エーザイ株式会社 地域連携中四国本部様
イノベーションにつながる働き方改革を実践たった半年で「心理的安全性」の変化を組織長は66.7%、推進リーダーは83.4%も実感。
〜大手製薬会社エーザイがコロナ禍でも面談率をアップさせた働き方改革の取り組み。 業務の効率性を高めるだけでなく、社員が主体的に職場を改善し、自己実現できる環境を構築。 組織横断的なコミュニケーションを活性化させながら「心理的安全性」のさらなる向上を目指す〜
今回ご紹介するのは、大手製薬会社のエーザイ株式会社(以下、エーザイ)のMR(医療情報担当者:医療従事者に対して医薬品の情報提供を行う)の組織である地域統括中四国本部(以下、中四国本部)が行った働き方改革の取り組みです。
同社では働き方改革の取り組みを「かえるプロジェクト」と名づけ、2019年から弊社のコンサルティングを導入した上で実践を続けてきました。このプロジェクトで主導的な役割を担ったお二人、エーザイ株式会社地域連携中四国本部本部長の森川 俊宏様、鳥取島根統括部統括部長・働き方改革グランドリーダーの西岡知行様にお話を伺いました。
この記事でご紹介するポイント
- 働き方改革着手のきっかけとなった業界の環境変化
- 弊社コンサルティングを通じて活性化したコミュニケーション
- 若手社員のモチベーションと意識の変化
- 自走で取り組むにあたっての3つの柱
- 働き方改革とイノベーションの関係性
社員からのアイデアが活性化
エーザイでは全国8本部がそれぞれ独立して働き方改革に取り組むほか、女性活躍に関しては全社的に取り組んでいます。その中で中四国本部の「かえるプロジェクト」が2021年の上期において目指しているのは、以下の2点です。
1、社員のワーク・ライフ・バランスの充実 2、効率的な業務から生産性を向上させること
株式会社ワーク・ライフバランス(以下、WLB社)が中四国本部の働き方改革をお手伝いさせていただいたのは2019年から。西岡さんはこれまでを振り返り「職場の働き方をどう変えていけばよいのかを常に話し合う習慣が根づいてきた」とお話されました。
また、医療従事者との接点が生命線であるMRにとっての、2020年以降は、コロナ禍の影響でMRの訪問を禁止する病院が増えるなど医療従事者との接点が厳しい状況に直面しました。そんな中、社員の皆さんがアイデアを出し合って乗り切ろうとする 姿勢が嬉しかった、と森川さん。そのアイデアの一つが、WLB社とのコラボレーションによる医療従事者向けの働き方改革ウェブセミナーの開催。
2021年3月に開催されたWLB社とのコラボレーションによる医療従事者向けの働き方改革ウェブセミナーの様子
なかなかアポイントが難しい中、タイムリーなテーマということもあり、担当エリアの多くの病院から参加申し込みがあり、アンケート満足度100%という結果からも製品情報を提供するだけではなく、付加価値として顧客へ必要な情報を届けるという使命を果たすことができました。さらに、このセミナーがきっかけで、看護師の方から医療現場で困っていることについて相談をいただき、それに対して提案ができるようになったとのことです。
エーザイでは、今後、異業種の企業等とのコラボレーションを通じて、認知症の早期発見など、社会的な課題解決に向けてイノベーションを加速させていくことを目指しています。森川さんは、そのためにも働き方改革を堅実に進め、イノベーティブな時間を増やしていきたいとお話しされていました。
2年間の「かえるプロジェクト」の取り組みを振り返って
森川さんと西岡さんに、これまでのプロジェクトの成果と今後への期待、後に続く企業や組織の方へのメッセージなどをお伺いしました。
Q:WLB社にご依頼いただいた理由とは。
森川:一番の理由は、業界の大きな環境変化です。弊社はこれまでMRによる医療従事者への情報提供や面談回数を重視してきましたが、徐々にその手法を見直す必要に迫られていました。特にコロナ禍によって、その流れは決定的になっています。また、患者様と医療従事者の憂慮・困り事を解決するビジネスモデルに転換しないと生き残っていけないという危機感も持っていました。
そういった中で大事になるのは、憂慮・困り事を聞き取り、解決するアイデアを持った社員です。様々な苦難も乗り越えて、プロフェッショナルとして価値を発揮したいと、エーザイで活動している社員がWLB社のサポートを得ながら働き方改革に取り組むことで、結果的に医薬品を適切に一人でも多くの病で苦しむ患者さまへ安全に届けられるようになると考えました。
Q:コンサルティングを2年間実施した結果、具体的に実感された変化には、どのようなものがありますか。
森川:私はマネジメントの変化に着目していました。当初、組織長にお願いしたのは、「傾聴・承認・参画」の3つのキーワードを現場で実行してほしいということです。それが実行できていれば、メンバーとの関係性はよく心理的安全性(※)が保たれている証拠となると考えていたからです。
特に変化を実感したのは、コロナ禍で面会できない病院が増えてきた頃です。面会できなくなったMRに対して、組織長がいろいろフォローしている姿が見られました。組織長がメンバーの話を聞いてアイデアを引き出したり、必要な時にアドバイスをしたことで、結果的に面談率も上がったのは大きな変化だったと思います。
西岡:私は後半の1年しか関わっていないのですが、中四国本部に異動して初めて「心理的安全性」という言葉を聞きました。心理的に圧迫されている人が多いからなのか、心理的安全性を重んじているからなのか、当初はどちらなのかわかりませんでした。けれども、御社とのコンサルティング業務を通じて明らかにマネージャー層の意識が変わり、メンバーの心理的安全性が高まったのを実感しました。
中四国本部には、広島・岡山・山口・鳥取島根・香川徳島・愛媛高知・オンコロジー・流通といった8つの統括部があり、この統括部単位で かえるプロジェクトの推進リーダー(各統括部で取り組みを牽引する役割の社員)と組織長を中心に、働き方改革を進めていきました。
森川本部長からマネジメントとメンバーの関係性をより良くしたいという想いをヒアリングした上で、研修を設計。宿題として、組織長と推進リーダーの1 on 1面談に他の推進リーダーがオブザーブし、様子をフィードバックしてもらうなどを組み込みました。その結果たった半年で「心理的安全性」の変化を組織長は66.7%、推進リーダーは83.4%も実感。1年目の活動で特に組織長のマネジメントが活動全体のキーになることが見えましたので、2年目は特に組織長へのコンサルティングに力をいれたプランをご提案しました。
組織長には、マネジメント向けの研修プログラムを実施し、並行しておひとりお一人の課題やマネジメントで悩んでいることをヒアリングさせていただき、目標設定を共にさせていただきました。
Q:若手の皆さんのモチベーションには変化がありましたか。
西岡:今まで「言ってもムダだ」とあきらめていた人たちが、かえるプロジェクトを通じて「効率的な働き方を疎外する要因は自分たちで解決できる」と気づき、主体的に考え始めたと思います。ミーティングを行う際、かえるプロジェクトの時間をしっかり取って、メンバーの課題を聞いて解消にあたってきたので、モチベーションアップにもつながっていると思います。かえるプロジェクトを通じて、各組織で実施している取り組みを共有するようにしたことも、よい刺激になっていましたね。
「自分たちで解決するのは難しい」と思っていたことが、隣の組織では解決できている。「じゃあ、真似してみよう!」と行動につながり、自分たちだけで考えていたら「できない」と思い込んでいたことも、一歩踏み込んでチャレンジされる組織が多くなっていました。
Q:2年間のWLB社の伴走を経て、2021年から自走での取り組みに踏み切られました。今後は、どのようなプランで進めて行かれますか。
西岡:今回、自走するにあたって3つの柱を考えました。 1つめは「業務の効率性を高め生産性を向上させる」。効率的な働き方を阻害する要因について、常に解消に向けて組織で取り組んでいくということです。2つめは「社員の自己成長から夢実現へ」。現在は同じ地域連携中四国本部内でも、所属する組織が違うメンバー とリアルに顔を合わせる機会が減り、在宅ワークも進む中で、若い人が将来のキャリアを描きにくい状況があります。そこで、月1回社内から講師を招いてお話を聞くなど、キャリアを考える機会を作っています。
桜田:「キャリアを考える機会」は昨年からチャレンジを始められ、ベテランMRの方向けのキャリア教育研修プログラムを提供させていただきました。「自分自身の棚卸ができた。」「全体が、モチベーション上昇できるように、傾聴し、目標を前向きに持つことで解決できることも多いので、役に立てるように実践していきたい。」と前向きなコメントをたくさんいただきました。今年は若手層に発展したんですね。そして3つめは「組織横断的なコミュニケーション向上」。
2020年まで行っていた雑談の会を発展させ、「中四国Club house」と銘打った語りの場を毎月開催しています。これは聞くだけの人も参加できるので、「家事をしながら聞くことができ、発言を求められないので参加しやすい」といった声もいただいています。
大西:これまでのコンサルティングの中で、自分たちで課題を見つけ、アクションを考え、実行する際に活用してきた「アクションシート」を今年度も更新されていくとお聞きしました。これまでの取り組みが終わるのではなく、「継続、発展していくんだ」という西岡さんの強い意志が表れていますね。ぜひ、かえるプロジェクトを、組織の文化にしてくださいね。
Q:今後はどのような変化や成果を期待されていますか。
西岡:究極的な目標は、かえるプロジェクトが無くなっても、社員一人一人が効率的な働き方の阻害要因を考え自ら改善に動くことが当たり前になることです。効率的な働き方から生産性が高まり、高い成果が出て更にモチベーションが上がる。働きやすい環境で自身の描くキャリアを実現できるようにしたい。 ぜひ、若い人にそう実感してもらえるような取り組みにしたいですね。
森川:最優先に考えているのは、イノベーションを起こしてもらうこと。働き方改革の意義は、イノベーションを起こすことにあると思います。イノベーションを起こすことが楽しいと思ってもらうために、私たちマネジメント層も精一杯サポートしていきたいと思っています。
Q:後に続く企業や組織の方にメッセージをお願いします。
西岡:私たちが若いころは、先輩たちから「理由を抜きにやるのが当たり前」と頭ごなしに言われることが多かったですが、改めて考えるとムダな業務も多かったと思います。例えばレポートや報告資料が増えるのは、根本的に上司と部下間のコミュニケーションが不足しているから。普段からコミュニケーションが取れていれば、報告や資料は確実に減らせるものです。 そういったムダな業務について、皆で話し合いながら棚卸を行い、1つひとつ改善を図っていけば、必ず職場を変えることはできます。コミュニケーションが大事だというメッセージを、トップが率先して発信していくことが大事だと思います。
森川:働き方改革に前向きな意識を持つ社員が増えると、イノベーションのスピードも早くなるので、ぜひ積極的に取り組まれるとよいと思います。
働き方の変化がもたらすさまざまな効果に期待
エーザイ中四国本部の皆様は、業界の環境変化、コロナ禍でも歩みを止めることなく取り組みを進めてこられました。アンケートでも「心理的安全性が上がった」との結果が出ており、若手社員のモチベーションが高まった上に、管理職の意識も大きく変化しています。現在は、自走による取り組みを堅実に歩まれていますが、引き続き弊社もフォローをさせていただき、皆様のイノベーションを後押ししたいと考えております。森川さんと西岡さんには貴重なお時間をありがとうございました。
(※)心理的安全性(psychological safety)とは、その組織の中で安心して発言ができる状態のこと。Google社の研究で「心理的安全性がチームの生産性を高める重要な要素である」と結論づけたことで注目されている。