Case Study

株式会社JERA様

経営層連続対談企画 第6弾「もっとインクルージョンの話をしよう 」

【対談】株式会社JERA 常務執行役員 Global Chief Information and Digital Officer サミ・ベンジャマ様×株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長 小室淑恵

 

ダイバーシティはスタートポイント

小室:以前は私の講演をお聞きいただき、ありがとうございました。サミさんが講演後のアンケートで「ダイバーシティよりインクルージョンを議論する必要がある」と書いてくださっていたのを拝見しました。今日はぜひ、その真意について教えていただければと思います。

サミ:私自身、これまでD&Iについてさまざまなポジションで取り組んできましたし、自分でも講演を行ってきました。そこで感じたのは、D&Iはまだ導入段階にあり、本格的にやらなければいけないという認識には至っていないということです。

特に日本の企業では、問題を深掘りすることよりも、うまく数字を作ることを優先する傾向があります。JERAでもより良い数字を作ることに着目していて、どうしてインクルージョンのダイバーシティが必要なのか、みんなや会社にとって何がいいのかという説明が不足していたかなと思います。

ダイバーシティは簡単ですが、インクルージョンは非常に難しいです。ダイバーシティはスタートポイントであり、インクルージョンは何年もかけてやらないと実現しません。組織の中には肌の色や出身地域も異なるさまざまな人がいます。にもかかわらず、多くの人がKPIや数字を作るだけで終わってしまい、インクルージョンに手をつけていません。だからこそ、私はインクルージョンが重要であると考えます。

 

インクルージョンが職場にもたらす効果

小室:なぜインクルージョンが必要なのかという説明が不足していたとのことですが、そもそもインクルージョンは何をもたらすのでしょうか。

サミ:文化の異なる相手と一緒に仕事をする場合、相手がどのような考えを持っているかを理解する必要があります。相手の立場に立って物事を考えることができれば、誤解を生むことなくコミュニケーションが取りやすくなりますし、仕事はうまくいくと思います。

こういったことは、いろんな人を見て、いろんな人を受け入れて、一緒に働いていくことを通してのみできると思います。現場の肌感というか、実際的な感覚を持つことが重要です。

例えば女性活躍についても、女性は仕事に対して自信がないからもう少しチャンスをあげようということではないんです。女性を職場に置くことは、男性の職場における振る舞いを変えることになり、多くのケースでは非常にポジティブな影響をもたらします。それは科学的にも証明されています。

男性は元々攻撃的です。仕事でストレスがたくさんかかると非常に攻撃的になりますが、多くの女性がいることで、その攻撃性がかなり弱くなるといわれています。さまざまな研究を通してわかったことは、多くの女性が男性と一緒に働くことで、より物事が円滑になります。

男性は他の男性に対して非常にタフです。特に日本においては、先輩後輩の関係が強固ですよね。先輩が早く家に帰らないとき、後輩も家に帰らないで、どっちが先に帰るかを様子見します。結果的に、何時間も何もせずに時間が無駄になるわけです。そこに女性が入り、「保育園のお迎えがあるから帰ります」などということによって、状況が変わってきます。

人は声を上げることで文化を変えることができます。そして女性が声を上げないというのは間違った考えです。女性は言葉では声を上げないけれども、アクションで声を上げます。男性にとっては、女性にソフトなアクションを取ってもらったほうが、ハードな言葉をたたきつけられるより理解しやすいです。しかも、アクションは言葉よりもかなり効果的です。男性は言葉を聞くのがあまり好きではないからです。女性がアクションを起こすことで、早い変化がもたらされると思います。

 

インクルージョンはトップから始めるべき

小室:日本の企業を本当によく見てらっしゃるなと感じました。今、日本の多くの職場で起きていることをダイレクトに指摘いただいたと思います。

ダイバーシティよりもインクルージョンのほうが非常に難しいとのことですが、どういうところが難しいのか、どうする必要があるのかについて教えてください。

サミ:インクルージョンが難しいのは、いくつか理由があります。最も大きなところでいうと、誰が最初に始めるのか、誰が誰をインクルードするのかというところです。

水があるところに氷を入れると、氷が溶けて水の温度が冷たくなります。自ずと中間点で均衡するわけですよね。一方、インクルージョンはそのようには起こらないんです。誰かが始めなければなりません。他の人を受け入れるために、自分から中間点まで歩かなければいけないわけです。

始めるべきは経営のトップです。例えば、私のチームには11ヶ国130人の人がいます。アフリカ出身の人もいれば、アジア出身の人もいますし、ヨーロッパ出身の人やアメリカ出身の人もいるわけです。そこで、経営トップと外国の方が緊密につながっていなければいけません。緊密につながることで、中間管理職がついてきます。

私は、どんなに若い人とでも対面で直接会うんです。毎週会う人もれば、2週間ごとに会う人もいます。会っていろんなことを話します。この人たちの言葉に耳を傾け、人間として接するわけです。中間管理職は、そんな私の姿を見て彼ら・彼女らの考え方や仕事のやり方の違いなどを受け入れるようになるんです。

そしてもう1つ重要なことがあります。ダイバーシティでは女性や肌の色、文化の違いについて話しますが、世代についてはあまり話題に上がらないと思うんですね。しかし、若い世代は年配の世代とは違うわけであり、これもダイバーシティの1つです。日本では年功を非常に重んじる一方で、若い世代の話にはあまり耳を貸しません。これは大きな問題です。

例えば若い世代のインターン学生を雇い、年配の従業員がいるところに入れると、年配の従業員は、インターンを後輩ではなくて息子・娘として見るようになります。子どものように見て、きちんと耳を傾けるんです。

私が日本の企業でヨーロッパ出身の若者をインターンとして雇ったところ、年配の方が英語を勉強し始めたことがあります。フランス人を連れてきたら、フランス語を勉強し始めた人もいました。インクルージョンはこのように起こっていくのだと思います。

 

誤解を修正していくことも大事

小室:インクルージョンを実現するには、トップが一足飛びにコミュニケーションを取りにいくことがものすごく重要であり、サミさんご自身が若い人のところに直接話に行くことを実践されていると伺い、大変驚きました。ちなみに、若者のところに行ったときには、どんな話をされているのでしょうか。国も違うし世代も違うので、共通の話題を見つけるのが難しいかと思いますが、そのあたりはいかがでしょうか。

サミ:難しいというのはおっしゃる通りですが、私とは話しやすいかもしれません。というのも、いろんな文化を知っていますし、いろんな人と話をしているからです。

異なる文化の人と話すとき、相手を傷つけることを恐れるあまり、コミュニケーションが最小限になってしまうことがあります。そこで私が話をするときには、彼ら・彼女らの話をよく聞くようにしています。そのなかで解釈を間違えることもあるので、修正していく必要があります。

外国の人が特定の日本語を聞くと、不安に感じることがあります。一例を挙げると「頑張ってください」という言葉です。「頑張ってください」と言われると、「私はすごく頑張って仕事をしているのに、認めてもらえてないんじゃないか」と感じてしまいます。日本人は励ましのメッセージとして悪気なく「頑張ってください」を使いますが、「あなたの仕事は不十分です。もっと頑張りなさい」というふうに聞こえてしまうわけです。

このように、その国その国で特有の言い方があります。ですので、言葉を聞いて判断を下す前に、「何か誤解があるかもしれない」と疑い、理解できるまで辛抱強く待つことが重要だと思います。

 

必要なのはオープンコミュニケーション

小室:聞くことのほうが重要であるというのは、インクルージョンにおいて最大のポイントだと思います。上層部の人がインクルージョンを実践しようとするときに、つい自分の話をたくさんしてしまうことはありそうですので、いろいろな場でこのポイントをしっかりお伝えしたいと思いました。

サミさんは今までのキャリアの中で、豊富な経験をされてきたと思います。そういった経験を踏まえて、JERAで課題に思われていることを教えていただければと思います。

サミ:JERAが取り組むべきことは、職場におけるソーシャルな振る舞いです。ソーシャルな振る舞いが何を意味するかというと、オープンコミュニケーションです。ディスカッションを行ったり、一緒にクラブに行ったり、一緒に出かけたり、誰でも気軽に話しかけられる環境作りです。

組織の中では、いろいろな形式のコミュニケーションがあります。例えば上司に話をすると、その上司がその上の上司に話す……というルートがあります。これは、オープンコミュニケーションではありません。

私と話をするときには、必ずアポイントメントを取らなければいけないと思っている人もいます。同じチームであっても、非常に気をつかいながら私に話しかけてくるんです。非常に組織的な考え方が浸透していて、ソーシャルにお互いを理解する機会は少ないと思います。

オープンコミュニケーションを進めるために、私は個人的にいろいろ活動しています。例えば「サミ・パーティ」と呼ばれるピザパーティーがあります。コロナ前から始めた取り組みであり、そこでは仕事の成功を祝います。ITでベストチーム、ベストデベロッパー、ベスト○○というアワードをいろいろと作り、受賞者にはペンやカップなど、ITのロゴを入れたギフトを贈ります。皆さん非常に喜んでいますし、感謝されます。

頑張ったことに対して認知してもらえる。そして人と人の間のコミュニケーションができるという意味で、こういった集まりやイベントは重要です。私は飲み会を外でやるのではなく、オフィス内でやったほうがよいと考えています。というのも、外でお酒飲むと、よくないことを口にしたりして、トラブルが起こるおそれがあるからです。職場の中でピザを食べて、コーラやコーヒー飲みながらアワードを上げれば、オープンコミュニケーションが実現できます。

日本の飲み会文化を否定するわけではないですが、日本の飲み会にはヒエラルキー・家父長的な性格があって、若い女性にとって好ましい場ではないと思うんです。

 

自分を変えずに受け入れてもらうということ

小室:日本の管理職層にも新しいマネージメント手法を学んで実践できるようになっていただきたいですが、サミさん自身は今お話いただいたような手法を、どこで習得されたのでしょうか。

サミ:以前の仕事で、33歳の若さでマネージャーになったんです。非常に大きなチームであり、チーム内には年上の方も年配の方もいたので、外国人である私を上司として受け入れることが難しい状況でした。その企業は60年以上の歴史を持ち、ドイツのボッシュに買収された日本企業です。私は能力がないのにトップダウンで来たと思われていたんですね。

そこで、まずは私をどのように受け入れてもらえるかを考えました。私には自分の宗教があり、自分の原則を持っています。そしてアルコールを飲みません。だけれども、一緒にやらなければいけないし、一緒に祝うこともしなければいけないわけです。

みんなで一緒に神社に行ってパンパンと柏手を打つのは簡単かもしれません。でも、私にはそれができないわけです。私の思い、宗教、考え方を変えずに、私という人間をきちんと理解してもらって、他の人と同じように良い人であることも理解してもらわなければいけません。認めてもらうのは非常に難しかったのですが、その難しい経験を通じて、いろいろ学びました。

もちろん、日本にもいいところがたくさんあって、私が受け入れたこともたくさんあります。例えば、時間通りに動く、正確に物事をやる、謙虚に振る舞うといったことは、重要な考え方として私の中に根付いています。

その結果、私には25年来の日本人の友達がいて、嬉しいことに彼は「あなたはブラザーだ」と言ってくれています。彼はアルコールを飲み、私は飲まないですけど、いろんな話をしてお互いを受け入れ合っています。

 

女性は男性と同じ働き方を目指すべきではない

小室:上司という立場でありながらも、マイノリティの立場からスタートしたことは相当ハードだったと思います。日本では、まず一緒に飲むところから関係を作っていくケースが多い中で、迎合せずにブラザーと呼んでくれる友人を得たのは本当にすごいことですね。

サミ:インクルージョンをめぐっては、ほかにもいろいろな経験があります。例えば、私がJERAで初めて採用した女性は、中国人の女性だったんです。日本人のチームは中国人、そして女性を受け入れることが難しい状況でした。

彼女は日本語を話さない方でした。そこで私が彼女を紹介して、インクルードしてもらえるように促しました。すると、チームの皆さんが中国について学び始めたんです。人によっては、中国についての本を読み、中国の女性がどのように話すのかといったことを学んでいました。

中国の女性は不安に感じたとき、日本では失礼に聞こえるようなストレートな発言をすることがあります。でも、失礼になろうと思って失礼なことを言っているわけではないんです。そういったことを学んで理解したので、今ではお互いを受け入れ合っています。

小室:違いを持ったまま一緒にやっていくというのは、私たち女性にとって非常に役に立つ手法だと思いました。今まで女性は自分を殺して相手に迎合し、なんとか受け入れてもらう方法を模索してきました。それを若い世代の女性が見て、「そんなの嫌だな」「そうでもしないと管理職になれないなら、そもそもなりたくないや」と感じることも多かったと思います。つまり、過去の女性の頑張りが、逆に若い女性たちが管理職を敬遠する原因になってきたわけです。

自分を変えないまま、お互いを深く理解していくことによってインクルードしてもらうのは非常に難しいですが、その道を学んで追求していくべきだと思います。女性がマネージャーになっていく道筋として非常に勉強になる話だと感じました。

サミ:そうですね。女性がシニアマネージャーになるため、役員になるために男性と全く同じようにやらなければいけないという考えは間違いです。

日本の女性が男性のように働こうとしても無理がありますし、男性のように振る舞わなくてもシニアマネージャーになれると思います。日本の男性は、女性が男性化するのを見たいわけではなく、女性が新しいアイデアを与え、新しい働き方をすることでダイバーシティが生まれることを求めています。

ですので、マネージャーや役員になるために乱暴な言葉を使ったり、たくさんお酒を飲んだりするのは違うと思います。自分自身を持って、自分自身を変えずに、野心を持って上のポジションに向かっていくことが大事です。

 

日本のキャリアパスが抱える問題点

小室:日本では女性管理職の数が十分ではない状況がありますが、その原因はどこにあるのか、日本の働き方や働く環境の問題とどのようにリンクしていると思われますか。

サミ:働き方に問題があるのはおっしゃる通りです。マネージャーになって長時間労働やミーティングをたくさんやると、ストレスがたくさん発生します。私が見る限り、日本では女性だけでなく多くの男性もマネージャーになりたくないと考えています。

なぜならこれ以上責任を負いたくないからです。過去にはマネージャーに昇進させたら泣いた男性がいました。管理職になることがストレスというのは女性だけではないです。

ただ、女性の中には、そもそもマネージャーになれないと思っている人がいます。仕事を頑張っても頑張らなくても、どうせマネージャーにはなれないと思っているところに問題があります。そこは正しく是正をする必要があり、公正公平なキャリアを歩めるような環境を整備すべきだと思います。

例えば、家でオンラインでコミュニケーションやスキルを学ぶ機会を与えるとか、海外まで飛行機で物理的に飛ばなくても仕事ができるようにするなど、いろいろなことを寛容に受け入れて行く必要があります。

現在はとにかく頑張って働けば上に上がれるというキャリアパスしかありませんが、女性と男性のキャリアパスは同じではありません。女性に限らず男性も介護があって海外に出張できないことがあるわけですが、そのせいで昇進できないことがあってはいけません。それぞれの状況や能力に合った形でキャリアを上に上がれるような公正公平な環境を作れば、女性も上に上がっていけますし、その女性が他の女性を昇進させていくこともできると思うんです。

 

ローテーションがキャリアマネジメントを阻害している

小室:現在のJERAでは、介護を抱えていたり出張しづらい環境にあったりする方が公平に評価される状況になっているのでしょうか。いないのであれば、どこを変えるべきでしょうか。

サミ:残念ながらキャリアマネジメントはあまりうまくできていないと思います。その理由はいろいろあります。1つは、JERAだけではなく日本の企業にはローテーションが多いですよね。ローテーションがあるとキャリアマネジメントができなくなります。

例えばマネージャーが、チーム内の女性に4年のキャリアを重ねてもらおうと計画していたのに、2年後に財務部門に異動してしまうようなことが起きます。そうすると、彼女はまたゼロから始めなければいけなくなります。ローテーションが全く悪いと言っているわけではないですが、人によっては5回ローテーションを経ないとリーダーになれないといったこともあります。

もう1つの理由はマネージメントの変更です。それぞれの部署に戦略がないままマネージメントが変わることはよくありません。誰かがいなくなると戦略が変わってしまうからです。そこで重要なのは、誰にとってもキャリアパスに透明性を持たせることです。「これとこれとこれをやればここのポジションにいける」という透明性です。

ほかにも改善点はあると思います。例えばフラットな組織は非常に重要です。残念ながら私たちはフラットな組織ではありません。フラットな組織がなんたるかを理解してない人もいます。フラットな組織があればコミュニケーションは非常に簡単になり、意思決定も早くなり、働き方も変えることができると思います。

小室:ローテーションの多さに関しては、日本は本当に異常な国だと思います。せっかく習得したものをゼロベースに戻すような非常に無駄をしているけれども、その異動がキャリアパスの条件であり、全然違う仕事をいくつか経験しないと偉くなれないようになっています。

本来は、サミさんがおっしゃったように、仕事の中でこれとこれとこれをやったらポジションが上がるというふうに定められるべきですが、「多様な経験をしてるからマネジメントにふさわしい」という謎の理屈が幅を利かせています。その結果、転居も伴うような人事異動を受け入れなくてはならなかったり、専門性は深めることができなかったりというような、個人にとっても会社にとっても双方にマイナスなスタイルを踏襲しています。ぜひサミさんから、ここを変える必要性について強く発信していただきたいと思います。

 

サミさん流、ストレスを生まないリフレッシュ術

小室:では、ここで具体的なお話も伺いたいと思います。サミさんご自身が時間内に仕事を終えるために工夫してらっしゃる点があれば、ぜひ教えていただければと思います。また、仕事を効率的に終えて、どんなライフに時間を使われているかについてもお聞かせください。

サミ:仕事中にも、ストレスから逃れるために休もうとしています。例えばYouTubeとかLinkedInラーニングを見ています。歴史や量子力学、量子物理学、数学、パズルなど、仕事とは関係ないビデオを見るのがポイントです。3分とか5分、10分ぐらいのビデオを1つ2つ見ると、ちょっと頭がリフレッシュできますし、ストレスを緩和できます。

私はジョブ=ライフです。ジョブ=ライフであるとき、重要なのは、ストレスを緩和することです。ストレスを溜めることでチームに悪影響を与えないように注意が必要です。だからこそ、ビデオを見たりして仕事中に休みを取るんです。

小室:仕事の時間中にもリフレッシュが重要な戦略であるというのは、なかなか今まで語られなかったところであり、大変面白く感じました。サミさんは3分とか10分で終えて仕事に戻るという自己管理能力があるんですね。

そして、自分のストレスをマネージメントすることがチームに悪影響を与えないために重要であるというのは、まさにその通りだと思います。上司のストレスが部下の離職率を増やし、その結果上司の仕事が増えて人が減り、また仕事が増えて……という悪循環から抜け出していくことが大事です。

最後に、今の日本は人材不足ですけれども、いい優秀な人材を引きつけるためにもD&Iがいかに重要なのかについても、改めてお話いただければと思います。

 

教育のスピードをもっと早く!

サミ:確かに日本では人材不足がありますが、別の問題もあります。若い人への教育が正しく行われていないと思うんです。

かつての日本では、企業に入ってそこで40年近く働いていたわけです。その時代には、先輩が5年、10年かけて後輩に少しずついろんなことを教えるという教育方法が機能していました。しかし、今はテクノロジーのスピードによっていろいろなことが早く展開しています。もはや今までの教育方法ではうまくいきません。教育のスピードをもっと早くして、何かをするために必要な知識やスキルをきちんと教育すべきです。

日本企業に入社すると、とにかく小さなステップをゆっくり踏んで学ばせていきます。今は少なくなったかもしれませんが、例えば半年の研修期間でファイルのしまい方を学んだり、「ありがとうございます」の言い方を学んだり、女性は美味しい緑茶をどのように用意するかを学びます。結果として、ビジネスをきちんと理解しないまま仕事をするので、2〜3年して会社を辞めてしまう人がいます。これは非常に残念なことです。

小室:人材が不足している中で、若手に対する研修が50年ぐらい前のスタイルのままになっているというのは、ご指摘の通りだと思います。それが、せっかく獲得した良い人材をやめさせる状況につながっているというのは、本当に同感です。

今日はD&Iのプロにインタビューするという、私にとっては学びの大きな時間となりました。本当にエキサイティングな時間をありがとうございます。今後さらにサミさんのお力が重要だと思っております。ITの部門ですでに実践されていると思いますが、他の部門でも実践されるように刺激を与えていっていただければと思っています。今日は本当にありがとうございました。

サミ:こちらこそ、ありがとうございました。

 

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