここで働きたいと思わせる病院づくり」に命懸けで取り組むべきだと覚悟を決めました。
各チームの取り組みと成果
このように病院長の完全コミットの中、当社のコンサルティングがスタートしました。 各チームの取り組みチームの成果をご紹介します。
●医事課チームはマニュアル作成方法を見直して9連休の取得が可能に
取り組みチームのひとつ、医事課チームでは想像以上の業務改善の効率化が進みました。 なかでも目標にしていた「9日間連休取得」は、2022年6月から9月までの期間にメンバー10人の連休取得スケジュールが決まっています。
具体的に進めた施策としては、属人化業務の解消にむけたマニュアル整備です。マニュアル整備は、新人、転勤者にも対応できる様、業務の運用に関わるものを作成しました。また、診療報酬の策定をスムーズにもれなく行うため、チェックリストの見直し、作成を行いました。さらに、担当者だけでなく課員全員で行える業務を検討し、その一部をマニュアル化しました。
●内視鏡チームは大腸内視鏡検査時の院内FAX廃止で病棟看護師の月間作業時間が9割減
内視鏡チームが取り組んだのは、業務の無駄となっている時間を徹底的に洗い出すことでした。 その結果見えてきたのは「FAXのやり取りに時間がとられていた」ということ。 これまでは大腸内視鏡検査後に入院が必要になる場合、病棟へFAXを送っていましたが、実は同時に電子カルテ上の機能を使っての連絡もしており、つまり2重に連絡をしていたのです。
そこで病棟へのFAXも含めて院内FAXも廃止し電子カルテ状の基礎情報システムの活用を進めたところ 看護師の情報伝達の月間作業時間を4時間40分削減、手書きで書き写していた検査一覧表作成にかかる月間作業時間が84分から8分に削減など大幅に効率化することに成功しました。
さらに、内視鏡検査中の医師のPHSへ相談・報告の連絡をすることで医師の作業が中断されていましたが、看護師間でコミュニケーションを取り、医師が内視鏡検査をする時間帯をシェアすることで、検査中の電話を避けられるようになりました。
●手術室チームは手術ごとに立ち合い看護師の適正人数を見直し、平均3人から2.5人に削減難易度の高い手術件数が31%増えたにもかかわらず、平均時間外勤務時間を16%削減の成果を実現
手術室チームで無駄を減らす作業として着目したのが、不要になった手術道具の断捨離です。かつて使用していた手術道具が残ったままだったため、手術時に使用しない道具もとりあえず用意しておこうというのが習慣となっており、そうすると、不要な手術道具を用意したり、洗浄したりする手間がかかります。また、手術道具を置くのにも棚のスペースをとりますので、必要な道具が取り出しづらくなって非効率な状態でした。
そこで思い切って不要な手術道具を他病院へ譲ったり、破棄することに。すると棚がスッキリとし、必要な手術道具だけが揃うので効率的に作業できるようになったのです。また、手術に立ち会う看護師の人数の見直しも行いました。
これまで「一律に3名立ち合い」となっていたルールを、手術の難易度によって変更。平均3人から2.5人に削減でき、2022年は難易度の高い手術件数が31%増えたにもかかわらず、手術室チームの看護師の平均時間外勤務時間は16%削減の結果となりました。
「人生を豊かにするために、輝くようなキャリアを積んでほしい」~山岸病院長のコメント~
「働き方改革」を行うことで得られた成果、その一つはコンサルティング中のカエル会議そのものの効果です。今まで会話の少なかった医師と看護師などの間で真剣なコミュニケーションがとられたこと、技術職である若い看護師が医師を含めたチームの中でリーダーシップを発揮する場があったこと、医師が他の職種の労働時間や環境を心配し続けることで改革を進めようとしたこともありました。
そして実は中間報告会では、経営層への率直な意見を出した医師もいました。これまで現場の医師の方から病院の経営層へ要望を出すということはあまりありませんでしたが「本気で働き方改革のことを考えてくれている人がいた!」と嬉しくなったのを覚えています。
もう一点は報告会で示された成果そのものです。医事課が9連休取得という明確な目標を提示し業務の効率化や互いのサポートを進めたこと、煩雑な仕事をシンプルにする断捨離の実行、必要だと思い込んでいた部署間FAXの廃止など今まで無理だと決めつけていたことへの取り組みが成果として示されました。
とは言っても改革は始まったばかりです。年輪を重ねるように一歩ずつ「北陸一働きやすい病院」という大きな幹へ育てたいと思います。今回は最初の年輪として記念すべき改革になったと考えております。
業務の効率化を進めることは、病院で働く全ての人にとって意義があることです。しっかりお休みをとって心と体を休めると、働く時は集中力高く働くことができます。若い医療スタッフであれば、時間の余裕が生まれることで資格取得など勉強する時間に充てられます。ご家族がいらっしゃれば、家族の時間を大切にできます。人生をより豊かにするため忙しさに埋没するのではなく、糸魚川総合病院で働きながら、輝くようなキャリアを積んでほしいと願っています。
担当コンサルタントから
医療現場はコロナ禍の発生もあり、過酷な状況に置かれていますが、2024年の法改正に向けて待ったなしで働き方改革が求められている業界です。「医療専門のコンサルタントしか、できない領域なのでは?」と思われるかもしれませんが、実はコンサルティングをする中で、専門性を問わず民間と同じような課題が出てくることが度々あります。
もちろん医療業界特有の困難な状況に出会うこともあります。今回のお取り組みの最中も、何度か「取り組み存続の危機?!」と思ってしまうような、難しい場面もありました。しかし「難しいけど、無理じゃない」のです。大変な時こそ目の前のクライアントの声に真摯に耳を傾け、話を聞く場を設け、解決に向けて一緒に“ありたい姿”の実現策を考え、困難からの突破口を見つけてきました。
医療現場の働き方改革においては、医師の働き方を医師だけの力で、看護師の働き方を看護師だけの力で変えていくことは困難で、医師も、コメディカル(医師以外の医療従事者)も、双方で働き方を変えていく決断をすることが重要です。
糸魚川総合病院の事例は「こういうものだ」「昔からこうやっている」という慣習を全員で見直し、取り組みメンバーの皆様の”変化を起こす勇気”を目の当たりにし、逆に私たちが勇気づけられるコンサルティングだったと感じています。
ご参考
・【プレスリリース】糸魚川総合病院が「北陸一働きやすい病院」を目指し「働き方改革コンサルティング」を導入 長時間労働の是正や労働環境を見直し、医師・看護師が定着する病院への改革を目指す ~業務内容の効率化や人材の確保で、高品質な医療の継続提供のための環境を整備、 サステナブルな医療体制を確立し、地域の中核医療に貢献~ https://work-life-b.co.jp/20210930_15347.html
・【プレスリリース】「北陸一働きやすい病院」を目指す糸魚川総合病院が働き方改革で連休を取得しやすい職場へ●医事課チームはマニュアル作成方法を見直して9連休の取得が可能に●内視鏡チームは大腸内視鏡検査時の院内FAX廃止で病棟看護師の月間作業時間が9割減●手術室チームは手術ごとに立ち合い看護師の適正人数を見直し、平均3人から2.5人に削減●難易度の高い手術件数が31%増えたにもかかわらず、平均時間外勤務時間を16%削減の成果を実現 https://work-life-b.co.jp/20220519_19735.html