Case Study

三重県内の薬局A様

三重県の「ワーク・ライフバランス推進サポート事業」に名乗りを上げ、
社長・人事・現場が激変!売上や就職志望者も増加した中小企業の好事例。

三重県を拠点に薬局を運営するA社。地域にとってのかかりつけ薬局を目指してきめ細やかなサービスを展開しています。ワーク・ライフバランスに取り組んだ結果、注目すべき変貌を遂げた同社の事例をご紹介します。

従業員58名の中小企業が県の「ワーク・ライフバランス推進サポート事業」に名乗り出た理由

A社がある三重県は、鈴木英敬知事の就任以来、県を挙げて働き方改革に挑み続け、多大な実績を築いています。その活動のひとつとして「ワーク・ライフバランス推進サポート事業」に参画する企業を公募したところ、いち早く名乗りを上げたのが同社。こうして、私たち株式会社ワーク・ライフバランスがコンサルティングを担当する8社のうちの1社に選ばれたのです。

従業員数100名にも満たない小さな会社が、なぜ県の推進する事業に参画することを決めたのか。それは、同社人事部の担当者がちょうどその頃「2名の女性社員がほぼ同時に産休・育休を取得する」ことを把握し、「何とかしなければ!」と考えていた矢先に三重県の事業を知ったのだそうです。

「有給消化100%」を目指して始動した結果、売上やマネジメントにも目が向くように

トライアル店舗として選ばれたのは従業員4名の小さな店。会議室もホワイトボードもありません。”カエル会議”は分包機を机代わりにしてA3用紙を置き、立ったまま実施しました。

全員で目指したいゴールイメージは何かを話し合ったところ、有給休暇の取得が進んでいなかったことから、「全員の有休消化100%」を掲げました。しかし、薬剤師である管理職の女性は、内心では「スタッフに休みは必要だし、自分も休みたい。でも自分が休んだら仕事が回らないのでは?」と考えていたそうです。

それでも「全員が休むため」に、これまで管理職が1人で行っていた店舗マネジメントや販売ノウハウなどすべてを網羅するマニュアルを作成。このとき、管理職やベテラン社員ではなく、あえて社歴の浅い新入社員が中心となってマニュアルを作っていきました。ちょうど調剤実習に来ていた学生にも参加してもらい、「新人は何がわからないのか」「どこでつまずくのか」といった細かな部分まで確認しながら、丁寧な整備を行いました。

マニュアルと並行して作成したのが、スキルマップ。誰がどんな業務を担当できるのかを一覧にし、スキルの平準化に取り組んだのです。これにより業務の属人化が排除され、自然と誰もが業務の全体像を把握できるようになっていきました。

するとそれまで管理職以外は意識が向かなかった日々の売上や店舗マネジメントにまでメンバーの目が向き始め、店舗の雰囲気が少しずつ変わっていきます。そしてある夏の暑い日。スタッフの一人が店舗前の工事現場の方々に「脱水症状にならないためには経口補水液がいいですよ」と、商品を勧めにいくという行動に出たのです。それまでどちらかといえば受け身タイプだった社員が、仕事に対して自ら行動を起こすほどに変化しました。

「有給休暇は自由な理由で好きなときに取っていいんだ!」と全員が改めて納得

また、有給休暇の取得を促進するため「休みが取れたらしたいこと」を共有し合ったところ、「映画鑑賞」「読書」「のんびり過ごす」などさまざまな意見が出てきました。それを知った若いスタッフの中には、「有給休暇ってそんな理由で取得してもいいんですね」と驚く人もいたといいます。有休は病気や旅行や人生の大きなイベントでないと取ってはいけないと思い込んでいたそうです。

この「有休取得100%」を目指す取り組みの中で、私たちにとって非常に印象深かったエピソードがあります。それは、当初「私は結婚もしたいし子どもも産みたいけど、仕事を続けようと思うとどうしても躊躇してしまう」と話していた管理職の方が、無理やりにでも早く帰り、有休休暇を取得する生活を送るようになった結果、なんと結婚されたことです。ハネムーンではたっぷりためていた有休を思いきって2週間連続で取得!

すでにマニュアルがしっかり整備され、ノウハウ共有が進んでいたため、実際何も滞ることはありませんでした。

有休取得の促進で売上は大幅にアップ! 結婚・出産も増え、出産時の退職者はゼロに

有休取得が促進されるようになると、気力ややる気が充実します。勉強時間もしっかり確保できるため、一般用医薬品販売の資格である「登録販売者」を取得するメンバーも増えました。

そして、トライアル店舗では有休の取得が前年比352%になり、店舗の一般用医薬品売上は前年比230%を達成。休みが増えて売上が伸びるのですから、「こんなことが実現できるんだね!」と、取り組んだ本人たちが驚くほどでした。

一方、同社社長は「プライベートも大事にしてほしい」というメッセージを社員にしっかり発信しました。一連の取り組み後、同社の結婚数は2倍、出産数は2.5倍に。出産のための退職者はゼロです。

働き方改革の内容や成果を会社説明会でPRすることで、優秀な人材の確保に成功

積極的な働き方改革への取り組みは、新卒採用にも大きく影響を与えました。

それまでは「大手就職サイトに広告を掲載しても、エントリーさえほとんどない」という状態。三重県内に大学は少なく、大阪や名古屋まで1時間程度で通勤できてしまうので、大都市圏の人材奪い合いでは圧倒的に不利な状況でした。

それが2017年入社の新卒採用では、これまでの働き方改革の取り組み内容や成果を会社説明会でPRしたところ、エントリー数は前年度の33名から、約5倍の168名に。内定者11名の中には大阪の企業の内定を断って入社してくれた学生もいました。内定者の1人は、トライアル店舗でマニュアル整備のお手伝いをし、実際に職場の雰囲気の良さを体感したうえで入社を決意したそうです。

経営者が社員の発言を認めることで全員の意識改革が進み、経営が成功する

同社が組織としてこれだけの変革を遂げたとき、同様に大きな変貌を遂げられたのが当時の社長です。コンサルティングがスタートした当初、弊社コンサルタントは「社員から出たアイデアや意見に対して、否定的な発言をするのは控えてください」と伝えました。このことは、どの会社のどのリーダーに対しても私たちが必ずお伝えしていることです。

これまで自ら考えたり意見を言ったりする機会がほとんどなかったメンバーが、「何か言ったらバカにされるんじゃないか」「認めてもらえないんじゃないか」といった考えや雰囲気から脱するために、リーダーが「否定しないこと」はとても大切だからです。

コンサルタントの「否定しないでください」という発言により、社長は自身の普段の会話に否定的な発言が多く含まれていたことに気づいたといいます。そして、当面の間とくに心がけたのは「前向きな反応をする」こと。従業員の変革を辛抱強く見守られ、新たな意見が出てきたときには「いいね」と認めることを強く意識されていたそうです。

後日、こんなことをおっしゃっていました。
「私が社員の発言を前向きに承認するように心がけてから、彼らの笑顔が増えたんですよ。社員からどんどん自主的に意見が出てきて、売上や経営のことまで考えてくれるようになった。何でも自分がやらないと、と口を出していた頃より経営がとても楽になりました。中小企業とはいえ、社長が出しゃばりすぎてはダメなんですね」

地方の中小企業で働き方改革は難しい? 実際は、採用に苦戦する地域ほど効果が大きい!

人事部の担当者も、今では同社の取り組み事例について、三重県の鈴木知事と一緒に政府に呼ばれてプレゼンに行くほどになりました。他県から呼ばれて働き方改革に関する講演に立つ機会も増えているそうです。

講演を聞いた企業の経営者や人事担当者は、「このように力強い推進派の人がいるから、取り組みに成功したんですね」と、暗に「うちの会社にはそういう人材はいないから無理」という主旨の感想を持つこともあります。

実は同社担当者も取り組み途中でさまざまなトラブルに見舞われ、もうやめようかと思った時もあったそうです。しかし、ワーク・ライフバランスに関する講演を聞いて勉強したり、自分でもさまざまな取り組みを行ったりする中で、しっかりと”腹落ち”した結果、これほどの変貌を遂げられたのです。

働き方改革によって、社長も人事も現場も大きなすばらしい変革を遂げる。その事実は、私たちがコンサルティングの現場でよく目にする喜ばしいシーンのひとつなのです。また、「地方の中小企業は働き方改革なんて難しい」とよく言われますが、採用に苦戦する地域・企業ほど、働き方改革で輝くということを証明した好事例ともいえます。

今回、A社の働き方改革を支えたのは三重県の「ワーク・ライフバランス推進サポート事業」でした。自治体の未来人口を増やし、若い働き手を引きつける職場を作るためのこうした政策こそが、真の地方創生といえるでしょう。

A社の成功ポイント3
  • 会議室のない店舗でもカエル会議を続けた
  • 人事担当者が講演を聞きに行くなど勉強し、改革の障壁を乗り越えた
  • 採用活動で働き方改革をPRし、採用力が飛躍的に向上

※こちらの事例は、弊社代表 小室淑恵の著書『働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例20社』からまとめ直したものです。

担当コンサルタント

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