Case Study

株式会社岩手ホテル&リゾート様

繁忙期のレストランで働き方改革/ホテルにも休業日を!
「残業が多く休めない業界」を立て直す、岩手ホテル&リゾートの挑戦

客観的な成果(数値等)
  • 和食 郷土料理レストラン「七時雨」の売上16%UP、残業時間18.2%減
    (コース内容をグレードアップするランクアップ売上は180%UP)
  • 「七時雨」での1日の定例作業が140分減
  • 社員の働く環境を考え、盛岡グランドホテルにて休館日を19日間設定
    (2019年6月11日~2020年2月26日の実績)
主観的な成果(体感・心理面)
  • レストランにおける醤油の入れ替え・おしぼりの折り直しをやめ、生み出した時間で接客について学ぶなど、これまでの常識を疑い、改善するように
  • マニュアルを整備することで、ヘルプに入る人が即戦力に
  • お互いを褒めて承認する機会をつくることで、職場内の心理的安全性が向上
  • 会議で発言しやすい雰囲気に

「多忙を極めるレストランで残業削減&売上UP」「ホテルに休業日を設定」。一見、困難に思えるこうした働き方改革を実行中の企業があります。盛岡市内と安比高原を拠点に、ホテル、ゴルフ・スキー場、温泉施設などを運営する株式会社岩手ホテル&リゾートです。急増するインバウンド観光客への対応もあって業務が増加・煩雑化する中での取り組みは、参考にしたい点がいろいろ。「お客様から良い評価をいただきながら社員の満足度と業績をあげたい」という同社の事例をご紹介しましょう。

飲食・宿泊施設での働き方改革は、お客様のためにこそ必要

従業員数約500名の岩手ホテル&リゾートは盛岡市内・安比高原にて複数のホテルリゾートを運営し、訪れたお客様に快適な空間と幸せな時間を提供しています。

対企業ではなく対個人のサービス提供を業務とする組織にとって「お客様の満足度をあげる」のは最重要課題であり、「残業をしない」「きちんと休む」というのは難しい、つまり働き方改革自体が進みにくいと思われがちです。

しかし同社では「残業を減らし、休暇を十分に取れる環境を整えることは、従業員教育・人材確保のためにも不可欠。業界全体での働き方改革が急務である」と考えていました。社員の生活の質、満足度、やる気を向上させつつ、優れた人材を採用することは、多様化するお客様の要望に応えることにもつながるため、その必要性を痛感されていたのです。


株式会社岩手ホテル&リゾート常務執行役員の赤坂勝さんと弊社コンサルタント・村上健太。同社が運営する宿泊施設のひとつ、「盛岡グランドホテル」インペリアルルームにてお話を伺いました。


盛岡グランドホテルの誕生は1965年。岩手国体の開催を控え、昭和天皇・皇后両陛下をお迎えする“岩手の迎賓館”としてオープンしました。こちらは、両陛下が実際に宿泊された最上階の「インペリアルルーム」。窓の外に広がる盛岡市内の景色が上質な滞在に花を添えます。

本気で働き方改革を進めるべく、盛岡市のモデル企業に参加

2018年、同社は岩手県盛岡市が募集した働き方改革モデル企業に名乗りを上げ、弊社のコンサルティングを受けていただくことに。具体的なアクションは後ほどご紹介しますが、まずは改革を実行に移した際の状況を振り返っていただきます。

「残業が多い、休みが取れない状況は当たり前になっていて、是正したいと思いながら着手できていませんでした。何かのタイミングでやるしかない。難しいのは明白だけどやらざるを得ないという状況に持っていくしかないんじゃないか、ということで手を挙げました」

全店舗への拡大を見据えて、あえて「最も忙しいレストラン」から着手

数ある施設の中で取り組みのモデルチームとして選出されたのは、ホテル安比グランド内のレストラン「七時雨」です。

「取り組むこと自体が難しいので、あえて社内で最も難しい店にしようと。安比エリアは雪質が非常に良くて冬場は大変混雑しますが、とくに和食レストランの七時雨は毎年多忙を極めます。冬の七時雨で実績を作れたら“うちは今忙しいので”なんて言えませんから、他店や他部署にも波及効果が大きいと考えました」


「七時雨でお出しする郷土料理は外国の方にも好評で、個人から団体まで多様なお客様にご利用いただいています。和食は品数も多く手間がかかります。以前は懐石のようにひとつずつご提供しておりましたが、現在はお待たせしないことを重視してお膳でお出ししています」

飲食店や宿泊施設にとってインバウンドの来客にどう対応するかは大きな課題です。「外国からのお客様は言葉の問題、文化・価値観の違いがありますから、コミュニケーションギャップがどうしても生まれて、業務を煩雑化させます。働き方改革を進めるうえでインバウンド対応は大きなネックでした」
※インバウンドは、2018年から2019年の一年間で1.26倍、2015年から見ると約3倍の増加となっています。

取り組みチームの懐疑的な気持ちを一変させた、コンサルタントの話

取り組みチームに選ばれた際の七時雨のみなさんの様子をうかがうと、「とくに反発はなく、意外に淡々と“あ、やるんですね”という反応でした」と振り返る赤坂さん。

「とはいえ、ある意味で疑心暗鬼というか、忙しい私たちに何をさせるの?本当にできるの?と懐疑的でした。それを変えてくれたのは、立ち上げミーティングでの村上さん・吉田さんのお話でした。説明がすごく丁寧で理解しやすく、最初から付箋に自分たちでいろいろ書いていく時間もあったりして、未来の自分たちに期待したくなるような、モチベーションをあげてくれるきっかけになったと思っています。スタッフの表情を見ながら、“お、これは動くな!”と直感したんです。社内だけでいくら頑張っていてもこんな風には動かなかったと思います」


「一度動き始めれば現場の子たちで盛り上がってくれますから、あとは見守ることです」と眼を細める赤坂さん。人事部のご担当者も現場のみなさんの取り組みを優しく見守りながらサポートし、一緒に取り組んでおられたのが非常に印象的でした。

「その作業、本当にお客様にとって重要?」まずは業務の洗い出しから

30年ほど前は「七時雨」で働いていたという赤坂さん。「本当に必要?」と感じる仕事でも「お客様のためにやるのが当然」という暗黙の了解が昔からあるといいます。「七時雨」の取り組みは、まずそうした業務の洗い出しからスタート。以下のような具体的改善がなされました。

●時間のかかる不要な作業(おしぼり折り・醤油入れ替え)廃止

おしぼり折り:
洗濯業者から袋詰めされて戻ってきたおしぼりは、1本ずつ開けて汚れが残っていないかをチェックし、太さ・長さをそろえて折り直した上でラップしたお膳に並べていた。「お客様から見て重要?」という視点でこの作業を見直し、廃止。
↓ 〈波及効果〉
他の飲食店舗でも「おしぼり折り」廃止

醤油入れ替え:
閉店の都度、陶器の醤油差しからペットボトルに戻して冷蔵庫で保管し、容器も洗って乾かしていた。非常に時間がかかる割に、お客様の満足度につながるか?という点では不要と考え、真空容器に入った商品を採用して詰め替え・洗浄の作業を廃止。
↓ 〈波及効果〉
醤油の商品名が明確になり「おいしいから買って帰りたい」という要望が増えて売店で販売開始

●誰が見てもわかる「ヘルプマニュアル」作成

日々の利用状況に応じて店舗間でスタッフがサポートし合うことは必須だが、そのための「ヘルプマニュアル」に不備があった。初めての人でも即戦力になるように、専門用語をなくし、指示に具体性を持たせた。
↓ 〈波及効果〉
「教える時間」「探す時間」のムダをなくせただけでなく、ヘルプに入る人のストレス軽減にもつながる。迎える側も「できるだけの準備をし、自分たちの仲間を増やそう」と思えるようになった。

●食洗機の導入

細々した物は手洗いをしていたが、2019年から食洗機を導入した。
↓ 〈波及効果〉
労働時間が短縮でき、他店舗へのヘルプも多くなって、全体的な時間の短縮に貢献。さらに、「衛生面の向上」「スタッフの手荒れ抑制」にもつながるなど、いいことずくめ。今後、他店舗への食洗機の導入も検討中。


対策を相談・実行する中でメンバーの結束力もあがってきました。その背景には、互いを褒め合って承認していく“褒めるワーク”も奏功。言葉選びひとつで伝わり方が変わるので、決して相手を否定せず“褒め言葉から入る”という手法は、どんな企業・チームにも有効なのです。

削減できた時間を活用して、仕事の質を高める次のアクションへ

現状を見直して改善したことで、「仕事の質の向上」につながるアクションを起こすこともできています。

●英語の決まり文句マニュアル作成・練習

急増するインバウンド需要に対応するため、接客のシーンに必要な英語の決まり文句を一覧表にし、壁に貼り出した。

●「七時雨テスト」実施

「店名の由来は?」「人気メニューであるひっつみ汁のひっつみとは?」など、お客様に説明するために必須の知識をテスト形式でチェック。

●ランクアップ獲得票作成

お客様への提案の仕方を工夫することでランクアップ(コース料理の内容をグレードアップしていただくこと)を目指し、その成績を「獲得票」にして見える化。
→ランクアップによる売上は180%UP!

●「着物のいろは勉強会」実施

日々身に付けている「着物」についての知識を深め、モチベーションUPと接客力向上につなげる。


「私たちにとって一番の先生はお客様です。要望や質問をいただくことで、“これをもっと勉強しないといけない”と気づきます。たとえば料理をおすすめする際に、淡々と説明するだけの接客と、豊富な商品知識と想いを込めて「本当においしいんです!」というのとでは、お客様への印象はまるで違います。こういう仕事をしていますから、残業時間が減るという事実以上に、お客様に喜んでいただいて売上につながった、というのがやっぱりうれしいんです」

「24時間365日」の営業を見直し、盛岡グランドホテルに「休業日」設定!

七時雨からスタートした取り組みは、今後全社に広げていくことになります。その中のひとつであり、大きなインパクトを与えたのが、「ホテルで週一回の全館休業日を設ける」というもの。

年中無休が当たり前とされる宿泊業。実際、業種別の年次有給休暇取得率を見ても、種泊・飲食サービス業は最も低い率にとどまっています。

「休館日を作ったら?という従業員の声にすぐ同意してくれたのは、社長の黒澤でした。弊社の中で、盛岡グランドホテルはウェディングの需要が多く宿泊の依存度も比較的少ないので、まずはここで休業日を設けることにしました。休みを取るのは当たり前なんだ、と堂々と休める雰囲気を作っていく、まずはそこから徹底し、個人の有休もしっかり取ってリフレッシュしたり、旅に出て素敵なホテルに泊まって刺激を受けたり。そういう方向につなげるための第一歩かなと」

2019年6月に試験的に初休業し、7月に2回、9月には3回に拡大

お客様の反応を踏まえながら、本格導入(週一回の全館休業)に向けて調整中

「お客様の満足度が確実に保証されて、従業員の意欲・サービス向上につながる休み方が明確ならいいのですが、試行錯誤しながら探っていくしかありません。メリットとリスクをはらんでいるので、実際すごく考えちゃいますよ。従業員にとっていい方法でも、お客様からは不満の声があがるかもしれない。でも、チャレンジしてみないとわからないんです。私たちが常識だと思っていることも、現代のマーケットが本当にそれを望んでいるのか、やってみないと本当にわからない。だから、チャレンジしてみようと」

「私たちは単に“客室を提供している”“食べ物を売っている”のではなく、満足という気持ちを買っていただいています。お客様がリピーターとして帰ってきてくださるのがその対価です。ご満足いただくには、従業員も満足していないといけない。その一心で取り組みを進め、足踏み状態から一歩、二歩と前に踏み出したい。他部署への横展開も進めたいと思います」と語ってくださった赤坂さん。

同社の改革はまだ始まったばかり。時にはトップダウンの判断で「業界の常識」をくつがえしながら、スタッフの自主性を大切に、お客様の反応を見据えたうえで、現場・時代に合うやり方で進めていくことになります。今後の取り組みにますます期待したいと思います!


担当コンサルタント

撮影/SHIge KIDOUE
文/山根かおり

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