Case Study

済生会貴船福祉ケアセンター様

多職種の職員同士が連携してコミュニケーションもサービスも向上! 「5分カンファ」「良いところ付箋」など、参考にしたい福祉現場の事例

県を挙げて、さまざまな角度から働き方改革に取り組む山口県。今回は、県が実施した「働き方改革モデル事業」のオンライン報告会より、山口県済生会の傘下施設である「済生会貴船福祉ケアセンター」の取り組みについてお伝えします。人材確保のためにも働き方改革が急務といわれる福祉の現場でどのような取り組みを行っておられるのでしょうか。


済生会貴船福祉ケアセンターの皆様

済生会貴船福祉ケアセンター
1970年に設置された「特別養護老人ホーム貴船園」を母体として2006年にスタート。中・重度の要介護認定を受けた方たちが日常生活を送るために利用する福祉ケアセンターとして、特別養護老人ホームで働く職員を中心に構成され、地域に根差した活動を続けている。職員間の連携を強化することでサービスをさらに向上させ、協力しあうことで働きやすい環境を整えていきたい、との想いから働き方改革に取り組む。


同センターでの職種は6種に大別されますが、一堂に会して本音で互いの意見を交換する場が限られており「連携が取れていない」と感じることも多かったといいます。職員間の連携を強化すればサービスの質があがり、働きやすい環境も整っていくと考え、各職種からメンバーを選んでチームを構成。今回はメンバーを代表して山本達也さんが発表してくださいました。

「ありたい姿」を決める際、遠いゴールより「職員間の相互理解」に焦点

どんなあり方をめざしていくか。まずは貴船園の「もったいないところ」「いいところ」をみんなで話し合いました。とくに「もったいないところ」に注目しながら進めたところ、以下2点が課題として挙がってきました。

・職種間でのコミュニケーションがあまり活発でなく、連携が取れていない
・連携が取れていないがゆえに組織としてもうまく機能していない

これらの課題から「話しやすい環境をつくり、それをベースに組織づくりを見直そう」という目標を立てたものの「このゴールは遠すぎる」と感じたため、まずは「職員間の相互理解」に焦点を当てていくことに。

山本さん
「ありたい姿」として「他職種の業務内容を理解し、互いに思いやりを持とう」というのを掲げました。というのも、どの部署もそれぞれに多忙を極めていることもあり、なかなか自分の職種以外に目がいかず「自分が一番大変」と思いがちです。私自身は生活相談員としてやり甲斐を感じながらも、大変なこと、もっと改善できることもあるのになと思っています。そういった想いを各自の職種から他職種へ直接伝えてもらうという作業をしました。結果、誰もが大変だし悩みを抱えているんだとわかって、ほかの職種への感心・興味が芽生えたように思います。

他職種の業務内容を理解するために実施した2つのアクション

アクション①
信頼関係を築く第一歩として「良いところ付箋」を活用


個人的な話がなかなかできていなかったため、コミュニケーションツールとして「良いところ」を言い合うことに。6〜7人のグループに付箋を配り、各メンバーが「●●さんの良いところ」を書いて張っていくようにしました。

山本さん
良いところを挙げてもらうのは嬉しくて活力がわきますし、人の良いところを探すのは楽しいものです。相手が自分をどう見てくれているかを改めて認識したり、他の人の良いところを知ることで自分に足りないものを発見できたりもします。自分では気づかなかった良さもわかるので、それが自信につながって「もっと伸ばしたい」と思える効果も。また、職員同士で笑いながら話す機会も持てました。本音で話せる環境づくりとして、職員間のコミュニケーションツールとして、「良いところ付箋」は継続していきます。

アクション②
特定の職種だけで悩みを抱え込まないように「5分カンファ」を実施


「今日、今、話したいことがある」と思ってもなかなか集まれないという課題を解決するため、必要時に随時多職種で集まって検討できる場をつくりました。

山本さん
コンセプトとしては良いものの、実際の運用はなかなか難しいと感じたので、集まりやすい時間を抽出してみたり、現場全体に広めるためにパッと興味を引くようなポスターを目立つ場所に貼ったり、説明書を作成して各部署に配布するなど、広報活動にも力を入れました。ただ、メンバー以外にはまだまだ周知が十分ではなかったので、誰もが5分カンファを呼びかけられるよう、広報活動ももっとがんばりたいです!


せっかく5分としているのに議事録作成に時間を要しては本末転倒なので、自分のコメントを付箋でそのまま貼ればよいという方法を取りました。

 

働き方改革を振り返って。「話をすることでわかり合える!」

チームで話し合うことで以下のことが達成できました。

・メンバー間で目指すべき方向性を共有できた
・心理的安全性が確保でき、本音で話ができた
・互いの職種の大変さや悩みが理解できた
これらの実感を施設の職員全員で共有→多職種協働が実現!

山本さん
利用者の幸せは、私たち職員の連携が深まり、幸せに働くことで自ずから向上します。では職員の幸せとはどんなことでしょう。まずは悩みを一人で抱え込まず、チームワークで楽しく協働していきたいと思っています。
働き方改革のチームはメンバーとして恵まれているなと感じています。おかげでチームとしてまとまって動けたし、職種の垣根を越えて話すこともできています。この輪をどう広げていくかは今後の課題ですね。
私たちの仕事は「人」を相手にするものですから、互いに話し合う姿勢を大切にしたいです。面倒に思えて逃げ腰になることもあるかもしれませんが、決して逃げずにじっくり向き合って、みんなで最良の方法を模索しながら働き方改革を進めていきたいと思います。

 

担当した認定上級コンサルタント*(ワーク・ライフバランスコンサルタント養成講座第37期卒業生)
藤原千晶の総評

昭和45年にスタートした歴史ある組織なのでさまざまな成功体験がある一方で、「変化する」ことが難しいという課題もありました。そんな中、1年目に取り組まれた介護職 主任のみなさんは「これまでの当たり前や常識に改めて向き合い、会議の進め方、内容、作業の手順などを見直したりして、残業時間の削減に成功しました。

現場からは「なぜこんなことが必要なんだ」といった抵抗などもあり、大変なご苦労もありましたが、実際に会議の時間が短縮されて仕事がスムーズになったことで、徐々にその抵抗感も薄れていきました。

その流れで2年目に入られたわけですが、今回のチームは「多職種連携」をメインテーマのひとつとして積極的に取り組まれました。3つのポイントに分けてご紹介させていただきます。

●「5分カンファ」「良いところ付箋」など覚えやすいネーミングをつけた

複数の人に向けて何かを広めていく際には、長々と説明するよりも、シンプルでわかりやすい説明やキャッチがあると伝わりやすいものです。ポスターや説明用資料も作られたりして、さまざまな工夫をされました。

●「まずはやってみよう」

「もしこうやったら、結果はどうなるんだろう」という心配もある中で、「まずはやってみよう、そしてもっと改善できる点があるとしたら、もう一回やり直そう」という、トライアンドエラーの精神。みなさんのその姿勢がすばらしい結果を生んだと思います。

●会議の中で「わはは」「がはは」という笑いがたえなかった

今回のオンライン報告会の冒頭で、山本さんが「今日は勝負メガネをしてきました」とコメントで笑いをとっていましたが、普段の会議でも笑いがたえなかったのが印象的でした。働き方改革の中には重くなりがちなテーマもあります。でも、そんな場面でもメンバーの誰かが空気をかえるひと言を言ってくれる、そして「よっし、じゃぁ次に進もう」という前向きな変化が起きていましたね。

「良いところ付箋」のアイデアも、メンバーのひとりが「じつは子どもの学校でこんなことをやっているんですよね」とお話しされたのをきっかけに、「あ、それいいね」とそのアイデアが採用されたり。ワークとライフがいい感じに相乗効果を生み出している一例だったかなと思います。

今回の多職種連携は介護の現場での取り組みでしたが、多様な業種で取り入れ可能なものです。専門職がたくさんいらっしゃる職場もそうですし、たとえば営業と施工側など立場が違う方々が一緒に仕事をされる職場などはどうしても意見の相違が出てきますよね。そんなとき、貴船園さんのようにお互いを知り、尊重し会いながら、対話によってじっくり取り組んでいくことが、解決の糸口になるのではないでしょうか。

私も関わらせていただく中で「こんな方たちと一緒に働くなんて、なんと楽しい職場だろう」「もし私の両親に介護が必要なときは貴船園さんのような園にお世話になりたい」と感じました。それはつまり、採用が難しい時代、離職が多い時代にも、一緒に働きたいという気持ちを持たせてくれる職場であり、利用者へのサービスの気持ちがすばらしいということ。今回のコンサルティングを通じて、身をもって感じさせていただきました。


認定上級コンサルタントとは…当社主催「ワーク・ライフバランスコンサルタント養成講座」を受講、認定試験を合格された方の中で、当社が認定している上級ワーク・ライフバランスコンサルタントとして実績豊富なコンサルタントの事を指します。

 

文/山根かおり

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