Case Study

三重県

年間予算の16%を県内企業の働き方改革に投入!
知事自ら牽引し、企業の価値・県民の幸福度を高めた三重県

鈴木英敬知事の就任以来、県を挙げて働き方改革に挑む三重県。県民の「幸福度」も年々上昇しています。興味深いことに、この「幸福度」に強い影響を与える指標の1位が、他県では「年収」であるのに対し、三重県では1位が「家族関係」、2位が「健康」となっています。80年以上にわたってハーバード大学が継続実施している史上最長の追跡研究「成人発達研究」でも、幸福度や健康状態に最も影響を与えるのは、お金でも社会的地位でもなく「家族や友人など身近な人との良好な人間関係」なのだと言います。三重県の幸福度調査の結果は、働き方改革に本気で取り組んできた結果、ライフもワークも本質的に向上したことを反映しているのではないでしょうか。

なぜ、「働き方改革」が「地方創生」に必須なのか?

ここ数年、地方都市や地方企業でも働き方改革に着手する事例が急増しています。

すでに人口減少の影響を受けているのが、地方都市です。2014年の段階で39道府県、全国の8割もの自治体で前年より人口が減少しているのです。地方都市、地方企業がこのまま何もしなければ、人材は大都市圏に流れ、人口は減る一方でしょう。

そこに歯止めをかけるべく「地方創生」が叫ばれる昨今、「働き方改革こそが地方創生のカギである」として改革に取り組んでいるのが、三重県の鈴木英敬知事です。鈴木知事は2011年当時36歳、現職知事として最年少で当選しました。その後、2012年、2016年と2度にわたって育児休暇を取得するなど、イクメン知事としても知られています。

県下の主要企業が働き方改革に取り組み、高い収益とワーク・ライフバランスを同時に実現することで、県民は育児や介護と仕事が両立しやすくなる。さらにそれがブランディングされることで「三重県に住みたい」と他県からも人口が流入する。そんな三重県の「地方創生」として働き方改革に挑みたい──と鈴木知事は私たちに連絡をくださいました。それが2015年のことです。

ここ1〜2年は地方創生と働き方改革が結びついている自治体も増えましたが、2015年の時点ですでにこの認識をお持ちだったのは、非常に先進的と言えるでしょう。

地方創生交付金を活用し、働き方改革セミナーを実施

当時は石破茂地方創生大臣のもとで、始まったばかりの「まち・ひと・しごと創生交付金」がありました。三重県はこの交付金をうまく活用し、2015年に以下の取り組みを実施しています。

【1】県下の企業経営者130人に「働き方改革セミナー」を開催
【2】23社の企業人事部が「働き方改革ノウハウ講座」全3日間を県の費用で受講
【3】8社に県の費用で「働き方改革コンサルティング」を導入

とくに重要なのは【1】から【3】への流れです。三重県では、鈴木知事自らが自身のSNSなどで【1】のセミナーについて発信されたことで、県が本気で取り組む姿勢を感じた県内企業の経営者たちから応募が殺到しました。当初定員を100名としていましたが、申し込み数が多く、急遽130名に増席しました。

自ら主体的に挑むことが重要! そのための工夫とは?

そして、【1】の終了時に【2】の講座を受講したいかどうか、チェック形式のアンケートをその場で実施します。すると少なくとも20〜30%の企業は、「YES」にチェックを入れます。「誰かにやらされる働き方改革」と、「自ら挑む働き方改革」とでは、大きな違いがあり、自分から「YES」と手を挙げることは非常に重要なのです。

ちなみに、企業でコンサルティングを実施する際にトライアルチームを選定する場面でも、このアンケート方式を使うことがよくあります。キックオフとなる全社講演で「全社で働き方改革に挑む」ことを強調したうえで、各リーダーに「自分たちだけではどのように働き方改革を進めればよいか分からない場合、特別に数チームだけ専門コンサルティング費用を会社で負担してサポートします。このコンサルティングのサポートを希望しますか?」と聞くのです。全社で取り組むのであればなるべくよい成果を出したいので、自分のチームにはサポートをつけてもらいたい、と「コンサルティングを希望する」にチェックをつけてくれます。こうして自発的に手を挙げるリーダーを選定すると、成果が上がりやすくなるのです。

【2】の取り組みでは、宿題を交えながら、人事担当者に“カエル会議”の実践方法を計3日間しっかり学んでもらいました。そして、この受講や宿題に熱心で、もっと本格的なコンサルティングを受けたい、と希望した企業8社に対して【3】の本格的なコンサルティングを5カ月にわたって実施しました。この8社の企業のうちのひとつ、株式会社エムワンの成功事例はこちらでご紹介していますので、ぜひご一読ください。

県庁職員対象の「働き方改革・生産性向上推進懇談会」の立ち上げ

取り組んだ8社が業績アップや残業削減、出生数の増加など、すばらしい成果を上げたことから、2年目は企業向けのコンサルティングと並行して、県庁職員も働き方改革を加速させることに。そして、毎回鈴木知事自身も出席する「働き方改革・生産性向上推進懇談会(ワーク・ライフバランス推進タスクフォース)」を立ち上げて、当時まだ20代だった弊社のコンサルタント永田瑠奈が座長を務めました。
※タスクフォースとは、緊急性の高い特定の課題に取り組むために設置される特別チームのこと

タスクフォースでは、県庁職員の取り組みを厳しくチェックしてもらうべく、地元銀行等の4事業所のトップと、少子化ジャーナリストの白河桃子さんにご参加いただきました。民間企業トップから県庁職員に対して、「民間企業の働き方改革にあれこれ厳しく注文をつけているのに、足元での取り組みはその程度のものなのか」といった率直な意見が出たことで、回を重ねるごとに取り組み内容が深まり、議論・意見交換が活発に行われました。

取り組みの結果、国際的大イベントの最中でも多くの成果が!

タスクフォースが立ち上がった2016年は、三重県で「伊勢志摩サミット」が開催された年。通常、このような国際的大イベントが実行される年度は、県庁職員の残業時間が倍増してしまうものです。しかし“カエル会議”を活用して、働き方改革に正面から取り組んだことで、この年、三重県庁は「伊勢志摩サミット」を無事成功させながら、超勤者(年間の残業時間が500時間、月平均41.67時間超える人)は3割減、県の合計特殊出生率は1.56と過去20年間で最高に。上昇幅は1.1で全国3位となり、前年度から大きく飛躍しました。

男性の育休取得率も6.3%(全国の2.7倍)、女性管理職の比率や県民の幸福度も年々上昇しています。

男性の育児休業取得率の推移(県内事業所)
男性の育児休業取得率の推移(県内事業所)

三重県下の企業の女性管理職比率
三重県下の企業の女性管理職比率

そして、障害者雇用率は全国最下位から、一気に20位に。

2016年障害者の法定雇用率達成
2016年障害者の法定雇用率達成

さらに、県民1人当たり所得はリーマンショック後で最も高い金額となりました。

県の予算で改革に着手し、売上や採用率が向上する企業が続出!

三重県では26億円の予算のうち16%を働き方改革に使い、県の調査ではすでに約6割の企業が何かしら改革に着手しています。

改革を行った企業からは、「採用エントリー数が5倍になった」「過去最少の人数で最大の売上になった」「業務の平準化で時間外勤務を削減できた」「介護施設でスタッフの離職者が0になった」「職業柄24時間年中無休の職場だが、各自の有休取得率がアップした」などの報告が次々と届いています。

内閣府も大注目した三重県の取り組み。鈴木知事も力強く発言

内閣府では三重県の取り組みに対し、「地方創生で実現したいことが、すべて実現できている」と驚き、非常に注目しています。

「この取り組みを全国の自治体担当者に知ってほしい」と、内閣府が主催者となり、三重県津市で、自治体が取り組むためのノウハウを共有するセミナーを開催。決してアクセスがいいとはいえない会場だったにもかかわらず、県内外から約200名もの自治体関係者や経営者、人事担当者がつめかける大盛況のセミナーとなりました。

このセミナーで鈴木知事は、「かつて官僚時代、名刺に“年中無休24時間”と書いていた。そんな僕でも価値観が変わった。リーダーの役割は、空気を変えること。企業の生産性を向上させ、競争力を確保するには働き方改革が喫緊の課題。働き方改革なくして地方創生なし」と、全国の担当者・経営者に力強く語りかけました。

「三重モデル」を参考に、全国の自治体で改革が加速

こうした自治体間でのノウハウの共有が功を奏し、「三重モデル」を参考に働き方改革を加速させる自治体が増えてきました。

弊社でも、岩手県、岩手県盛岡市、熊本県、大分県、京都府、京都府京都市、山口県、徳島県、長野県飯綱町、千葉県東金市、山形県寒河江市、埼玉県さいたま市、佐賀県佐賀市、石川県七尾市、大阪府四条畷市など、多くの自治体の取り組みをサポートさせていただいています。

さらに、自治体を挙げて働き方改革に取り組むことを自治体リーダーが宣言する「労働時間革命宣言」を募集したところ、続々と宣言自治体が増えています。

全国の市区町村の約半数が消滅可能性都市に該当している今、地方自治体の生き残りをかけた働き方改革は待ったなしと言えるでしょう。

※こちらの事例は、弊社代表 小室淑恵の著書『働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例20社』からまとめ直したものです。


担当コンサルタント

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