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CASE STUDY

生駒市の導入事例

市民と行政がともに汗をかくまちづくり

生駒市

業種
官公庁・自治体
事業規模
300名以上1000名未満

奈良県生駒市長 小紫雅史×株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役 小室淑恵

奈良県生駒市では令和6年9月〜令和7年2月にかけて「生駒市立病院のこれからを一緒に考えませんか。」をテーマに、生駒市民、医療・介護従事者等で構成されるワークショップを開催。市民からの要望で設立され、開院10周年を迎える生駒市立病院の未来に向けた取り組みを市民とともに話し合い、ワークショップは大いに盛り上がりました。ワークショップ終了後、小紫雅史生駒市長と弊社代表取締役小室淑恵との特別対談が実現。生駒市・生駒市立病院の現状や課題、これからの展望について活発な意見交換を行いました。本記事ではその模様をお届けします。


■「生駒市立病院ワークショップ」の意義

小室:今回行われた生駒市立病院ワークショップは、市立病院の未来について市民も一緒に議論するという全国的にも珍しい取り組みとなりました。生駒市、生駒市立病院、市民、地域にとって、どのような意義や効果があるとお考えでしょうか。

小紫市長(以下、小紫):私が市長になってから一貫して意識しているのは、まちづくりを進めるうえで「市民参画」のレベルを超え、いかにして市民に楽しみながら汗をかいてもらうかということです。市民にとっても自分が暮らすまちを自分の手でつくったほうが満足度も高くなりますし、地域への愛着も深まり、定住支援にもつながります。

医療・福祉サービスは市民の大きな関心事ですが、どうしても「専門家や行政がやること」というイメージが強く、市民との間に微妙な距離感がありました。市立病院の運営等に関して市民の意見を聞く方法としては、ご意見箱の設置などが一般的であり、市民、医療・介護従事者が一緒にアイデアを出し合う今回のワークショップは、あまり見られない取り組みだと思います。

小室:ワークショップでは皆さんが積極的に発言され、院長が頷きながら熱心にメモを取っていらっしゃる姿がとても印象的でした。

小紫:そうですね。これまでも市立病院に関しては「生駒市立病院管理運営協議会」を開催しており、会員10名のうち公募参加の市民3名、自治会代表3名と過半数を占めています。協議会では病院の運営について意見を伺い、いただいたご意見をもとに、業務改善や管理運営を図ってきました。

今回、全4回にわたるワークショップという形で、よりフラットに意見が言える場を設定することができました。「身近な市立病院にどうあってほしいですか?」「市立病院を使って皆さんがハッピーに暮らす方法を考えませんか?」と呼びかけたところ、多くの皆さんのご参加があり、素晴らしいアイデアを出すだけでなく、「自分たちに何ができるか」というところまで考えていただきました。ワークショップを通じて「地域に開かれた病院」という理解も深まったと思います。

小室:今は市民ニーズも多様化している時代ですから、市民からの意見を取り入れると、新しい視点や関係者だけでは気づかない意見が出てきます。同質性のある組織からはイノベーションが生まれにくいといわれていますので、地域に開かれ、老若男女から意見を取り入れる生駒市立病院が新たなアイデアを形にしていくことが期待できますね。

■「働き方改革」という視点

小室:ワークショップでは弊社のコンサルタントがファシリテーターを務め、医療における働き方改革の背景等について、さまざまな現場経験を踏まえてお話させていただきました。働き方改革コンサルティングの知見を活かしながら新しい地域医療のあり方を模索するという意味でも斬新な取り組みだったと思います。弊社にはどのようなことを期待されていましたか。

小紫:開院10周年を迎えるタイミングで「10年後のありたい姿」を作りたいと考えたのは、令和6年4月から医師の働き方改革が始まったことも大きく関係しています。ありたい姿を考えるにあたっては、医療系のコンサルティングではない、多種多様な業種・業態をフィールドとしているコンサルティングであれば、経営の視点だけにとらわれず、新たな手法を使って、より広い視点から対応していただけるのではと期待していました。

小室:「新しい地域医療のあり方を模索する」という取り組みは、これからの日本社会にとって不可欠な視点だと感じます。少子高齢化が進み、従来の延長線上の解決策では立ち行かなくなる中、市長が異分野の視点を取り入れようとされたことは、非常に先見性のある判断だと思います。

働き方改革は単なる労働時間の短縮ではなく、医療従事者が安心して働ける環境を作り、結果的に地域医療の質を高める取り組みです。生駒市の試みは持続可能な地域医療の参考になると思います。

生駒市長対談

■生駒市立病院が果たしてきた役割

小室:生駒市では市民からの要望で10年前に生駒市立病院が設立されたと伺っています。生駒市立病院の開院によって地域医療はどのように変わってきたのでしょうか。

小紫:生駒市立病院は設立当初の大きな目的として、「救急医療の充実」と「小児医療の充実」「周産期医療の充実」を掲げていました。特に救急医療においては現在95%という高い救急応需率を維持しており、市内の病院や三次救急病院との連携強化により、地域内で医療を完結できる体制を維持できています。小児医療では、市立病院での分娩数の増加や、北和地区小児輪番の取り組み(6病院が輪番制で小児の二次救急患者の受け入れを行っている)など、子育て世帯層のニーズに寄与しています。

また、医療と介護の連携も大きな役割です。「医療と介護の顔の見える関係性」を重視し、患者さんの視点に立ちながら、地域の介護施設などとのスムーズな連携を進めています。

教育の分野においては、令和7年度から臨床研修病院としての運用が開始します。医療従事者の教育の場となることで、医療の質を向上させるだけでなく、医師の確保においても非常に重要な取り組みだと考えています。また災害対策としては、災害時に他の病院と連携して医療提供体制を確保できるよう、行政や他の医療機関とともにハード・ソフトの両面で取り組みを進めています。

小室:今回のワークショップで、市民の方から“生駒市立病院のよいところ”として「24時間365日受け入れ対応してくれる」「産科・小児科が充実している」「災害に強い」という意見が上がっていました。これまでの取り組みを市民・患者の皆さんも実感されているんですね。地域の基幹病院として市民の健康と安心を支えていると感じました。

■ワークショップから見えた課題と展望

小室:生駒市の医療・福祉政策について今回のワークショップを通じて見えてきたことは何でしょうか。

小紫:参加者からの意見の1つに高齢化への対応がありました。2040年まで高齢者人口は増加していくとされており、特に医療ニーズの高い75歳以上の後期高齢者数が増加します。一方、各病院での常勤医の確保はより困難になっており、生駒市立病院においても大きな課題となっています。1つの病院で全ての診療科を備えるのではなく、地域の病院がそれぞれの強みを活かし、病院間の連携を一層強化し、地域全体で医療機能を完結させていくという考えが重要だと思います。

小室:市長がおっしゃるように、地域全体で医療機能を完結させるという視点は、今後の地域医療にとって非常に重要です。1つの病院ですべてを担うのではなく、各病院が強みを活かしながら連携することで、持続可能な医療体制を築くことができます。

今回のワークショップでは高齢者の方も参加くださっていたようですね。「市民ができること」のアイデアがたくさん出ていましたが、人生100年時代といわれているので、元気な高齢者には積極的に地域や病院に関わってほしいと思います。

ワークショップで出たさまざまな意見を踏まえ、今後さらに取り組みたいと考えているプロジェクトや方向性について教えてください。

小紫:地域全体で医療機能を完結させることとも関連しますが、地域医療提供体制を進めるためには、市立病院の役割をどう果たし、どう特色を出していくのかを考えるだけではなく、地域の医療機関とも対話・連携を重ねていくことが重要です。また、継続的に市民が使いやすい病院とするため、「市民による魅力化プロジェクト」のようなものを展開していくことも1つの方法ではないかと思います。

今回のワークショップで寄せられた意見から、魅力化プロジェクトの例を挙げると、「ホスピタルアートによる患者の不安軽減、痛みの認識度合いの軽減」「屋上庭園を活用した企画(季節ごとの装飾など)」「ピアサポーターによるサポート(患者と同じ目線での経験の共有や精神的サポート)」「医療講演の地域開催」などがあります。

小室:「市民による魅力化プロジェクト」という発想も素晴らしいですね。利用する市民の視点を取り入れることで、より使いやすく、地域に愛される病院へと進化していく可能性があります。市民が主体的に関わることで、単なる利用者ではなく、支える側としての意識も生まれ、地域医療の継続性がさらに高まるのではないでしょうか。

■社会背景を踏まえた10年後のまちづくり

小室:生駒市では若年層の県外流出と社会全体の高齢化により、2020年と比較して2045年には15~64歳人口が70.9%まで減ると推計されています。小紫市長が日頃感じられている生駒市立病院・生駒市の課題についてお聞かせください。

小紫:西和医療圏においては産科医療機関の減少が著しく、居住場所に近い施設での出産が難しくなってきています。生駒市ではこれまでの子育て支援策に加え、小児・周産期医療をさらに充実させることで、子どもが生まれ、育てやすい環境づくりを進めていきたいと考えています。

生駒市長対談

■西和医療圏内の産科医療機関

平成30年度:10施設
令和元年度:9施設
令和5年度:6施設(生駒市内では令和5年度には3施設にまで減少)

■生駒市立病院の分娩数

令和3年度:136件
令和4年度:264件
令和5年度:246件
令和6年度:183件(4月~12月実績、月平均20件)

■生駒市民の出産場所(令和4、5年度)

生駒市:52%
奈良市:30%
大阪府:4%
その他:14%

小室:周産期医療の充実は、単に出産できる環境を整えるだけでなく、地域全体で子育てを支える基盤の強化につながります。特に、産科と小児科が連携した体制を持つ病院の存在は、妊娠・出産期の不安を軽減し、子育て世帯にとって大きな安心材料になると思います。

さらに、少子化対策を考えると、ハード面だけでなく、働き方の見直しというソフト面の改革も不可欠です。夫婦ともに無理なく育児に関われる働き方ができれば、子育ての負担が家庭だけに集中することなく、より多くの人が「子どもを持ちたい」と思える環境が整います。生駒市のように、医療・福祉の充実とともに、働き方の変革にも目を向けることで、少子化や人口減少の歯止めにもつながるのではないでしょうか。

■生駒市の「働き方改革」が目指すもの

小紫:おっしゃるとおりです。現在生駒市には約800人の正職員がいて、会計年度任用職員を含めるとその倍くらいの人たちが働いています。単純に出生数の減少幅で考えると、20年~30年後には今の半分の400人で働く状況が到来するわけですから、このままの働き方では持続不可能なのは目に見えています。「今でも忙しいのに、20年先のことをいわれても」という意識もある中、働き方を変えて、より少ない総労働時間でいかに成果を出していくかを考えていく必要があります。

私が副市長になってからは真っ先に残業削減に取り組み、約9万時間から6万9000時間程度まで減ったのですが、またじわじわと増加傾向にあります。生駒市や商工会議所を始めとする市内の事業所・団体がイクボス宣言もしていますが、コロナ禍を経てややトーンダウンしている感が否めません。もう一度きちんと体制を立て直したいと考えています。

小室:今年4月から育児・介護休業法の改正があり、社会全体で育児や介護との両立支援の取り組みが進んでいきます。法改正への対応や今後考えておられる具体的な施策がありましたら、教えてください。

小紫:コロナ禍ではかなりの業務においてWeb会議やテレワーク勤務の活用が進み、テレワーク用パソコンを整備していることもあり、テレワーク対応はできると考えています。ワーク・ライフバランス社では在宅勤務が非常に進んでいるとお聞きしていますが、導入に当たって苦労されたことや工夫されたことがあれば教えてください。

小室:テレワーク環境を整備し、育児・介護休業法の改正にも柔軟に対応されていることは、職員の働き方改革を推進するうえで非常に重要なポイントだと思います。在宅勤務や柔軟な働き方の選択肢が広がれば、男性の育児参加の後押しにもなります。

私たちの会社でも早い段階から在宅勤務の導入を進めてきましたが、スムーズな運用にはいくつかの課題がありました。例えば「業務の可視化」「コミュニケーションの工夫」「評価基準の明確化」といった点に重点を置き、生産性を高めながら柔軟に働ける環境づくりを意識してきました。

■多様な人材が働ける環境を作る

小紫:ぜひ参考にしたいと思います。効率的に働いて労働時間を減らし、育児休暇等の取得を推進するのと並行して、職員にきちんとスキルや経験を積ませることも重要だと考えています。地方自治体では、若いときにあまり大きな仕事を任せてもらえないという良くない文化がありますが、それでは優秀な人が離職する状況に歯止めがかかりません。単に「ホワイトにすればいい」ではなく、若いときからやりがいを持って働ける環境づくりにも力を入れる必要があります。

小室:よく「医師の働き方改革で産科医の手が足りなくなり、地元で出産できなくなる」といったことが語られがちですが、本当は「ママさん医師でも働ける職場にしておけば、辞めずに済んだ方がたくさんいた」というほうが正しいです。医師免許を持っている専業主婦の女性がこんなに多い国は日本だけです。

働き方改革は単なる労働環境の改善ではなく、組織や地域の魅力を高め、人を惹きつける要素となります。例えば、民間ではサカタ製作所という新潟県の中小企業が働き方を改革に取り組んだことで優秀な人材が集まり、企業の成長が実現しています。自治体の事例としては、東京都の東大和市が「勤務間インターバル宣言」や「女性の再就職応援宣言」などの取り組みを発信した結果、採用応募数が5倍に増えています。

小紫:多様な働き方ができるようにすることで、人材が集まるというのは小室さんがおっしゃる通りです。生駒市では以前から社会人採用などの採用活動に力を入れているだけでなく、例えば職員が地域でサッカーコーチをするなどの副業も積極的に応援しています。

また、民間の人材紹介サービスの力を借りながら、副業人材の受け入れも行っています。地方や故郷の自治体で働きたいという方が結構いらっしゃいますが、仕事を辞めて家族で生駒市に転居し、9時から17時まで市役所に通勤するとなると、門戸が一気に狭まってしまいます。そこで、テレワークや月1出勤など働き方をオープンにしたところ、素晴らしい人材が集まるようになっています。こうした取り組みも加速させていきたいですね。

■なぜ「勤務間インターバル」が必要なのか

小室:私たちは、全国各地の首長の皆さんに「勤務と勤務の間を11時間あける勤務間インターバルを推進し、宣言してださい」とお願いをしています。最初に宣言されたのは、福岡市の高島(宗一郎)市長でしたが、高島市長は教育長と一緒にインターバル宣言を行い、今では学校の教員・職員を含めて98%まで達成しています。教員が睡眠不足の、怒りやすい脳の状態で子どもに接している状況は未来に禍根を残します。市長と病院長、教育長が共同で勤務間インターバル宣言されてはいかがでしょうか。

小紫:生駒市は教育にも非常に力を入れておりまして、教員の働き方改革も大きなテーマですから、病院長や教育長にも働きかけていきたいと思います。勤務間インターバルは働き方改革の1つの柱になりますし、インターバル宣言を行うことは生駒市の発信力強化にもつながると思います。

生駒市長対談

小室:私たちはコンサルティング会社なので「組織を統合したり業務の合理化を行ったりしている」と思われがちですが、これまで3000社の企業のコンサルで実際にやってきたのは、徹底的にお互いの意見を出し合える関係性を作ることです。心理的安全性の高い中で出し合った本音こそが職場を変えていくためのカギとなりますが、今までは関係性のヒエラルキーの中で本音が言えず、「無駄だな」と思いながらもみんなで粛々とやってきた状況があります。

今日、市民の皆さんと小紫市長がやられていたのは、フラットな関係性の中で自発的にアイディアを出してそれを実行するという手法です。素晴らしい取り組みであり、とても親近感を持ちました。生駒市が先進的な取り組みを進めることで地域全体の魅力が高まり、持続可能な人材確保やまちづくりのモデルとなることを期待しています。

小紫:今日は小室さんからたくさんアイデアをいただきましたので、スピード感だけは負けないように行動に移していきます。

小室:今後ともよろしくお願いします。ありがとうございました。

生駒市長対談

写真左から
担当コンサルタント 株式会社ワーク・ライフバランス 大西友美子
小紫 雅史 生駒市長
担当コンサルタント株式会社ワーク・ライフバランス 桜田陽子

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