大東建託株式会社様
全国に200以上の拠点を持つ「大東建託」の改革を成功に導いた
コミュニケーションの変化/本社のサポート/PDCAの徹底とは?
※最終報告会のときの様子
賃貸建物の建築・管理を請け負い、入居希望者に対する最適な住まいやサービスの提供を中核事業とする大東建託株式会社。全国をカバーする圧倒的な営業力を持ち、賃貸経営受託システムという独自のサービスを提供する同社は、賃貸住宅管理戸数、賃貸仲介件数、賃貸住宅供給実績で業界トップを誇ります。戸数や件数といった「数字」に現れる成果を重視しながら実績を築き上げてきた業界ですから、残業時間削減などの取り組みは不安との闘いでもあったはず。そんな中でも働き方改革の重要性を理解し、すばらしい成果を出した同社の取り組みをご紹介します。
※こちらの記事は、弊社代表 小室淑恵の著書『働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例20社』に掲載された事例をまとめ直したものです。
全経営陣が現状に危機感を持ち、「働き方改革」の必要性を共有
大東建託株式会社から弊社にご相談をいただいたきっかけは、2015年、HRのカンファレンスで弊社の小室淑恵が行った講演会です。労働力人口が減少して採用が難しくなる中、他社との比較において働き方の評価が低いことや、それに対してまだまだ経営陣の危機感が醸成されていないといった現状をお聞かせいただき、弊社でコンサルティングに入ることになりました。
まず、全経営陣がそろった会議で「経営戦略としての働き方改革」というテーマの講演を行い、役員に向けたワークショップも実施しました。すると、参加した役員からは「“人口オーナス期”の説明を聞き、今のままではまずいと気づいた」「長時間労働を是としていては、今後ビジネスそのものにも勝てないと気づいた」など、危機感を強く抱く発言が出始め、一歩でも二歩でも歩み出さなくてはという共通認識ができたのです。
その後、全支店長にも同じ研修を受けていただき、全社共通での危機意識を持ったうえで取り組みをスタートさせました。
トライアルチームの選定にあたって気をつけたこと
同社の支店には「営業」「設計」「工事」「業務」の4つの部門があります。
「営業」は、主に土地所有者を直接訪問し、土地診断から建築計画、税務相談、資金計画、賃貸事業開始後の顧客フォローまでのコンサルティングを担当。「設計」は、主に計画地に最適なプランニングを担当。「工事」は、安全・品質・工程・予算・CS向上など建築現場の施工管理を担当。「業務」は、人事・総務・経理等の事務全般や、「お客様情報の管理」「土地の謄本・公図の取得」「営業車の管理」「勤怠の管理」など、営業職・技術職といった他職種のサポートを幅広く行います。
通常、トライアルチームを選出するには、その組織の中で最も残業が長いなど、組織全体に与える影響とインパクトが大きい部署を選びます。大東建託でいえば、それはやはり「営業」です。しかし、これまで同社の実績を築き上げてきた営業部門の働き方に初年度からメスを入れることは、改革に対する全社的な反発や否定的な反応を生む可能性が高いため、段階を踏んで取り組むことにしました。
そこで、同じ拠点内にあって営業とも密接な関わりがある「設計」と「業務」から、管理職が働き方改革に関心を寄せているチームを3つずつ、計6チームを選出。チーム内でリーダーを決め、各リーダーを中心に取り組みを開始したところ、「戸惑いもあるけれど、長時間労働や働き方改革に関して直接経営陣に声を届けるチャンス」といった頼もしい声も聞こえてきました。
また、同社ならではの取り組みとして、トライアルチームと同じ課の業務を担当する本社の社員が1名ずつサポートにつくことになりました。例えば、高崎支店の設計課には、本社設計課の社員が“カエル会議”にも同席して状況をつぶさに把握し、同じ業務内容をつかさどる全国の部門に内容を展開させるなど、全社的な働き方改革へとつなげていきました。
これは本社にとっても「現場で残業が発生する本当の原因」をしっかり把握できる絶好の機会になりました。
※最終報告会のときの様子
朝・夜メール、カエル会議でコミュニケーションの質が向上
トライアルチームで朝・夜メール、カエル会議がスタートすると、各チームでさまざまな課題が見えてきました。
営業メンバーがエネルギッシュに組織を引っ張る同社には、トップダウンによる組織統制風土があります。例えばメンバー個々人が取り組みの意義をどう捉えるかに関係なく、上司の指示であれば、朝・夜メールなどへの取り組みはしっかり行ってくれるというようなことが起きます。
そうした風土は成果を出すために有効な場合もあるのですが、場合によっては主体性が失われて「何のためにやるのか」というメンバーの思考力が育ちにくくなります。さらに上意下達が浸透している企業では、とくに初期のカエル会議で下位層のメンバーがどうしても意見を言いづらくなります。
そこで主体性を引き出すために、あえてリーダーがカエル会議を欠席したり遅刻したりすることで、部下が話しやすい場にするチームもありました。
聴く側の「傾聴力」を高める「うなずき」「メモ取り」「質問」も徹底
あるチームでは、専門分野や年齢、バックグラウンド、社歴が多様なうえ、持ち合わせているOAスキルもさまざまで、初回から全員で議論をするのは難しい状態だとコンサルタントが判断しました。
そこで、初回はお互いを知るために「自分は何のために働くのか。どんな時にやりがいを感じるのか」をペアで話し合うことに。その際、聴く側も傾聴力を鍛えるため「うなずく」「メモを取る」「質問する」など、必ず何かしら反応することをアドバイス。意見を言いやすい環境づくりを体感していただきました。
※最終報告会のときの様子
「仕事以外の話をほとんどしない」というチームが多かった中で、「私が朝メールに書いた何気ないプライベートな出来事にメンバーが反応してくれてうれしかった」といった実感を持ち始めると、当初は作成が面倒だと感じていた朝・夜メールが、単なる業務分析ツールではなく「コミュニケーションツール」となり、書くのも読むのも楽しみになったという方も多数見られました。
また、誰かが自分のために何かをしてくれたとき、お礼を言いたくても気がついた時には退社後で、さらに週末をはさみ・・・と、改めて感謝を伝えるタイミングを逃してしまうこともあります。「シュレッダーにかけようとまとめていた書類を誰かが代わりにやってくれたようで、ありがとうございます」そんな何気ないお礼も朝・夜メールで言葉として伝え合うことで、チーム内の関係の質が高まり、何でも気軽に話し合えるチームに昇華。コミュニケーションの質が徐々に変化する中で、業務改善についても少しずつ意見やアイデアが出るようになってきました。
「週2回全員定時退社」を実行するため、他部署への協力も依頼
業務部門のあるチームでは、ハードルの高さを懸念しつつも「週2回全員定時退社」をチーム目標に設定。その実現には、他部署からの業務依頼を早い時間にもらっておくことが必須のため、特定業務については受付を16時締切として、他部署に依頼しました。すると、完全ではないまでも早い時間帯に業務依頼が回ってくるようになりました。
しかし、今度は「仕事を中途半端に残して帰る気持ち悪さ」が、カエル会議でメンバーの共通意見として出てきたのです。その頃、別支店の業務チームでも、「月間平均残業マイナス10時間」を目標に掲げたところ、「仕事を残して帰る気持ち悪さ」が意見として出てきていました。
これらのチームは、「仕事を残さずに帰るためには、時間当たりの生産性を最大にしてその日の仕事を終わらせることが大事だ」と気づき、「本当にその日の業務を終わらせて帰るための仕組みづくり」「効率的に業務を行うための“PDCA”を徹底する」といった点に力を入れることにしました。
※最終報告会のときの様子
時間当たりの生産性を最大にするために徹底した、業務の“PDCA”
PDCAに関していえば、新しい取り組みを始める際、どうしてもP(Plan=計画)とD(Do=実行)に注力しがちです。しかし実際にはC(Check=評価)とA(Act=改善)を徹底しなければ、無駄に仕事を増やしてしまうことになるのです。
例えば、業務部門が営業部門から仕事の依頼を受ける際、確認や手戻りが少なく済むように、「業務依頼表」のフォーマットを作成したのですが、「入力項目が細かすぎる」と不評で、使われませんでした。そこで営業部門にヒアリングし、入力項目を必要最低限に減らして「お互いの理想形」を追求したところ、営業部門にとっては入力しやすく、業務部門にとっては依頼内容を把握しやすいシンプルなフォーマットが完成し、しっかりと運用されるようになりました。
思い切って取りやめた試行もあります。それは、業務依頼表の「急ぎレベル」による区分です。「赤=本日18時までに完了」「黄色=翌日正午までに完了」「青=翌日18時までに完了」の3つに色分けしたクリアファイルに入れて専用ボックスに分けてもらうよう試みたのですが、業務課の席に誰かがいればやはり従来同様、手渡しすることになります。そして、その際に使われるのはすべて一番急ぎの赤いファイルのみ。これでは効果がないうえに負担が大きいとして、カエル会議の話し合いのもと廃止しました。
始めたことを「やめる」のは悪ではない。効果がなければ話し合って廃止
このようにPDCAのC(Check)をしっかり行い、「効果の出るやり方に変える」「効果がないものはちゃんと話し合って廃止する」ことは、とても重要なポイントです。
「やめる」というのは、決して悪いことではありません。それよりも、みんなで「やる」と決めたことを、なし崩し的にやらなくなるのが大問題なのです。これが繰り返されるとメンバーは意欲を失い、次第に意見が出なくなってしまいます。
そうは言っても、その施策がなんとなく“見栄え”がよく、上層部も注目しているし・・・となると、なかなか現場メンバーが「やめよう」という意見を言いづらくなるものです。これは改革に挑むチームが感じやすいストレスなのですが、上層部が注目している施策だろうと何だろうと、現場が主体的に考えたうえで「合っていない」と判断したら、思い切ってやり方を変更するなど、聖域なく話し合うことが重要です。
※最終報告会のときの様子
「残業時間削減」「スキルアップ」「仕組みの構築」など続々と成果が!
柏支店業務課は、当初「月間残業10時間削減」としていましたが、なんと目標を上方修正し、最終報告会の時点では「月間残業10時間以内」へと変更。残業ゼロを目指すこともできそうでしたが、目に見える成果を急ぎすぎず、まずはメンバーがスキルアップするための時間を十分に確保することを優先して、その時間も見込んだ目標設定をしました。
メンバー間でスキルや専門性に差のあった設計チームでは、本社のスペシャリストを講師に迎えて社内専用のCAD研修を実施。ゼロから学ぶメンバーのための研修でしたが、すでに使いこなしているメンバーにも好評でした。
また「特注プラン」などの高度な設計は支店ではなかなか経験を積めないので、若手が多い別の設計チームでは、本社での実務を通じてスキルを身につけてもらう「交換留学」を実施。スキルアップの機会となるだけでなく、これまで他部署との連携が少なかった若手・中堅メンバーへの刺激にもなりました。
※最終報告会のときの様子
他にも、SNSを利用したグループチャットを立ち上げて、「改まって教えてもらったり相談したりするほどではないけれど、疑問に感じたこと」といった仕事の相談を気軽に共有・回答できる仕組みを構築。行政対応や新しい法律関係、社内ルール・支店内ルールの質問・確認などが、気軽に行えるようになりました。
8カ月間に及ぶさまざま取り組みの結果、柏支店設計課では残業時間を月平均で25%減少させながら、業務習熟度を計る個人カルテ310項目の達成率が入社2〜3年目の若手スタッフで平均30%アップ。柏支店業務課でも、「月間残業10時間以内」「週2回の定時帰り」などを実現しました。
柏支店設計課の8カ月にわたる取り組みの結果
熊谷支店業務課でも月平均残業時間が前年比で38%削減、国分寺支店設計課でも25%削減といった大きな成果を出しました。
働き方改革を「楽しみながら」実行することの大切さ
私たちコンサルタントが心強く感じたのは、トライアルチームが取り組み途中からだんだんと変革を楽しんでくれるようになったことです。成果の面でもとくに大きな変化があったチームは、「自分たちのチームが一番楽しくやっていると思う」と書いたところでした。
働き方改革は、ただの“無駄取り”ではありません。既存にとらわれない新しい発想と実現力が勝負になります。だからこそ楽しみながら、職場に心理的安全性がある状態で取り組むことで成果が出るのです。
こうしたトライアルチームでの取り組みに加えて、全社の管理職への意識改革講演も行い、社長と小室が対談する様子を社内報でも発信することで経営層の本気度を社員に示しました。その結果、全社の総労働時間は2014年から3年連続で減少。月4回のノー残業デーは88%の実施率で、売上・利益ともに増加。2016年では、売上前年比110%、利益130%を達成しています。
今回4支店6チームが中心となって取り組んだことで、全社的な課題や解決に向けたヒントも見えてきました。全国47都道府県に200を超える拠点を持つ同社で、今後も、この「楽しむ」精神を忘れずに、挑戦を続けていただきたいと思います。
※最終報告会のときの様子
大東建託株式会社の成功ポイント3
- 「指示命令型」から「傾聴型」にコミュニケーションを変えた
- 本社のサポートで、現場の変革を加速した
- 「チームがやるべき仕事の本質」を考えながらPDCAを徹底した