「僕たちの子育て」−男性の育休について考える−
1ヵ月の育休を取得した営業マン、
大切なのは「まず休むことを決めて、それを前提に動くこと」
セブン銀行で営業職に就き、第一線で活躍中の新関直紀さん。弊社のコンサルタント・田村優実の夫です。2016年に結婚したふたりに待望の赤ちゃんが誕生したとき、直紀さんは1ヵ月の育児休業を取得しました。休むことに迷いはなかったのでしょうか? 妻はそのときどんな想いを持ったのでしょうか? 笑顔の絶えないふたりに、インタビューを行いました。
はじめに 〜男性育休の現状とは? なぜ今、必要なの?〜
男性が育児休業を取得する。誰に遠慮する必要も、迷惑をかける心配もなく、生まれてきた赤ちゃんを迎え、妻と一緒に育児を学び、ともに楽しむ──そんな状況を当たり前のように思い描ける人が、今、日本にどのくらいいるでしょうか?
それが理想だと思っているのに実行に移せない人もいれば、男性が育児で休むなんてあり得ないと考える人もいるでしょう。しかし、社会は「男性の育休取得は当たり前」になる方向へと動いています。男性新入社員の約8割は「子どもが生まれたときには育休を取得したい」と考えていることがデータからも明らかですし、男性の育休取得を「義務化」する議論も始まっています。
※出典:日本生産性本部「2017年度 新入社員 秋の意識調査」
この流れに乗り遅れず先手を打てば、社員のモチベーション向上・離職防止・優秀な人材確保、そして職場でのイノベーションへもつながっていきます。逆に、もしも対応が遅れてしまったら人材確保は難しくなり、離職も止められなくなるでしょう。
弊社では、世の中の動きに先んじて「男性育休100%宣言賛同企業」の募集をスタートし、すでに多くの組織からご賛同いただいています。経営者が具体的な目標を持って行動を起こし、それを発信していくことは不可欠なのです。
そして、経営者側のアクションだけでなく、「育休を取りたいけど迷っている」「取得するためにどうしたらいいのか見当もつかない」と、人生における大切な一歩を踏み出せずにいる当事者への後押し、さらには、その決意を支えていく上司・同僚側の理解を深めることも必要です。本ページの内容が、その一助となることを祈っています。
第一子誕生に合わせて、
1ヵ月の育休を取得したパパ
新関直紀さんが社会人になったのは今から10年前の2009年。もともとは別の会社に就職してセブン銀行に勤務していましたが、2014年に転籍し、今に至ります。
妻の優実さんは直紀さんより2年遅れて2011年、同社に就職。彼女はその後、2015年に弊社に転職していますので、ふたりが結婚した2016年には、直紀さんは営業の最前線でバリバリ働き、優実さんは弊社のコンサルタントとして働き方改革に邁進していました。
そんなふたりに長男が誕生したのは2018年1月のこと。このとき、直紀さんは1ヵ月の育児休業を取得しました。
優実さんは産後の体調がすぐれなかったそうですが、「退院後から夫が家にいてくれて、それこそ授乳以外のすべての育児・家事を担ってくれました。貧血が続いてかなりきつかったので、夫がいなかったらどうなっていたか・・・。彼が育休を取ったおかげで安心して体を休められたし、初めてだらけの育児もふたりで楽しめたと思います」と振り返ります。
「休むこと」を出産5カ月前から周知し、
引き継ぎも徹底
1ヵ月もの間会社を休むことに対し、直紀さんに葛藤はなかったのでしょうか?
「心配がなかったわけではありません。でも、幸い上司も会社も理解がありますし、自分としても“制度で認められているから取得しよう”ではなく、“人として子育てに参加するのは当たり前”と思いました。ともかく育児休業を取得することを前提にした上で、どうしたらいいかを考えようと。具体的には、休業に入る5ヵ月ほど前から妻の妊娠と育児休業の取得を会社・上司・チームに宣言。仕事の量・配分をチームで調整し、自分がいない間の1ヵ月で仕事に穴が開かないように引き継ぎを徹底することを意識しました」
直紀さんはまずExcelで自分の案件を整理し、チームの中で誰に何を引き継げばいいかを整理していきました。整理した後は、その人を呼んで具体的な話もし、実際に引継ぎをしてもらえるか調整をしたそうです。
「難しそう」とあきらめず、
本人も周りも納得のいく前例をつくる!
じつは、セブン銀行で育児休業を取得した男性社員は直紀さんで5人目。3ヵ月、6ヵ月といった長期休業を取得した社員もいるといいます。
育児休業は「休む余裕があるなら取っていいよ」というものではありません。直紀さんは営業の最前線で活躍する人材ですが、ごく自然に育休を取っています。彼自身が語っているように「まず休むことを前提にする」「どうするかは周りと協力しながら、決めていく」ことが重要です。
「とりあえず取ってみよう」と思える社員を1人でも増やし、バックアップ体制を整えることが、会社にも求められます。最初のうちは、休む側も休ませる側も戸惑うことは多いでしょう。でも前例をつくってしまえば次からはハードルも下がります。セブン銀行の場合も「前例」が多かったことで、誰もが自然と長期育休を取れる空気が生まれているのではないでしょうか。
男性育休コンサルティング~長期育休を取る社内風土醸成をサポートします~
夫が子育てに関わることで、
少子化にも歯止めを!
“子育て世代”の上司に当たる世代の中には「産後に男が休んでも何の手助けになるのか?」と感じる方もいます。でも、これからの男性に必要なのは“妻のヘルプにまわる”というより“主体的に子育てをする”という意識を持つこと。妻を助けることはもちろん重要ですが、自身のためにも、わが子の貴重な赤ちゃん時代を一緒に過ごすのです。それを理解すれば、「何の手助けになる?」と疑問を抱くこともなくなるでしょう。
男性が育休を取ることで、じつは少子化にも歯止めがかかる可能性があります。というのも、1人目の出産時、夫が家事・育児に参加しなかった家庭では2人目が生まれてこない傾向にあることが、統計でも明らかになっています。
※出典:厚生労働省「第14回21世紀成年者縦断調査(平成14年成年者)」(2015年)
産後はただでさえ精神のバランスをくずしがちです。授乳やおむつ替え、急病の対応、いつもの家事などで四六時中気が休まらず、しかも初めての育児で心配や悩みはつきない・・・自分の体調が悪くなれば育児はますます大変さを増していきます。たったひとりで頑張った結果、産後うつを発症する女性も増えています。
直紀さんが育休を取ったことで、優実さんの精神的・物理的負担が減ったのは言うまでもありません。子育ては、育休が終わった後にも続いていきます。最初に信頼関係を築けた夫婦は、その後の生活も協力体勢を整えながら二人三脚で進んでいけるのではないでしょうか。
ワンオペ育児は大変。
でも2人なら大変さも喜びも分かち合える!
「世の中の、ワンオペで育児をしているお母さんたちの大変さが身にしみてわかりました。同時に、息子の日々の成長を間近で見られる喜びも実感しました」と振り返る直紀さん。
ひとりの育児は本当に大変。でもふたりで協力すれば、大変さは同じだとしても喜びを味わえる心の余裕が生まれてくるのです。
「長時間働くのがいい、休まない人がいいのではなく、時間あたりの生産性で評価してほしい。それが本来のあり方であってほしいな、ということもすごく感じました。男性も、育休は取るべきだと思います。後輩たちにも“とりあえず取ってみなよ”と話しています」
優実さんはどんな風に感じていたのでしょうか。
「夫の子育てへの本気度は妊娠中から感じていました。私の通っていた産院は平日しか妊婦検診をしてもらえなかったのですが、夫は皆勤賞。毎回仕事を調整して一緒に来てくれました。とても心強かったですね。子どもができる前から家事はふたりで分担していましたし、夫は何でも私より上手です(笑)。
フルタイムで働いている夫婦が家事を分担するのは当然だと思いますが、わが家の場合は妊娠中のつわりや切迫早産で私が動くことのできない時期が長くあり、夫の家事レベルを格段に向上させたように思います。男性の育児休業取得はもちろん大事です。でも同時に、家事レベルをいかに上げるか、そして父親になる自覚をいかに持つかなど、父親になるための準備期間である妊娠中をどう過ごすのかを考えることも重要だと感じます。
夫婦で育児休業を取得するにあたり、収入面についてはExcelを使ってシミュレーションしました。育児休業を取得して半年までは給与の7割近くは支給されますし、社会保険料や所得税が免除されるので結果的に手取りは従来と同じくらいになります。ネックがあるとすればボーナスの算定が少し変わるくらい? 夫が話したように“とりあえず取ってみる”ことが大切だと思います」
※「育休中の手当て」について、詳しくは以下の記事もご参照ください。
●男性の育児休業に関する正しい労務知識(前編)–どのような制度かを正しく知ろう–
●男性の育児休業に関する正しい労務知識(後編)–家計への影響を試算しよう–
自分自身が経験してみて、夫婦ふたりで子育てをする重要性が身にしみてわかったという優実さん。「パパたちには積極的に育休を取得していただきたいですし、会社はそれを全力でバックアップしていただきたい。私たちもその仕組みをつくり上げるサポートを全力でしていきます」とコンサルタントとしての決意も新たにしました。
育休が終わった後も、
「自己ルール」を決めて残業は1時間まで!
直紀さんは基本的には毎日定時で帰宅することを心がけています。どんなに仕事が忙しくても「残業は1時間まで」と自己ルールをつくっているそうで、おかげで遅くとも19時には帰宅し、毎晩息子さんをお風呂に入れて寝かしつけることができているそう。
「うちの母も仕事をしていましたし、実家にいるときから家事はけっこう手伝っていました。僕ら夫婦がふたりでやっていることを息子が目にして、“家事も育児も、女性だけがやるものじゃない”と思ってくれたらいいなと思います。僕が掃除機をかけているとこの子もコロコロをかけたりして、よく真似っこしてますよ(笑)」
ところで弊社では男性でも女性でも原則満1歳まで、事情があれば満3歳までの育休が取れるようになっていますが、早めに復帰する社員が多いのが特徴です。全社員が残業ゼロ、フレックスタイム制、在宅勤務・モバイル勤務、有給は1時間単位で取得可能、何にでも使える“何でも休暇”が用意されているなど、フレキシブルに働く環境が整っているため、早めに復帰したいと考える社員が多いのです。
そんな弊社でも優実さんは産後3ヵ月という異例のスピードで復帰を果たしました。
「もっと休んでもよかったのですが、保育園が4月入園というのもありましたし、“夫の協力と会社の理解・制度がしっかりしていれば、逆に何の心配もなくスピード復帰ができるんだ”という事例を自分自身が生み出したいという気持ちもあって(笑)。息子は生後2ヵ月から保育園に行くことになり、早くから社交性が身について、誰にあずけても大丈夫な子に育っています」
夫との協力体勢が整っていて、職場復帰の心配も、保育園の心配もなかった優実さん、「おかげで、2人目もほしいなとすぐに思えた」といいます。この“2人目、3人目もほしいと思える状況”は、やはり少子化対策の肝でもあるのです。
男性の育児休業取得が当たり前になる社会はきっと目の前に近づいています。法の整備も進むでしょう。でも今、何より大切なのは、多くの前例を多くの組織でつくり上げていくことです。あなたの人生にとって「より幸福な選択」ができますように。
撮影/SHIge KIDOUE
文/山根かおり