Case Study

得能建設工業株式会社様

工事部所属のリーダーが1ヵ月の育休を取得! 技能継承・人材確保に向けて「現場から変えていく」、得能建設工業

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県を挙げて働き方改革に取り組む富山県。前回の事例紹介では、立山電化工業株式会社の取り組みを取り上げました。今回は、土地の造成、道路の舗装・修繕、上下水道の整備などを通じて地域のインフラを支える得能建設工業株式会社(南砺市)の改革事例をご紹介します。モデルチームのリーダーを務めた工事部吉田裕信さんと、事務局として取り組みを牽引した総務部得能沙友里さんに、これまでの苦労や成果、今後の展望などを伺いました。


県事業としてのコンサルティングを受けるまで

人材の確保という課題に直面する建設業界のファーストペンギンとして自社のブランディングを行っていきたいという得能建設工業様では、

2021年完全週休二日制を導入、工事日報・原価管理をクラウド化するなど、働きやすい環境づくりに先駆的に取り組んできましたが、人材育成プランが不十分で、技術継承、現場における育成・コミュニケーションに課題を感じていました。

働き方改革の必要性を強く感じていた総務部の得能沙友里さんが、株式会社ワーク・ライフバランスの「働き方改革セミナー」を受講後、現場に「やりませんか?」と打診、県の「モデル企業」としてコンサルティングを受けることになりました。

モデルチームのリーダーを務めた工事部吉田裕信さんインタビュー

カエル会議で得た「発言力」「コミュニケーション」「時間管理」

─モデルチームのリーダーに選ばれたときのお気持ちは?

働き方改革に取り組むと聞いた当初は「他人事」という感じでしたね(笑)。でも「実行すれば会社が改善される。いい方向に持っていけるチャンス」とも思いました。これをきっかけにみんなの意見が聞けるし、「良い会社」の姿が見えたらそのゴールに向かって進めばいい。みんなが笑顔で働ける会社作りができたらいいな、と考えていました。

今は、このチャンスを見つけてきてくれた事務局に「ありがとう」と言いたいですね。おかげで社内に働き方改革の素地ができてきましたし、自分がそこに関われて良かったと思っています。

─常に前向きに、「みんなにとって良いこと」を考えて行動されていましたが、そんな中でも不安に感じることはありましたか?

進めていく過程ではやはり「この方向、この進め方でいいのかな」「これはみんなの総意に沿っているのかな」という不安はありました。とくに初期は「今日カエル会議をやるよ」とけっこう強引に集めるしかなくて、余計に「この進め方で大丈夫かな」と感じたんだと思います。会議のたびにみんなの反応や修了後の表情などを確認し、「今回は大丈夫そうだな」と想像しながら進めていました。

─どんなときに「大丈夫そう」「ちょっと心配」と感じましたか?

会議の中身が具体的なアクションに繋がっているときは「次はこれをしよう」「来週それを頑張ろう」という感じでみんながいい表情をしています。逆に会議の内容があやふやなとき、たとえば「動画を作成しよう」というテーマで話をした際、大まかな段取りを話しただけで「いつ、何をやるか」が決まらなかったんです。そのときは、みんなの表情に「次に向かって頑張るぞ」というウキウキ感がなかったので「今日の進め方はいまひとつだったかな」と思ったりもしました。

ただ、何事も会議の中で明確に決めて行動に繋げられるのがベストですが、自分だけで決めてしまったら意味がない、みんなから意見をもらって、みんなの言葉として実行できるのが一番いいと思っていました。なので、仮に最後まで決めきれないことがあってもそれはそれでいい、次週にまわせばいい、と考えるようにはしていましたね。

得能建設工業株式会社様インタビュー1

─決めきれなかった際に「次はどうするか」の計画を立てるとき、工夫されたことは?

週をまたぐときは自分の中である程度「こういう方向に持っていこう」というプランだけは決めていました。もちろんそのプランで決定ということではなく、みんなから違う案や意見が出てくれば「じゃぁそれについて検討しましょう」と。全部自分で決めたら面白くないので、それはしないように心がけていました。

─カエル会議に取り組んでみて「良かった」と感じるのはどんなところでしょう?

最初は意見を出す人が少なかったものの、回を重ねるごとに発言量が増えました。それがまず嬉しかったですね。「そんな風に考えていたんだ」「そういう考え方の人もいるんだ」という発見がありましたし、すべて「会社の環境を良くしよう」という思いから出ている意見なので、嬉しかったですね。

あとは、カエル会議の時間に向けて、間に合うように仕事の段取りを各現場がしてくれた、時間管理ができるようになったというのも良かったなと思います。一人ひとりが時間のロスがないように頑張ってくれていることを実感しました。

ベテランと若手を比べると、経験や能力の違いによって「できる業務」にどうしても差があります。これまでは「なぜできないんだろう」で終わっていたのが、「できない人にどうやって教えればいいか」という発想に変わったこと、ベテラン層がコミュニケーションの取り方を見つめ直して「若手に教える」ことを意識してくれるようになったのも、カエル会議の大きな成果だと思います。

得能建設工業株式会社様インタビュー2工事部吉田裕信さん

朝礼で工夫したこと、「技能継承」を目指した取り組みのこと

─具体的なアクションとしてどんな工夫をされましたか?

朝礼後のミーティングで、作業内容を要約・確認してもらって、問題がなければ挙手するということをやっていました。それによってみんなの勘違いや理解不足が減ったと思います。もうひとつ、「感謝の掲示板」というのを用意して、感謝の一言を伝えるようにしました。男性ばかりの部署ですし、互いに感謝を言い合うということはなかったので、みんなでほっこりできる時間が持てたのも良かったなと思っています。

ただ、私の育休中は掲示板の紙が増えていなかったようなので、まずは私から「ありがとう」をみんなに伝えて復活させないといけないですね(笑)

─会社として課題を持っておられた「技能継承」という点ではいかがでしょう?

「技能確認シート」「チャレンジシート」というのを作って、自分が対応できる作業の範囲、これから伸ばしていくべき点などを各人が理解できるようにしました。自分だけでなく第三者からの見方も数値化したことで、自身のポジションが明確になり、「これから何に気を付けて、どう努力していけばいいのか」がわかってきたと思います。自分に足りない部分を自覚すれば、ほかの作業をしっかり見ていこうという意識も強まります。

また、これらのシートを共有する場で「あなたはこれができるよね」というコミュニケーションを取れるようになったこと、「周りがこんな風に評価してくれているのかという自信になった」という意見があったことも成果のひとつです。「技能確認シート」を通じてコミュニケーションを取り、お互いに承認しあいながら前進していくことには大きな意味があるのかなと思っています。

リーダー自ら、1ヵ月の育児休暇を取得

─吉田さんは 1 ヵ月の育休を取得されました。休みが取りにくいといわれる建設業で本当に画期的だと思いますが、これについてはいかがでしょうか?

コミュニケーションが取れるようになってきたこと、時間の管理が上手になったことなど、カエル会議を通じて得たものが功を奏したと思っています。当初は1週間くらい取れたらいいかなと思っていましたが、事務局からも「がっつり取ってください」と言われまして。「じゃぁ遠慮なく」と。

最初は「育児なんて楽勝」と思っていたんですよ(笑)。でも、育休を取って2日目に、妻がちょっと用事あるから半日ほど出かけたいと。「2時間おきにミルクあげて、泣いたらオムツ替えればいいんでしょ、いいよいいよ、大丈夫」と思っていたら、もう1時間半くらいで根を上げそうになりまして。翌日も妻が外出するというので、実家の親に電話して「ちょっと手伝ってほしい」と泣きつきましたね(笑)。

─育児のどんなところがそんなに大変でしたか?

オムツなのかミルクなのか単に眠いのか、泣いている理由が全くわからなくて。あやしてもダメ、ミルクだしたらそっぽ向くし。「泣く理由なんて3パターンしかない」くらいに思っていて、それに対処すれば泣き止むと思っていたのにそうじゃなかったっていう。人材育成なんかより難しいなと思いました(笑)。

育児だけでなく、たまに食事の支度をしたり、洗い物や家の掃除をしたり、できたので、妻からも「1ヵ月休んでくれて本当にありがとう」と感謝されました。働きながら家のことができる下地ができたといいますか、基礎を覚えたという実感もありますね。本当にいい経験ができたと思います。

得能建設工業株式会社様インタビュー3

─吉田さんは現在、弊社の「カエル会議実践講座」を受けていただいていて、ちょうど1回目が終わったところです。いかがでしたか?

私の育休中はカエル会議が滞っていたようなので、「復活させないと」と思って受講しました。とりあえず来週、復帰後1回目の会議を実施することになっています。きっかけを作って軌道に乗せればまたちゃんと積み重ねていけると思います。

─今後、社内にはどのように広げていきたいですか?

新人が入ってきたときにどう教育していくか、その方法を会社全体で検討して対応していくことで、みんながまとまるきっかけになるのかなと思います。人材確保は全員が感じている課題なので、いつどんなタイミングで人が入ってきてもいいように、「楽しい会社だな」と実感しながら前向きに働いてもらえるように、部署を超えて連携していきたいです。

あとは、とにかくカエル会議をちゃんと続けていけるようにアクションを起こしていきたいと思っています。

─これから働き方改革に取り組む方へのメッセージをお願いします。

働き方改革に取り組むことで自分たちが本当に幸せになれる、大好きな会社にしていくためのひとつの方法かなと思います。みんなの顔が楽しそうになれば自分も楽しくなれるので、とにかくスタートさせてみてください。

得能建設工業株式会社様インタビュー4

働き方改革を進める「事務局」担当、総務部 得能沙友里さんインタビュー

建設業の特徴を考慮しながら、「現場にとって」最良の環境に

─取り組みを始めたときはどういった状況でしたか?

働き方改革は私自身がずっと必要性を感じていて、やりたいと思っていたことです。他社さんの話を聞いたり、話し合いの場を少しずつ設けたりして、種まきのようなことはしていたので、ある程度の意識付けはできていたのかなと思います。

でも私は「やりましょう」というきっかけを作っただけで、やはり大切なのは現場。吉田をはじめとするメンバーが主体性を持って取り組んできたおかげで前進していると思っています。

とはいえ取り組み当初からいきなりスムーズにいくものではないですし、最初の頃はカエル会議に参加しつつ、ちょっと方向性を修正したりみんなに声がけしたり、というのはしていましたね。

─吉田さんが「会議で決めきれないことがあっても次回に持ち越せばいい。いい雰囲気で終わりたい」ということを意識しながらコントロールしてくださったこと、そして事務局の沙友里さんが「これをやってください」ではなく「これはどうしますか?誰がやります?」と質問する形で、みんなでアクションを決めていったこと。この進め方があったから様々なアクションがスピーディにできた、結果が伴うので「やって良かった」とメンバーの方が実感できた、という好循環が生まれていたと思います。

建設業の特徴といいますか弊社の社風といいますか、やはり現場に出ている人たちはみんな行動が早いんです。天候に左右される部分がどうしてもあるので「できることはすぐにやる」というのが当たり前なのかもしれません。やることさえ決めればすぐにやってみようという流れができたのは、みなさんのそういう性質も影響しているんじゃないかなと思っています。

─事務局として不安に思っていたこと、また、取り組みを通して「こうなりたい」というイメージはありましたか?

最初に「現場でやりませんか?」と話を持っていったとき「わかりました」と即答されたんですけど、実際にスタートする段階になると「え、俺がやるの!?」みたいな感じだったので(笑)、やはり不安はありました。今までやったことのないことに取り組むわけですから、「どうしたらいいかわからない」という戸惑いをみなさんが持っていることも会議のときに感じていましたね。

でも、吉田が本当に主体性を持ってどんどん引っ張ってくれたので、「あ、これは大丈夫そうだな」と思いました。

「こうなりたい」というイメージについては、私は総務の視点でしか考えられないので、外から見た意見しか出せません。そういう視点ももちろん大事だと思いますが、やはり現場で取り組むからには実際に働いている人たちの考えが重要です。現場の人たち自身にとってより良い環境にするために、当事者に動いてもらうことが何より必要だと考えていました。

まだまだ課題が解決したわけではありませんが、とにかくやってみないと何も進まないし何も変わりません。現場で取り組んでもらっていることで会社としての下地ができたと思いますし、本当にやってみて良かったと思っています。

得能建設工業株式会社様インタビュー5総務部 得能沙友里さん

働き方改革は社会の急務であり、「自分のため」に取り組むこと

─県が主催した弊社の養成講座を受けて、参考になったことはありますか?

他社でスキルマップを作って取り組んでおられるというのを知り、「うちでもやってみたい」と取り組んだのが、吉田の話にもあった「技能確認シート」です。とはいえ、どう指示を出したらいいのかもわからない状況だったので、最初の養成講座でいただいた資料を何度も見て、指標にしながら進めていった感じです。

得能建設工業株式会社様インタビュー6

─モデルチームに選定された部署のみなさんはどんな反応でしたか?

モデルチームには、一番人数が多く、チームワークの必要な部署を選びました。新しいことをやりましょうと言っても「面倒くさそう」と思われるのは想定内でした(笑)。でも、根っから真面目な人たちなので、いざやるとなれば、「積極的に」とまではいかないまでも、しっかり取り組んでくれたと思います。そのうちに「やるんだったらちゃんとやろう」という流れができるというか、カエル会議も「当然やるべきこと」になっていきましたね。

今回取り組んだのを機に新しいことに対する耐性もついて、拒絶反応が少なくなった気もしています。たとえば最近タイムカードをなくしたんです。アプリをスマホに入れてもらって出退勤の管理や有休申請などをするんですが、ベテラン層も「これでやればいいんだね」とけっこう普通に受け入れてくれて。新しいことへの抵抗感は減っているのかなと感じています。

─質の高いマニュアル動画を作成されていますが、これは事務局で作成されたのですか?

動画に着手するときに私が別件で忙しかったせいもあって、編集は若手にお願いしました。私の妹が動画編集に詳しいので使いやすいアプリなどを教わって、それを共有しています。今は本当にアプリの性能がいいので、そういうのを使うといいのができますよね。

─今後、取り組みをさらに広げるためにどんなところに注力していきたいですか?

以前はカエル会議の議事録を私が取りまとめていたのですが、次第に曖昧になり、内容を把握しきれていないのが現状です。今後は、話し合った内容や決まったアクションをどう残していくか、どう共有していくかを検討したいです。新しく導入したアプリの掲示板機能で総務からのお知らせなどを共有しているので、議事録をここにアップして、スマホからでも確認できるようにしてもいいかなと思っています。

─議事録を残す作業に負担を感じないやり方を検討して、交代でみなさんが担当されるといいですよね。ホワイトボードを使えば会議の進行上はスムーズでわかりやすいのですが、人によって得意不得意もありますので。たとえばホワイトボードに書くのが得意な方はホワイトボード、紙に書くほうがいい方はノートに書いて、それを撮って画像で共有するというのもおすすめです。一番やりやすい方法でみんなが担当できるということを重視していただければ。今後の抱負として、ほかにはいかがですか?

得能建設工業株式会社様インタビュー7

もう働き方改革は「やるしかない」状況だと思っています。たとえば北陸銀行さんは、「働き方改革に取り組んでいる企業に対しては通常より金利を低くする」といった対応もされているんです。社会全体がそういった流れになっていますし、弊社としてはとにかくカエル会議を続けていきたいです。工事部だけでなく、総務や営業部でも課題を抱えていますので、各部署で取り組みながら全社的にも共有して、さらに先に進めるようにしていきたいと思います。

─これから働き方改革に取り組む方へのメッセージをお願いします。

話し合いの場を根気強く持ち続けることが大事かなと思います。ひとりではなく全員でやるべきことなので、話す場を確保して「働き方改革って何?」と思っている人にもその意義を正しく知ってもらうきっかけを作れたらいいですよね。そこから「やらなくちゃいけない」ではなくて「自分のためにやろう」という発想になっていけたらいいと思いますし、私自身も「自分のために」というのを意識してこれからも取り組んでいきたいと思います。

得能建設工業株式会社様インタビュー8

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公式 Instagram では、会社の温かさ、社員のみなさんの人柄が伝わってくるような投稿をされています。雪国の生活の中でとても重要な「除雪」の作業を深夜1時から対応されていることも知って、その中でできることを少しでも積み重ねている姿勢に敬意と感謝を感じました。みなさんもぜひご覧になってみてください。

(コンサルタント二瓶)

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