(2025年10月30日、北陸経済連合会(以下、北経連)が主催する会員懇談会で、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)推進をテーマにしたパネルディスカッションが開催されました。
ファシリテーターを務めたのは、株式会社ワーク・ライフバランスの山﨑純平。 “現場のリアル”に踏み込む議論をめざし、各社の取り組み・葛藤・突破口が率直に語られました。

▼パネリスト(右から)
・中村留精密工業株式会社 人事課 マネージャー 吉野裕梨 様
・立山科学株式会社 執行役員 篠原おりえ様
・MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社 常務執行役員 本島なおみ 様
・北陸経済連合会 人財活躍推進委員会 委員長 林正博 様(㈱福井銀行 会長)
・株式会社ワーク・ライフバランス (石川県男女共同参画審議会委員)山﨑純平
1. なぜ今、北陸でDE&Iなのか ―危機感と希望
パネルディスカッションの幕開け、福井銀行・林委員長の言葉は、参加者の胸を一気に現実へ引き戻しました。
「北陸は人口減少が進み、このままでは若い人が戻ってこない。地方企業も本気で取り組まなければ、人材確保はますます厳しくなる。」
人口減少が急速に進む北陸で、企業が若い人材から選ばれるためには、DE&Iは“やったほうがいい”ではなく“やらなければならない”レベルに来ています。
この危機感と覚悟が、この日の議論の土台となりました。

2. 男性育休は組織文化で決まる ― 各社のリアルな突破劇
■ 立山科学(篠原氏)
「男性育休は“いつ取るの?”から始まる文化づくり」
- • 男子学生から「男性育休の取得率は何%ですか?」と頻繁に聞かれるように
- • 男性育休推進は管理職向け研修からスタート
→ 法改正を“自分ごと化”してもらうところに徹底的にこだわる - • 子供が生まれる男性社員には「いつどれぐらい育休を取るの?」という一言が最初になってきている
- • 男性育休取得率76%、1ヶ月以上取得が80%、3ヶ月以上が50%
数字を伸ばしたのは制度ではなく、現場の空気とも考えられます。
「取れるか?」ではなく「いつ取る?」と聞く文化を、人が作り、研修が支えた好例でした。
■ 中村留精密工業(吉野氏)
「社長のひと言が心理的安全性を生む」
男性比率8割の製造業。簡単ではない。それでも同社は覚悟を決めました。
- • 社長が育休申請者に “いい育休をとってきてください” と直接メッセージ
- • その一言が職場全体に「取っていい会社だ」という空気をつくる
- • 全国放送で取り組みが紹介され、追い風に
- • 取得率は9割近くへ
制度より強いのはトップの姿勢。
“やると決めた会社はここまで変わる”と感じさせるエピソードでした。
■ 福井銀行(林氏)
「まずは5日間“全員強制”で育休を取ってもらった。その後は自走した。」
- • 2022年にDEI推進宣言
- • スタートはトップダウンで 「5日間は全員必ず育休取得せよ」
- • その後は自然に伸び、平均19日へ
- • 育休取得者の声を「DE&I通信」で社内共有し、さらに加速
まずは“強制”という一手が、結果的に文化の土台になり、現場の自走へつながっていきました。また「育休は伝染する」という性質を生かし、事例の社内共有で育休の機運を醸成されています。
また、同社は、多様性など働きやすい職場づくりに取り組む企業を認定・表彰する「D&I AWARD 2025」で、東京都以外に本社を置くチャレンジャー企業部門の「D&I AWARD賞」を受賞されました。誰もが尊重され、活躍できる職場づくりの模範として認められている背景には、DEI推進宣言からのトップダウンによる男性育休が基盤にあったようです。
3. 「女性活躍は女性だけの課題じゃない」―経営層と現場の意識変革
■ 立山科学(篠原氏)
「1人1人が個性を発揮して成長できる会社」
- • 2017年から女性活躍プロジェクトを開始。
- • 経営層研修では、外部講師による講義のあと、経営層自身が女性活躍の目指す姿やビジョンを策定
→共通していたのは「女性」ではなく「一人ひとり・個性」に焦点を当てていた点。一人ひとりが個性を発揮し、成長し、生きがいを持って働ける会社を目指す内容だった。当時はDE&Iという言葉はなかったが、今振り返るとこのビジョンがDE&Iの原点だった - • 女性社員とその上司を対象にした講演会を実施し女性活躍に前向きに
女性活躍推進のためには、女性だけを対象に進めるものではないことを経営層自身が気づき、ビジョンを策定されるプロセスが基盤になっていると感じます。研修を通じて、女性活躍推進への正しい理解をし、経営層同士で議論を重ねたことが、アンコンシャス・バイアスを壊す鍵となり、有意義なビジョン策定にもつながったのではないでしょうか。

■ 福井銀行(林氏)
「1人1人がちゃんとDE&Iを理解をして進めることでボトムアップが可能に」
- • 様々な層でのアンコンシャス・バイアス研修の実施
- • 社外役員(女性含む)との意見交換
- • D&I検定3級を全員取得方針で推進(約300名が取得済)
- • 機運醸成期から「風土定着期」へ移行中であり、今後は再びトップダウンが必要
→この背景には、「女性が管理職になりたがらない問題」があり、その要因には、「管理職の長時間労働」や「管理職に必要な経験・キャリア機会不足」がある。
これらは組織としてトップダウンで解決すべき課題と認識している。
全職員がDE&Iを正しく理解できるよう、研修や検定を通じて知識レベルを丁寧にそろえている点は、非常に示唆に富む取り組みだと感じます。また、女性活躍を阻む要因である長時間労働や経験機会の不足を明確に課題として捉え、その解消に向けてトップ自らが必要性を認識している点は、極めて意義深いものと言えるでしょう。
4. 外国人採用の壁をどう越えるか ― 中村留精密工業の奮闘
言語の壁で社外研修が進まず、叱責を受けた経験もあった。それでも粘り強く工夫を重ねた。
- • 個別フォロー
- • 英語で資格取得できる機関を探し出し対応
“できない理由”ではなく“できる選択肢”を探し続ける実行力が印象的でした。

5. 経営層と社員の距離を縮める ― 心理的安全性をつくる仕組み
■ MS&AD 本島氏
「リーダーが空気をつくる。だからまずはリーダーが変わらないと始まらない」
- • 役員と社員が直接対話するオンラインゼミでフラットな対話を習慣化
- • 事前研修で、「役員は“聞き役”になること」「自分の弱みを開示すること」など、社員の心理的安全性を高めるためのスキルを習得
女性活躍の推進において、女性のみを対象とした研修はかえって逆効果となり得ること、そして男性上司の意識改革とセットで取り組む必要がある点を明確に示されていたことは、本質を捉えた示唆であったと感じます。加えて、組織の空気をつくるのはリーダーであるという前提のもと、リーダー自身が心理的安全性の高い対話を実践できるよう研修を受けている点も、非常に参考になる取り組みでした。
福井銀行(林氏)
- • 全職場において、月1回の1on1ミーティングを実施(議題は部下が主体的に設定)年1回のタウンホールで全社員が役員と対話
初年度はネガティブ意見が多かったが、4年目には前向きな声が増えた。
山﨑のコメントとして、これまで対話が十分に行われてこなかった職場が対話を始めると、初期段階では不満や課題の指摘が多く表出する傾向があります。しかし、対話を継続していくことで、次第に「ではどう改善するか」「自分には何ができるか」といった、解決志向・当事者意識に基づく議論が増えていくと感じています。
このプロセスは、チーム形成論であるタックマンモデルに照らすと、対話開始初期に不満や違和感が表出する「混乱期(Storming)」を経て、次第に建設的な議論が増えていく「統一期(Norming)」へ移行していく流れに近いと捉えられます。
6. DE&I推進の“勝ちパターン” ― 4社から共通して見えた答え
議論を通じて、4社に共通する成功要因が明らかになりました。
- ① トップダウンで方向を示す
経営層が方向性を示さないと、現場は一歩も動かない。 - ② ボトムアップで現場に浸透させる
トップがスポンサーとなり、現場の挑戦を支える。 - ③ 男性側の意識改革を外さない
女性だけを“主体”にするのは逆効果。 - ④ 体感型の仕掛けをつくる
会議・研修・対話の場で意識改革の施策を“体感”してもらう。 - ⑤ 心理的安全性を高めるコミュニケーションをつくる
対話しやすい雰囲気づくりへの投資が、DE&I推進のカギ。
7. 進行役として感じたこと ― 山﨑純平(ワーク・ライフバランス)より
パネル全体を通して私が強く感じたのは、
「DE&Iは制度の話ではなく、組織文化そのものを変える取り組みだ」
ということです。
北陸で「若者が戻らない」と言われる中、戻ってきたくなる会社・働きたくなる会社に変わるためには、DE&Iは避けて通れないテーマです。
ただ、絶望する必要はありません。
この日語られたどの取り組みも、最初の一歩は小さい一歩でした。
社長のひと言、研修ひとつ、声かけひとつ。
その積み重ねが、確実に組織を変えています。
「できることからやればいい。小さな一歩でも、確実に組織は変わる。」
そう信じられる時間でした。

8. 最後に:この記事を読んでくださった企業の皆さまへ
DE&Iに“正解”はありません。
でも、動いた会社は必ず何かを得ています。
もし社内で迷っている人がいたら、どうか今日の登壇企業の事例を参考にしてください。
あなたの会社でも必ずできることが見つかるはずです。
そして、私たちワーク・ライフバランスも全力で伴走します。
担当コンサルタント 山﨑純平







