Case Study

東邦ガス株式会社様

株式会社ワーク・ライフバランスの研修プログラムを活用し、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)推進のために全職場約250名のファシリテーターを育成。カエル会議を通じてダイバーシティの理解浸透を推し進める!

東邦ガス様事例トップ

今回ご紹介するのは、東邦ガス株式会社様のカエル会議の取り組みです。同社は東海3県を中心に地域社会の発展に貢献している総合エネルギー企業です。すべての職場でのD&I推進のために、ファシリテーター教育を行い、カエル会議の実践と定着に取り組まれました。このたび、事務局として同社のD&I推進に従事されている、人事部 人財グループ 次長(チーフ)加藤知洋様と人事部 人財グループ 課長 上谷麻美様に弊社の担当コンサルタント桜田陽子松久晃士がお話を伺いました。

実施したお取組み

  • 2021年春に管理職向け講演会
  • 2021年夏に「ダイバーシティ&インクルージョン推進 カエル会議ファシリテーター研修」を全社約230部署を対象に実施し、全社へカエル会議を展開
  • 2021年秋に「カエル会議ファシリテーターフォローアップ研修」を実施
  • 2022年度も「カエル会議ファシリテータ―研修」「フォローアップ研修」を実施し、全部署でカエル会議の開催および解決策に向けた取り組みを行っていく

講演と研修を依頼するきっかけ

株式会社ワーク・ライフバランスコンサルタント(以下、WLB):弊社に講演と研修プログラムを依頼されたきっかけをお聞かせください。

東邦ガス株式会社 人事部 人財グループ 課長 上谷麻美様(以下、上谷):2020年度当時、私は女性活躍推進の担当をしており、21年度から新たな行動計画を策定するにあたって、改めて女性活躍推進の課題や当社の状況の振り返りを行っていました。女性活躍推進は少しずつ浸透していましたが、女性が少ない職場などではピンときていないこともあり、組織全体の雰囲気・風土づくりに焦点を置くことにしました。

また、組織改正や異動に伴い、これまでとは異なる部門出身の人たちとチームを組み仕事を進めるといった、メンバーの多様化が進んでいる状況下だったこともあります。女性に限ったテーマとしてではなく、まさに従業員の多様性に注目し、D&I推進という観点で全組織的な理解浸透をしていこうと考えました。

そんなおり、小室社長の講演を拝聴し、まさに弊社の課題にフィットしていると感じました。人口ボーナス期からオーナス期の働き方にシフトしなければならないという話が、組織的な転換期にある弊社の状況とリンクしていたので、ぜひ社内で講演をしていただきたいと思ったんです。

講演と研修を並行して実施

WLB:研修を企画された当初は、社内でいろいろな反応があったと思いますが……。

上谷:カエル会議に関しては、「通常業務が忙しい中で、みんなで集まるヒマなんてない」というネガティブな反応もありました。ただ、管理職向けの講演と、研修を通じたファシリテーターを中心とするボトムアップでの活動を並行したことがよかったと思います。

今までもダイバーシティの講演は行ったことがありますが、業務多忙のなかでは、どうしても優先順位が低くとらえられがちでした。しかし、講演を通じて「関係の質」の構築が大事だという理解が浸透し、管理者から前向きに取り組みたいという声が出ました。

また、ファシリテーター研修を通じて、少しずつ「こういうことをすればいい」という理解が進んだのではないかと思います。

東邦ガス様事例上谷様

取り組みの原動力になったもの

WLB:当初はネガティブな反応もあったなか、上谷様には強いお気持ちで進めていただきました。その原動力はどこにあったのでしょうか?

上谷:私は研修の担当もしているのですが、マネジメント研修や階層別研修のなかで「コミュニケーションが取りにくくなっている」という声を聴くことがありました。

部門をまたいで異動すると、もともとの共通言語が違うので、「あうんの呼吸」で仕事が進まなくなります。いろいろな職場で意思疎通しにくくなっていたのを肌で感じていたので、相互理解のためにカエル会議が有効なのではと感じました。

また、女性活躍推進の担当として、産育休から戻られる方と個別面談をするなかで、1人ひとり家庭環境も本人の気持ちも違うことを再認識しました。私自身「女性だから」「子どもがいるから」という視点で見られがちですが、そうやって一括りにしてコミュニケーションを取るのは違うと感じていたので、1人ひとりとの対話型の意思疎通によって、相互理解できる職場にしたいという想いもありました。

成果を信じて取り組みました

WLB:上谷様が、数多くの部署のアクションシート(※1)を見たり、フォローアップが必要な部署に丁寧に声かけしたりされる様子がとても印象的でした。

東邦ガス様事例桜田さん

上谷:ファシリテーターの皆さんが熱心に取り組まれたことが一番の後押しになりました。最初はネガティブな意見もありましたが、意図を理解して取り組もうとされていることがひしひしと伝わってきたので、やり始めたからにはしっかりと効果の実感できるものにしなくてはとも感じました。

また、この活動は皆さんにとって、きっと成功体験を持ってもらえるものであり、「やってよかった」と思ってもらえると信じて取り組みました。

WLB:加藤様は人財グループに異動される前、管理職としてカエル会議を実践される立場でもいらっしゃいました。カエル会議に参加された立場から現場の感想をお聞かせいただけますでしょうか。

東邦ガス株式会社 人事部 人財グループ 次長(チーフ)加藤知洋様(以下、加藤):私は人事部に異動する以前の職場でカエル会議に参加していました。その立場から率直にいうと、そこまで大きく盛り上がったとは言い切れず、多様性からも少しずれてしまったように感じました。ただ、仕事へのやりがいやモチベーションを高めるためにどうしていくかについて話し合えたのは確かです。

以前の職場は内部監査の仕事をする部署であり、自分たちが指摘したり改善をお願いしたりしたことに対して、各職場がどう思ったのかが伝わりにくい状況がありました。「こういう改善をしてよかった」「指摘してもらって、ありがたかった」という声がほとんど入ってこないので、やりがいを感じにくかったんです。

そこで、1年後フォローアップ監査のタイミングで、なるべく各職場から感想を聞く機会をつくり、前向きな評価を持ち帰ってフィードバックする活動を始めました。

なかなか思うようなポジティブなセリフは聞こえてきませんでしたが、少なくともグループ内で自分たちの監査報告を褒め合い、「いいね」と言い合う雰囲気は生まれたと感じます。カエル会議がそのきっかけになったものと思っています。

東邦ガス様事例上谷様桜田様

 

「ここまでやってくれるんだ!」と感動

WLB:こうした、各現場での取り組みの積み重ねを、1つずつつぶさにサポートされてこられた上谷さんは、どんな瞬間にやりがいを実感されましたでしょうか?

上谷:チーム内でペアをつくり、フィードバックし合いながら目標管理のシートをつくって取り組んだという事例を見たとき、「ここまでやってくれるんだ!」と感動しました。研修で知ったこと(他社の事例等)に取り組むのではなく、自分たちで議論しながら創意工夫を重ねてくださっていることがわかったからです。負荷も高かったと思いますが、「長期的にやったほうがチームがよくなる」と思って行動してくれたのは大きな驚きでしたし、嬉しかったです。

また、最初の頃に「どうしてもうまくいかない」と相談してくださっていた方が、後日、「最近うまくいくようになりました」「すごくチームの雰囲気がよくなりました。本当にやってよかったです」と言ってくださったときも嬉しかったですね。

ファシリテーターの方はチームを取りまとめるのに大変な事も多々あったと思いますが、根気強くトライしてくれ、上司も巻き込みながらチームづくりをしてくれたと思います。

職場ごとの状況を理解することが大切

WLB:ファシリテーターの方は、たった1人で取り組まないことがポイントかもしれませんね。

上谷:ファシリテーターの皆さんに去年の振り返りを聞いたところ、活動趣旨の理解がスタート時の大きなハードルになることがわかりました。今思えば人事からの大々的なPRも足りず、初年度はファシリテーターからメンバーに向けて「何を目的にどんなことをやるか」を伝えるのが大変だったと認識しています。そこで2022年は全社員向けに動画(※2)を見ていただくなど、理解の浸透を図りました。開始後も定期的なPRを継続する必要があると感じています。

東邦ガス事例加藤様

WLB:ファシリテーターの方から相談を受けるときやフォローをするにあたって、心掛けていたことはありますか?

上谷:極力、職場ごとの状況を理解しようと心掛けました。私はもともと営業や導管の職場にもいたことがあるので、自分が経験したことのある部門からの相談は状況を想像しやすいですし、顔と名前のわかる人も多く、具体的に話を聞かせてもらいながら支援できたのも大きかったと思います。「アドバイスをする」というよりも、事務局として「同じ風景を見ながら一緒に考える」ことを意識しました。

出産を機に意識が大きく変化した

WLB:これまで上谷さんご自身はどのように変化されましたか?

上谷:私自身、もともと技術系として入社し、男性の多い職場で働いており、長い時間働くことも厭わない考えを持っていました。ところが、子どもを産んでからは、自分自身の仕事への気持ちや思いは何ら変わらないのに、時間的な制約が出てきたことで、今までの自分を捨てなければならない状況に直面しました。

そういったタイミングで、女性活躍推進の担当になりました。それまでは女性であることを意識することもなく、女性だけの研修に集められることに違和感を持っていました。

しかし、自分自身が当事者となり、「頑張りたいのに頑張れない」「やっているのにうまくまわらない」というジレンマを経験し、「そもそも女性活躍推進とは」「ダイバーシティとは」を学び直すことにしたのです。

自分の当たり前は他人の当たり前ではない

WLB:自分は変わっていないのに、今までの自分を捨てなければならないと感じたんですね。

上谷:例えば、私は出産後5か月で復職して、子どもを0歳児から預けています。自分では仕事をしたく、一生懸命頑張ろうとしているだけなのですが、周りから「そんな小さい子を預けてかわいそうだね」と言われることもあり、悔しくて泣くみたいな…(笑)。自分が当事者になって初めて、ちゃんと意思疎通しなければわかってもらえないこと、私と同じような思いをしている人がたくさんいらっしゃることを知りました。

WLB:「無限に働ける」と思っていた当時の自分に声かけるなら何と言いますか?

上谷:「自分の当たり前が他人の当たり前じゃないよ」ということですね。自分が正しいと思ってやっていることが、客観的に見て正しいわけじゃないし、実は時代の流れや環境変化によっては間違っていることだってあるよ、と。

今では、会社にいる時間は当時より少なくなっていますが、自己啓発面での成長は大きくなったと思っています。私は2022年にキャリアコンサルタントの資格を取得したのですが、会社にいることだけが仕事ではなく、生活の中でスキルアップしながら成長していくことが大事だと痛感しました。

WLB:会社にいるだけが仕事ではないというのは、本当にその通りですね。

上谷:コロナ禍で当社も在宅勤務の活用が増えてきましたが、まだ「在宅では成果が上がらない」「家で何をやっているの?」と考える方もいます。会社にいる=仕事という価値観を変えなければいけないと思います。どこにいても成果を出すことが大事であり、カエル会議を通じて在宅勤務の方とオンラインでコミュニケーションを取るなど、職場でいろいろなリソースを使ってもらうきっかけになればいいと思います。

東邦ガス様1

これから取り組みたいこと

WLB:これからの展望をお聞かせください。

上谷:カエル会議は2年目になって、「こういうことをすればいいよね」という理解が浸透しつつあります。ゆくゆくは人事の施策として取り組むのではなく、会社の文化として当たり前になっていけばいいですね。

WLB:長期的に目指すところはありますか?

上谷:昨今のエネルギー業界を取り巻く環境変化は大きく、当社も事業自体を大きく変革しなければいけない時期にあり、グループビジョンではコア事業と戦略事業の事業規模を50:50にする目標を立てています。これまでやってきたことにとらわれず、全社的に新たなことをどんどん出していけるような風土になればいいと思っています。

私自身も、様々な事業に関わりながら、将来的には部下を持ち、チームづくりに貢献していきたいと思います。

悩んでいる担当者へのメッセージ

WLB:上谷様と同じように悩みながら取り組まれている方に向けて、応援メッセージをお願いします。

上谷:どうしてもネガティブな反応を気にしてしまいがちですが、ネガティブな反応すらなく、何もいわずに何もやらない状況が一番怖いと思います。私もネガティブなリアクションを受けると一度は落ち込みますが、ありがたく受け止めてきちんと寄り添っていくことを大事にしています。入口はネガティブであっても、真摯にやり取りをすれば、こちらの想いも伝わり、頑張ってくださいます。

また、ネガティブな反応を受け止めて改善するだけでなく、少しでも前に進めている部署に目を向けて、それを横展開することでも道が開けることもあります。決してめげずに取り組んでいただければと思います。

WLB:加藤様はカエル会議を実践する側のお立場から、貴社全体のD&I推進を担われるお立場となりました。これまでの上谷様の想いやご経験を改めてお聞きになり、どのようなお気持ちでいらっしゃいますか?

加藤:上谷の「自分の当たり前が他人の当たり前じゃない」という言葉が、とても印象に残っています。これは「あなたのやりたいこと、やりがいは何ですか?」という問いにもつながります。D&I推進とは、すべての人たちが自分の能力を最大限に発揮できる状態を目指しています。カエル会議によってチーム内で様々なテーマでの議論が進み、お互いにやりたいことや、やりがいが共有できていて、相互に声をかけあうようになれば、それは最強のチームになるのではないかと思います。

今、当社はビジネスの転換期、激動の時代を迎えています。カエル会議は、チーム内のコミュニケーションを通じて1人1人の気持ちを上げていく活動につながるはずです。私自身も、上谷がやりがいを持って灯してきた火を消さないようにこれから取り組んでいきたいと強く感じました。

WLB:お二方とも、本日は貴重なお話をありがとうございました。

※写真は撮影時のみマスクを外しています


※1 アクションシート・・・カエル会議で抽出された課題、それに対する解決策、進捗等を記載し、チームの活動の進捗管理をサポートするシート。

※2 動画・・・D&Iの理解促進を広くはかるため、男性育休という切り口で「男性の育休を通じて考えるダイバーシティ&インクルージョン」動画を活用。(https://mens-ikukyu.work-life-b.co.jp/

担当コンサルタント

事例紹介一覧へ戻る

その他のサービス