気象庁職員向けセミナーに、弊社コンサルタントの浜田紗織が登壇しました。近年、気象庁のような公的組織でも、業務量の増加や人員の制約の中で、どのように生産性を高めていくかが重要な課題となっています。
浜田自身も前職では、技術職として初めて育休を取得した経験があります。当時は「夜勤ができて当たり前」という文化が強く、育休が明けて職場復帰してからは、子育てのため以前のような働き方ができず、「周囲に迷惑をかけているのではないか」と落ち込む時期もありました。
そんな時、「自分だけが肩身が狭いと感じてしまうのは思い上がりで、表に出さなくとも、誰にでもライフの事情はあるのかもしれない」と気づかされたといいます。
この原体験から、上記のように強く感じ、現在の仕事に取り組むようになりました。

働き方改革が必要だと、自分の言葉で説明できますか?
「働き方改革」や「ワーク・ライフ・バランス」という言葉は、すでに社会に広く浸透しており、耳にすれば多くの人がその意味をイメージできるようになりました。しかし、「働き方改革はなぜ必要なのか」と改めて問われたとき、私たちは自分の言葉で答えられるでしょうか。
中には、「働き方改革」という言葉だけが独り歩きし、改革そのものが目的となってしまい、「何のために取り組むのか」という本来の意義が見えにくくなっているケースもあります。
そこで本セミナーでは、働き方改革の背景にある前提として、社会全体を取り巻く環境の変化、特に人口構造の変化が私たちの働き方や組織運営にどのような影響を与えているのかについて、具体的に解説しました。
近年人口減少が続く日本社会にとって、「限られた人材をいかに最大限に生かすか」は避けては通れないテーマです。目の前の労働力不足を解決するためには、“今ある労働力を生かす”という視点で、これまで活用されてこなかった力を発揮できる環境を整えることが求められてきます。中でも女性活躍は欠かせない柱の一つとなります。
同時に、女性がより活躍するためには、男性が育児に参画しやすい環境を整えることも重要です。長時間労働を前提とした働き方のままでは、家庭と仕事の両立は難しく、結果として安心して子どもを持ちにくい社会になります。男性が育児に関わることは家庭の安定だけでなく、“未来の労働力を確保する”ことにつながるのです。
また、日本は長年にわたり働き方を変えないまま突き進んだ結果、主要国の中でも労働時間が長く、生産性が低い国のひとつになってしまいました。時間をかければ成果が出る時代はすでに終わり、今求められているのは「どれだけ短い時間で価値を生み出せるか」という視点です。
短い時間で価値を生み出すためには、一人ひとりが自分の時間を自律的に使える状態、すなわち「時間自立性」を高めることが欠かせません。その土台となるのが、十分な睡眠時間の確保です。睡眠が不足した状態では、集中力や判断力、創造力はいずれも大きく低下してしまいます。裏を返せば、本当に質の高い仕事をしたいのであれば、長時間労働はまったくの逆効果だと言えるでしょう。
人口減少が続く時代、私たちに求められているのは「誰かが無理をしなければ成り立たない組織」ではなく、一人ひとりが本来の力を発揮できる、「誰もが活躍できる組織」へと進化していくことです。そのための第一歩こそが、長時間労働を前提としない働き方へのシフトなのです。

制度ではなく「働き方の当たり前」を変えた組織
では、自分の組織に立ち返って、自分たちは何ができるのでしょうか?
セミナーでは、働き方改革を進める中で実際に変化が生まれた、さまざまな組織の事例も紹介されました。共通していたのは、「特別な制度を導入する」のではなく、「これまで当たり前だった働き方を見直す」ことで、生産性や組織の雰囲気が大きく変わった点です。
例えば、国土交通省のある事務所では、若手職員への技術指導が深夜まで続くことが常態化していました。そこで指導時間を22時までと決めたところ、若手が限られた時間で学ぼうと工夫するようになり、結果として業務の段取り力が向上し、生産性が高まったといいます。
警察の暴力団対策課では突発的な対応が多く緊張感を伴うため、「休めるときに休む」という判断を個人に委ねてしまうと、誰も休めなくなってしまう状況がありました。そこで上司が業務の状況を見ながら意識的に「今日は休むように」と声をかけたり、宿直明けの職員が一目で分かる工夫を行ったりするなど、ずるずると働くことを防ぐ運用へと変更しました。その結果、職員の集中力や判断力が保たれ、処理件数の増加にもつながったそうです。
また、新菱冷熱工業では、若手社員が上司の反応を気にして意見を出しにくい状況が課題となっていました。そこで「ほうれんそうのおひたし」をキャッチコピーに、上司が「怒らない・否定しない・助ける・指導する」姿勢を徹底したところ、若手とベテランのコミュニケーションが増え、スキルアップが実現しただけでなく仕事への満足度も向上しました。
「生産性を高める」というと民間企業だけの取り組みと思われがちです。しかし、生産性向上とは、単に業務量を減らすことではなく、
分母である時間や負荷を適切に圧縮しながら、どのような成果を上げたいのかを考えること
この考え方は、官民問わずあらゆる職場に共通するのではないでしょうか。
「いい仕事」とは何かを言葉にする
浜田からは、「生産性を高める」でうまくイメージできない場合は「いい仕事」とは何かを言葉にしてみることを提案しました。時間を圧縮するだけではなく本当はやりたかった仕事に時間を充てられることが本来のあるべき姿だからです。
ダイエットに例えるなら、「適正体重になって何をしたいのか」を考えることと同じ。理想と現実のギャップ(=問題点)を認識することが、理想に近づくための行動につながるのです。

また、講演後には、野村長官と浜田の懇談が行われ、気象庁における働き方改革の現状や課題、今後の方向性について意見交換がなされました。
セミナーを終えて(講師コメント)
日本各地の気象台で異なる地域特性に向き合いながら、地震や火山噴火など突発的な現象にも即応されている気象庁のみなさまの業務は、極めて専門性と緊急性が高く、一般的な組織とは前提が大きく異なります。そのような環境において、一律の施策を適用するのではなく、業務の具体的な中身に踏み込みながら働き方改革を進めていこうとされている点に、非常に大きな意義を感じました。
講演でも、全国の官署のみなさまが真剣に耳を傾け、「まずはできるところから一歩踏み出そう」とされる前向きな姿勢が強く伝わってきました。また、講演後の長官との懇談でも、現場の実情と今後の方向性について率直な意見交換を行い、トップから現場まで一体となって改革に向き合う姿勢が、今後の推進力につながると感じました。
これからさらに難易度の高いテーマにも挑んでいかれると思いますが、その取り組みが本質的な価値創出と職員のみなさまのウェルビーイング向上につながっていくことを心から応援しています。
ご参加者アンケートより
- ・「残業できる人」を「便利に使える人」と考えてしまうと、結果的に業務に携われる人が限られてしまう、という指摘が、そのとおりと思った。自分でも、「登庁を主としている職員」を「便利に使える職員」と考えてしまい、「テレワークを主としている職員」の業務対応可能性を狭めていないか、反省したいと考えた。
- ・一部の情報を切り取って判断するという話を聞いて、他者が行っている自分に都合の良い思い込みを強く批判した経験があるが、今回の話を聞いて自分も無自覚にその様な偏見をもっていたことに気づきました。
- ・「働き方改革はなぜ必要か」について、これまで労働人口の問題からや、育児・介護などワークライフバランスの関係、その他の関係などから概略的に必要性は理解していたものの、今回の講義を通じて、特に産後うつなどの関係からも男性の育児休業の必要性など理解を深めることが出来ました。
- ・「現場での『変革』の進め方」についても、組織全体として、目標を設定して推進することも必要ですが、何よりも、現場において「ありたい姿」をはっきりと描き、現場の皆でPDCAを回していくことの必要性を講義を通じて実感しました。
- ・民間企業を含む他の組織の様々な取組事例を見て、様々な課題とそれに対する様々なアプローチがあることがわかった。課題やアプローチに違いはあっても、働き方改革で目指す目標や大きな方向性は同じものであるということも感じた。
- ・浜田さんの実体験や感じたことが素直に伝わってきた講演でした。なかなかこういうことを言われる講演者の方がいないと思うので、心にしみる印象がありました。
- ・講師が自分だけでなくみんな家庭の問題で悩んでいる話をされた時、子供の対応で最近、勤務の開始時刻に間に合わなくて周囲に迷惑をかけていると思っている私としては、救われた気がしました。
講師
株式会社ワーク・ライフバランス 取締役/ワーク・ライフ・バランスコンサルタント。東京科学大学(旧東工大)卒。東急株式会社にて鉄道施設計画や大規模事業に従事後、現職。国土交通省など国の機関、建設業界を中心とした企業でのコンサルティング実績が豊富。中央建設業審議会・社会資本整備審議会専門委員等を務め、現場に伴走し成果を最大化する働き方改革を強みとする。三児の母。







