Case Study

セントワークス×東北新社様

時間外労働の多い映像メディア業界も「動けば絶対に変わる!」
持ち前のデザイン力や機動力を活かしたチームワーク改革
〜WLB養成講座卒業生 一之瀬幸生さん(セントワークス株式会社)清水亜希子さん(株式会社エフコネクト)の活動報告〜

WLBコンサルタント養成講座の卒業生で、現在「認定上級コンサルタント」として活動中のセントワークス株式会社一之瀬幸生さんと、株式会社エフコネクト清水亜希子さん。自社内の働き方改革を進めながら、外部へのコンサルティングも行っています。先日弊社が開催した、受講生による事例共有会では、株式会社東北新社での取り組み事例が高評価を獲得。今回のインタビューは東北新社担当者様にもご登場いただき、それぞれの立場から語っていただきました。


セントワークス株式会社の一之瀬幸生さんと、株式会社エフコネクトの清水亜希子さん。養成講座を通じて知り合った清水さんに一之瀬さんから声をかけ、ふたりで東北新社の働き方改革を手がけています。


株式会社東北新社 ワークスタイルデザイン室の三井真美さん(右)と亀井理帆さん。三井さんは、WLBコンサルタント養成講座の卒業生でもあります

東北新社の「働き方改革」、背景と概略

課題:長時間労働が当たり前で、休みが取れない映像制作業界。いい作品を作りたくて入社したのに志半ばで辞めてしまう人も多い中、人材確保は大きな鍵。「社員一人ひとりに人生も仕事も楽しんでほしい」「制作職の女性が結婚/出産しても、職種を変えることなく継続就業できる環境を整えたい」との想いから、働き方改革に着手。

2015年
全社的な改革プロジェクトの一環として、10月に「働き方改革委員会」発足。 当時、副社長であった二宮清隆委員長(現 代表取締役社長)がリーダーとなり改革に乗り出す。三井さんは、当時から専任メンバー。「取り組むからには外部の専門家にも入ってもらい、本格的に」という会社の意向により、年末からコンサルティング会社の選定を開始。

2016年
セントワークスにコンサルティングを依頼し、全社セミナーを開催。管理職、一般職など対象を変えながら全6回開催し、350人以上の参加を得る。全社員に向けたアンケートも実施して現場の声を丁寧にヒアリング。

1期目は、CM制作・音響字幕制作・プロモーションなど「一番改革が難しそう」な5チームで取り組みを開始。月2回の「カエル会議」を実施するなど、少しずつ意識を変えていく。

2018年 「働き方改革委員会」が「ワークスタイルデザイン室」として独立組織に。

2020年 現在、取り組みは4期目を終了したところ。


3期目を終え、一之瀬さんが制作したスライドの1枚。

フランクな社風でもなかなか破れなかった「働き方」の壁

──2015年の取り組み開始から現在までさまざまな試みをされましたが、初期を振り返るといかがですか?

三井さん(以下、敬称略):最初はカエル会議を呼びかけても「忙しいのに・・・」という反応でした。半ば強引に集まってもらって話を進めると、まずリーダーの意識が変わり、「ほかのメンバーも呼ぼう」「集まるからには結果を出そう」と全体も変わっていきました。コンサルタントのおふたりがいつも「心理的安全性」の重要性を話してくださって、若手も発言しやすい雰囲気ができたと思います。

一之瀬:どんな業界でも「変えたい」と思うことはいろいろありますが、「実際はなかなかね・・・」と、行動に移すのが難しいんです。東北新社さんは何でも口に出せるフランクな社風ですが、一方で「自分たちはこれでいい」「こうやってがんばってきたんだ」という割り切りもありました。全社セミナーやアンケートなどを通じて、ひとりずつ、ひとつずつ、丁寧に意識を変えるよう心がけました。働き方を実際に変えていけたことで、みなさんが「自分たちで変えていいんだ」「変えていけるんだ!」と実感し、そこからはいいサイクルが生まれたと思います。

清水:1期目のリーダーの方で「考え方はわかるけど、なぜ自分たちがやるべきなのか理解できない」と率直な疑問を口にした方がいらっしゃいました。ワーク・ライフバランスの本質をお話したところ、「海外ロケを通じて自分が感じていたことと、今回やろうとしていることは一致している」と気づき、意識が変わったそうです。ご自身で海外10カ国ほどを対象に制作会社の働き方を調査され、「自分たちも変えないといけない。変えられる」という認識を強く持たれたのが印象的でした。

業務を「見える化」することで、より効率よくクリエイティブに

──具体的にはどういった取り組みをされ、どんな変化が出てきましたか?

三井:まず徹底したのは「業務の見える化」です。当たり前だと思っていたことでも、「CMの仕事ってどんな流れでどんな行程がある?」「誰に何ができる?」などを明確にしていくと、削れる部分や効率化できる部分がかなりあって。それらを省くことで、本当に必要な業務にかける時間を増やせる点も実感できたと思います。

一之瀬:それぞれが「これって必要?」と思っていたのに吟味・確認する場がなかったり、効率よくクリエイティブに進めていく自分なりのコツや工夫があっても共有できていなかったり。そういうものを見直す機会を作ることが必要ですよね。

清水:時間外労働に対しても、「夜はメールをしない」などひとつひとつ向き合いました。チームごとにルールを設けるのですが、「とりあえずは22時以降を禁止して・・・」など最初は及び腰で(笑)。お客様への対応もあるし、「今思いついたことは今メールしたい」という気持ちもわかるので、送信予約機能をおすすめしたりして、少しずつ。

一之瀬:それまで「働く時間を意識する」という文化がなかったんですよね。仕事が好きだからなおさら。そこを変えて、「時間を意識しながら働く」ということが浸透してきたと思います。

公休すら取れていない中で導入した「スペシャルホリデー制度」

──1期目でとくに力を入れた内容のひとつが「休みの確保」だったそうですね。

三井:業界全体の傾向だと思いますが、有休・公休すら満足に取れない部署も多かったんです。ちょうど会社として「スペシャルホリデー制度」(平日の5日間と土日を合わせて1週間以上の長期休暇を取得した場合、報奨金が出る制度。1年に2回、連続取得も可能)を導入したところだったので、忙しい中でもあえて「休みを増やそう」と。

清水:制作の部署は休みたくても休めない状況ですから「不公平だ」という声もあがりましたね。でも、「とにかくスペシャルホリデーを取るために動いてみよう。スケジュールを共有し合って、取れるようにしてみよう」と、みなさん工夫されて。「取れるかな」ではなく「どうやって取ろうか」。そこからがスタートです。

三井:土日も出勤することが多かった女性社員が「とりあえず、思い切って休んでみよう」とスペシャルホリデー制度を使って休んでみたんです。彼女からある日メールがきまして。「最初は、休んでも何をしよう?と戸惑ったけど、休んでみて本当によかった!休み明けの仕事に、いい気持ちで取り組めます。次の休みに向けて、また仕事に励みます!」という内容で、すごく感動しました。

一之瀬:売り上げは下げず、むしろ上げながら、残業を減らして休みも増やせた、というのは本当にすばらしかったですね。

三井:1期の最終報告会では活動の内容や結果を全社員に共有しましたが、その際、自主的に「制作虎の巻」を作ってくれたチームもあり、「みんなで会社を変えていこう」という機運が少しずつでてきたと感じました。

社内だけでなく、取引先にも「働き方改革」を宣言

──2期目以降はどういった点に重点を置き、どんな変化が感じられましたか?

三井:「自分たちの働き方を変えるには取引先のご理解も必須だ」と痛感していましたので、1期目と同様の活動を別のチームで実践することと並行して、お客様に対しても少しずつアクションを起こしました。たとえば、納期・修正回数などを細かく見積もりに記載して金額と作業を結びつけるなど、できるところから無理なく始め、それを広げていく・・・という感じです。幸いお客様もスムーズに受け入れてくださいました。

一之瀬:できるかできないか、という話になると却下されてしまうことが多いので、「できなくてもいいじゃないか。とりあえずアプローチしてみよう」という姿勢が大切ですよね。

三井:メールの署名部分に「働き方改革に取り組んでいます」というメッセージや「土日は定休日」「営業時間は何時まで」などと自主的に明記する部署も出てきました。とてもいいアイデアだったので、ワークスタイルデザイン室でメール用のバナーを作り、全社に展開しました。

──このバナー、完成度が高いので社外にもほしい方がいらっしゃるんじゃないでしょうか!

三井:ありがとうございます(笑)。以前、当社のデザイン部に制作してもらった働き方改革のオリジナルキャラクター「かえルン」(カエル会議のカエルに由来)をバナーにも活用したんです。実際メールに添付するかどうかは社員一人ひとりの判断に任せましたが、少しずつでも弊社の姿勢が浸透していくのではないかと期待して作りました。

清水:「退社時間宣言カード」もすばらしかったですね。各部署の得意なところを活かしてサクッと実用的なツールに落とし込まれるのがさすがだなと思いましたし、会社として「こういう方向を向いているんだ」というのも効果的に伝わります。


「退社時間宣言カード」をデスクの前に掲げておくことで、自身がその時間を意識して行動するだけでなく、周囲も「あの人は今日16:30までか。では午前中に相談しよう」など全体で調整がはかれます。


「今は全社的に在宅勤務を進めているので、いずれこのカード自体の役目も終了すると思います。常に前進していきたいですね」と三井さん。

若手だからこそ「できること」「わかること」を活かしながら

──亀井さんは2017年の入社直後から働き方改革を担当されていますね。取り組みでいうと2期目のタイミングでしたが、若手の代表として働き方改革に関わる中でどんな印象を持たれましたか?

亀井:最初は「まだ働いたこともないのに働き方改革といわれても・・・。何をやればいい?一体、何を変えればいいの?」という戸惑いだけでした(笑)。4年目の今は、カエル会議を通して各部署の業務や考え方を知ることができてよかったなと思います。

会社や仕事を知り尽くしている先輩に比べて、何も知らない自分だからこそ、「その工程って、本当に必要ですか?」「その作業ならこういうツールが活用できるのでは?」という率直な感想や提案もできるのかなと思えるようになりました。

三井:会社に長くいると「これが当たり前」という思い込みから抜け出すのが難しくなりますよね。若い世代はデジタルに強いし、同期の正直な意見や想いも引き出しやすいと思います。

亀井:制作の部署はみなさん職人気質で、自分で努力して仕事のやり方を見出してきました。若手としては「先輩が持っているすばらしい知識ややり方を教えてもらいたい。
一から考えるより成長も早いし、もっと多くのことを学べるはず」と考えている人が多いです。また、業務が「点」でしかわからないまま動いていても全体の「線」がつながりません。最初からゴールや目的を共有してもらえると、効果的に動けると思います。

全社的に展開するための具体的な活動と気遣い

──先ほどご紹介いただいた「退社時間宣言カード」や「メール署名用のバナー」が社内の意識変革に役立ったというお話がありましたが、ほかにはどんな工夫をされましたか?

亀井:カエル会議への参加を促すために何度もリマインドのメールを送りました。「しつこいと思われていたらどうしよう」と不安はありましたし、みなさんが忙しいのは重々わかっていましたが、事務局としてできることをやらなくては、と。あるときチーム長2人と話す機会があって、「アラートが何度もくるとイヤだなぁと思いつつも、あれがいいんだよね、助かるよ」と。「そんな風に思ってもらってたんだ、よかった」とホッとしました。

清水:感謝の言葉ってなかなか伝えないですけど、とても大事。心理的安全性にもつながります。

三井:あとは、月に一度、働き方改革のニュースレターを発行し、全社員にメールしています。プロモーションプロデュース事業部内で「だらだら会議を抑制しよう」という主旨のオリジナルポスターを自主的に制作して会議室に掲示してくれたり、社内報で第1期カエル会議のリーダー対談を大きく取り上げてもらったり、全社で主体的に関わる雰囲気ができてきました。時代の変化も追い風になり、取り組み自体も3期目ぐらいからスムーズに進んでいると思います。

──3期目というと2018年ですね? ちょうど働き方改革関連法が成立して世の中的にも改革の波が押し寄せていました。御社はそれに先んじて取り組みを開始されていたので、スムーズに進まれたのではないでしょうか?

三井:そうですね。3期目のチームに協力してもらい、オリンピックを視野に入れて在宅勤務のテスト実施を早めにやっておいたんです。昨年末には全社員に会社用のスマホが支給されるとともにLINE WORKSも導入し、カエル会議もオンラインでできる状況になりました。コロナ禍でこうなるとは想像もできませんでしたが、結果的に今はほぼ全社員、在宅勤務が可能な状況です。


全社員に支給されている会社用スマートフォン。今、誰が、どのような状況で仕事をしているかが一目で分かるシステムも導入されていて、PCからでもスマホからでもチェックできます。

一之瀬:報告会に必ず二宮社長がご参加くださってコメントされたことも、「全社的な取り組みなんだ」と効果的に伝える結果になったと思います。二宮さんは常に「重要なのは意識改革、風土改革。社員の様子を見ながら意識ごと改革を進めなければ、制度をいくら整えても実態が伴わない」とおっしゃっていて、とても印象的でした。

より自由に柔軟に。東北新社の今後の働き方はどうなる?

──これからも東北新社らしい働き方改革が続きそうですね! 今後の想いや展望をお聞かせください。

三井:コロナ禍で在宅勤務を緊急導入することになりましたが、より自由に柔軟に、新しい働き方として正式に導入して定着させたいと思っています。働き方改革には正解がないので、今後も社員に寄り添い、トライ&エラーを繰り返しながら「自律・自走」を目指します。アイデアがあっても実行しなくては意味がないので、テレワークにしてもフリーアドレスにしてもできることを積極的に、そして自由な発想を大切にしながら実践し、「コミュニケーションの取りやすい職場」「よい仕事ができる楽しい職場」を作っていきたいと思います。

亀井:コロナ禍を経て大変なことは多々ありますが、弊社ではこれまでの活動が功を奏したこともあり、結果的にかなり自由な働き方ができていると感じています。アフターコロナにも「出社する、元の働き方」に戻すのではなく、仕事に合わせて働く場所や時間を自律的に選択することで今まで以上の成果を生み出す働き方を定着させていきたいです。


今後も在宅とオフィスワークをバランス良く取り入れるスタイルを基本の勤務形態にしたい、という東北新社。自律的なテレワークに必要な最低限のルールを設けながら、社員同士がつながりを感じ、より効率的に動けるよう工夫を重ねていきます。また、「出社したら意味のある時間が過ごせるように」とラウンジを充実させるなどコミュニケーションが活発になる環境も整備していくそうです。

清水:働き方改革に対して最初から前向きな人はほとんどいません。でも、実際にやってみるとみなさん口をそろえて「やってよかった」とおっしゃいます。東北新社さんでもそういった感想を持つ方が多く、私たちとしてもやり甲斐がありました。一見すると相反するように思えることでも、突き詰めれば表裏一体といいますか、「じつは同じ方向を目指していたんだ」と気づくことは少なくありません。場や人に合わせて柔軟な進め方を模索し、みなさんが腹落ちしながら実行できる道を今後も探していきたいです。

一之瀬:「うちの業界には難しい」「お客様第一だから」といった現場の声を受け止めた上で、「今よりもっと良い仕事をするために、突破口として何ができるか」をみなさんと考えていくのが大切だと思います。働き方なんて変えられないと思っていたものが、自分たちで工夫を重ねていくことで良いほうに変えていけるんだ!と実感できれば、さらに大きな変化を起こせます。東北新社さんはもともとの職場の雰囲気がよく、何でも話し合える土壌ができていますので、この先もさらに進んでいけると思います。それこそ業界全体を巻き込んで、大きく動かしていけるのではないかと期待しています。

※一之瀬さん、清水さん、三井さんが受講された養成講座はこちらです。
▼ワーク・ライフバランスコンサルタント養成講座
▼次回養成講座

撮影/SHIge KIDOUE
文/山根かおり

事例紹介一覧へ戻る

その他のサービス