立山電化工業様
小さな見直し、小さな感謝を積み重ねて、ありたい姿を目指す。 属人化・残業・休暇取得…様々な課題を解決する「立山電化工業」の取り組み
富山県では、県下の企業における働き方改革を推進するためモデル企業を公募して取り組みを支援しています。弊社では、2022年度の「中小企業の働き方改革モデル取組事例創出事業」にて富山県から依頼を受け、2 社のコンサルティングを担当。8ヵ月間で計5回の定例会(カエル会議)進行をサポートしたほか、県全体の中間・最終報告会を実施いたしました。今回ご紹介するのは高岡市にある「機能めっき」の専業メーカー、立山電化工業株式会社の事例です。改革の推進リーダーとして活動をまとめた総務部・小川光太郎さんにお話を伺いました。
左:担当コンサルタント山﨑純平
右:小川光太郎さん
立山電化工業、総務部総務課の小川光太郎さん。富山県のモデル企業に応募し、方針を決定するなど、働き方改革の推進リーダーとして活動を支えてこられました。
働き方改革を通じて変えたかったこと。そのための工夫とは?
─株式会社ワーク・ライフバランスのコンサルティングを導入したきっかけを教えてください。
同じ総務部のメンバーと私とで、2021年度の働き方改革モデル企業の最終報告会を動画で見ていまして。「県の主導で、コンサルティングが無料で受けられるんだ」というのをそこで知って、うちの会社でもやってみたいと思ったんです。
モデル企業に選ばれるためには「働き方改革推進リーダー養成講座」を受ける必要があるということで、本当は自分が行くつもりでしたが、日程がどうしても合わなかったので、一緒に見ていたメンバーに行ってもらうことにしました。
とにかく、無料でできるんなら絶対やったほうがいい!と思いましたね。
─働き方改革を通じて、どういったことを変えていきたいと思っていましたか?
個々が独立した専門家のような感じで仕事を進めている部署なので、横の繋がりは人によってはあるのですが、全体的にはあまりなくて。本来はもっと助け合いや共有ができるのでは?と思っていました。
自分はわりとどことでも繋がるのですが、たとえばAさんとBさんは繋がっていない。そのせいで、どちらかがやれば済むことを両方がやってしまう、情報が伝わらずにミスが起きる、というようなことがあったりもして、見直す機会にしたいなと。
人によって偏っていた業務負担を平準化させると同時に、本来やらなければいけない仕事に時間を使ってもらえるようにしたい、忙しいからできないという状態を打破したい、という思いもありました。
─総務部から取り組みをスタートさせよう、と思われたのはなぜですか?
働き方改革は、すぐに売上向上に繋がるプロジェクトとしては捉えられにくいだけに、他の部署だと何をすべきかイメージできない人も多いだろうと思いました。総務部は転職者も多くてこういった取り組みを経験した人もいるだろうから、話が早そうだと。
そもそも会社で働き方改革を始めるならやはり総務部からかな、と思っていたのもあります。
─メンバーのみなさんはどういった反応でしたか?
最初は「小川さんがやりたいんならやってみたら」という感じで、「よしやるぞ!」と前向きな人はほぼいませんでした。最初に養成講座を受けたメンバーは、自分でも心理的安全性を高めたいと以前から思っていたようで、かなり協力的でしたね。
─みなさんのモチベーションを上げるためにどんな工夫を?
何か始めるにしても自分だけで決めるのではなく、「こういう風に思っているんですが、どう思いますか?」「みんなで話し合いたいことはありますか?」など、相談しながら進めることを心がけました。
そして、事前準備はしっかりと行いました。1 回あたりのカエル会議にかけられる時間は限られているので、その中でなるべくゴールに近いところまで進めたい、そのためには進め方のイメージを事前に描けていないと難しいですから。今までの会社でも「このグダグダな会議は何なんだろう?」と思うことがありましたので(笑)。
※中間報告会、最終報告会の事前準備、リハーサルもしっかりやりました。
─取り組みを進める中でどんな期待や不安がありましたか?
期待は、意見交換の場が持てることです。仕事の進め方、コミュニケーションの取り方、情報共有の仕方など、今まで抱えていた課題は、話し合う機会さえあれば改善できると思っていたので、それらを見直す良いきっかけになることを期待していました。
不安だったのは、意見がぶつかることです。合理性を追求する人、気持ちの部分を重視したい人。この活動に時間を取られて通常業務に影響するのはイヤだという人もいました。意見の衝突はあってもいいけど、悪い方向にいかなければいいなと心配でしたね。自分自身にしても、リーダーとして進めていく中で負担になりすぎないだろうかという懸念がありました。
実際、意見がぶつかり合う場面は少なからずありましたが、議論を重ねた上でなお一致しない場合は、ムリに一致させる必要はないのかなと考えました。和を乱さないように気を付けながらも言いたいことを言える関係性を作り、メンバー同士のコミュニケーションを高める必要性を実感するきっかけになったと思います。第3者であるコンサルタント、ワークライフバランスさんが入ってくれたおかげで、感情的になりすぎずに済んだというのもありますね。
「53項目で属人化解消」など、想定以上の成果を出せた理由
─具体的にはどのような成果がありましたか?
業務をいったん棚卸しして再度割り振る、ということが進みました。経理担当にしかできなかったものが他の人でもできるようになるなど、属人化が解消されています。逆に、経理の人には時間ができて情報システムを学ぶ余裕ができました。例えば別拠点でネットワーク障害があった際、修復状況を確認するのに経理の人が一緒に行ったりもしています。
休暇を取りやすくなったのも大きな成果です。近々2週間ほど休暇を取るメンバーがいるんですが、しっかり引き継ぎをして、みんなで分担できる状況になっています。
─属人化解消に関しては53個もの項目で達成。どんな工夫をされましたか?
今回の働き方改革を通して、「自分がやっても他の人がやっても時間やクオリティに差がないことは、誰でもできるようにすべき」とみんなが考えるきっかけを得たと思うんです。その結果、自分だけがやっていた業務をほかの人に振るということを各自が実践してくれて。知らないうちに「この人もこういうことができるんだ」という状態になっていて、すごいなと思いました。
情報システムのメンバーのひとりも、かなり自分の仕事を振れるようになりました。以前は、「この業務はその人にしかできない」ということが多くて、内容によっては土日に出勤せざるを得なかった。その代休を取っている平日にも携帯に連絡が来てしまって、「休みなのに休みじゃない」という状況でした。そういうのはやはり改善したいと感じていたはずです。属人化を解消して他の人にもわかる状態にしておけば、休暇もしっかりと満喫できるんじゃないでしょうか。
そのメンバーからは、感謝のメッセージカードで「働き方改革対応ありがとう」と書いてもらいました。嬉しかったですね。
─感謝のメッセージカードは富山県の最終報告会では他社からも評判の良い取り組みでした。どんな風に運用されましたか?
感謝の気持ちを伝えたいと思ったときに書いてもらっています。直接本人に渡してもいいし、みんなの見える場所にカードを置いてあるのでそこに貼ってもいい。基本は「ありがとう」で、「ごめんなさい」はナシ、という風にしています。仕事を教えてもらった、助けてもらった、声をかけてもらった、など「仕事に関わること・気配り」への感謝を伝えられるようにしています。
月に70〜80枚ぐらいは集まっていましたが、今は50〜60くらいに減っていますね。というのも、カードではなく相手に直接感謝を伝える習慣ができてきたんです。メッセージカードの枚数でいえば減っていますが、いい変化かなと思います。
─口頭で伝えられるようになって、雰囲気も変わったのでは?
そうですね、良くなっていると思います。感謝をされることで「これをやると喜ばれる」と実感できるので、言われなくても自然に動ける場面が増えた気がします。みんなが周りを見るようになって、助けが必要な人には声をかけて助け合うという雰囲気もできてきました。
─助け合いという意味では、スマイルマークの設定も功を奏したと思います。この取り組みについても詳しく教えてください。
スマイルマークと泣き顔マークを作って、それぞれのデスクに掲示するようにしました。スマイルは「自分の業務以外のことも手伝う余裕があります」、泣き顔は「優先的にやらなければならない業務があります」という状態を表現していて、今自分がどちらなのかを表示してください、というルールにしました。
手伝う余裕があるときでも、はたから見ると忙しそうに見えがちですよね。スマイルマークを表示することで、仕事を頼みやすくなるし、断る理由もなくなると思います。逆に泣き顔マークであれば「何か手伝えることないですか?大丈夫?」とみんなが聞くようになりました。電話や来客の対応は当番制なのですが、その人が泣き顔マークになっていれば代わりに電話を取ったり、というのも普通にやっています。
振り返ってみると、この電話当番や来客対応、そして朝の清掃なども、本来は週替わりで交代していたんです。でも実際には特定の人ばかりがやるような状況になっていました。今回、スマイル・泣き顔マークをきっかけに、「せっかくその人の状態が見える化できるしくみにしたんだから、当番制のルールもしっかり守りましょうよ」という声が出てきました。こういう変化も働き方改革のおかげだと思います。
─「なくそう、変えよう、こういうことがやりたい検討会」で、効果と難易度のマトリックスに分類して優先度の高いものから取り組まれました。その中で、年末調整業務を見直して36時間の残業削減に成功されましたが、このときの様子を教えてください。
この日までにこの状態になっていないといけないというのを逆算して、バックワードスケジューリングを組むところから始めました。さらに、業務スタートまでに知識として身に付けておくべき内容は各自で本を読んだり動画を見たりして勉強しておいてください、と事前に周知していました。業務の主担当は割り振りましたが、事前の勉強のおかげで誰でも担当できる知識が身についていたので、単純に対応できる人が増えました。いつまでに終えないといけないからスタートはいつなのか、というのも明確でしたね。
あとは、なぜか今まで「年末調整の業務は17時から始める」という暗黙のルールがあったんです。夕方5時から夜9時まで残業して、家に帰ったら10時過ぎ。趣味に費やす時間なんて取れませんし、そんなことで残業代ももらいたくないなと思っていました。
各自が勉強して、対応できる人を増やしていったこと。スケジュールを事前にしっかり立てたこと。そして、意味のないルールや思い込みから抜け出せたこと。これらが残業削減に繋がったのかなと思っています。
─役員面談も以前は時間外にされていたそうですが、それはどのように解消されたのでしょうか。
スケジュール管理ですね。今までは直前になってから面談を設定していたのでどうしても時間外になっていましたが、毎年いつ頃にやるのかが決まっているものなので、早い段階で年間スケジュールを立てて「時間を空けておいてください」とお願いするようにしました。
チームとして、会社として、目指したい理想・ありたい姿
─今後やっていきたいことはありますか?
会議のオンライン化がかなり進んで、2拠点をつないで Zoomで打ち合わせする場面が増えてきました。今後は、内容によっては会議や面談ではなくメールで済ませるなどの使い分けもしていきたいです。意見交換なら直接話したほうがよいですが、情報を共有するのが目的であればわざわざ互いの時間を割かなくとも、読んでおいてもらえればそれで済みますから。
─総務課として目指していきたい理想、ありたい姿は?
私が目指したい理想は、その人の強みを最大限に発揮できる時間や環境を整えることです。誰がやっても変わらないようなことはなるべくみんなでやって、っていう。
以前、あるサッカー選手がこんな話をしていました。自分はフォワードであまり守備には参加できないが、チームのみんなから「君に求めているのは点を取ることだから、守備はやらなくていい」と言われている、と。最も大切な役割は点を取ることで、守備は必ずしも全員でやる必要はない、というような内容でした。それにすごく共感したんですよね。
自分自身が大体において平均点ぐらいの感じなので、得意なことがある人にはそこに力を入れてもらって、自分がやってもほかの人がやっても変わらないところは自分がやろうというような思いがありますね。そのほうが、チームとしての組織力をあげていけるんじゃないかと。
また、同じ業務を続けていると、そのやり方が当たり前になってしまって、「無駄」や「非効率」に気づきにくくなりますよね。属人化解消に向けて自分の業務を他の人に教えることで、「もっと楽に、効率的にできるのでは?」と指摘される場面も出てくる。それで初めて気づけることも多々あると思うんです。
実際に、「こういうやり方のほうが良さそうですよね」という話をして、嫌がる人ってほとんどいません。「なるほど、そういうやり方もあるね」と受け入れてくれます。今まで相談したくてもできなかったというのもあるかもしれません。
そういう意味でも、業務を共有して属人化を解消することは本当に重要だと感じています。
─社内への展開はどのように想定されていますか?
社内講師が従業員に対して行う教育研修で、働き方改革や健康経営などがテーマに強く反映されるようになった気がします。今回働き方改革を通して学んだことも、社内に「教育」という形で還元していく必要があるかなと思います。
あとは、感謝のメッセージカードを全社的にやりたいですね。他部署の人に渡したりもしたいです。もし全社でやらないとしても、自分たちだけでも渡すようにしたいなと考えています。
─これから働き方改革に取り組みみなさんにメッセージをお願いします。
「改革」という言葉に引っ張られすぎずに、「ちょっと良くしようかな」「ちょっと見直そうかな」という小さな目標からスタートすることで、自然と意識が変わって、「次はこれもやってみよう」という風になっていきます。
最初からすごいゴールを目指さずに、小さなことから始めていって、継続していくことが大事なのではないでしょうか。
あとは、会議の場であれば何を言ってもいい、否定されないというルールをちゃんと作ること。その前提がなければなかなか改善案が出てこないので、言いやすい空気を作ることが重要だと思います。もしも、思わず否定してしまうような人がいるのであれば、その人はいったん外れてもらう、ぐらいのルールでやらないと難しいかなと。とくに、コンサルタントなどの第三者を交えずに社内のメンバーだけで進めるのだとしたら、そこは本当に気を付けないとうまくいかないでしょうね。
自分たちも本当に小さな見直し、小さな感謝の習慣から始めていったのですが、最終的な成果としては当初想定していたよりも大きなものが得られたと思っています。みなさんもまずは小さなことからスタートして、それを積み重ねていってください。