富山県庁様
民間企業と県庁、それぞれの改革に双方向から取り組む! 県独自の「働き方改革ラボ」を立ち上げ、積極的に変化を起こす富山県
2023年2月15日(水)富山県働き方改革ラボモデル所属最終報告会
富山県に「とやま県民活躍・働き方改革推進会議」が設置されたのは2017年。以来、県全域に向けてさまざまな働きかけを行うと同時に、県庁内にも推進チームやワーキンググループを作るなど、官民両輪で積極的な取り組みを続けています。2020年度には弊社が開発した「カエル会議®」の手法を用いてモデル企業5社の改革をサポート、翌2021年には県庁内に「働き方改革ラボ」を設置。弊社もコンサルタントを派遣して、併走してきました。難題も多いといわれる自治体での働き方改革がどのように進んでいるのか、県独自の「働き方改革ラボ」とはどんなものなのか、担当者は何に悩みどう解決してきたのか──4名の職員にインタビューさせていただきました。
目次
富山県が実施する「働き方改革ラボ」とは?
新田八朗知事の強力なリーダーシップのもと、新しい社会課題への柔軟な対応や、職員一人ひとりにとって働きがいのある職場環境作りを進めるべく、2021年、県庁内に設置された「働き方改革ラボ「(実験室)」。モデル職場を4つ選出し、弊社「株式会社ワーク・ライフバランス」が働き方改革の推進をサポートする一方、長野県にある「つづく株式会社」にはデジタルツール活用の支援を受け、ソフトとハードの両面から改革に取り組んでいる。
県内企業に対する改革推進と、県庁内での取り組みという2つの事業を同時展開することで相乗効果を狙う目的もある。例えば民間「・県庁におけるモデル職場での成果を発表する合同の「中間・最終報告会」を行うなどして連携し、成功事例も横展開して改革を加速化させている。
メンバーを巻き込みながら取り組みを牽引。人事委員会事務局課長補佐 榊原明美さん
「在宅勤務しやすい環境」を目指したら、取り組みが進んだ
─2022年度のモデル職場に選ばれたときのお気持ちは?
ワークライフバランスが比較的取りやすい環境なので、ラボの募集を知ったときは「取り組んでも、具体的な成果が出るのか」という不安もあり、静観していたんです。
ただ、忙しい部署だと取り組むこと自体が難しい面もあると思いますので、まず私たちがチャレンジすることには意味があるのかなと。人事委員会は第三者機関として、県職員の働き方についても年1回、知事に報告や勧告を出す立場にあるので、その部署が率先して取り組めば全体にも呼びかけていけるかもと思い、チャレンジしました。
若手の職員が「テレワーク用のパソコンが配備されるなど、メリットも多いのでは?」と応募に積極的だったので、それも後押しになりましたね。
取り組み前の課題としては以下のようなことを感じていました。
・紙の書類が多くデータ化がされていない
・ファイル整備が不十分で過去のデータが有効活用されていない
・業務が属人化している
・在宅勤務がしにくい
・コミュニケーションの機会が少ない
─さまざまな課題がある中で、どんなことから取り組まれましたか?
「在宅勤務がしにくい」という点を解消すればほかの課題も自然に解消するのではと思ったので、「在宅勤務ができるような環境を目指そう」というのを、まずは最終目標としました。
具体的には資料のフォルダを整理したり、電子決裁の方法をみんなで検討したり。たとえば共有フォルダからBoxに移したほうがテレワークしやすいし効率も良いのでは、という結論になりました。自宅勤務がしやすい環境というのを最終目標にしたことで、取り組みが進んだと感じています。
電子決裁へのハードルは低くなって、電子でまわってくる書類も増えています。ただ、それが庁内全体に進んだかというとまだまだ十分とはいえないので、そこは今後取り組んでいきたいところです。
リーダーとして心がけた「負担感を減らすサポート」
─チームリーダーとしてどんな苦労がありましたか?
この取り組みの中でカエル会議®が重要なのは認識していましたが、進め方には難しさも感じました。リーダーがずっと進行役を担うものだと思っていたので、「しんどいな、でもやるしかない」と。でも、交代でやったほうが負担も減るし、効率化するのでは?というアドバイスをもらい、「進行役は交代で」というのをルール化して取り組みました。
5回に1回は進行役がまわってくるので、自分の回には真剣に考えざるを得なくなります。事前に進め方の相談をしてくる人もいましたし、主体的な関わりを促す意味でも交代制にしたのは結果的に良かったと思っています。
─会議がうまく進むように、またメンバーの方が負担に感じないように、うまくサポートされていましたね。
働き方改革への思いは人によって温度差がありますし、課題が大きければ大きいほど、どう取り組めばいいのかわからないと思うんです。進捗の報告だけに終始する会議もでてくるので、そういうときはあえて反対意見や質問を投げかけたり、なかなかアクションに至らないときは「どこに原因があるのか」をじっくり話し合ったり。課題を分析しながら少しずつでも進めていこうという点は気を付けるようにしていました。
意見を積極的に言える人は大丈夫ですが、言わない人がそのアクションの担当になった場合には「一緒にやるから、やり方を相談していこうね」と声をかけて、全部1人で抱え込まなくていいようにフォローを心がけていました。
それと、課長がいつも一緒にカエル会議に参加してくださいました。メンバーから意見が出にくかったり、議論の方向性が見えなくなったりすると、適切なタイミングで、的確なアドバイスや提案をしてくださることがとても心強かったですね。
人事委員会事務局の執務室でのカエル会議の様子
─取り組みを通じて、チームとしてはどんな変化がありましたか?
新しいことへのチャレンジに対して抵抗感がなくなったというか、むしろ新しいことには積極的に取り組んでみようという雰囲気ができてきたと思います。
誰もが意見を言えるようになってきたことも成果のひとつです。従来の会議だと発言する人としない人の差が大きくて、若手は意見を言わないというケースもあります。カエル会議®はそういう場ではないので、誰もが意見や感想を素直に口にできる、たとえば採用1年目の職員も積極的に発信や企画をしてくれたので、そのあたりも良い変化だと思っています。
私自身、若い頃は、会議で積極的に発言するという経験はなかったですし、なんとなく「会議では役職の上の人が発言するもの」という思い込みがありますよね。でも、新しいことに取り組むにはいろいろな人の意見やアイデアが出てこないと進まない。会議への向き合い方ひとつにしても意識を変えていく必要があるし、変えていくことで前に進むのかなと思います。
─「朝メールドットコム®」はどのように活用されましたか?
コミュニケーションツールとしてはとても有効に使えていました。一方で、時間の使い方の分析には活かしきれていなかったので、そこをもう少し改善して、時間の見直しができたら良かったかなと。ただ、1日の始めに「今日はこういう風に業務を進めていこう」という意識付けができたのはとても良かったと思います。
─事務局からのサポートはいかがでしたか?
積極的にいろいろなアドバイスをもらえたので、やりやすかったですね。自分たちで試行錯誤しながら挑戦するのも良いのでしょうが、やはり必要な情報や効率化するための知恵「・工夫を事前に教えてもられたほうが、本来自分たちがやるべき「業務改善に向けた取り組み」により注力できると思います。ほかの課でやっている効果的なツールや方法を紹介してもらえたのも非常にありがたかったですね。
モデル課の経験者が異動先でも関わることでさらなる前進を
─榊原さんが異動された後、人事委員会はどのようになっているのでしょうか?
カエル会議®を早々に開催して、取り組みを続けていく価値や意義を改めて伝えたようです。組織の体制に変化があったりもしましたが、課長が「今後も続けよう」と働きかけていることもあり、継続していくと思います。
昨年度の取り組みを始める際、隣の課にも一緒にやろうと声をかけたのですが、そのときは「忙しいから難しい」と。でも、私たちの取り組みを見て「カエル会議楽しそうだね」とよく言われましたし、状況を変えようとしているのは感じていたようです。モデルチームにはパソコンが支給されてZOOM会議がやりやすくなるんですが、じつは隣の課のほうが職員採用やオンラインセミナーなど人材確保のイベントをやっているので、その活用度が高く、関心も持ってもらえたのかなと(笑)。今年度は、その課でも取り組みに参加することになっているので、人事委員会全体に広がっていくのではないかと期待しています。
─現在の「女性活躍推進課」では、どのような形で働き方改革に関わっておられるのでしょうか?
富山県の女性が大学や就職で一度県外に行ってしまうとなかなか戻ってこないという現状があります。少子高齢化が進む中で、就職期の女性の大幅な転出超過は、地域経済の縮小や地域の魅力の減退を引き起こすだけでなく、少子化の進行を加速化させるもので、危機感を持っています。このため、魅力のある企業、女性が働きやすい環境を増やしましょうということで、経営者の意識を変えるセミナーや専門家の派遣などの取組みなどを行っています。
─今後に向けて、取り組むみなさんにメッセージをお願いします。
みなさんが持っている課題感はおそらく他部署で感じているものだと思うので、それを解消することで県庁全体の働き方改革が進むと思います。ぜひ積極的に取り組んでいただきたいです。
事務局が取り組み方をルール化すると押しつけになってしまうので、モデル課での取り組みでこうやったら業務が効率化したよ、進め方が変わったよ、というような好事例をより積極的に発信してもらえたらと思います。私自身、モデル所属での成果を今後も周囲に伝えていくつもりなので、そういう感じで各自が全体に広げるような関わり方をしていけたらいいですね。
全庁展開を視野に、多角的な取り組みを。砺波土木センター所長 長谷川徹さん
「1年では不十分」と感じて自ら手を挙げ、2年連続モデル課に
─砺波土木センターでの取り組み後、4月に異動されましたが、今はどういった状況ですか?
砺波で取り組みに参加したメンバーは私も含めて何人か異動していますが、今後もタッグを組んで全庁に広げていこうというところです。私は富山県の土木センターのとりまとめ役も兼ねているので、どういう形で進めていけるかを各方面と打ち合わせしたり、所属長連絡会議や所長会議などでも私から話をさせてもらったりしています。
働き方改革に取り組んだ2年間の経験を活かしながら、各職員が負荷を感じすぎない形でどう全体を取りまとめていくかが課題です。「今後は、働きやすい職場から働きがいのある職場にしたい」というのをみんなに伝えて、まずは、19班ある班ごとに所長室で一人ひとりのヒアリングを始めています。個々が感じている課題を聞き出すことを出発点に、できることをどんどんスモールスタートしていきたいと思っています。
─同じチームで2年間取り組みを続けていただいた経緯を教えてください。
取り組み初年度にあたる2021年は、砺波がモデル部署になる前にほかの土木チームに打診をして断られたという経緯がありました。長谷川ならやってくれるだろうということで(笑)、お話をいただいて。大変さは承知していましたが、今の時代に必須のテーマですし、そこに選ばれて取り組めるというのは自分の中でちょっと嬉しかったんですよ。選ばれた以上は求められていることに関し、何らかの成果を出したいと考えていました。
1年やってみて「この期間で終えてしまったら、まだまだ風土として根付かないな」と痛感し、「もう1年、砺波で続けさせてもらうので、全所展開に繋がる流れを作りましょう」と自分から手を挙げました。
─当初はどんなところを変えたいと思っておられたのでしょうか?
私は、仕事をやるなら楽しくやりたい、やり甲斐を感じてほしいと思っています。新田知事が「充実感、幸せ感を感じながら仕事をしてほしい」という話をされますが、非常に共感しているんです。
業務を効率化すれば、コミュニケーション、深く考える時間ができ、雰囲気も良くなって、充実感、幸せを感じられるる職場になる。そうすると結局、県民から求められるような仕事ができると思っています。仕事に対して「やらなくてはならない」「やらされている」という感覚ではなく、もっと前向きに誰のために、何のためにやっているのかを考えながら取り組めるようになればもっといい仕事ができるし、ライフとワークのバランスも取れるんじゃないかなと。それを、この機会に実現していきたいと当初から考えていました。
「話しやすい雰囲気作り」と「業績評価への組み込み」
─取り組む中で、どのような課題が見えてきましたか?
最初に実感したのは、会話が不十分なことです。コロナ禍の影響もあって、コミュニケーション不足を痛感しました。目に付きやすい課題としては属人化だとかペーパレス化が進んでいないなどが明らかになりましたが、いずれも話し合いを通じて解決していくことが必要ですよね。
負担感や「やらされ感」が先に立ってなかなか具体的な取り組みに進めないということもありましたが、まずは心理的安全性を確保するために、所長室でお菓子も用意してざっくばらんに話せる環境作りを心がけました。少しずつ雰囲気が和らいで、大部分の方が本音で話してくれるようになったと感じています。
砺波土木センター所長室でのカエル会議(事業推進会議)の様子
─とくに効果を感じたのはどういった取り組みでしたか?
カエル会議®で対話することで、誰がどんな仕事をしているかを共通認識として持てた、誰が深く関わっているかが明確になった、というのが大きかったと思います。土木技術屋の方々はファミリーのようなところがあるので、かしこまって発言するよりもざっくばらんに対話するほうが意見を引き出しやすいというのも感じました。
また、働き方改革アクションを業績評価に組み入れて頂いたことも非常に効果的でした。9月頃でしたか、各所属長やセンター長、土木事務所長宛に「業績として評価するので取り組みの内容を報告してください」というメールが一斉に届いたんです。私のところにもそれに関する問い合わせが来たりして、「これは効いているな」と思いました。所属長が本気になれば所員の方々にも伝わりますので、全体に広げるにも有効だったと思います。
あとは、富山県内だけの視点で考えるのではなく、先進的な取り組みをしている他県から学ぶために石川県に視察に行ったりもしました。先方の良いところを取り入れたり、逆に富山県が進んでいる部分も改めて認識したり。そういう活動も大切だと思いました。
─逆に、大変だったのはどんなことでしょう?
今与えられている仕事以外にプラスαでやらされるという負担感が強い、というのが一番の課題でした。明確な数値で表せるような指標がない中で、いわば一人ひとりの主観で幸福度を捉えてライフとワークを両立させるんだ、というのはなかなか理解されないというか、共通認識として設定しにくいですよね。
そのあたりは「なぜ今働き方改革をやる必要があるのか」「なぜペーパレス化やDX化が求められるのか」を、単に効率化が目的なのではなく、もっと根本的な理由、取り組む原点から伝えていく必要があると思っています。ちょっと時間をかけてでもそこを共有していかないとなかなかうまく進んでいかないなと。当初はそれが十分にできないまま、いかに効率化できるかが先行していたので、そこは大変でしたね。
─スムーズに進めるためにどんな工夫や心がけをしましたか?
話しやすい雰囲気を作るために面談の際にお菓子を用意するのは続けました。できるだけざっくばらんに、「このお菓子おいしいね」ぐらいから始め、続けないと、なかなか本音は出てこないので。
あとは、効率化が進めば進むほど今の人員が減るのではないか、残業が減ったと思ったら人が減らされて結局また有休が取りにくい状況になるんじゃないか、という不安がどこかにあるんです。せっかく働き方改革に取り組んで効率化したのに、「残業が減ったから人員を減らす」ということになるんだったら頑張った甲斐がないですよね。ですからそれは絶対にしないで欲しい、と人事課に言ってもらうよう働き方改革推進室に強くお願いしました。
新田知事が「専門職「(技術職)は、なるべく3年以上、継続して仕事を」という方針を出され、短期間の異動は減り、それまでは1年ごとにどんどん異動になって課題が積み残しされたままだったのが、同じ職員が同じ業務「・課題に長期間、取り組むことができるようになり、課題が解消されるとともに、残業時間の減少にも繋がっていると感じています。働き方改革を進める上でも非常に重要な要素だったと思っています。
雰囲気が良くなり、笑顔が増え、考える習慣が定着
─職員のみなさんにはどんな変化がありましたか?
この2年間で間違いなく雰囲気が良くなって、笑顔も会話も増えました。所長室に入ってくる人も増えていますが、何か相談事を持ってくるにしても、以前なら「どうしましょうか」だったのが、今では自分たちで考えて「こういった経緯があったので、こういう方向でいきたいと思いますが、どうでしょう」という風になってきました。自分で考えることが習慣づけられて来たのは、とても良い変化だと感じています。
一方、何かあるとすぐに「所長に相談しよう」と感じているとしたら、そこは改善の余地があります。組織として強くなるために、まずは自分たちで、解決策をまとめた上で、最後の最後に私のところに来てくれるのが理想ですね。とはいえ、これからどんどん良くなっていくと期待しています。
─2年目に取り組みを続けていく段階で、何を心がけましたか?
やはり職員に負担を感じさせないことです。負担感が重くのしかかると、働き方改革はうまくいかないと思ったので。ちょっとした会議のペーパレス化だとか、スモールスタートでできることからやってみましょう、と伝えていました。
先日も全職員に「班長の了解をもらって週に一度を目処にテレワークをやってください」という案内を送りました。食べず嫌いじゃないですが、「やらず嫌い」にならずにとにかくやってみて、その中からメリット、デメリットを把握し、より良いものに議論すればいいと思います。
私は常々「成果が出なくてもいい、成果が出なかったことが成果なんです」と話しています。何かミスしたのならその原因を探って改善していけばいいんです。ただ、公務員の場合はとくに「ミスは許されない」というのが常に頭にあるので、とにかく小さいことからやってみようと。たとえばテレワークしておうち時間ができたとか、遠隔で検査ができれば移動時間が減ってほかの業務ができるんだとか、そういうことだって成功事例ですよね。そういう小さな成功体験を積み重ねていくことが大切だなと思っています。
パワポ資料のスライド4
工事監督「(段階確認)を遠隔臨場で実施「自席でモニター画面を見て、現場が設計図書のとおり施工されているか確認している様子
─土木部全体の改革を推進する立場になられましたが、ヒアリングをして課題を把握した後、その次のステップとしてはどんなことを想定されていますか?
風土作りなので一朝一夕ではいかないんですよね。時間がかかるんです。砺波土木での2年間の経験を活かしながら、どう継続して広げていくかを念頭に動いていこうと思っていますが、現時点でとくに重視しているのは、働き方改革の取り組みを今後も所属長の業績評価に組み込んでもらうことです。
連絡調整会議、設計委員会をペーパレスで実施したとか、図面をデータでやり取りしたとか、電子決裁を取り入れたとか、そういったことを一つずつ実行して、半期に一度報告するんですが、それが所属長のインセンティブになっていけば、所属全体が動きます。
やりたいやりたくないは別として、やらざるを得ない状況をトップに課すことです。私のように自分からやりたいタイプは滅多にいませんから(笑)。それにはやはり業績評価に反映させることは不可欠だと思っています。
「働き方改革ラボ」の責任者として全体をサポート。事務局担当 喜多美月さん
自分自身が「腹落ち」するまで議論を重ねることが重要
─「働き方改革ラボ」はどのような経緯で生まれたのですか?
令和2年11月に新田知事が就任される際、公約で「県庁に『働き方改革ラボ』を設置、県庁での取組みをひとつのモデルにして、民間と協働で新しいテクノロジーも駆使しながら生産性を向上していく」とされていました。
令和3年度の組織改編で、本県の働き方改革を進めるため、部局横断で重要課題に取り組む「知事政策局」の中に「少子化対策・働き方推進課」ができたので、「少子化対策・働き方改革推進課」がラボの役割を担うことにしました。知事のリーダーシップがあってこそスタートした改革だと思っています。
─ラボをやることが決まって、実際に中身を詰めていくのは難しかったのでは?
何をすべきか私たちも手探りだったので、まずはディスカッションを重ねました。なぜ、誰のためにやるのか、どう進めるのか。コンサルタントの方にリードしていただきながら話し合い、宿題が出されて次までに考えてくる、という感じで。
基本的なところをとことんディスカッションしてコンセプトが決まってくると、多少、目的、方向性が見えてきたのですが、それでも自分の中では腹落ちしきれていないというか、私たちが腹落ちできなければ、他の職員が付いてくる訳がないと思い、「なぜ働き方改革が必要なのか、何のために取り組むのか」を考え続けた1年だった気がします。
─どのタイミングで腑に落ちたのでしょうか?
1年目の最後、3月あたりでしたね。「2年目のモデル所属をどこにするか」「どういう展開を県庁内でしていくのか」などの議論を進める中で、しつこいくらいに「なぜ働き方改革が必要か」「どうすれば、他の職員に理解してもらえるか」を考え続けたんです。
その中で「やり甲斐と働きやすさの2つを実現するのが働き方改革の目的なのかな」ということ、そして、自分たちのありたい姿も整理できたんですよね。つまり、「県民のための大切な仕事に主体的に挑戦すること」がやり甲斐で、「時間と心にゆとりを持つ」というのが働きやすさ。どちらが欠けてもダメなんだなと。
今までは働き方改革というと、「無駄な業務を削減して、浮いた時間でより良い行政サービスを提供する」というイメージでしたが、それだけではモチベーションが続かない。やはり、やり甲斐がものすごく大事だよねという話を、チーム内で積んだり崩したりして繰り返しました。3月にやっと私自身がすっきり腹落ちしたのかな、という感じでした。
─腹落ちしないまま進めていくというのはなかなか難しいですからね。
ワーク・ライフバランスさんにも何度も相談、葛藤、悩みを聞いていただいた気がします。そのたびにフォローしてくださって、私の「わからない」にも諦めずに付き合って、支えていただいたと感謝しています。
あとは、実際に取り組んだだけだと「自分たちはたいしたことやってない」と思いがちです。最終報告会のために報告書としてまとめたことで、自分たちや周りの人たちが取り組んできた成果が目に見えて、「やってきて良かった」と実感できました。報告会という形で振り返るのも重要ですね。
取り組む側の「孤立感」を払拭するため、所属長・部局・知事を巻き込んで
─事務局として不安要素はありましたか?
初年度はモデル所属を募集しても手が挙がらないのでは?という不安がありましたので、事前に「どんな課題があるのか、それを解決するにはこの所属にモデルケースになってもらうのが適しているのでは」などとシミュレーションをしました。結局、係長以上を対象に開催したキックオフの研修会で興味を示してくれた所属が手を挙げてくれたので、「意欲に勝るものはない」とそこにお願いしました。
ただ、手を挙げてくれたチームの全員が働き方改革をやりたいと思っていたわけではなく、課長や主幹などの声かけでスタートしたので、人によっては「なぜ従来業務に加えて働き方改革に取り組まなければならないのか」と思ったメンバーもいたと思います。また、モデル所属とその他の所属、あるいはモデル所属の中でも取り組んでいる係とそうでない係との間に温度差があり、取り組んでいるほうが遠慮して疎外感や孤立感を感じているようなところもありました。
そこをクリアしないと働き方改革は先に進まないので、2年目の取組みでは事務局がそういう部分をすごく意識して臨みました。
─孤立感を軽減するためにどんな工夫をされましたか?
実際の取組みは係単位で行うとしても必ず最初から所属長を巻き込む、中間報告や最終報告会では部局の次長からコメントや激励をいただくなど、「モデルチームだけの取組みではなく、部局全体として取り組んでいるんだ」ということを伝えるようにしました。
さらに、中間報告会には副知事に、最終報告会には知事に出席いただき、モデル所属に対してお声がけいただいたのも非常に良かったなと思っています。
2023年10月21日(金)富山県働き方改革ラボモデル所属中間報告会
─県庁で取り組んでいることが、民間企業にも何かしら影響したと思われますか?
民間に対してただ「やってください」ではなく、「県庁としても取り組んでいます」と打ち出すことで、進めやすかったというのはあると思います。ただ、民間の方々の方が積極的に取り組んでくださっており、こちらが勉強させられることの方が多かったです。しかも、報告会などで「働き方改革をやって良かった」と本心から言ってくださり、私自身、進めてよかったと感じました。また、実際の体験や職場の変化を聞くことが、どんな説明より説得力があり、これから働き方改革を始めようと思っている方や、すでに始めていているけど、行き詰っている方にもとても参考になったのではないかと思います。
─今後、全庁展開していくには何が必要だと思われますか?
とにかく改善に向けた「何か」を始めてみること。ちょっとしたスモールスタートで良いので、始めてみる、進めてみるということが非常に大切だと思っています。
モデル職場と事務局の双方を経験。事務局担当 粟田司さん
リーダーとして試行錯誤した経験があったから、2年目に繋がった
─1年目にモデル所属で取り組まれた当時を振り返ってみていかがですか?
キックオフの研修を受け、働き方改革の趣旨は何となくわかったつもりでした。ただ、当時自分がいた部屋は元々居心地が良かったし、コロナ禍でオンラインの業務も普通にやっていて、それこそフリーアドレスもペーパレスもある程度は進んだ環境だったんです。正直、これ以上何をすればいいんだろうと思いました。
一方でパソコンが支給されるということもあり、割とニュートラルな気持ちでメンバーに「どう思う?」と聞いた結果、「やらなくてもいいんじゃないか」と。当時の課長にもそれを伝えましたが、結局は取り組むことが決まったので、入り方が良くなかったというのはありました(笑)。
─2年目は事務局の立場になり、その経験は活かされていましたか?
1年目は各チームのリーダーだけを集めた会議をやって、その場にコンサルタントの方に入っていただいていましたが、課題を各課に持ち帰った後はリーダーがコンサルタントの伴走無しで進める形だったので、リーダーの負担が大きいと感じていました。
2年目は自分自身が事務局の立場になり、初年度のリーダーとしての経験を踏まえて臨めたので、それが踏み台になったというか。やってみないとわからないことは多々あるので、今振り返ると必要なプロセスだったと思います。
─事務局の立場で大変だったことは?
各職場でそもそもの業務量や繁忙期、働き方の課題、メンバーの温度感などが違うので、それを踏まえて全体をハンドリングするのはやはり大変でした。日程調整ひとつとっても、なかなか予定通りにはいかないので。
とはいえ2年目の昨年度は、働き方改革の趣旨に共感した上で自発的にモデル部署に手を挙げてくれた部署も多かったんです。即物的なわかりやすいメリットとして、テレワーク用パソコンが支給されることを公募のチラシに押し出したことも功を奏したのかもしれません(笑)。
令和4年度の庁内広報チラシ
事務的な調整はもちろん大変でしたが、取組みに対して腹落ちして臨めたので、アクションを起こして成果につなげていくという意味ではスムーズだったと思います。すべてが順調に進んだとは言えませんが、1年目を思えば、それぞれがそれぞれの課題に向き合って改善策を出せていました。最後には「やって良かった」という声も聞けたので、良かったなと思いましたね。
トップダウンとボトムアップ、上と下とで挟むような枠組み
─実際に進めた結果、どんな変化がありましたか?
デジタルツールを活用して進捗状況を共有する、簡易な起案を電子化する、Boxを活用して部局内でファイルを共有するなど、具体的なアクションがそれぞれの部署でできていました。私たちとしてもそういった変化を目にするのは嬉しかったです。
さらに、それらは全庁のどの所属でも実行していけるような内容だったので、ラボがそもそも持っていた「全庁展開できる事例を作る」という目的が達成されたという意味でも、非常に良かったなと思っています。
─取組みを広げるために知事や組織とはどのように連携をされましたか?
最終報告会に知事にも出ていただいているほか、全庁的な展開として、モデル所属の取組み以外にも全所属に対して「スモールスタートで業務改善しましょう」という呼びかけをDX・働き方改革推進本部の本部長という立場で知事から出してもらったりもしました。
それによって、モデル所属によるボトムアップの取り組みと、トップダウンの号令と、上と下とで挟んでいくような全体の枠組みが整ってきました。まだまだ進化させるべき部分はありますが、まずは良かったなと思っています。
─官民両輪で取り組みを進めているのは富山県の大きな特徴ですが、これに関するメリットや工夫した点などを教えてください。
県庁内も民間企業もワーク・ライフバランス社さんのメソッドで進めていますので、同じ軸で話ができるといいますか、民間企業の状況に対して私たちの理解が深まるのがメリットのひとつだと思います。
理想を言うなら、「県庁ではこういう成果が出せたので民間でもどうですか」とか、逆に「民間の企業さんでこれができたから県庁でも導入できないか」など双方向の展開もしていけたらと思っていました。ただ、官民では置かれた状況がやはり違いますし、企業間でも業種や規模によって異なりますので、そこを超えた展開をしていくためにはもっと工夫していく必要があることも痛感しました。今後の課題のひとつだなと感じています。
─今後はどのように働き方改革を発展していきたいと考えておられますか?
昨年のモデル所属の取組みの中で「これは全庁展開したほうがいい」というものがいくつか出てきましたので、それを広げていきたいと思っています。具体的なやり方を含めて、いかにわかりやすく、効果的に進めていけるかを考えていきたいですね。
あとは、モデル所属以外の課からも、独自に「こんなことやってます」という動きがあるので、新しい事例としての掘り起こしや、「こういうやり方もありますよ」「こうするともっと効率化できますよ」という提案もしていきたいです。それを誰もがパッと見て真似しやすい、真似したくなる形で発信していければと。
どうしても異動が多い職場なので、人事異動がけっこう「壁」になるというか、ようやくできるようになったことがまたリセットされる、ということを痛感していまして。今後は、働き方改革に関心や興味がある人、少しでもやったことがある人を増やしていって、草の根レベルで定着させていく必要があると思っています。アクションひとつでもいいので共有しながら継続していかないと、全体としてなかなか前に進めませんから。そのあたりを意識しながら進めていって、異動があっても歩みを止めずに、リカバリーできるような体制を整えていきたいと思っています。