Case Study

日本通運株式会社様

物流業界でも挑戦! 「女性活躍」を超えた、正しい「働き方改革」への一歩

2017年に創立80周年を迎えた日本通運株式会社。社員数は単体で約3万2000人、売上高は約1兆1000億円、国内のみならずグローバルな物流ネットワークを持つ世界最大級の総合物流企業です。陸・海・空をはじめとしたあらゆる輸送モードに対応する事業を展開している日本通運の中で、国内外の海上輸送や海外引越事業を行い、2700人の社員を抱える海運事業部門の事例をご紹介します。

「女性活躍推進診断」をきっかけに改革スタート

日本通運では、2016年まで陸上輸送、航空事業、海運事業と部門別に新卒採用活動を行っており、中でも海運事業部門は、他の部門に比べて女性の応募者が多いことから、これからの女性社員の働き方を摸索していた中で、私たちが提供するサービス「女性活躍推進診断」に申し込んでくださいました。

「女性活躍推進診断」とは、「採用」「継続就業」「労働時間等の働き方」「管理職比率」「多様なキャリアコース」の5つの分析から、組織における女性の活躍レベルを診断するサービスです。診断の結果、まさに日本社会が抱える課題をそのまま表したような問題が、はっきりと浮かび上がってきました。

30代で減少する女性社員、女性管理職の少なさ、今後親の介護が必要になるであろう団塊ジュニア世代の管理職の長時間労働など。特に、「結婚や出産では退職しないけれども、実際に子育てをしながら働く中で、仕事と生活が両立できないと感じ、退職してしまう」という人々の割合の高さが顕著でした。

2000年代以降に採用した女性社員たちが、今後も出産や育児を機に退職してしまうようでは、組織としての競争力が保てない。創立100周年を迎えることができない。そんな強い危機感をお持ちでした。

こうした結果から、女性社員に対して配慮するだけでは真の女性活躍は進まないのだから、職場全体の長時間労働部分を改善し、復帰した女性たちも両立ができる職場に変えようという課題認識に至りました。そして海運事業部門は「これからは残業時間が月20時間を超えるような会社では採用競争の世界で勝ち残れない」と、本格的に脱・長時間労働とワーク・ライフバランスの実現に向けた働き方改革へのチャレンジが始まったのです。

属人化排除でメンタルストレスが大きく減少

まず2016年4月に、海運事業部門の支店長、部長全員を集めました。冒頭40分で、なぜ今働き方改革が必要なのか、弊社代表・小室淑恵が講演させていただきました。その後30分ほど、寺井克宏常務(現在は専務)と対談しながらトップの決意を発信しました。寺井常務は「いい企業、と評判の企業は月間残業時間20時間を切っている。目標は20時間以内だ」と高い目標を発信されて、私たちも驚きました。

※弊社がご提供する「講演」についてはこちらをご覧ください。

その後、海運事業部門の中から「一般雑貨担当グループ」「設備輸送担当グループ」「海外引越担当グループ」の3チーム、計34名をトライアルチームに選出しました。講演会からトライアルチームの選定までの道のりで半年かかってしまうほど、船出はかなり困難でした。

「海外とのやり取りで24時間業務が動く」など、どのチームも多くの課題を抱えていました。当初「なぜ私たちだけがやるんですか?」と、ネガティブな反発も強くありました。しかし各チームのリーダーたちとこの取り組みの意義を議論し、特にこの働き方改革こそが人材育成につながるのだと腹落ちすると、メンバーから積極的に意見が出るようになりました。

ゴールイメージを設定する際には、徹底的に本人たちが納得して目指せる目標を考えてもらいました。「1」チームのすばらしいところ、2)チームのもったいないところ」を書き出してもらったところ、2)のところで、本当はもう少し休めたほうがよい、テレワークなどもできたほうがよい、などの声が上がりました。そこで、チームが理想の状態に近づくために必要なことは、どんどん目標に入れて取り組んでいきましょう、と背中を押していきました。

設備輸送担当グループでは、当初「担当クライアントの業務が滞ってしまうので休みは取れない」といった雰囲気でした。そこで、1クライアントごとに2人以上で担当する複数担当制に変更し、主・副担当を明確化しました。図のように、人数は増やさずに、他の人の担当のサポートにそれぞれが入るようにしたのです。

その結果、全員が月に1日以上の有給休暇を取得できるようになり、トラブルは何も発生しませんでした。

海外引越担当グループでは毎朝、最小単位のユニットごとに、5〜10分のミーティングを実施することにしました。「その日のスケジュール」「優先順位」「抱えている課題・トラブル」「業務終了時刻の目標」など口頭で共有することに。

この取り組みにより、優先順位やタイムマネジメントを考えながら効率よく仕事を進めるトレーニングになりました。トラブルも素早く共有し、メンバー間で知恵を出し合いサポートできるようになり、ストレスは大きく減少しました。1人で抱え込むことのない、チームワークの良い働きやすい職場に生まれ変わったのです。

さらに、集中したい時には、電話の取り次ぎや話しかけるのを控えてもらう「集中タイム」の札を活用して、メリハリをつけました。

一方、コミュニケーションをより増やすための工夫もしました。それまでパソコン画面が大きな「壁」となって向かいの席の人ともほとんど会話がなかったのに対して、パソコン画面を机に斜めに配置して互いの顔が見えるようにしました。すると、コミュニケーション量が増え、「若手の指導が行いやすくなった」「報告、連絡、相談がスムーズになった」などの声が上がりました。

幹部の「机、購入したら?」発言で改革が加速

取り組みが少しずつ熱意を帯びる中、さらにチームの背中を押す出来事がありました。4カ月目の中間報告会で、メンバーから経営陣に向けて、先ほどのパソコンを斜めに配置する施策を報告していた時のことでした。ある経営幹部が「パソコンが斜めだと仕事がしにくい、腰が痛いと言っていたね。それなら新しいタイプの机を購入したらいいじゃない。買っていいよ」とおっしゃったのです。この発言は、改革の勢いが急速に増すきっかけとなりました。

なぜでしょうか。実は、これまでも日本通運海運事業部門では「MKR(もう帰ろう)」運動など、残業削減に向けてさまざまな取り組みを行っていました。

しかし、一時的に残業削減の機運は高まっても、社員は「どうせ会社がコスト削減を目的にしている活動なのだ」という冷めた気持ちを持っていたので、なかなか成果は上がらず、いつの間にか忘れ去られている。そんなことの繰り返しでした。

それが、経営幹部の「机を買ってもいい」という発言から、「コストをかけてでも今回の取り組みは実現すべき。よい提案はバックアップする。もちろん残業代削減が目的ではない」ということが伝わったのです。そして「今回の取り組みは経営陣がかなり本気だ。それほど本気で後押しされている活動なのであれば自分たちも根本から仕事のやり方を見直そう」と、社員のスタンスを変える大きなきっかけになったのです。

海外引越担当グループでは、フリーアドレスにもトライしました。各自が机を徹底的に整理して私物を置かないようにし、どの席でも仕事ができるようにしました。物を探す時間が削減されて生産性が高まっただけでなく、ある女性社員からは「いつも課長が座っていた位置に座ってみたら出世意欲が上がりました(笑)」という声も上がって、活性化につながりました。

このチームは、対予算比130%の営業利益を達成し、残業時間はなんと月間平均20時間以内を達成しました。当初、20時間を切る目標は高すぎるのではと思っていたので、達成したことに驚きました。

ある管理職のメンバーは、長時間労働を脱した女性社員たちがいきいきと活躍する姿を見て、これまで「女性社員には〝配慮〟をしなければ」と及び腰だったのが、「活躍できる社員に性別は関係ない」と、姿勢を改められたそうです。

取り組んだメンバーからは「食事をきちんと作り、食べるようになって健康になった」「自分の人生を考え、働くことと人生を楽しむことの調和を考えるようになった」「家族を大事にできるようになった」など、ライフを充実させたという声が続々と報告されました。

2017年度には取り組みを30チームに拡大し、それぞれの目指す働き方の実現に向かって意見を出し合っています。

これらの取り組みの成果によって、人材採用面にも良い影響が出始めています。2017年卒の新入社員は、海運事業部門の最終面接時に志望理由を以下のように語ったそうです。

「会社説明会の時に、子育て中の人事担当社員の方が夕方になると自然に退席されていた姿が印象的でした。ポーズではなく、子育て中の社員でも負い目を感じずに本当に活躍できる風土がある。そこにひかれて入社したいと思いました」

学生たちは、採用パンフレットや会社WEBサイトに並ぶ、きれいに〝お化粧された言葉〟ではなく、その会社の実態を冷静によく見ています。

日本通運株式会社の成功ポイント3

  • 「女性活躍」から、組織全体の脱・長時間労働へ舵を切った
  • 残業時間月20時間以内という具体的かつ明確な目標設定
  • 経営陣の本気と後押しを感じて、社員も根本から仕事のやり方を見直した

※こちらの事例は、弊社代表 小室淑恵の著書『働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例20社』よりまとめています。
※文中でご紹介している弊社の「講演」についてはこちらをご覧ください。

担当コンサルタント

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