Case Study

マツオカ建機株式会社様

トップダウン型の成果を挙げながら、いざ、ボトムアップ型の取り組みへ 社長・リーダー・メンバーが各自の立場で活躍するマツオカ建機の働き方改革

マツオカ建機株式会社様トップ東京ドームと同じ敷地面積に大量に並ぶ仮設工事の資材(三重県三重郡川越町)

建設機材・備品のレンタルや、住宅や施設の建築・改修に欠かせない足場(仮設)の設置を 担うマツオカ建機株式会社(三重郡川越町・従業員数 200 名) で、働き方改革に向けたボトムアップ型の取り組みが進んでいます。

これまでにも、生産性向上に向けた働き方改革に長年取り組んできた同社。紙を中心とした 仕事の進め方から脱却し、業務フローの多くにデジタルトランスフォーメーションを図っ てこられました。しかし、そういった「トップダウン型の改革だけでは生産性向上に限界が ある」と考え「現場を主体とするボトムアップ型の取り組みで、全社的な改革をさらに進め たい」と、弊社にコンサルティングをご依頼いただきました。


残業時間を前年比で 54%も削減

初年度はリーダーが自ら取り組みたいと手を挙げた 3 部署をモデルチームにして、カエル 会議を実践。仮設工事(工事現場にて足場の設置・解体)を担うチーム、建設現場に設置さ れるハウスの製造や現場に必要な什器備品のレンタル を行うチーム、足場資材のレンタルを行うを 担う仮設機材チームが対象となりました。

今回の取り組みで、例えば以下のような具体的成果が挙がっています。

仮設工事チーム:お客様満足度 100%を達成しながら 10 点満点評価のうち 9 点、10 点をつけていただけるお客様の割合を増やすことに成功。

ハウス製造・レンタル備品管理チーム:2 人 1 組でのローテーション勤務体制を作ること で、ハウス製造チームの残業時間を前年比 54%にまで削減。同様の方法でレンタル備品管 理チームでは 40%の残業削減に成功。

仮設機材チーム:カエル会議を通じた心理的安全性の向上や関係の質の向上を全メンバーが実感。

大きな変化を遂げながら、今なお改革に邁進しているマツオカ建機株式会社の松岡賢社長 と 3 人のリーダーにインタビューをさせていただきました。

松岡社長インタビュー

「カエル会議は心理的安全性を高めてチームを育む」

マツオカ建機株式会社様インタビュー1

■松岡 賢(まつおか まさし)様 プロフィール

マツオカ建機株式会社 代表取締役社長

日本大学生産工学部卒業後、枚方太陽機械株式会社に入社。有限会社ビータマザーを起業。25歳のとき、父親急逝後にマツオカ建機に入社。取締役営業部長、専務取締役を経て、2019年代表取締役社長に就任。

 

―今回のコンサルティングを通じてどんなよいところがありましたか?

生産性を向上することや、働き方改革をさらに進めていこうという「思い」は、従業員にし っかりと浸透してきています。ただ、それぞれの現場で、具体的な業務の 1 つひとつについ て「何をしたらいいか」のイメージはつきづらいものです。今回、3 チームがモデルとなっ てカエル会議に取り組み、リーダーはもちろんのこと、メンバーにも成長や変化が起きていました。中でも大きな変化が「心理的安全性の確保」と「チームビルディング(チームの一 体感)」にありました。これらは、組織全体で生産性を高めていくときに欠かせない大前提 であり、この前提がそろった、というのが大きな成果です。

―これまでのトップダウン型の取り組みとの違いは?

「基幹システムの移行」「段取りの AI 化」「デジタル化」というこれまでのトップダウン型 の取り組みは、「マグロを釣る」ようなもの。生産性向上に向けた一発逆転をねらうやり方 です。一方で、ボトムアップ型で取り組んだカエル会議は「イワシを釣る」ような取り組み。 スモールゴールを描き、日々実践し、どんどんと積み上げていって成果を出すやり方です。

企業経営者の中には、現場にも「マグロを釣ってほしい」と要求する人もいるかもしれません。ただ私は「マグロを釣る」ような取り組みは経営者がすべきことだと思っています。なぜならマグロを釣るのには時間がかかり、その長い期間、モチベーションを維持することは現場にはできないからです。本来の業務を進めながら、釣れるかどうかわからないマグロをねらい続ける、そんな領域で、モチベーションの維持を現場に求めてはいけないと考えます。それは経営側の責任です。現場の仕事で「マグロを釣る」というミッションを与えたら「どうやってマグロを釣るのか」という議論から始めてしまうでしょう。それではいつまでたってもマグロが釣れることはありません。

だから、日々の取り組みで成果の見えやすい「イワシを釣る」ことが現場に向いています。イワシを釣ると次のモチベーションにつながっていく、するとどんどんやっていけるはず。毎日イワシを釣ることが積み重なり、最終的に大きな成果につながっていきます。大きなマグロを経営側が釣ってきて、小さなイワシを現場が釣る。その両方が全社的な働き方改革に欠かせない、重要なエッセンスであると思っています。

―マツオカ建機さんの仕事の特徴とカエル会議の手法はフィットしましたか?

とてもフィットしていました。

私たちの仕事はお客様からのいかなるオーダーにもお応えすること。最終的には現場で不要になるもの(足場やパイプ椅子等)を提供 しているため、お客様側の様々な仕事の中でも当社への連絡というのは優先順位が 低くなります。オーダーいただく内容の精度(依頼内容や数量等)は、サービスを提供する 日が近づけは近づくほど高まります。「明日●●を 100 個、××に 10 時に届けてほしい」 と。ただ、そのオーダーにお応えする現場では備品の管理や物流の手配が必要なので、事前 にある程度準備をしておきたい。「早く情報がほしい」という動機を持っています。とはい え、早く情報を手に入れても確定までには何度も変更が生じ、現場では何度もそれに応じる 必要が出てきます。こんなジレンマのある仕事なのです。

カエル会議には、この状況を打破する力があるとわかりました。私たちは一人ひとりがその業務に精通しているプロフェッショナルです。その業務のことをよくわかっている。そういった領域で改革をするのに必要なのが「きっかけ」であり、まさに「カエル会議」でした。

株式会社ワーク・ライフバランスのコンサルタントが圧倒的に他と違うと思ったのは、ファ シリテーション。「こうすりゃいいやん」というアイデアや意見を、参加しているメンバーからどんどん導き出すスキルを持っていらっしゃる。そして、他社はどうやって解決してい るのかという解決策も豊富です。私たちが業務に精通しているからこそ見えなくなってし まっている解決策に、気が付くことができた。この二つを掛け合わせることで、ブレイクス ルーが次々に起きたと考えています。

マツオカ建機株式会社様インタビュー2インタビューに応えてくださった松岡社長とリーダーたち(左から山原さん、松岡さん、湯田さん、近藤さん)

―2 年目を迎えるにあたってどんなことを考えていますか?

まず、モデルチームの数を 6 つにして、ボトムアップ型で取り組める人たちをもっと増や そうと考えています。初年度の 3 チームも含めて 9 チームが取り組めます。新たに加わる 6 チームのうち 3 チームは、初年度のリーダーがコンサルタント役となり伴走しながら面倒 を見ます。残りの 3 チームについては株式会社ワーク・ライフバランスに支援していただ きます。

初年度のリーダーがコンサルタント役になる。これは、1 年目の取り組みで、カエル会議を 通じて 3 人が成長していることがとてもよくわかったからです。リーダーとしての成長を これからも続けていくこと、そして他のリーダーの成長にもつなげていくことを期待して、 リーダーが他チームを支援する方法をとることにしました。また、弊社にはグループ会社の社員を含め 560 名ほどの従業員がいますが、こんなにもすばらしいリーダーが 3 人いるん だということを、まだ知らない人もいるかもしれない。3 人のことを社内に広く紹介したい、 どんな人なのかを知ってもらいたいと考えたのも理由のひとつです。

リーダーは何に悩み、何を得た?そしてチームはどう変わった?
モデルチームのリーダー3 名へのインタビュー

システムへの投資や生産性向上等への積極的な取り組みを経て、いざ、ボトムアップ型の改革を図ろうとした際、当のリーダーたちはどんな気持ちで臨まれたのでしょうか。「働き方改革に取り組むモデルチームを募集します」と、松岡社長から声をかけられたとき、自ら手を挙げたのが湯田さん、山原さん、近藤さんでした。期待と不安、どちらも持ちながら自発的に参加し、モデルチームとして取り組んできた半年間を振り返っていただきます。

山原直樹さん(専門センターグループ 統括センター長)

「リーダーが率先して解決しない、これが大事で難しい」

マツオカ建機株式会社様インタビュー3ワーク・ライフバランスコンサルタント養成講座も受講されたリーダーの山原さん

手を挙げた当初は、必ずしも「前向き」というわけではなかったと思います。ただ、コンサ ルティングの支援を受けるにあたって、ワーク・ライフバランスコンサルタント養成講座を リーダー3 人で受講しました。すると、他の受講生(他社で同じように働き方改革に取り組 もうとする経営者・担当者)との議論で取り組みの重要性を認識でき、マツオカ建機として どのくらいの予算を投じているのかということもわかりました。次第に「何に取り組むのか」 がわかってきたので、プレッシャーこそありましたが「よし、やろう!」という気持ちにな りました。

マツオカ建機株式会社様インタビュー4大量のレンタル備品が並ぶ倉庫にて

マツオカ建機株式会社様インタビュー5

マツオカ建機株式会社様インタビュー6

働き方改革で大切なことは「走りながら考える」そして「しっかり実現していく」ことだとわかりました。まず走り始める、そこで考える、考えたことは形にしていく。そうするともっと走れるようになるんです。こうした取り組みの中で、様々な変化を感じました。

最も大きな変化が「問題解決意識が一人ひとりに生まれたこと」です。カエル会議をやっていなければ、私がリーダーとして率先して問題を解決してしまっていたはずで、こういった一人ひとりの変化は出てこなかったと思います。私が解決するのではない、みんなで解決するということの重要性を学べたことは私自身にとっても大きなメリットでした。仮に口数の少ないメンバーがいても、口には出さないけれど考えていること、思っていること、ひらめいていることがあるんです。実際に自分が解決しないようにと気を付けると「あー、やっぱりそうか」とメンバーにもたくさんのアイデアがあるという実感を持つことができました。

カエル会議では、みんなで笑いあうような時間も大切だと思っています。例えば、ある若手 が「超特盛の牛丼 2 杯とカレーを食べた」と話していれば、「おまえ、どんだけ食べれるん や」とみんなで笑ってからカエル会議を始めたりしています。こういう自然なアイスブレイ クもいいなと気づいたんです。

リーダーが率先して解決しない。そうわかってから、トップダウンとボトムアップの違いについても理解を深めることができました。トップダウンって「それ」になってしまうんですよ。「それ」以外のやり方に余地がない。ボトムアップだと「それ」ではなくて「あれもこれもある」の中から「これ」を自分たちで決めるんです。「それ」と先に言わない。みんなの意見を集約していきながら「これ」を出していく。すると全員に納得感がある。みんなの「これ」というのがよいのです。

近藤和平さん(株式会社プライド物流 仮設機材センター)

「不甲斐ないリーダーだけれど、みんなのために」

マツオカ建機株式会社様インタビュー7どんなときにも「まぁ、やってみるかと楽観的なんです」と話す近藤さん

モデルチームに手を挙げたのは、山原に「一緒にやらないか」と誘われたからだったと記憶しています。この取り組みが失敗するのか、成功するのかはよくわからなかったし、いつもの私の性格なんですが、楽観的に「まぁ、やってみるか」と思ってスタートしたんです。

今は「やってよかった」と思っています。働き方改革に取り組んでいる途中で、労働時間を削減する効果があるということが見えてきて、実際に参加しているメンバーのみんながよくなるのであれば意味があるな、よし、続けようと思うようになりました。

カエル会議で議論して導かれる結論は、多くの場合「ちょっとしたこと」です。でもこの「ちょっとしたこと」の先に「大きな影響」があるということも大きな学びになりました。例えば伝票の先出し(情報を少しだけ早く共有すること)は、様子を見ていた他の人たちからも「こちらでもやってみよう」と広がりがありました。そしてみんなが「よくなった」と喜んでいる。小さな工夫を実行に移すことには、そういった大きな影響があるんだという実感を持つことができました。

これからは「もっと全員で」「隔たりをなくして」チームみんなで取り組んでいきたいと考えています。カエル会議では、最初は雑談をしたり、みんなが答えやすい問いかけから始めたりしていました。特にお題を決めてアイスブレイクをしよう、としたわけではなく、「前回はこんなことがあったよねー」と緊張感をやわらげて、砕けた雰囲気で始めるようにしていました。会議中にもできるだけボトムアップ型にできるように、私からは「こうしようか」ではなくて「どうしようか?」と問いかけるようにしていました。すると山原も話していたように「これ」ができてくる。「自分たちが決めたこと」ができ、自分たちで決めたことだからと、自分たちで一生懸命に取り組んでくれていた、そんな実感も持っています。

カエル会議をこれからも続けていきますし、他の部署にも広げていきます。これからの夢や希望は、全員残業ゼロで、休日を増やして、働きやすく、みんなが笑って帰れるような職場を作っていきたい、というものです。不甲斐ないリーダーですし、うまく言葉で説明できないんですが、そういう私のことを理解してくれて、みんながついてきてくれています。これは本当にうれしいですし、もっといい職場をつくりたいと思う原動力になっています。

湯田 祐司さん(仮設足場工事部 部長)

「ありたい姿は気が付いたときには手に入っているもの」

マツオカ建機株式会社様インタビュー8「ありたい姿を見失わずにカエル会議を続けていれば、気づいたときにはありたい姿は手に入っているもの」と話す湯田さん

私たち仮設工事部は、現場で足場を組み、作業が終わったら解体して引き上げてくる仕事で 22年度当時の所属・役職の正式名 称にてご確認をお願いいたします。 す。10 年ほど前までは労働時間がとても長いことで”有名な部署”でもありました。その後、 様々な取り組みによって相当程度、労働時間については削減することができていましたが、 それでも社内ではトップクラス。自分たちでこれ以上削減するのは難しいのではないかと 考えていました。そんなときに社長からモデルチーム募集の話を聞いたんです。率直に「チ ャンスが来た」と思いました。

私たちは常に忙しい状態なので、当初はメンバーに受け入れてもらえるだろうかと少し不安に思っていたことを覚えています。カエル会議のような議論する時間を取ること自体がもったいない、タスク処理に充てたい、そう思われるのではないかと感じていたんです。そこで、ワーク・ライフバランスコンサルタント養成講座で学んだ内容をもとに、「なぜ私たちは働き方改革に取り組まなくてはならないのか」を話しました。この「腹落ち」はとても重要でした。

そして、キックオフのときに「ありたい姿」をみんなで決めてみると、全員が「ここを目指していくんだ」「こうなったら私たちは最高じゃないか」となっていったんです。その瞬間、みんなが前向きになって、スタート時のつまずきや心配はすーっと消えていきました。想像以上にみんながアイデアを出してくれて、トップダウンで決めるような「バリュー」ではなく、みんなで決めた「ありたい姿」だったのがよかったと思います。

マツオカ建機株式会社様インタビュー9

マツオカ建機株式会社様インタビュー10案件ごとに足場の設計を組み、必要な資材の手配を進める

カエル会議は心理的安全性を高めて何でも言える場にしていこう、とみんなで話してきました。冒頭でアイスブレイクを設けるのはもちろんのこと、一人ひとりにどんな姿勢で参加してほしいと思っているのか、期待を伝えました。アイデアを言いにくいかもしれない新入社員には「全く新しい視点で、どんな風に見えているか教えてほしい。仕事に慣れてからでは見えなくなるものを、あなたは見ていると思うから」と伝えました。とにかく何でも話題にできるようにしたいと思っていたので、カエル会議に「アジェンダなし」という会を設けたりもしました。「思っていることを何でも話しちゃおうよ」というカエル会議です。

マツオカ建機株式会社様インタビュー11

マツオカ建機株式会社様インタビュー12

マツオカ建機株式会社様インタビュー13

マツオカ建機株式会社様インタビュー14設計図に基づいてとび職が現場で足場を組み、工事が終わればまた解体する

この取り組みで分かったことは、ありたい姿を見失わずにカエル会議を続けていれば、気づいたときにはありたい姿は手に入っているものなのではないか、ということです。繁忙期で本当に忙しいときにも力を貸してくれたメンバーたちのおかげで分かったことですし、心から感謝しています。今このやり方がベストだと思っていても、変化の激しい社会なので来年にはもう間違ったやり方になっている可能性さえあります。だからこそ、これからはもっともっと変化に対応できるようになるために、お互いに協力しあえるチームでありたいと思っています。

マツオカ建機株式会社様インタビュー15担当コンサルタント:(左から)風間正彦松久晃士、(一番右)山﨑純平

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