Case Study

那珂川市様

平均有給取得率・平均男性育休取得率 ともに約20ポイントUP!
コミュニケーション活性化と業務改善を通じて、もっと働きやすい職場に!

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若手職員の働き方の変化に直面し危機感を抱いた福岡県那珂川市役所では、令和3年度から2年にわたり働き方改革コンサルティングを導入。 職員サーベイの結果 「育成に時間が取れていない」「信頼関係ややりがいが低い」といった課題が判明。解決するため、モデル課がさまざまなアクションに取り組んできました。3年目となる令和5年度は働き方改革(カエル会議)の全庁展開が行われ、着実に庁内が変わりつつあります。市の働き方改革にリーダーシップを発揮されている武末茂喜市長、推進事務局として携わった石井正三さん、桐谷圭一さん、そして支援を行った弊社認定上級コンサルタント・園田博美さんにそれぞれお話を伺いました。

■働きやすい職場をつくる

市長インタビュー:武末茂喜市長

インタビュアー:弊社認定上級コンサルタント 園田博美さん

◎働き方改革を行った背景

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園田さん(以下、園田):まずは那珂川市で働き方改革に取り組まれた背景からお聞かせください。

武末市長(以下、武末):私は行政職員として31年間、市長になって16年、計47年にわたり行政に携わってきました。私たちの世代、そして現在の40代後半から50代の職員は、終身雇用を前提に職場や地域のために一生懸命働くという意識を持っていたと思います。

しかし、少しずつ社会が変わってくるとともに、若い世代の意識が変わってきました。そして、その変化が、あるとき洪水のようにあふれてきました。若い人たちが職場を辞め、それが毎年続くようになったんです。

当初は、この現象をどう解釈すればよいのかわかりませんでしたが、いろいろ考えるなかで、転職のハードルが下がっていることに気づきました。優秀な職員が入ってきても簡単に転職してしまう。この現状を変えなければならないという課題が明確になったわけです。

那珂川市は、2018年の市制施行により町から市に移行しています。市政になると同時に仕事が増え、残業も増えましたが、職員はあまり増やせない状況にありました。この問題を改善するためには、仕事を効率化することが有効です。「今取り組んでいる仕事は本当にしなければならない仕事なのか」「ひょっとすると圧縮できるのではないか」という観点で見直しを図ろうと考えました。

ただ、市役所の中にいる職員だけで問題を解決するのは難しいため、第三者の視点から専門家の力を借りようと考え、働き方改革コンサルティングの業務委託を行うこととなりました。

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◎「働きやすい職場づくり」宣言

園田:2023年に入って市長は「働きやすい職場づくり」宣言を職員に向けてされました。どのような思いでメッセージを発信されたのでしょうか。

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武末:働き方改革を始めて約2年が経過し、働きやすく・誇りが持てる職場にするために何が必要かということがある程度わかってきたので、具体的に5項目に落とし込んで職員に示しました。ただ宣言を読み上げるのではなく、パワーポイントを使って私が1つひとつ説明を行っていました。

宣言では第一に職場のコミュニケーションを取り上げました。

今は職場に100%パソコンが導入されており、職員は毎日パソコンと向き合いながら仕事をしています。作業効率は上がりましたが、その分、職員間のコミュニケーションは、私が職員だった頃よりも少なくなっている印象です。

ただ、直接的に「パソコンにばかり向き合うのはよくない」「パソコンは道具として使おう」と発信すると説教口調になるので、「職場のコミュニケーションを高めましょう」という表現をしています。職場のコミュニケーションを活性化させることで、みんなが自律的に考えるようになり、仕事の質が高くなると考えています。

2つ目は、「ハラスメントやめてきちんと育てるための会話をしましょう」ということです。ベテランの職員は経験豊富ですから、「なんでこんなことがわからないんだ!」と思いがちですが、若い人たちは経験が少ないわけですから、丁寧に育てていかなければなりません。

そして3つ目は、仕事のやり方を変えていくことについて触れています。

園田:宣言の4つ目では職員配置の適正化を宣言されていますね。

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武末:那珂川市では8年〜9年にわたって、職員の数を減らしてきた時期があります。当時、県内で住民1人あたりに対する職員の数は那珂川市が最も少なく、全国的に見ても地方公務員の職員数は少なくなっていました。

もちろん、ただ減らすだけでなく、フルタイムとパートタイムの会計年度任用職員を採用して補ってきたわけですが、あるとき「果たしてそれでよかったのか」という疑問が生ずるようになりました。

若くて経験の少ない職員が半分以上を占めている中、「仕事を効率化しなさい、減らしなさい」と言っても難しいとわかってきたからです。やはり職員を増員して適正管理を行わなければならないと考えるようになり、ここ5年くらいで増員する方向へとシフトしています。

ただし、若い人だけを採用しても同じことの繰り返しになるので、社会人経験枠を設け、薄い年齢層を補強しています。社会人経験者の中には民間企業出身の人もいれば、他の自治体出身の人もいます。行政経験を持つ人も採用することで、経験を生かした仕事の効率化を図っています。

そして宣言の5つ目は「休むときは休みましょう」です。ワークとライフともに充実させ、有給休暇の取得を推進することを目指しています。実際に、休暇の取得日数は増えておりまして、令和2年度は平均10日程度だった取得日数が、令和4年度は平均14日となっています。これまでは管理職以上の人たちが職場にいると帰りにくい雰囲気がありましたが、現在は管理職の人がいても仕事を終えた職員は堂々と帰るようになっています。

◎取り組み後の変化と継続しているフォロー

園田:那珂川市では研修を実施し、モデル課を作ってさまざまなアクションに取り組み、現在は働き方改革を全庁展開されています。この3年間でどのような変化を実感されていますか。

武末:まだ完全に変わったとはいえませんし、油断すれば元に戻りかねないですから、注意深く見続ける必要があります。ただ、職員が仕事の効率化を考えるようになってきています。また、自分の生活を大事にしなければならないという意識も高まっていると感じています。

現在、職員は自分が担当する仕事が終われば早く帰るようになっていますが、そこについては市民に対して私がフォローしなければならないと考えています。

園田:どのようなフォローでしょうか。

武末:「公務員は5時に帰ることができていいね」という市民の声を耳にすることがあるんです。ただ、仕事を終えた人が職場に残る必要はなく、早く帰れる方が早く帰ることは当然だと思っています。ただ、実際のところ、行政職員の仕事は非常に大変だと思っています。豪雨や地震など自然災害が起きれば交代で対応し続けなければならず、家に帰ることもままなりません。とはいえ、大変さを強調するだけでなく、「そんなにいい職場だと思うなら、ぜひ公務員になってくださいよ。いいことがたくさんありますよ」と切り返すこともあります。

園田:市長ご自身は早く帰られていますか。

武末:17時には帰っています。早いときには17時5分にはもう庁内にいません。その代わり、19時からの会議のために戻ってくることがありますし、土曜日も日曜日も大抵は仕事をしています。特別職ですから、現実には年間20日も休めないわけですが、宣言をした以上は私自身が早く帰る姿勢を見せなければいけないと考えています。

◎いい仕事、いいアイディアのために必要なもの

園田:他の自治体の皆さんに向けて、ぜひメッセージをお願いします。

武末:取り組み以前は、あまりにも退職する人が多く、私自身焦っていたところがあります。それでも、他の地方自治体の首長や福岡のいくつかの大企業や県庁から「私たちも同じ状況です」という言葉を聞き、「那珂川市だけの問題ではない。社会的に転職のハードルが低くなっている」ということがわかり、ある意味安心したのを覚えています。ですから、社会の変化を冷静に受け止めることも大事だと思います。

そして、私たちの経験からいえるのは、職員にいい仕事をしてもらう、いいアイディアを出してもらおうとするならば、生活のゆとりや楽しさを味わうことができるような勤務体系や仕事の仕組みが求められるということです。他の自治体にアドバイスするのはおこがましいですが、それを実現するために取り組む必要があると考えています。

園田:引き続き、那珂川市の取り組みに注目しております。本日は、貴重なお時間をありがとうございました。

■那珂川市役所のビフォーアフターを語る

推進事務局:石井正三さん、桐谷圭一さん

インタビュアー:弊社認定上級コンサルタント 園田博美さん

◎なぜ働き方改革に取り組んだのか

那珂川市様事例5

園田さん(以下、園田):改めて事務局の立場から、働き方改革がなぜ必要と感じられたのかをお聞かせいただければと思います。

石井さん(以下、石井):市長の話にもあったように、社会的に転職しやすくなってきたというのが大きな背景にあります。入庁するときだけでなく、入庁後も選ばれ続ける職場にするためには、魅力ある職場を作っていかなければならない。そういった視点から今回の取り組みが始まりました。

園田:プロポーザル方式でコンサルタントを選定されましたが、何が選定の決め手となったのでしょうか。

石井:私自身が選定に関わったわけではないのですが、園田さんの提案は、職員間のコミュニケーションの機会が多いデザインになっていたところがポジティブな要因だったと感じています。

所属ごとに背景や課題が異なる中、カエル会議は各所属が自分たちで目標を設定し、自分たちで行動していく手法となっていました。そこが評価されたのではないでしょうか。

◎職員サーベイによって実態を把握

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園田:働き方改革をどのように進めていかれたのかを振り返っていただければと思います。

石井:令和3年度に関しては、初年度ということもあり、職員サーベイを行って課題を抽出することから始めました。そこで見えてきた課題について、全職員を対象とした研修を実施し、モデル課と呼ばれる2所属を選定し、カエル会議の手法を使いながら取り組みを進めていきました。

令和4年度は、働き方改革を進める上では、やはり管理職の協力が最重要であると考え、管理職を中心に研修を行った後にモデル課を選定していったという流れです。

園田:初年度に職員サーベイの結果を聞いたときはどう思われましたか。

石井:最初は漠然と「仕事が増えている」とか「時間外労働」の部分が課題として上がってくると予想していましたが、いざフタを開けてみると、課題の半数が人間関係に起因していると知り、大きなギャップがありました。

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桐谷さん(以下、桐谷):それまでは「よその自治体と似たような感じかな」と思っていましたが、園田さんから「いろいろな自治体に行っているけど、こんなにエンゲージメントが低いのは見たことないですよ」と指摘されて、悲しい気持ちになりました。「皆が知人に自分の職場を紹介したくないと思っている」と聞かされて衝撃を受けたのを覚えています。

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◎モデル課からさまざまなアクションが生まれた

園田:モデル課が行ったそれぞれの取り組みについてお聞かせください。

石井:令和3年度は市民課と文化振興課、令和4年度は障がい者支援課と産業課がモデル課となりました。

市民課は業務効率化に向けた仕組み面・運用面の取り組みが多かったと思います。具体的には、マニュアルの作成や整理整頓の実施、定時退庁予定表の作成など、効率化に結びつくアクションが多かった印象です。

園田:文化振興課はカエル会議を若手グループと係長から上のグループに分けたことで、若手からたくさん意見が出てきたのが印象的でしたね。

石井:令和4年度の産業課は、主にコミュニケーションの活性化や情報共有のアクションに取り組みました。課内に3担当があり、係間の壁を感じていたため、他の係の業務に参加する取り組みを行ったり、休暇・業務計画を共有したりしました。

障がい者支援課は、「スキルアップ班」「業務効率化班」といったチームに分かれ、勉強会や整理整頓などを行いました。ユニークなところでは、会計年度任用職員が講師となってエニアグラムやペーパータワーなどの講座を行い、コミュニケーションを深めていました。お互いの人となりを知ることで、話し方や言葉づかいが変わっていきました。

園田:会計年度任用職員さんを巻き込んだのは、とても良かったと思います。その職員さんがすごいスキル持っていて、私もびっくりしました。

石井:障がい者支援課では、集中タイムの取り組みも行っています。窓口業務や電話対応が多い中で、「一定時間集中して仕事をしたい」という声が上がったことを受け、一定時間自分の仕事に集中できるようにするものです。集中タイムを取る人は、ぬいぐるみをデスクに置いて知らせるようにしています。

園田:ただの札ではなくて、ぬいぐるみを使われているのがユニークですね。

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◎コミュニケーションのきっかけをつくることが大切

石井:人事秘書課でも、令和3年11月頃からカエル会議を始めて2年目が経過したところです。その中で生まれたアクションの1つが、人事秘書課のメンバーを紹介する冊子の作成です。冊子をきっかけに話しかけやすい職場になることを目的としています。それと関連して、人事秘書課には通称「てつをさん」という職員がいるんですけど、週1のペースで、相田みつをさんの作品のようにてつをさんが好きな言葉を筆ペンで書き出し、それを執務室の入口に貼ってくれます。その言葉をきっかけにコミュニケーションが生まれたり、「どんな言葉が貼ってあるのかな」と楽しみにしたりする光景が生まれています。

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園田:人事秘書課が率先して取り組むと説得力がありますね。ところで、桐谷さんは他課から人事秘書課に異動されましたが、実際にカエル会議に参加してみていかがでしたか。

桐谷:働き方改革の取り組みが始まると聞いたときは、率直に言って「なんでしないといけないの」「負担が増える」と思いました。そのときは「今だってコミュニケーションは取れているし、今さら何をやるのか」と疑問に思っていたんです。

この課に来て、実際にカエル会議に参加し、課の中でいろいろな人と話すようになったことで、人とのつながりができてきたので、その点は確かにプラスだと感じました。コミュニーケーションを通じてお互いの仕事の内容がわかれば、休みを取りやすくなることにもつながります。

働き方改革というと「何かしなければいけない」と身構えてしまいがちですけど、最初は会話のきっかけを作ることができればいいと思うんです。「何かのきっかけになればいい」というくらいの意識で皆が取り組めば、もっと皆働きやすくなると思います。

園田:桐谷さんの印象に残っている人事秘書課の取り組みはありますか。

桐谷:他の課の人が人事秘書課に来たときに入りやすくするために、積極的に自分たちから声を掛けるようにしました。また、座席表に各職員に関する補足情報をつけて、人となりを知ってもらえるような工夫をしています。

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園田:確かに、2年前と比較すると本当にいい雰囲気になったと思います。お二人はこれまで事務局として取り組まれてきたわけですが、どんな点に苦労されたのでしょうか。

石井:初年度よりも2年目の令和4年度の方が苦労が多かったかと記憶しています。初年度に関しては、職員サーベイを全職員で行ったので、関心を高めた上で取り組みを進めていくことができました。モデル課の取り組みにも注目が集まっていたと思います。ただ、次の4年度になると関心度が少し低下してしまったので、そこを引き戻すために苦労したところがあります。

園田:皆さんの興味関心を高めるために、社内報を作成されていましたね。

石井:令和4年度は、2か月に1回くらいのペースで、「こういう活動をやっています」という情報を、庁内の電子掲示板を活用しながら共有していました。雑誌的なイメージで目を引きながら興味を持ってもらうことに努めました。

園田:3年目となる令和5度は全庁展開をされていますが、どのように進めましたか。

石井:今年は係長以下の職員がメインでカエル会議を行っていこうということで、係長以下を対象としたカエル会議の実践研修を実施しました。そこでは「そもそもなぜこの活動が必要なのか」という背景も踏まえて園田さんに説明していただいたので、理解はスムーズだったと思います。

また、カエル会議実施前に実施したアンケートと、2024年2月頃に実施予定のアンケートを比較することで、どれだけ変化が出たのかを見たいと考えています。

園田:石井さんはカエル会議のマニュアルを作成されましたよね。内容が素晴らしくて、とても驚きました。

石井:カエル会議という言葉は2年間で浸透してきましたが、カエル会議自体がよくわからずに思考ストップしてしまっている部分があったので、研修を踏まえた上でどのような流れで進めていけばよいのかをマニュアルに落とし込み、それを活用しながら実践していただいています。多くの課では目標を設定して、アクションにまで進んでいる状況です。

■働き方改革がもたらした変化

園田:働き方改革によって変化を感じているところがあれば、ぜひお聞きしたいと思います。

石井:令和5年度のカエル会議を始める前に職員アンケートを行ったのですが、そこでは令和3年度の職員サーベイの項目をいくつか抜粋しています。それにより令和3年度と5年度の結果を比較したところ、ほとんどの所属で改善傾向が見られています。特に職場環境や働きやすさ、休暇の取りやすさに関する項目では、1.2倍〜1.3倍程度ポイントが上昇しています。

桐谷:5段階の3が普通としたら、令和3年度はほとんどの項目が3未満で1に近いものもありましたが、今年度は全ての項目で上がっていて、職場環境は4に近づいているような状況です。

石井:年次有給休暇に関しては、令和2年度の実績が5割程度、10〜11日だったのに対し、令和4年度は70%、14日まで伸びています。男性の育休取得も令和2年度の10%以下から令和4年度は30%を超えており、その後も伸び率は上がっています。日数については平均して3か月程度取得する職員が多いです。市長や副市長の日頃の声かけの効果も出ていると感じています。

園田:定性的な変化はありますか。

石井:やはり若手職員と先輩職員のコミュニケーションの機会が目に見えて増えている実感があります。コミュニケーションは若手職員の帰属感の醸成にもつながりますし、雰囲気も確実に変わってきています。

桐谷:働き方改革で休みを取ろうと促しても、現実に仕事の負担が減らない状況では、職員が「結局言うだけで何もしてくれない」と不満に思ってしまいます。これまで那珂川市は財政的な問題もあり、職員を増やしてこなかったのですが、最近になって市長が「必要な人は増やさなければならない」という声を聞き入れてくれたことが大きかったと思います。市長のスタンスが変わったのを見て、職員の中で「ただ言うだけじゃないんだ」と少しずつ理解が広がっているのを感じます。市長がちゃんと組織のことを考えて行動してくれていると伝わることで、庁内が少し明るくなってきたと思います。

◎自治体職員へのメッセージ

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園田:最後に、これから働き方改革に取り組もうとされる自治体の職員さんに向けてメッセージをお願いします。

石井:私たちが取り組みを始めるときは、「何から始めればいいか」「そもそも課題は何か」もわからないところからのスタートでした。ただ、進めていく中で、コンサル事業者の方に教えていただきながら、課題が何か、その課題に対してどういう効果的なアクションができるかを見つけていきました。首長の理解も必要ですが、まずは、担当職員や担当課から声を挙げて、とりあえず取り組みを始めることが重要です。

私たちがそうだったように、人事担当課が「こうだろう」と考えている課題と、実際の課題にズレがあることも往々にしてあります。ですから、まずは真の課題を見つけ出すところにいち早く着手してほしいと思います。

それから、取り組みを始めたとしても、興味を持ってくれる人ばかりでなく、全然興味を持ってくれない人もいます。ただ、どんな組織でも「こうしたほうがいい」とアドバイスをしてくれたり寄り添ってくれたりする人は必ず出てきます。自分の中に「こうしたほうがいい」という考えがあるならば、仲間を探すような意識で上司や周りの人に想いを共有しながら行動に移していくことをおすすめしたいです。

桐谷:何か新しいことに挑戦しないと何も変わりません。まずは軽い気持ちでやってみることが大切です。やってみた結果、すぐに答えが出ることはないですが、何かしら課題が見つかるので、その課題についてみんなで話し合っていけばいいんです。また、人事担当が主管となる場合は、人事からの押し付けにならないように工夫していただければと思います。とにかくやってみることです。

園田:これからも取り組みに期待しています。ありがとうございました。

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■那珂川市役所の働き方改革に携わって

弊社認定上級コンサルタント:園田博美さん

インタビュアー:株式会社ワーク・ライフバランス 村上健太

◎サーベイが浮き彫りにした職場の課題

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WLB村上:園田さんは那珂川市役所の働き方改革に2年間携わったとのことですが、最初に市役所に入ったときの印象や、サーベイの結果を見たときの感想はいかがでしたか。

園田さん(以下、園田):私自身は今回の取り組みに関わる以前から那珂川市との関わりがありまして、職員さんを通じて、30代くらいの人が次々と辞めているという話を聞いていました。

いざ私が働き方改革に取り組むことになり、現状把握サーベイの結果を見たときは、「このまま対策をとらないと若手が更に辞めてしまうかもしれない……」と思いました。若い職員が「育成に時間をとってもらえてない」「先輩や上司との信頼関係があると思えない」と感じている状況が如実に現れていたからです。

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WLB村上:サーベイの結果は、庁内ではどう受け止められたのでしょうか。

園田:一般職の人に「若手が全然育成してもらえてない」「教育を受けてない」などと伝えてもわかりきった話なので、管理職に数字を見せながら現状を伝えました。管理職の多くが「自分はちゃんと部下・後輩と信頼関係を作っている」と考えていたのに、実際には正反対の結果が出ていて、耳に痛い話を聞かされたわけです。

管理職から市長に「こんな研修が必要なのか」という意見が寄せられたのでしょう。市長からも直接「この結果は本当ですか?」と聞かれました。衝撃は大きかったと思います。

◎支援を進める上での苦労

WLB村上:実際に支援を進める上で、どんな苦労がありましたか。

園田:例えば「ハラスメントをしないように」と言っても、本人に全く自覚がないといったケースのように、コミュニケーションの弊害を解消していくところに難しさがありました。

ある課の課長さんから「働き方が劇的に変わる手法があるんですよね?」と聞かれたこともあります。どこかに魔法のような手法があって、簡単に変えられると思われていたようです。「皆さんで地道に話し合いながら課題を出していき、1つずつアクションを起こしていくのが唯一の道なんですよ」という話を繰り返しながら進めていったのを覚えています。

私自身はワーク・ライフバランス社が提唱する『カエル会議』の基本に忠実に取り組んだだけで、特別な工夫は意識しませんでしたが、事務局である人事秘書課の皆さんとの連携は重要だと考えていました。その点は、事務局の皆さんが前向きに動いてくださったので、ありがたかったですね。

◎「話し合うこと」が変化につながった

WLB村上:研修やモデル課のコンサルティングを通じて感じた変化には、どのようなものがあったのでしょうか。

園田:「最初は話し合うだけで何の解決ができるんだろうと思っていたけど、カエル会議を続けていく中で、こういう時間を持つことが大事だと気づいた。話し合う時間を作ることで、一緒に仕事をしているメンバーと関係の質を高めることができた」とおっしゃった方がいました。そんなふうに意識が変わってくださったのは嬉しかったですね。

他には、意見を出せる場ができたのも大きな変化だったと思います。今まで「こんなことは言っちゃいけないかな」と思っていた方が、「言ってもいいんだな」と思えるようになり、意見を出したことで実際に職場が変わるのを体験できた。これは本当に素晴らしい変化だと思っています。

WLB村上:現在は働き方改革を全庁展開されているとのことですが、那珂川市のこれからの取り組みにどんなことを期待していますか。

園田:やはり若手が辞めない組織になってほしいですね。私は大学で公務員を目指す学生のキャリア支援も行っているのですが、行政の改革や地域への貢献意欲にあふれた学生たちが、入庁後に不本意な働き方を強いられるのを見るのはあまりに悲しすぎます。

自治体の組織体制に問題があることで、若い人が職場を辞めてしまうのも残念ですが、心や体を壊してしまうようなことがあってはなりません。

志のある人たちが増えていかないと、地域を発展させることは難しくなりますから、若手が辞めないで力を発揮し続けられるような組織であり続けてほしいと思います。那珂川市役所で働く皆さんが、自信を持って「うちの職場はいい職場だよ。働きやすいよ」と家族や友人などに紹介してほしいですね。

◎コンサルタント・自治体へのメッセージ

WLB村上:園田さんと同じような立場で取り組まれているワーク・ライフバランスコンサルタントの皆さんと、自治体の皆さんそれぞれにメッセージをお願いいたします。

園田:私自身、コンサルタントの仲間から「自治体に関わったことがないから、どうすればいいかわからない」という相談を受けることがあります。でも、自治体と民間で特別にやり方を変える必要があるかというと、そんなことはありません。みんなが話し合える場を作れば解決策が出てくるという基本は、どんな組織であっても同じです。ご縁があるなら、いろんな自治体に関わり、ぜひ皆さんが学んできた力を発揮してほしいと思います。

自治体の皆さんに対しては、「とにかくやってみる」の一言に尽きます。組織に対して不平不満を持つ人が多いかもしれませんが、そんな組織を作っているのも、その組織を変える力を持っているのも、結局はそこで働く人たちです。

ですから、自分が考えている解決策をどんどん出して、自分たちで働きやすい職場を作っていただきたいと思います。私たちコンサルタントは、組織を変えるサポートや伴走はできても、直接的に組織を変えられるわけではありません。皆さんが一歩を踏み出して行動されることを心から期待しています。

WLB村上:ありがとうございました。

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担当コンサルタント
村上健太
認定上級コンサルタント 園田博美

 

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